3月22日、令和4年(2022年)の公示地価が発表されました。新型コロナの影響で下落が続いていた地価は、全国平均で0.6%の上昇となり2年ぶりにプラス転換し、都市部を中心に回復基調となりました。前回の関東・東北エリアに続き、今回は東海・関西エリアの地価動向を詳しく見ていきましょう。
目次
1. 全国平均(全用途)は2年ぶりに上昇。コロナの影響が和らぎプラス転換
2022年公示地価の変動率は、全国平均(全用途)で前年の▲0.5%から0.6%へと上昇に転じました。用途別に見ても、住宅地(▲0.4% → 0.5%)、商業地(▲0.8% → 0.4%)ともにプラスに転じており、新型コロナの影響が和らいでいることがうかがえます。
特に、都市部の希少性が高い住宅地や、交通利便性や住環境に優れた住宅地では地価の上昇が継続しており、さらにテレワークなどの生活スタイルの変化により、バス圏や都心から通勤圏内の郊外エリアにも上昇エリアが拡大しています。
1-1. そもそも公示地価とは
公示地価とは、地価公示法に基づき、全国2万ヶ所以上の基準値の標準価格を、不動産鑑定士が調査し公表するものです。毎年1月1日時点の価格を3月下旬に発表しています。都道府県地価(基準地価)と同様、適正な地価形成を目的とし、土地取引の指標となる価格として活用されています。
1-2.三大都市圏と地方四市の地価は急回復。商業地もプラスに転じる
三大都市圏(東京圏・名古屋圏・大阪圏)は全用途平均で0.7%の上昇となり、前年の▲0.7%から大きく回復しています。用途別に見ると、住宅地が▲0.6% → 0.5%、商業地は▲1.3% → 0.7%と住宅地、商業地ともに急回復しています。
また、地方四市(札幌・仙台・広島・福岡)でも、住宅地が2.7% → 5.8%、商業地が3.1% →5.7%と上昇率が拡大しており、住宅地はほぼコロナ前の水準まで戻しています。
このように今回の公示地価では、コロナ禍で2年にわたり下落傾向だった地価が、大きく回復していることが確認されました。
コロナ前にインバウンド期待で大きく上昇していた観光地や商業地では、まだ回復が鈍い地域もありますが、都市部~近郊エリアでは住宅地・商業地ともに回復基調に入ったと言えるでしょう。
■2022年公示地価の変動率 (前年比%)
全用途平均 | 住宅地 | 商業地 | ||||
2021年 | 2022年 | 2021年 | 2022年 | 2021年 | 2022年 | |
全国 | ▲0.5 | 0.6 | ▲0.4 | 0.5 | ▲0.8 | 0.4 |
三大都市圏 | ▲0.7 | 0.7 | ▲0.6 | 0.5 | ▲1.3 | 0.7 |
地方四市 | 2.9 | 5.8 | 2.7 | 5.8 | 3.1 | 5.7 |
その他地方圏 | ▲0.6 | ▲0.1 | ▲0.6 | ▲0.1 | ▲0.9 | ▲0.5 |
※出典:国土交通省
圏域別に見ると、大阪圏よりも名古屋圏の上げ幅が大きく、より回復が鮮明になっています。
■圏域別の地価変動率
住宅地 | 商業地 | |||||
2021年 | 2022年 | 上げ幅 | 2021年 | 2022年 | 上げ幅 | |
大阪圈 | ▲0.5% | 0.1% | 0.6P | ▲1.8% | 0.0% | 1.8P |
名古屋圏 | ▲1.0% | 1.0% | 2.0P | ▲1.7% | 1.7% | 3.4P |
1-3. 半年ごとの動きでは2021年後半に上昇が加速
また2021年の前半・後半に分けて見ると、前半よりも後半の上昇率が高く、新型コロナのワクチン接種が進み、先行き不安が解消されつつあった秋~年末に向けて、地価も回復に向かったと見ることができます。
■ 地価の半年ごとの変動率推移
住宅地 | 商業地 | |||||
2021年 前半 |
2021年 後半 |
2021年 年間 |
2021年 前半 |
2021年 後半 |
2021年 年間 |
|
全国 | 0.4 | 0.6 | 1.0 | 0.0 | 0.5 | 0.5 |
三大都市圏 | 0.2 | 0.6 | 0.8 | 0.1 | 0.7 | 0.7 |
地方四市 | 2.4 | 2.8 | 5.3 | 2.2 | 3.5 | 5.8 |
