住まいを購入する際にしばしば利用されるのが、両親や祖父母からの資金援助です。住宅取得に関わる資金援助(贈与)は、一定額まで非課税となる特例がありますが、その適用期限が2024年税制改正により3年間延長されます。延長にともない何が変わるのか、また特例を受ける際の注意点などについて解説します。
目次
1. 住宅取得資金贈与の特例とは?
「住宅取得資金贈与の特例」とは、住宅取得のための資金援助(贈与)が、一定額まで非課税となる制度です。まずはその概要やメリットを見ていきましょう。
1-1. 住宅取得資金贈与の特例の概要とメリット
この特例は、両親や祖父母(直系尊属)から、住宅取得のための資金援助を受けた際に、贈与税が最大1,000万円まで非課税となる制度で、若者世代の住宅取得を後押しするための政策です。
もともと贈与税の税率はとても高く、例えば成人の子どもが親から年1,000万円の贈与を受けた場合の贈与税は177万円と2割近くに及びます。しかし、この特例を使うことにより全額が非課税となりますので、購入者にとっては非常に大きなメリットとなります。
1-2. 2024年税制改正で特例が延長された背景
この特例は2023年12月が期限となっていましたが、2024年の税制改正で2026年末まで3年間延長されます。
もともとこの制度の目的は、高齢者世代の資産を早期に若者世代に移転し、若者世代の住宅取得を後押しすることですが、一部の富裕層の節税対策に使われているという批判があり、見直しのたびに縮小や廃止が議論されてきました。そんな中、今回3年間の延長が決まった背景には、ここ数年の不動産価格の高騰や急速に進む少子化があります。若者世代、子育て世帯に経済的な支援をおこなうことで、無理なく住まいを買える環境を整える狙いがあるわけです。
1-3. 2024年税制改正での主な変更点
今回の延長にともなう最も大きな変更点は、購入する物件の省エネ基準の厳格化です。
新築住宅で、非課税限度額が1,000万円となる「質の高い建物」に関する規定が、それまでの「省エネ基準適合住宅」から一段上の「ZEH水準」に強化されました。
こうした変更点を含め、本特例の内容と利用する際の注意点などを解説します。
2. 親や祖父母から非課税で資金援助を受けるための要件
それでは、この特例を受けるための要件について詳しく見ていきましょう。
2-1. 贈与する人と受ける人の要件
まず、贈与の対象となる「人」に関する主な要件です。資金を援助する両親や祖父母(贈与者)と、援助を受ける子ども(受贈者)それぞれに要件がありますのでしっかり理解しておきましょう。
贈与する人(贈与者) ・贈与者は、受贈者の親・祖父母など直系尊属であること (叔父・叔母、義理の両親・祖父母などは対象外) |
贈与を受ける人(受贈者) ・贈与を受けた年の1月1日において18歳以上 ・贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下 (ただし床面積が40㎡~50㎡未満の場合は1,000万円以下) ・贈与を受けた時に日本国内に住所があること |
2-2. 購入する物件の要件と非課税限度額
次に物件に関する要件と非課税限度額を見ていきましょう。
物件に関する主な要件 ・家屋とその敷地が日本国内にあるもの ・登記簿上の床面積が40㎡以上240㎡以下で、1/2以上が自己の居住用であること ・次の①~③いずれかに該当すること ①新築住宅 ②昭和57(1982)年1月1日以後に建築された中古住宅 ③それ以前に建築された中古住宅は一定の耐震性が証明できるもの |
また、非課税限度額は、以下の通り購入する物件の性能によって異なります。
■住宅取得資金贈与の非課税限度額(新築住宅)
住宅性能 | 非課税限度額 | |
質の高い住宅 | ①~③いずれかに該当するもの ①省エネ性能がZEH水準(※)以上 ②耐震等級2以上又は免震建築物 ③高齢者等配慮対策等級3以上 | 1,000万円 |
一般住宅 | 上記①~③に該当しないもの | 500万円 |
※ZEH水準:断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6
なお、2023年12月31日までに建築確認を受けた住宅または2024年6月30日までに建築された住宅であれば、ZEH水準よりも性能の低い「省エネ基準適合住宅(断熱等性能等級4以上又は一次エネルギー消費量等級4)」でも非課税限度額が1,000万円となります。
つまり中古住宅の場合は、ZEH水準でなく省エネ基準に適合していればよいことになります。
2-3. 購入・入居の時期や申告に関する要件
そしてこの特例を使う場合にもっとも気をつけなければいけないのが、購入と入居の時期についての要件です。
・贈与を受けた日が居住開始前であること ・贈与を受けた日の翌年3月15日までに贈与資金の全額を充てて家屋等を取得すること ・贈与を受けた日の翌年3月15日までに本人が居住を開始すること ※「入居の見込み」があれば、最大で翌年12月31日まで居住開始を遅らせることができる ・贈与を受けた翌年3月15日までに贈与税の申告をすること(税額がゼロでも) |
