ご存知ですか?住まいの「等級」。今、住宅性能が注目される理由とは

不動産売買_関連 市場/相場_関連 暮らし/法律/その他 注文建築_関連 資金/ローン/税制_関連

ご存知ですか?住まいの「等級」。今、住宅性能が注目される理由とは

住まいにも「等級」があるのをご存知でしょうか?住まいの等級とは耐震性や省エネ性など住宅の性能をわかりやすく表示したものです。昨今、この等級が注目されており、最高等級を取得する住宅メーカーが増えています。その背景と等級の中身について解説します。

目次

1、そもそも住まいの「等級」ってなに?「住宅性能表示」とは

住まいの等級は2000年4月に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づく住宅性能表示制度によって決められています。

1-1. 住宅性能表示制度の概要

住宅性能表示制度は、それまで評価が曖昧だった住宅の性能を「見える化」し、簡単に比較できるようにするために制定された制度です。この制度を利用する人は年々増えており、2019年度の評価書交付割合は4年連続で過去最高を更新、交付数は全着工件数の約3割となっています。ここ数年で対応する住宅メーカーが増え、交付件数は今後さらに増加すると予想されています。

1-2. 住宅性能表示の10分野

では具体的に住まいの性能をどのように評価するのでしょうか。住宅性能表示では、下記の10分野について評価基準を定めています。

■住宅性能表示制度における10分野

評価される分野 主な評価基準
①構造の安定 耐震性、地盤、基礎の構造。地震、防風、積雪対策
②火災時の安全 耐火性、警報機の設置。安全な避難と延焼防止
③劣化の軽減 建物の耐久性。木材の腐朽やシロアリ被害の軽減
④維持管理・更新への配慮 給排水・ガス等の配管の点検、清掃、補修のしやすさ
⑤温熱環境 断熱性、気密性。住宅の省エネルギー性能
⑥空気環境 化学物質への対策。使用する建材や換気方法
⑦光・視環境 開口率、方位別開口比。良好な日照、通風、眺望
⑧音環境 床衝撃音、外部騒音に対する遮音性
⑨高齢者等への配慮 バリアフリー性。移動時の安全、介護者の容易性
⑩防犯 開口部(バルコニー・窓など)の侵入防止対策

それぞれの分野について、設計段階と建築段階で、国が指定する第三者機関が検査を行ない、評価書を発行します。発行される評価書は、言わば「住宅の成績表」で、国からのお墨付きとも言えるものです。

1-3. 住宅性能表示で特に重要な「必須4分野」

上記の分野別に、共通の基準にもとづく「等級」が定められ、特に重要な4分野は「必須分野」と位置づけられています。

■住宅性能表示の必須4分野

必須分野 等級
構造の安定 耐震等級[1~3]、耐風等級[1~2]、耐積雪等級[1~2]
劣化の軽減 劣化対策等級[1~3]
維持管理・更新への配慮 維持管理対策等級[1~3]
温熱環境 断熱等性能等級[1~4]、一次エネルギー消費量等級[1~4]

※等級の数が大きいほど、各分野の対策が施されている・工夫や配慮がされている事を表わしており、等級が1であっても建築基準法上の規定は満たしている事を意味しています。

※2022年6月現在、2050年カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現に向けた住宅の更なる性能向上を目的に、「断熱等性能等級5」および「一次エネルギー消費量等級6」が新たに設定されています。詳細は下記ページをご覧下さい。 

(国土交通省:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001424534.pdf)

2、住宅性能表示「最高等級」の取得が増える理由

最近、住宅性能表示の「最高等級」を取得する住宅メーカーが増えていますが、その背景には、世界的な脱炭素(カーボンニュートラル)の流れや、国の住宅政策が大きく関係しています。

2-1. 世界的な「脱炭素」の流れと省エネ基準の適合義務化

2020年10月、政府は世界的な「脱炭素」の流れに合わせ、2050年にカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を達成すると宣言しました。その後、各省庁で様々な取り組みが打ち出され、二酸化炭素(CO2)排出量の15%を占める家庭分野(2019速報値)の改革も進められています。

住宅分野においては2021年4月より、省エネ基準への適合可否について建築士による説明義務化がスタートし、2025年度にはすべての新築住宅に対して省エネ基準への「適合」を義務づける方針が打ち出されています。政府のカーボンニュートラル宣言をきっかけに、脱炭素化を強力に推進するためのルールづくりが急速に進んでいるわけです。

2-2. 地震や台風など自然災害の多発

そして近年、住宅性能が注目される理由が「自然災害」です。地震国である日本では、大きな地震があるたびに建築基準法が改定され、耐震基準が強化されてきましたが、阪神淡路大震災、東日本大震災では、当時の建築基準法の想定を超える被害が発生しました。