その他地方圏 | 0.4 | 0.5 | 0.9 | ▲0.3 | 0.0 | ▲0.3 |
※出典:国土交通省
前半:2021年1月1日~2021年7月1日の変動率
後半:2021年7月1日~2022年1月1日の変動率
上表の通り、2021年前半にはすでに住宅地では上昇、商業地でも横ばいまで回復していましたが、後半に入ってさらに上げ幅を拡大したということがわかります。
また、名古屋圏の住宅地における上昇地点トップ3は、名古屋市東区泉1丁目(地下鉄 高岳駅)、名古屋市中区丸の内3丁目(地下鉄 久屋大通駅)、名古屋市中区上前津2丁目(地下鉄 上前津駅)の3地点。大阪圏のトップ3は、大阪市天王寺区上汐4丁目(近鉄 大阪上本町駅)、大阪市中央区上町1丁目(地下鉄 谷町六丁目駅)、京都市上京区小川通一条(地下鉄 今出川駅)となっており、名古屋、大阪とも市の中心エリアに隣接する住宅地の上昇率が高くなっています。
2. 東海圏の公示地価ランキング。上昇率トップ10はすべて愛知県
ここで、住宅購入に最も影響がある「住宅地」の地価について見ていきましょう。
今回は東海圏(静岡・岐阜・愛知)、関西(大阪府)の住宅地について解説します。
2-1. 東海圏の上昇エリアは全体の39%。前年の4%から急回復
東海圏を市町村(政令指定都市は区)別に見てみると、前年比で上昇・下落しているエリアは次の通りです。
上昇 | 57エリア(6) |
下落 | 86エリア(137) |
変化なし | 1エリア(1) |
※カッコ内は前年
東海圏では上昇エリアが前年わずか6エリア(4%)しかありませんでしたが、今年は57エリア(39%)に急回復し、下落エリアは昨年の137エリア(95%)から86エリア(60%)へと大きく減少しています。しかし全体で見れば、下落エリアが依然6割を占めており、上昇エリアは都市部や近郊の狭い範囲に限られるようです。
2-2. 上昇率トップは名古屋市中区。名古屋市がトップ10のうち6エリアを占める
それでは、東海圏の上昇エリアと下落エリアのトップ10を見てみましょう。
※公示地価は市区町村ごとの住宅地の公示地価の平均で、㎡あたりの金額(円)です。
※「前年比(%)」は、市区町村ごとの住宅地の平均地価で算出しています。基準地点ごとの前年比を平均したものではありません。
■2022年公示地価 上昇率・下落率ランキング(東海圏・住宅地)
上昇率トップ 10 | 下落率トップ 10 | ||||
市区町村 | 公示地価 | 変動率 | 市区町村 | 公示地価 | 変動率 |
名古屋市中区 | 938,600 | 10.5% | 愛知県南知多町 | 19,911 | ▲5.8% |
名古屋市東区 | 442,538 | 5.8% | 岐阜県飛騨市 | 31,633 | ▲3.9% |
名古屋市南区 | 139,038 | 4.3% | 静岡県伊豆市 | 47,460 | ▲3.1% |
愛知県安城市 | 134,391 | 3.3% | 静岡県東伊豆町 | 32,800 | ▲3.1% |
愛知県刈谷市 | 145,355 | 3.1% | 愛知県美浜町 | 23,558 | ▲3.0% |
名古屋市中川区 | 130,505 | 3.0% | 岐阜県海津町 | 20,475 | ▲2.7% |
愛知県東海市 | 94,363 | 2.8% | 岐阜県八百津町 | 15,250 | ▲2.6% |
愛知県大府市 | 127,288 | 2.6% | 静岡県河津町 | 33,100 | ▲2.5% |
名古屋市緑区 | 149,263 | 2.6% | 岐阜県揖斐川町 | 19,800 | ▲2.5% |
名古屋市西区 | 180,294 | 2.6% | 岐阜県養老町 | 22,450 | ▲2.4% |
上昇率トップは名古屋市中区で、2桁上昇となる10.5%。2位以下も2~6%という力強い上昇となりました。トップの中区は栄駅、久屋大通駅などのある商業・経済の中心エリアで、東区と南区は、都心からやや外れますが、都心近接の良好な住宅地で、住む街として人気の高いエリアです。名古屋市以外の市では4位に安城市、5位に刈谷市、7位に東海市、8位に大府市といずれも愛知県南西部に位置する街がランクインしています。もともと自動車産業が盛んな工業地域ですが、名古屋中心部まで10~30分ほどでアクセスできるためベッドタウンとしても人気があります。
