2021年12月、令和4年(2022年)度の税制改正大綱が発表され、住宅支援政策の概要が明らかになりました。注目されていた住宅ローン減税や、こどもみらい住宅支援などはどうなるのでしょうか。今年住宅購入を考えている方は必読です。
※本記事は2021年12月10日付「令和4年度 税制改正大綱」に基づいています。最新の情報は管轄官庁、税務署等にご確認ください。
目次
1、2022年度の住宅購入支援制度の要点
それでは早速2022年度の住宅購入支援制度の要点を見ていきましょう。
1-1. 全体的に大きな影響はなく、省エネ住宅の優遇が鮮明に
まず2022年度の制度改正の特徴としては、支援・優遇の縮小傾向が挙げられます。これは2019年10月に行われた消費増税にともなう経過措置が終了したことや、低金利により住宅ローン減税の「逆ざや」が問題となったことなどによるものです。
もうひとつの特徴としては「省エネ住宅」に対する支援が手厚くなったことです。これは菅政権が打ち出した「2050年カーボンニュートラル実現」という政策に基づくもので、世界的な脱炭素の流れを受け、日本でも急速に住宅の省エネ化が推進されそうです。
1-2. 押さえておきたい支援制度は3つ
これから住宅を購入する方に押さえておいていただきたいのは、以下の3つの制度です。
①住宅ローン減税
②こどもみらい住宅支援
③住宅取得資金贈与の特例
※「すまい給付金」は2021年をもって終了しました。
2、【住宅ローン減税】控除率は0.7%に縮小し、期間は13年に延長。
まず昨年から改正の行方が注目されていた住宅ローン減税について見ていきましょう。
2-1. 主な改正内容
住宅ローン減税は2021年が期限となっていましたが、今回の改正で4年間延長されました。改正の大きなポイントは以下の3点です。
①控除率を1.0%から0.7%に縮小
②控除期間を10年から13年に延長
③ローン残高の上限額は省エネ性能により変動
■住宅ローン減税の概要
住宅の種別 | 居住年 | ローン残高 上限額 |
控除率 | 控除期間 | 最大控除額 |
認定住宅 | 2022~2023年 | 5,000万円 | 0.70% | 13年 | 455万円 |
2024~2025年 | 4,500万円 | 410万円 | |||
ZEH 水準省エネ住宅 | 2022~2023年 | 4,500万円 | 410万円 | ||
2024~2025年 | 3,500万円 | 319万円 | |||
省エネ基準適合住宅 | 2022~2023年 | 4,000万円 | 364万円 | ||
2024~2025年 | 3,000万円 | 273万円 | |||
それ以外の住宅 | 2022~2023年 | 3,000万円 | 273万円 | ||
2024~2025年 | 2,000万円 | 10年 | 140万円 |
※新築住宅または不動産会社が販売する中古再販物件の場合
※認定住宅とは:認定長期優良住宅または認定低炭素住宅
※1万円未満四捨五入
2021年までのローン残高上限額は4,000万円(認定住宅は5,000万円)だったので、省エネ基準適合住宅と認定住宅についてはこれまで通り。省エネ基準を満たしていない住宅については1,000万円ダウンの3,000万円となっています(※)。
※居住年が2022~2023年の場合
2-2. 省エネ基準適合住宅なら大きな影響なし
このような改正の結果、控除期間全体を通した控除額(最大控除額)も昨年より下がることとなります。下げ幅としては認定住宅で45万円、省エネ基準適合住宅で36万円、省エネ基準を満たしていない住宅で127万円です。現在、新築一戸建の7割以上は省エネ基準をクリアしていますので、大半のケースでは最大36万円ほどの下げにとどまり、それほど大きな影響はないと思われます。
2-3. 中間層は逆に控除額が増えることもある
また今回の改正では「控除率の縮小」だけが大きく報道されたことにより、「改悪」というイメージを持たれている方が多いのですが、実は今までよりも控除額が増えるケースもあり得ます。
住宅ローン減税は、実際に納税した所得税と住民税の一定額までしか控除されないので、もともと納税額が少ない人は期間が伸びるメリットの方が大きくなる(=控除額が大きくなる)こともあり得ます。
例えば、省エネ基準適合住宅の最大控除額は年28万円(4,000万円×0.7%)ですが、もともと所得税(住民税)が28万円以内の方は、控除期間が3年伸びたことにより、最大84万円(28万円×3年)おトクになるケースもあり得るということです。実際の控除額は各年のローン残高や納税額によって変動しますので、正確に知りたい方は税理士などに相談してみるとよいでしょう。
2-4. 2024年以降はローン上限額が縮小。検討は早めにスタートしよう
そして今回の改正で注意しなければならないのは「居住年」です。住宅ローン減税は、控除を受ける年の12月31日までに居住を開始することが要件になりますが、上表の通り、2024年以降に居住を開始した場合、住宅ローン残高の上限額が引き下げられます。
つまり、この制度を最大限に活用するには、省エネ性能の高い住宅に2023年12月31までに居住開始することがベストな選択となるわけです。