そして今後、首都直下地震でマグニチュード7程度の地震が30年以内に発生する確率は70%程度と予測されており(※)、更なる耐震性の向上が求められています。

※文部科学省 地震調査研究推進本部による予測

2-3. ヒートショックやアレルギーなどの健康問題

厚生労働省の推計によると、日本では年間1万9,000人がヒートショック(住宅内の温度差)により亡くなっています。これは交通事故による死者数(2020年:2839人)をはるかに上回り、特に断熱性の低い住宅の浴室や脱衣所などで高齢者が亡くなる例が多く見られます。また最近の調査では、住まいの断熱性と健康(高血圧や心疾患、カビによるアレルギーなど)には密接な関連があることがわかってきています。

このような背景のもと、防災や健康維持の観点からは、建築基準法を守っていれば大丈夫と言い切れないケースも増えてきており、より高い住宅性能が求められるようになってきたわけです。

ヒートショックやアレルギーなどの健康問題

3、何がどのくらい違うの?住まいの「等級」の中身とは

このように、建築基準法は「クリアすべき最低基準」という認識に変わってきています。そうした意味で、「等級」は、建築基準法よりどのくらい優れているのかを表す指標とも言えます。必須4項目の具体的な中身を見ていきましょう。

3-1. 耐震等級

耐震等級には以下の通り1~3の等級が定められています。端的に言えば、等級1は「倒壊しない」レベル、等級3は「繰り返し地震が来ても住み続けられる」レベルとなります。

ちなみに2016年の熊本地震では、震度7の揺れが続けて2回発生し、建築基準法の耐震基準をクリアした建物にも倒壊した例が見られました。(耐震等級3の建物の倒壊はゼロ)

等級1 建築基準法と同等の耐震性能 震度6強~7程度の地震でも、即倒壊はしない。ただし、大規模修繕や建て替えとなる可能性がある。
等級2 建築基準法の1.25倍の耐震性能 震度6強~7程度の地震でも、一定の補修程度で住み続けられる。学校や避難所といった公共建築物レベル。
等級3 建築基準法の1.5倍の耐震性能 震度6強~7程度の地震でも、軽い補修程度で住み続けられる。消防署や警察署といった災害復興の拠点となる防災施設レベル。

■耐震等級3の一戸建イメージ

耐震等級3の一戸建イメージ

出典:フラット35 公式サイト

3-2. 劣化対策等級

劣化対策等級には以下の通り1~3までの等級が定められています。等級3では、3世代にわたって住み続けられる基準が定められています。

等級1 建築基準法に定める対策 構造部材等における基準法への適合
等級2 通常想定される条件のもとで使用できる期間が2世代(約50~60年)以上 外壁軸組における防腐・防蟻措置
土台、浴室と脱衣室、地盤、基礎、床下、小屋裏、構造部材等の基準への適合
等級3 通常想定される条件のもとで使用できる期間が3世代(約75~90年)以上 外壁の軸組における防腐・防蟻措置
土台の防腐・防蟻措置、浴室と脱衣室の防水措置、地盤の防蟻措置
基礎の高さの確保、床下の防湿・換気措置、小屋裏の換気措置、構造部材等の基準法施行令規定への適合

※木造の場合

■劣化対策等級に配慮した一戸建のイメージ

劣化対策等級に配慮した一戸建のイメージ

出典:フラット35 公式サイト

3-3. 維持管理対策等級

維持管理対策等級には以下の通り1~3までの等級が定められています。主に配管の点検や補修をしやすくするための措置について定められています。

等級1 等級2~3以外
等級2 躯体(基礎や外壁など)を傷つけず、設備の点検・補修ができる 配管をコンクリートに埋め込まない等、維持管理を行うための基本的な措置
等級3 躯体・仕上材(床や天井)を傷つけず、設備の点検・補修ができる 掃除口及び点検口が設けられている等、維持管理を容易にすることに特に配慮した措置

※一戸建ての専用配管(給排水・ガスなど)についての基準

■維持管理対策等級に配慮した配管や点検口

維持管理対策等級に配慮した配管や点検口

出典:一般社団法人 住宅性能評価・表示協会

3-4. 省エネ(断熱等性能等級、一次エネルギー消費量)等級

省エネ基準については、2013年(平成25年)の法改正で、外壁や窓などの「断熱性能」に加え、設備の性能や省エネを総合的に評価する「一次エネルギー消費量」基準が加わり、建物全体のエネルギー消費量を減らす基準が導入されました。

さらに現在では、「ZEH」「HEAT20」等、さらに高レベルな基準も制定されています。

断熱等性能 一次エネルギー消費量
等級1 等級2~4以外 等級4~5以外
等級2 1980年(昭和55年)基準相当
等級3 1992年(平成4年)基準相当
等級4 2013年(平成25年)基準相当の外皮性能 2013年(平成25年)基準相当の一次エネルギー消費量性能
等級5 低炭素基準相当の一次エネルギー消費量性能

