省エネ義務化で今までの最高等級が最低等級に!? 今後起こりうる『省エネ格差』とは

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「省エネ義務化」今までの最高等級が最低等級になる!?今後起こりうる「省エネ格差」とは

2022年4月に政府が閣議決定していた「建築物省エネ法等改正案」が、2022年6月13日の参議院本会議で可決・成立いたしました。この改正で一戸建にも省エネ基準適合が義務付けられるとともに、断熱等級の見直し等もおこなわれ、これまでの最高等級が「最低限必要な等級」になってしまう可能性も出てきました。今、住宅の省エネ基準が大きく変わろうとしています。

目次

1. 省エネ基準の改正(義務化)がいよいよ今国会で成立する見込み

そもそも省エネ基準とは何なのか。どう変わろうとしているのか概要を理解しましょう。

1-1. そもそも省エネ基準とは

私たちが住むマンションや一戸建を含む、建築物の省エネ基準とは「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」という法律で定められており、建物の規模や地域によって、求められる断熱性能が決められています。

また「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づく住宅性能表示制度では、建物の断熱性を客観的に評価し「断熱等性能等級」を付与する仕組みがあります。

昨年度までの日本の省エネ基準では、下表の通り「平成28年基準(断熱等級4)」が最高等級で、住まいを新築する際のひとつのガイドラインとなっていました。

■断熱等性能等級(~2022/3/31)
等級4平成28年(2016年)省エネルギー基準
等級3平成4年(1992年)省エネルギー基準
等級2昭和55年(1980年)省エネルギー基準
等級1無断熱(等級2に満たないもの)

1-2. 日本の断熱基準は20年以上変わっていない先進国最低レベル

しかし、この基準で最高等級となる「H28年基準(等級4)」は、平成11年に定められた「次世代省エネ基準」と言われるものとほとんど変わっていません。つまり日本の断熱基準は23年前のものがほぼそのまま維持されており、最高等級の4でさえ、先進国の中では最低レベルと言われています。しかもその基準は守らなければならない「義務」ではなく、言わば努力目標のような位置づけだったため、日本では「冬寒く夏暑い」住宅がこれまで大量に供給されてきました。

1-3. 改正法案が今国会に提出。その狙いと背景とは

このような経過のもと、いよいよ日本でも省エネ基準の見直しがおこなわれようとしています。その背景にあるのは「2050年カーボンニュートラルの実現」、「2030年度温室効果ガス46%排出削減」という政策目標です。住宅の省エネについては、これまで何度も議論を重ね、その度に法改正が見送られてきた経緯がありますが、世界的な脱炭素の流れの中で、いよいよ日本も本腰を入れざるを得なくなったのが大きな理由です。

国土交通省によれば、今回の改正の概要は以下の通りです。

[1] 省エネ性能の底上げ・より高い省エネ性能への誘導
– 全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合を義務付け
– トップランナー制度(大手事業者による段階的な性能向上)の拡充
– 販売・賃貸時における省エネ性能表示の推進
[2] ストックの省エネ改修や再エネ設備の導入促進
– 住宅の省エネ改修に対する住宅金融支援機構による低利融資制度を創設
– 市町村が定める再エネ利用促進区域内について、 建築士から建築主へ再エネ設備の導入効果の説明義務を導入
– 省エネ改修や再エネ設備の導入に支障となる高さ制限等の合理化

出典:国土交通省 報道発表資料(一部抜粋・下線は筆者)

またこれに先駆けて品確法が一部改正され、2022年4月1日より「断熱等性能等級5」および「一次エネルギー消費量等級6」が施行されました。また、さらなる上位等級として、2022年10月1日から断熱等性能等級6、7が新設されることが決まっています。

ここまでをまとめると、大きなポイントは以下の3つです。

・今後すべての新築住宅は省エネ基準(等級4以上)が義務付けられる。

・住宅の販売などでは省エネ性能の表示を推進する

・既存建物の省エネ改修にも低利融資制度を創設する(注:新築はすでにある)

つまり、法改正されると「等級4」を満たさない住宅は新築できなくなります。また販売時には断熱性能を明示することが推進され、消費者は客観的に建物の性能を判断しやすくなります。さらに高断熱化にかかる工事費は低利融資などで優遇しましょうというのが骨子となっています。

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2. 具体的に省エネ基準はどう変わるのか

新設される上位の省エネ性能や等級について、具体的な違いを解説します。

2-1. 等級見直しでこれまでの最高等級が最低等級に

今回の法改正では、2025年から「平成28年基準(等級4)」をすべての新築住宅に義務付けることになっていますので、2022年3月時点で最高等級だった等級4は、2025年以降「最低等級」になり、省エネ基準が一気に引き上げられることになります。