注文住宅では、土地探し~プランニング~着工~完成までに1年近くかかることもありますので、早めに検討をスタートした方がよいでしょう。
2-5. 面積要件は40㎡以上、中古の築年数要件は撤廃され対象物件が大きく広がる
その他には、単身者世帯の増加等にともない、住宅ローン減税を受けられる住宅の面積要件は「40㎡以上」が維持されています。またこれまで中古住宅では、木造は築20年以内、鉄骨・鉄筋などは築25年以内という条件がありましたが、今回の改正で廃止され、「登記簿上の建築日付が1982年(昭和57年)1月1日以降の住宅」(いわゆる新耐震基準)が適用対象になりました。これにより、中古住宅でも住宅ローン減税を受けられる可能性が大きく広がりました。
■住宅ローン減税の概要(中古住宅)
住宅の種類 | ローン残高上限額 | 控除率 | 控除期間 | 最大控除額 |
認定住宅 | 3,000万円 | 0.70% | 10年 | 210万円 |
それ以外の住宅 | 2,000万円 | 140万円 |
※中古住宅を個人間売買によって取得した場合
より詳しい情報は国土交通省の「住宅ローン減税制度について」をご覧ください。
3、【こどもみらい住宅支援】子育て・若者世代に最大100万円の補助金
続いて2022年度から始まる「こどもみらい住宅支援」について見ていきましょう。
3-1. こどもみらい住宅支援の概要
こどもみらい住宅支援は2022年に新設された制度で、その名の通り「子育て支援」と「2050年カーボンニュートラルの実現」を目的に、省エネ性能の高い住宅の取得に対して助成をおこなう事業です。対象となるのは、注文住宅の新築・新築住宅の購入・リフォームで、省エネ性能の高い住宅に対して最大100万円の補助金が支給されます。
3-2. 注文住宅の新築・新築住宅の購入
まず新築住宅の購入・注文住宅の新築について詳しく見ていきましょう。この制度の対象となる要件は以下の通りです。
■対象となる住宅
・注文住宅の新築または新築分譲住宅の購入 ・50㎡以上で一定の省エネ性能を有する住宅 ・自らが居住するための住宅 |
■対象となる人
・18歳未満の子を有する世帯(※1)または ・夫婦であり、いずれかが39歳以下の世帯(※2) ※1 子の年齢は2021年4月1日時点。すなわち平成15(2003)年4月2日以降 出生 ※2 年齢は2021年4月1日時点。すなわち平成15(2003)年4月2日以降 出生 |
上記の要件を満たした場合に申請することができ、補助額は省エネ性能によって3段階に分かれています。
■こどもみらい住宅支援の補助金額
補助対象住宅 | 省エネ性能の内容 | 補助額 |
①ZEH 水準(※) | 強化外皮基準に適合し、再生可能エネルギー等を除き、基準一次エネルギー消費量から20%以上の一時エネルギー消費量が削減される性能を有する住宅 | 100万円 |
②認定住宅 | 次のいずれかに該当する住宅 a) 認定長期優良住宅 b) 認定低炭素住宅 c) 性能向上計画認定住宅 |
80万円 |
③一定の省エネ性 | 断熱等性能投球4かつ一次エネルギー消費量等級4の性能を有する住宅 | 60万円 |
※ZEH水準には、Nearly ZEH、ZEH Ready、ZEH Orientedを含む
3-3. リフォーム
またこの制度は、省エネ性能向上等のリフォームにも適用されます。リフォームでは、子どもの有無や年齢などに関係なく、自身が居住する住宅のリフォームであれば誰でも申請することができ、さらに子育て世帯、若者夫婦世帯は補助額(上限)が30万円から60万円に大きく引き上げられます。なお、対象となるリフォーム工事は以下の8種類です。
■対象となるリフォーム工事
①~③はいずれか必須。④~⑧は任意
①開口部の断熱改修 ②外壁、屋根・天井又は床の断熱改修 ③エコ住宅設備の設置 ④子育て対応改修 ⑤バリアフリー 改修 ⑥空気清浄機能・換気機能付きエアコン の設置 ⑦耐震改修 ⑧リフォーム瑕疵保険等への加入 |
また、リフォームの補助額(上限)は原則30万円ですが、世帯の属性や物件によって以下の通り引き上げられます。
■こどもみらい住宅支援・リフォームの補助金額(上限)
世帯の属性 | 既存住宅購入の有無 | 上限補助額 |
子育て世帯又は 若者夫婦世帯(※1) |
既存住宅を購入しリフォーム | 60万円 |
上記以外のリフォーム | 45万円 | |
その他の世帯 | 安心R住宅を購入しリフォーム(※2) | 45万円 |
上記以外のリフォーム | 30万円 |
※1子育て世帯・若夫婦世帯の要件は新築と同じ
※2 安心R住宅とは:国が定める品質基準をクリアしている中古住宅
3-4. 申請方法とスケジュール
最後に、こどもみらい住宅支援の申請スケジュールを確認しておきましょう。
■こどもみらい住宅支援のスケジュール
契約 | 建築工事 | 申請期限 | 完了報告の提出期限 | |
注文住宅の新築 | 2021年11月26日以降に工事請負契約を締結 | 事業者登録後に着工 | 2022年10月31日 ※補助額以上の出来高に達した時点で申請 |
2023年5月31日 |