※2022年6月現在、2050年カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現に向けた住宅の更なる性能向上を目的に、「断熱等性能等級5」および「一次エネルギー消費量等級6」が新たに設定されています。詳細は下記ページをご覧下さい。

(国土交通省:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001424534.pdf)

■住宅の省エネ性能を高めるポイント

住宅の省エネ性能を高めるポイント

出典:「新築住宅の住宅性能表示制度ガイド」(国土交通省)

4、住宅性能表示(等級)は取得するべき?メリット・デメリットとは

住まいの等級の中身がわかったところで、等級を取得するメリット・デメリットについて見ていきましょう。

4-1. 住宅性能表示を取得するメリット

住宅性能表示を取得するメリットは、月々の光熱費や保険料といった支出の削減と、住まいの資産価値維持という2つの側面があります。

①光熱費や保険料の削減

支出の削減としてもっともわかりやすいのは月々の光熱費です。断熱性の高い建物は冷暖房にかかる光熱費を大きく削減することができます。断熱等級3相当の建物と比べ、断熱等級4相当の建物では、年間光熱費が約6万円安くなります(※)ので、30年間で約180万円の削減となります。

※出典:「なるほど省エネ住宅」(国土交通省)

また、耐震等級を取得した建物には地震保険料の割引があり、等級3では保険料が半額になります。

■ 耐震等級による地震保険料の割引

耐震等級3 50%割引
耐震等級2 30%割引
耐震等級1 10%割引

さらに、住宅ローン(フラット35)の金利優遇や、税制優遇を受けられる可能性もありますので、等級を取得するメリットは十分にあると言えます。

■フラット35S の金利優遇

金利引下げプラン 引き下げ期間 引き下げ幅
金利Aプラン 当初10年間 年 ▲0.25%
金利Bプラン 当初5年間

※2021年5月現在  (詳細はフラット35 公式サイトをご確認ください)

②資産価値の維持

将来的に省エネ基準への適合が義務づけられると、それ以降に新築されるすべての住宅はその基準をクリアしていることになり、義務づけ以前の建物の価値は相対的に下がっていく可能性があります。

前例としては、1981年(昭和56年)に耐震基準が大きく改定されたことにより、改定前の建物は「旧耐震」、改定後の建物は「新耐震」と、現在でも明確に区別されており、旧耐震の建物は、相対的に価格やローン審査などで不利になっています。

今後、省エネなどの等級においても、同じことが起こる可能性は十分あり得ると思います。大切な資産である住まいの価値を維持するためにも、等級取得には意味があります。

4-2. デメリットは設計の自由度とコスト

一方、住宅性能表示を取得するデメリットの1つは、プラン(間取りやデザイン)の自由度が下がるということです。例えば、耐震性を高めるためには、一定量の壁(耐力壁)が必要になるので、大きな吹き抜けや大空間などは作りにくくなります。

もう1つは取得にかかる費用です。費用には大きく分けて、性能向上にかかる建材費や施工費と、申請や検査にかかる事務的な費用があります。前者については、費用を掛けた分、相応の性能向上が見込めますが、後者については純粋なコスト増となります。

ただし、光熱費・保険料の削減や資産価値を考慮すると、長い目で見て「元が取れる」制度になっていますので、積極的に検討してみることをおすすめします。

デメリットは設計の自由度とコスト

5、2021年は住宅政策転換の年となる。一歩先を見据えた家づくりを

住まいの「等級」と住宅性能表示、ご理解いただけましたでしょうか。

これから住宅購入を検討する方は、こうした性能向上の流れを踏まえて、一歩先の家づくりを目指しましょう。

5-1. 今後、住宅性能基準はさらに上がる可能性が高い

冒頭に申し上げた通り、住宅性能の向上は災害対策やCO2削減といった国の重点政策と深く結びついており、近い将来、省エネ基準適合「義務化」が行われることはほぼ間違いないでしょう。しかし、それでも世界レベルで見れば日本の省エネ基準はかなり低く、今後さらに基準の引き上げがおこなわれる可能性が高いと思います。

そもそも日本の省エネ基準が世界に遅れをとった要因として、小規模な事業者(工務店等)の多くが、最新の断熱やエネルギー消費に関する知識・技術に乏しく、国がそうした事情に配慮し、基準を引き上げられなかったことも一因としてあります。しかし、2021年はその方針を転換し、義務化に向けて大きく舵を切る年になります。すでに先進的な住宅メーカーは新基準に対応し、さらに高い基準をクリアするための、設計見直しが進んでいます。

5-2. 現行基準の一歩先をいく家づくりを目指そう

そうした観点で申し上げれば、現行の基準に合致した住まいを購入することは当然となり、将来的に基準が上がることを前提とすれば、今の時点で一歩先を行く住まいを目指したいものです。

建てた後に変更できない部分であるからこそ各分野の最高等級を、さらに「ZEH」や「HEAT20」など、今後導入される可能性のある新基準も踏まえ、専門家とよく相談してみることをおすすめします。