■2025年以降の省エネ基準(予定)
2025年以降の省エネ基準

では、今回新設される上位等級5~7とは一体どのようなものなのか見ていきましょう。

2-2. 新設された断熱等級5~7とは

まず2022年4月から新設された等級5は「ZEH基準」と言われ、太陽光パネルなどの設備と組み合わせることで光熱費ゼロ(Zero Energy House)を実現できるレベルの断熱性能を指しています。また等級6~7には聞きなれない「HEAT20」というワードが出てきました。HEAT20とは、一般社団法人「20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」(この団体の略称がHEAT20)が提唱した断熱基準で、G1~G3の3つのグレードを定めており、G2が等級6、G3が等級7に相当します。

ではG2/G3といったグレードが、今の基準と比べていったいどのくらい違うものなのでしょうか。

建物の断熱性能を測る数値に「UA値」という指標がありますが、UA値は「外皮平均熱還流率」のことで、下記の計算式で算出します。

UA値=熱損失量(w/k)÷外皮面積(㎡)

つまり、住宅の内部から床・外壁・屋根・天井や開口部などを通過して、外部へ逃げる熱量を建物外皮全体で平均した値で、数値が低いほど断熱性が高いことになります。

では、この数値を先ほどの表に当てはめて比較してみましょう。

■UA値(断熱等級)とエネルギー消費量
UA値(断熱等級)とエネルギー消費量

出典:国土交通省資料より作成

このように、等級5以上では暖冷房にかかるエネルギーが30~40%と大幅に削減されますので、少ない光熱費で常に一定の室温が保たれ、冬暖かく夏涼しい快適な住まいが実現するわけです。

2-3. 長期優良住宅の認定基準も見直し予定

国土交通省では、長期優良住宅の認定基準の見直しについても検討を進めています。

長期優良住宅は、耐震性、省エネ性などに優れた住宅が認定される制度で、住宅ローン金利や税制の面から様々な優遇を受けることができます。これまで長期優良住宅の省エネ性能はH28年基準(等級4)が要件となっていましたが、ZEH基準(等級5)に引き上げられる見込みです。

2-4. 東京都では太陽光パネルの設置義務化も

また東京都では2022年5月、一戸建を含む新築建物に太陽光パネルの設置を義務付けると発表しました。素案では太陽光発電設備に加え、電気自動車(EV)などの充電設備の設置義務化も盛り込んでおり、パブリックコメント等を経て2022年度中の条例化を目指すとのことです。これが成立するかどうかは今後の議論となりますが、カーボンニュートラルの実現に向け、2022年は自治体レベルでも大きな変化が起こる年になりそうです。

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3. 省エネ基準の改定で、今後起こり得る「省エネ格差」とは

こうした住宅政策の転換により、今後起こり得るのが「省エネ格差」です。断熱性が高い住宅とそうでない住宅でどのような違いが生まれる可能性があるのでしょうか。

3-1. 「光熱費」格差

まずひとつ目は「光熱費」格差です。四季のある日本では、比較的温暖な地域でも空調なしで快適に過ごせるのは4~5ヶ月程度で、1年の2/3は冷暖房を使用しています。省エネ性能の高い住宅は、この冷暖房にかかる光熱費が格段に安くなるため、長い期間では大きな差になります。また太陽光パネルなどの創エネと組み合わせれば、実質光熱費をゼロにすることも可能です。

現在、円安やウクライナ危機などの影響で、エネルギー価格の上昇が続いています。今後さらに価格が上がれば「光熱費」格差はさらに広がることになります。

3-2. 「健康」格差

また、住まいの断熱性(暖かさ)と健康には大きな関連があることが分かっています。

冬寒い家では、室内の温度差による「ヒートショック」が起こりやすく、交通事故よりも遥かに多い、年間約1万7,000人が亡くなっています。また、国土交通省と(一社)日本サステナブル建築協会の長期にわたる追跡調査によれば、断熱性の低い住宅で、結露によるカビ・ダニが原因で起こるアレルギー、血圧の上昇、脳血管疾患などの発生率が高くなることが分かっています。また冬暖かい家に住む人は、日々の活動量が増えることも分かっており、特に高齢者の心身の健康に非常に大きな影響があると言われています。

3-3. 「住宅ローン・税制・補助金」格差

そして断熱性は住宅ローンや税制優遇などお金の面でも大きな格差を生みます。

①住宅ローン金利

フラット35は省エネ基準の改正に先駆けて、性能の高い住宅に対する優遇ローン「フラット35S」の基準の強化を発表しています。2022年10月から、これまでの「金利A」「金利B」プランに加え、上位の「ZEH」プランが新設されるとともに、金利A・Bプランの断熱基準も引き上げられることになります。

フラット35Sの金利優遇と省エネ要件は以下の通りです。10月からは断熱基準全体が引き上げられ、省エネ性能が高い住宅ほど金利優遇が大きくなります。

フラット35Sの金利優遇と要件

フラット35Sの金利優遇と要件

出典:住宅金融支援機構の資料より省エネ性の部分のみ抜粋。詳細はフラット35の公式サイト等をご確認ください。

②税制優遇(住宅ローン減税)

