「建設業の2024年問題」で建築費が上昇?! 住宅購入は急ぐべき?待つべき?

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コロナ禍以降、高止まりが続く建築費。この建築費がさらに上昇する可能性が高まってきました。今回は建築コストの上昇要因を紐解きながら、今購入を急ぐべきなのか、待つべきなのか考えてみます。

目次

1. 建築費はなぜ上昇が続いているのか?

まず、なぜ建築費は上昇しているのか、その要因をおさらいしておきましょう。

1-1. 建築コスト上昇のきっかけはコロナによるインフレ

まず下のグラフをご覧ください。2020年以降の建築費の推移を表しています。

建築工事費デフレーター(国土交通省)※2015年を100とした指数

グラフからわかる通り、建築費が顕著に上昇し始めたのは2020年後半からで、2020年5月に「106」だった指数が2023年末には「125」に、約18%上昇しています。つまり、2020年に3,000万円だった建築費は、たった3年半で3,540万円に上昇したことになります。実際にはこの期間に土地の価格も上昇していますので、住宅の販売価格としては1,000万円近い値上がりとなっていることもあり、購入に二の足を踏む方が増える要因となっています。

1-2. 建築費は「資材価格」と「人件費」に分けられる

このように建築費が急激に上昇する中で、これから住まいを購入する方は、急いで買うべきなのか、下がるまで待つべきなのか悩ましいところだと思います。

そもそも建築費は、木材やコンクリート、設備機器などの「材料費」と、設計士や大工などの「人件費」で構成されますが、現在の高騰の原因は何なのか、また今後どうなるのか。これらを理解することが正しい購入判断につながります。

今回は、建築費高騰の要因と、建築費を抑えながら購入するポイントについて解説していきます。

2. これまでの上昇要因は、主に材料費の上昇によるもの

2020年から上昇し始めた建築費、この主な原因は材料費の高騰によるものです。ではなぜ材料費が高騰したのか、詳しく見ていきましょう。

2-1. コロナによる世界的なインフレと円安の進行

この時期は新型コロナの世界的流行により、世界各地でロックダウンが発生し、モノの生産や流通が停滞した時期と重なります。建材の多くを輸入に頼っている日本では、資材の調達が困難となり、価格は大幅に上昇しました。また同時に各国の中央銀行が金融緩和に動いたため物価が上昇し、世界的にインフレが進みました。2023年以降、先進国はインフレ対策として金利の引き上げなどに動いていますが、物価上昇率は年2~4%前後と依然高い状態にあります。 そして、もうひとつの要因は円安です。2022年初頭には1ドル=110円台だった為替レートは、2023年10月に150円を超える円安となっています。つまり、たった1年半で30%以上も円安になったことにより、輸入資材の価格が上昇しているわけです。

2-2. 紛争などの地政学リスク

また、こうしたインフレや円安に加え、2022年2月に始まったウクライナ紛争により、ロシアからの木材の輸入がストップ。同じ時期に米国での木材需要が高まったこともあり、木材価格の高騰(ウッドショック)が起こりました。また、紛争によりエネルギー価格が上がり、輸送費や電気代などが高騰したことも資材価格を押し上げる要因となっています。

また現在、中東のイスラエルとパレスチナの間でも紛争が続いています。もしこれが激化・長期化すれば、再び原油価格が上昇する可能性があります。

2-3. 半導体不足

さらに世界的な半導体不足も要因のひとつです。半導体は住宅設備や家電などあらゆる機器に使われているため、半導体の値上がりは建築費の上昇に直結します。半導体不足は、2024年後半にはある程度緩和される見込みですが、完全な解消には更なる時間が必要とされ、2025年以降も影響が続く可能性があります。

3.  2024年以降、働き方改革による人件費アップが重荷に

このような材料費の高騰は現在も続いており、建築費は高止まりとなっています。そして今後の建築費をさらに押し上げる要因となるのが「建設業の2024年問題」などに起因する人件費の上昇です。

3-1. 「建設業の2024年問題」とは

建設業の2024年問題とは、働き方改革の一環として4月から実施された、建設業に従事する人の残業規制を指します。この規制により、建設現場で働く大工や職人なども一定以上の残業ができなくなり、建築現場では大幅な人手不足が懸念されています。そうなれば、人件費の上昇や工期の長期化などにより、建築費はもう一段上昇することになります。