この要件をクリアするためには、贈与を受けた日の翌年の3月15日までに確実に引き渡しを受けられるスケジュールで新築・購入を進める必要があります。
2-4. 住宅取得資金の範囲とは
最後に住宅取得資金の範囲について確認しておきましょう。
住宅取得資金として認められる主な範囲 ・住宅の新築または新築住宅の取得 ・中古住宅の取得 ・住宅の敷地である土地の取得(新築に先行しておこなう土地取得も含む) |
このように、住宅取得資金と認められるのは、家屋とその敷地となる土地です。その他の費用、例えば登記費用や手数料などの諸経費や、引越し費用、家具・家電などは対象となりませんのでご注意ください。
3. 1,000万円を超える贈与を非課税で受ける方法
ここまで見てきたように、この特例を使うことによって最大1,000万円までの贈与が非課税となりますが、他の制度との併用などでさらに非課税限度額を増やすことが可能です。
3-1. 暦年贈与による基礎控除と合わせて最大1,110万円
贈与税の基礎控除(1月1日から12月31日までの1年間で110万円)の範囲内で贈与をおこなえば、その分は非課税となります。つまり、住宅取得資金贈与の特例と組み合わせると、最大で1,000万円+110万円=1,110万円までの贈与が非課税となります。なお暦年贈与の110万円については、住宅取得以外に使っても問題ありません。
3-2. 相続時精算課税制度と合わせて最大3,610万円
相続時精算課税制度とは、60歳以上の親または祖父母から贈与を受けた場合に、最大2,500万円まで贈与税が課税されないという制度です。ただし、贈与された財産は、親や祖父母の相続が発生した際に(年110万円の基礎控除分を除き)相続税の課税対象となります。
つまりこの制度は、言わば課税の「先送り」制度ですが、住まいを購入するタイミングに合わせて早期に贈与を受けられることや、2,500万円という多額の贈与を受けられるのがメリットで、暦年贈与と住宅取得資金贈与を組み合わせると、最大で2,500万円+1,000万円+110万円=3,610万円まで非課税となります。
3-3. 夫婦それぞれが特例の適用を受けて最大2,000万円
住宅取得資金贈与の特例は、夫婦それぞれの親や祖父母から受けることもできます。
例えば、夫が親から1,000万円、妻が祖父母から1,000万円の贈与を受けた場合、最大2,000万円まで非課税となります。ただしこの場合は、購入した住宅を費用の負担割合に応じた共有名義で登記する必要があります。
4. 住宅取得資金贈与の特例を使うときの注意点
最後に、住宅取得資金贈与の特例を使うときの注意点についてまとめておきます。
4-1. 贈与はできるだけ年の前半におこなう
繰り返しになりますが、この特例を受けるためには、贈与を受けた翌年の3月15日までに居住開始し、贈与税の申告をおこなう必要があります。
したがって、年の後半~年末に贈与をおこなうと、引き渡しが延びた場合に期限に間に合わなくなる可能性があります。できるだけ年の前半に贈与をおこない、余裕をもったスケジュールで引き渡しを受けるようにしましょう。
4-2. 住宅性能はZEH水準以上を目指そう
前述の通り、2024年の改正で省エネ要件がZEH水準以上に引き上げられました。
500万円以内の贈与ならZEH水準でなくても問題はありませんが、省エネ性能の高い住宅は、住宅ローン控除や金利優遇、光熱費の削減など、税金以外にも多くのメリットがあります。将来的な資産価値なども考慮し、できるだけ性能の高い住まいを目指しましょう。
4-3. 特例を受けるためには必ず期限までに申告を
この特例を受けるためには、たとえ納税額がゼロでも申告が必要です。申告が1日でも遅れれば特例は使えません。また申告のためには、戸籍謄本、登記事項証明書、源泉徴収票など多くの書類が必要になります。事前に役所等で準備しておくようにしましょう。
4-4. ちょっとしたミスで特例を受けられないケースも
この特例は適用条件が多いため、ちょっとした勘違いで受けられなくなるケースがあります。
例えば、妻が贈与を受けて土地を購入し、夫が住宅ローンで建物を建てた場合「贈与を受けた人が所有する家屋とその敷地」という条件に当てはまらないのでこの特例は使えません。また、住宅ローンで住宅を取得し、あとから贈与を受けてローンを返済した場合なども適用されませんので十分注意しましょう。
4-5. 必ず専門家のアドバイスを受けながら進めよう
最後に、この住宅取得資金贈与の特例を利用する際には必ず専門家に相談しながら進めるようにしましょう。今回のコラムでご紹介した以外にも要件が細かく決まっており、適用外となってしまうと多額の贈与税を負担することになります。
両親や祖父母などからの資金援助を検討している方は、まずは不動産会社のスタッフや税理士など、専門家に相談してみることをおすすめします。