2022年度から4年間の延長が決まった「住宅ローン減税」。年末の住宅ローン残高の0.7%が10~13年間にわたり減税されるという非常にメリットの大きい制度ですが、住宅ローン残高の上限(借入限度額)は、購入する住まいの省エネ性能によって異なります。

以下の通り、省エネ性能の高い住宅ほど限度額が高く(控除額が大きく)なっており、2024年以降の入居で省エネ性能の低い住宅は、原則として住宅ローン減税の対象外となります。

■住宅ローン減税の借入限度額(新築住宅)

住宅ローン減税の借入限度額(新築住宅)

出典:住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)|国税庁

③補助金(こどもみらい住宅支援事業)

2022年度に始まった「こどもみらい住宅支援事業」。⼦育て世帯や若者夫婦世帯が注文住宅を建てる場合や新築住宅を購入する場合に補助金が支給されます。そしてこの事業でも省エネ性能が高い住宅ほど補助金額が高くなっています。

■こどもみらい住宅支援事業の省エネ要件と補助金額

省エネ要件補助金額
ZEH住宅(断熱等級5・一次エネルギー等級6)100万円
長期優良住宅・低炭素住宅・性能向上計画認定住宅80万円
省エネ基準適合住宅(断熱等級4・一次エネルギー等級4)60万円

出典:こどもみらい住宅支援事業の概要|こどもみらい住宅支援事業公式サイト

3-4. 「資産価値」格差

ここまで金利や税制優遇など、直接的なお金の差について見てきましたが、省エネ性能の差は将来的な住まいの価値にも影響を与える可能性があります。

省エネ基準への適合が義務化されると、これまでの最高等級だった「等級4」は、一転して「最低」等級になりますので、適合していない住宅の価値は相対的に低く評価されることになります。

前例を挙げれば、1981年(昭和56年)に、耐震基準が大きく改正されたことにより、それ以前の建物を「旧耐震」、それ以降の建物を「新耐震」と区別するようになりました。現在では「旧耐震」の建物は買い手がつきづらい、ローンが通りにくいなどの事情から、相場より安く取引されることも少なくありません。

(注:旧耐震の建物でも現行の耐震基準を満たし、通常の相場で取引される物件もあります)

今後、省エネ性能においても同様に、性能の高い建物は資産価値を維持できる一方、性能の低い建物は相場以下の価値で評価されてしまう可能性もあります。性能の高い住宅を建てることは、住まいの「資産価値」の面でも格差を生んでしまう可能性があります。

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4. 格差を避けるためにどうすればいいか

では、こうした省エネ性能による格差を避けるにはどうしたらよいのでしょうか。

4-1. これから家を建てるならZEH基準(等級5)以上を目指そう

前述の通り、2025年から省エネ適合が義務化されると等級4が「最低限必要な基準」になりますが、実は多くの住宅メーカーはすでにこの基準をクリアしており、上位のZEH基準、もしくはそれを超える性能の住宅が供給されています。国も等級4は諸外国と比べてかなり低い基準で、カーボンニュートラルを実現するには不十分という認識です。したがって、これから家を建てる(購入する)方は、等級5以上を検討していかれた方がよいと思います。

4-2. 客観的な評価「住宅性能評価」を取得

もうひとつ重要なのは「住宅性能評価」を取得することです。住宅性能評価は品確法の「住宅性能表示制度」で定められた全国共通のルールに基づく評価で、省エネだけでなく耐震性や維持管理性といった目に見えない性能を等級によって「見える化」しています。

この評価書を取得しておくことで、言わば国からのお墨付きを得ることになり、市場からも適正な評価が受けやすくなります。

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4-3. 可能ならば「創エネ」「蓄電」などの設備も検討しよう

省エネという観点で見れば断熱性能は非常に重要なものですが、「創エネ」という観点から、太陽光パネルや蓄電設備なども検討してみましょう。省エネと創エネを組み合わせることで光熱費ゼロの住宅も実現可能ですし、災害時の停電対策としても有効です。

4-4. 省エネ性の高い住宅は誰に頼むのが正解なのか

一般的に省エネ基準への対応や先進的な技術開発は、大手住宅メーカーに一日の長があります。これまで省エネ基準の義務化が何度も見送られてきた理由のひとつが、省エネの知見に乏しい小規模工務店への配慮でした。そして義務化が先送りにされている期間にも、ある程度規模の大きな住宅メーカーや先進的な取り組みを行っている工務店は業界の「トップランナー」として、すでにZEH基準を上回る上位の性能を実現しています。

本コラムでは「断熱」「省エネ」を中心に記述しましたが、それ以外にも耐震性や維持管理性など、住宅の基本性能に関わる要素は多くあります。そしてこうした基準は上がることはあっても下がることはありませんので、資産価値を維持するという観点からも、今の基準の一歩先を行く住まいを目指したいものです。

住宅の基本性能は建てた後に変更できない部分であるからこそ、専門家とよく相談し検討していくことをおすすめします。

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