一方、下落率トップ10には、あまり大きな動きはなく、愛知県の知多半島や、岐阜県の山間部、静岡県の沿岸町村などがランキングされています。
2-3. 東海圏の都道府県別地価。静岡・岐阜は下落幅が縮小するもプラス転換せず
さらに、都道府県別に上昇率トップ5をピックアップすると以下のようになります。
都道府県 | 全体の変動率 (カッコは前年) |
上昇率上位の市区町村 | 公示地価 | 変動率 |
静岡県 | ▲0.8% (▲1.5%) |
長泉町 | 120,833 | 0.7% |
静岡市葵区 | 126,816 | 0.6% | ||
浜松市浜北区 | 60,538 | 0.5% | ||
浜松市東区 | 76,564 | 0.5% | ||
浜松市中区 | 101,531 | 0.3% | ||
岐阜県 | ▲0.9% (▲1.3%) |
中津川市 | 29,550 | 0.4% |
岐南町 | 56,400 | 0.4% | ||
多治見市 | 37,813 | 0.2% | ||
美濃加茂市 | 38,800 | 0.0% | ||
土岐市 | 42,633 | ▲0.1% | ||
愛知県 | 1.0% (▲1.0%) |
名古屋市中区 | 938,600 | 10.5% |
名古屋市東区 | 442,538 | 5.8% | ||
名古屋市南区 | 139,038 | 4.3% | ||
安城市 | 134,391 | 3.3% | ||
刈谷市 | 145,355 | 3.1% |
都道府県ごとに見ると、愛知県は前年のマイナス1.0%からプラス1.0%に回復。静岡県と岐阜県は依然としてマイナスではありますが下落幅が縮小しました。静岡県トップの長泉町は三島市の隣に位置する街で、3世代同居の補助金や手厚い子育て支援で知られており、近年急速に宅地化が進んでおり人口が増えている街です。上昇率上位はほぼ静岡市と浜松市で占められますが、それ以外の街では、東京からのアクセスがよく、移住先としても人気の熱海市(+0.2%)が7位にとなっています。
また岐阜県トップの中津川市と3位の多治見市は、リニア中央新幹線の「岐阜県駅」開業の期待から上昇が続いており、2位の岐南町は名古屋へのアクセスがよく、若い世代の流入が増えている街です。
静岡、岐阜ではトップ5でも上昇率は1%未満、ほぼ横ばいと言ってもよい水準で、東海圏は名古屋一強の様相となっています。
3. 関西(大阪府)では全体の60%が上昇。前年の18%から急回復
次に関西(大阪府)の住宅地の動向を見てみましょう。
3-1. 関西の地価は大阪市を中心に急回復。上昇地点が6割に増加
関西(大阪府)の上昇・下落の割合は以下の通りです。上昇エリアは前年の13エリアから43エリアに増え、下落エリアは53エリアから27エリアに減少しました。大阪市を中心に地価の回復が進んでいます。
上昇 | 43エリア(13) |
下落 | 27エリア(53) |
変化なし | 2エリア(6) |
※カッコ内は前年
3-2. 関西(大阪府)の上昇率トップ10はすべて大阪市と堺市
次に関西(住宅地)の上昇・下落率トップ10を見てみましょう。
上昇率トップ 10 | 下落率トップ 10 | ||||
市区町村 | 公示地価 | 変動率 | 市区町村 | 公示地価 | 変動率 |
大阪市西区 | 703,000 | 6.0% | 大阪府岬町 | 21,982 | ▲4.8% |
大阪市中央区 | 601,667 | 3.9% | 大阪府千早赤阪村 | 25,700 | ▲3.7% |
堺市東区 | 119,267 | 2.3% | 大阪府能勢町 | 12,900 | ▲2.3% |
大阪市天王寺区 | 542,875 | 2.1% | 大阪府豊能町 | 34,720 | ▲ 1.5% |
大阪市都島区 | 285,125 | 2.1% | 大阪府河南町 | 31,975 | ▲1.4% |
大阪市浪速区 | 405,000 | 2.0% | 大阪府阪南市 | 37,728 | ▲1.1% |