3-2. インフレによる賃上げ

こうした建設業特有の問題だけでなく、インフレを背景とした賃上げ(ベースアップ)も人件費を押し上げます。今年の春闘での賃上げ率は5.24%と33年ぶりの高水準となりましたが、政府は企業に対して持続的な賃上げを強く要請しており、住宅関連分野にも賃上げが広がっていくことになるでしょう。

3-3. 建設業で働く人の高齢化

2023年の総務省調査によると、建設業界の年齢別の就労状況は、65歳以上が82万人で全体の17%、50歳以上で全体の50%に上ります。一方、20代までの若手は全体の約12%となっており、近い将来、高齢者の退職などにともない、極端な人材不足になると予想されています。

3-4. 運送業の働き方改革も影響

4月から始まった残業規制は、建設業だけでなく、運送業にも適用が始まっており、ドライバー不足による配送の遅延や人件費の上昇が懸念されています。もしそうなれば、建設現場に資材を運ぶ運送コストが上昇するため、建築費を押し上げる要因となります。

4. 建築費は上昇が続く可能性が高い。購入者ができる対策とは

建築費が上昇する要因、ご理解いただけたでしょうか。ここまで見てきたように、建設費は「材料費」と「人件費」の両面から上昇圧力がかかっており、今後も上昇傾向が続く可能性が高くなっています。

4-1. 今後も建築費の上昇は続く見込み。住まいを購入するなら早めの決断を

このように、建築費が上昇している要因は、世界各国の紛争、インフレや為替レート、国内の働き方改革、人材の高齢化など多岐にわたっており、簡単に解決できるものではありません。もし、今後建築費が下がるとすれば、紛争の終結、インフレの解消、急激な景気の悪化などのきっかけが考えられますが、残念ながらその兆しはまったく見えてきません。

したがって、今後、建築費は下がるよりも上がる可能性の方が圧倒的に高いと言えます。合わせて地価の上昇も続いていますので、いずれ住まいを購入したいと考えているならば、できるだけ早めの決断をおすすめします。

4-2. 建築費上昇が続く中で、購入者ができる対策とは

最後に、建築費の上昇が続く中で、リーズナブルに住まいを買うにはどのようなことに気をつければよいのでしょうか。対策をまとめてみました。

①土地価格の安い郊外エリアを狙う

価格上昇が続く中で効果的なのは、購入エリアの見直しです。都心から少し離れた郊外エリアは、地価が都心の半分~1/3程度まで下がるので、建築費の上昇分は十分に吸収できます。ただし、同じ郊外エリアでも、ターミナル駅や急行停車駅の周辺など「利便性の高い郊外」の地価は上昇傾向にありますので、早めに動いたほうがよいでしょう。

② 建物はできるだけシンプルに

注文住宅で建築費を抑えるには、床面積を大きくし過ぎず、シンプルな設計を心がけましょう。また、建材や設備の仕入価格は、住宅供給数が多いほど下がる傾向があるので、ボリュームディスカウントの効きやすい、供給数の多い会社を選ぶのもひとつの考え方です。

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③補助金の活用

国は、省エネや耐震など性能の高い建物に対し、手厚い補助金を交付しています。今年は子育て世帯、若者世帯に最大100万円の補助金を交付する「子育てエコホーム支援事業」がスタートしています。こうした補助金を活用するのもおすすめです。

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④中古住宅を買ってリフォーム

建築費の上昇は、主に新築住宅の価格に影響します。一方、中古住宅は相場全体の影響は受けるものの、直接的に建築費の影響を受けるわけではないので、相対的に価格上昇は緩やかになります。新築で予算が合わないという方は、中古住宅を購入してリフォームするのも一つの方法です。リフォームも少なからず建築費上昇の影響を受けますが、新築よりは影響が小さいでしょう。

建築費が高止まりとなり、今後さらに上昇しそうな今、住宅購入をためらう方も増えています。また、ここまで見てきたように、上昇は一過性のものではなく、少なくとも数年は続く可能性が高いと考えられます。つまり、購入を先送りにすればするほど不利になるわけです。値下がりを待つ間にも家賃はかかりますし、数年後には金利が上昇している可能性もあります。

「いずれはマイホームを」とお考えであれば、金利が低く補助金などの支援が充実した今のタイミングで一度しっかり検討を進めてみてはいかがでしょうか?