分譲住宅の購入 | 2021年11月26日以降に売買契約を締結 | 一戸建は2023年5月31日 マンション(10階建以下)は2024年2月15日 マンション11階建以上)は2024年12月31日 |
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リフォーム | 2021年11月26日以降に工事請負契約を締結 | 2022年10月31日 ※工事完了後に申請 |
上表の通り、この制度が閣議決定された2021年11月26以降に契約締結されたものが対象となり、かつ住宅メーカー等の事業者登録(※1)が完了した後に着工することが必要です。補助金の申請は住宅メーカー等の事業者が行ないますが、申請期限である2022年10月31日までに、注文住宅と分譲住宅は工事が「補助額以上の出来高」に達していること(※2)、リフォームの場合は工事がすべて完成していることが要件となります。
※1 事業者登録は2022年1月受付開始 ※2 概ね基礎工事の完了
より詳しい情報は「こどもみらい住宅支援事業」の公式サイトをご覧ください。
4、【住宅取得資金贈与の特例】親からの資金援助は最大1,000万円まで非課税に
最後に両親や祖父母などからの資金援助(住宅取得資金贈与の特例)について見ていきましょう。
4-1. 住宅取得資金贈与の特例の概要
住宅取得資金贈与の特例とは、両親や祖父母(直系尊属)から住宅取得のための資金援助を受けた際に、一定額までの贈与税が非課税になる特例です。2021年が期限となっていましたが、今回の改正で2年間延長されました。非課税となる額(非課税限度額)は以下の通りです。
■住宅取得資金贈与の特例
家屋の種類 | 非課税限度額 |
良質な住宅(※) | 1,000万円 |
上記以外の住宅 | 500万円 |
※一定の耐震性能、省エネ性能、バリアフリー性能を有する住宅
より詳しい情報は国税庁の「住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税」等のあらまし をご覧ください。
4-2. 非課税枠は年々縮小されている。親からの資金贈与は早めの検討を
このように一定の性能を満たせば、最大1,000万円までの資金援助が非課税になる、メリットの大きい制度です。しかし一方で、この制度は富裕層の相続税対策になるため「金持ち優遇」との批判も根強く、2019年度は最大3,000万円だった非課税限度額が、2020~2021年は1,500万円、そして2022年度は1,000万円と年々縮小されています。そして今後さらに縮小される可能性が高く、将来的には制度そのものがなくなってしまうかも知れません。親や祖父母からの資金援助を考えている方は、少し急いで検討を進めたほうがよいでしょう。
5、税制優遇・補助金など、住宅取得支援制度を利用する際の注意点
2022年の住宅取得支援制度、ご理解いただけましたでしょうか。最後に、こうした制度を利用する際の注意点について解説します。
5-1. 住宅ローン減税は物件の消費税率に注意
住宅ローン減税では物件の消費税率に注意しましょう。不動産の消費税は建物のみに課税されます(土地は非課税)が、課税対象は主に不動産会社が販売する新築物件と中古再販物件、および注文住宅になります。個人から購入する中古物件の消費税は非課税で、住宅ローン減税の控除額も異なりますので注意しましょう。
5-2. こどもみらい住宅支援の申請は登録事業者に限られる
こどもみらい住宅支援は、あらかじめ国に登録した「登録事業者」だけが申請できます。すべての住宅メーカーが対応しているわけではありませんので注意しましょう。
5-3. 予算がなくなると申請が打ち切られることも
こどもみらい住宅支援などの事業は、年度の予算が決まっているため、予算の上限に達すると期限前でも申請が打ち切られてしまうことがあります。制度の利用を検討している方はできるだけ早めに不動産会社などに相談してみることをおすすめします。
5-4. 自治体の補助金も忘れずにチェック
本コラムでご紹介しているのは国が行う住宅取得支援制度です。耐震や省エネ、移住や子育て支援など、各自治体でも独自の制度を設けていることがありますので、希望エリアの役所などに問い合わせてみるとよいでしょう。
5-5. 適用条件に注意し、専門家のアドバイスを受けながら検討しよう
そして最も気をつけなければいけないのは適用要件です。主に「購入する物件」の用途や面積、また「対象となる人」の年齢や所得など、細かく要件が決まっています。その中でも2022年から「建物の省エネ性能」が大きな要件となっていますので、必ず不動産会社のスタッフなど専門家に相談しながら検討を進めるようにしましょう。
2022年度も主要な制度は、ほぼ昨年並みの内容で継続されることになりそうです。また住宅ローン金利も歴史的な低水準が続いており、購入環境としては引き続き良好な1年と言えるでしょう。一方、海外では利上げの動きが急速に進んでおり、日本も今の低金利政策をいつまで続けられるのか、不透明感が漂い始めています。住宅購入を検討している方はこうした情報を的確にキャッチするためにも、不動産会社などの専門家に早めに相談してみることをおすすめします。