堺市北区 | 200,739 | 2.0% | 大阪府熊取町 | 50,619 | ▲0.9% |
大阪市北区 | 484,800 | 1.7% | 大阪府羽曳野市 | 87,810 | ▲0.9% |
大阪市福島区 | 422,714 | 1.6% | 大阪府河内長野市 | 61,659 | ▲0.8% |
堺市堺区 | 168,423 | 1.3% | 大阪府太子町 | 46,733 | ▲0.7% |
上昇率トップ10はすべて政令指定都市である大阪市と堺市となっています。前年は大阪市と北摂エリア(箕面市、池田市、茨城市など)の上昇率が高く、堺市はランク外でしたが、今年は堺市から東区、北区、堺区の3区がランクインし、北摂エリアはすべてランク外(箕面市13位・池田市19位・茨城市20位)となりました。
下落率トップ10は、前年とあまり変わらず大阪府の南部と奈良県に近い地域が多くランクインしています。
4. 2022年、地価は上昇傾向。今後の不動産価格を占うのは「金利」と「インフレ」
東海圏・関西圏の2022年公示地価の動向、いかがでしたでしょうか。
2020~2021年はコロナ禍により、多くのエリアで地価が下落しましたが、2022年の公示地価は、都市部と近郊エリアを中心に2年ぶりの上昇となりました。今後住宅購入を検討する方はどのようなことに気をつけたらよいのでしょうか。
4-1. コロナの落ち着きとともに、都市部の価格は再び上昇基調に
この記事を執筆している2022年5月現在、新型コロナの新規感染者数は1日あたり3,000~5,000人程度と落ち着きを取り戻しつつあります。今後、第7波の懸念もないわけではありませんが、不動産価格に対する影響は限定的で、基本的に相場は回復局面に入ったと言えるでしょう。
そうした中で、まず価格が上昇するのは都心部および近郊エリアです。また、郊外でもターミナル駅やリニア新幹線など話題性の高いエリアは価格が上がりやすい傾向があります。
公示地価はあくまでも1月1日時点の価格ですので、実際の取引価格はさらに上昇している可能性もあります。希望エリアの値動きについてこまめに情報収集し、チャンスを逃さないよう心がけましょう。
4-2. 今後の住宅購入は、地価よりも「金利」と「インフレ」に注意
新型コロナが落ち着きを取り戻しつつある今、今後の不動産価格を予測する上で重要なのが「金利」と「インフレ」(物価の上昇)です。
2021年から世界的なインフレ圧力の高まりとともに、欧米では政策金利を上げる動きが続いています。日本ではまだその動きは見られませんが、長期金利は上昇傾向にあり、フラット35の金利(※)は、1月の1.30%から5月は1.48%まで4ヶ月連続で上昇しています。
※借入期間21年~35年・融資率9割以下・団信付きの最低金利
■借入金額4,000万円の場合の返済額
※元利均等35年返済・ボーナス返済なし。千円未満(返済総額は1万円未満)四捨五入
月々の返済額 | 返済総額 | |
金利 1.30% | 11万9,000円 | 4,981万円 |
金利 1.48% | 12万3,000円 | 5,128万円 |
上表のように、今はまだ小刻みな上昇ではありますが、仮に金利が2.0%に上昇すると、月々の返済額は13万3,000円、返済総額は5,566万円まで跳ね上がります。このように金利上昇はローン返済額に直結しますので、価格に大きな影響を与える可能性があります。
そして、もうひとつの要因はインフレです。新型コロナによる半導体不足や物流の混乱で、これまでも木材や建材、住宅設備などの値上がりが続いていましたが、現在それに加えて円安が進んでおり、海外からの輸入品はさらに価格が上がりそうです。またロシアのウクライナ侵攻により、今後輸入木材やエネルギー価格が上がる可能性が高く、建築価格の上昇は避けられない状況です。
これから住宅購入を検討される方は、地価だけでなく金利や物価などの動向を見ながらタイミングを見極め、適切な資金計画を練ることが重要です。ぜひ早めに動き出すことをおすすめします。
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