
2024年1月に新NISAがスタートしたこともあり、新たに資産運用を始める人が増えています。多くの方が手元の資金を活用して資産を増やしたいと考える中、人生で起こり得る「大きな買物」の1つが住宅購入。そこで頭を悩ませるのが「頭金」の問題です。
今回は、手元の資金を頭金として入れた場合とNISA等で運用した場合のシミュレーションをもとに、どちらがトクなのかを検証してみました。
目次
1. 住宅購入者を悩ませる「頭金どうする?」問題の背景
まず多くの住宅購入者が、頭金を入れるべきか運用するべきか迷ってしまう背景をおさらいしておきましょう。
1-1. 新NISAのスタートで資産運用を始める人が急増
2024年からスタートした新NISA、正式名称は「少額投資非課税制度」で、一定額までの投資から得られた利益が非課税になる制度です。2024年から非課税となる上限が年間360万円、総額1,800万円とこれまでの倍以上に引き上げられたことで話題を呼び、2024年2月の新規口座開設が前年の2.9倍と大きく伸びています。
1-2. 不動産価格が上昇する一方、金利は低水準を維持
一方、不動産市場に目を移すと、住宅価格は都市部を中心に値上がりが続いています。特にコロナ明けの2023年ごろから上昇が加速しており、上昇エリアは都心部から郊外に広がっています。この価格上昇の一因となっているが低金利です。3月に日銀はマイナス金利を解除しましたが、依然として政策金利は0~0.1%、住宅ローン金利(変動)は0.3~0.5%前後と低水準を維持しています。
1-3. 「頭金どうする?」問題を4つのパターンでシミュレーション
このように、2024年は新NISAのスタートに加え株価も堅調であることから「頭金を入れるよりも運用した方がトク!」という記事などが増え、購入者を悩ませる要因となっています。かつては「頭金2割」と言われた時代もありましたが、現在は頭金ゼロで家が買える時代です。
そこで今回は、以下の①~④のパターンを想定し、それぞれのメリット・デメリットなどを検証してみます。


2. 頭金VS運用、4パターンのシミュレーション
それでは早速シミュレーションに移りましょう。シミュレーションの条件は以下の通りです。

なお、現状の住宅ローン金利(変動)は0.3~0.5%前後ですが、今後の上昇の可能性を加味して1.0%としています。またNISAで大人気の投資信託「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の過去5年の利回りは年10%を超えますが、ここでは抑えめに4%と想定しています。
2-1. 「頭金より運用した方がトク」は本当だった!?
それでは早速、結論から見ていきましょう。まず、上記4パターンの借入金額と返済額は以下の通りです。①と③は頭金500万円を入れたことにより、借入金額と返済額が減少しています。

これに、手元資金からの支出とNISAでの運用成果、頭金を貯めている間(5年間)の家賃を加味した結果が以下になります。

※10万円未満四捨五入
2-2. 手元資金がある場合には、頭金を入れるより運用した方が有利
まず、手元資金が500万円ある場合の①と②を比較してみましょう。
頭金として入れた①のケースでは、総返済額が②と比べて590万円安くなります。頭金を入れたことで借入金額が減り、支払う利息が減少するためです。
一方、②のケースでは、500万円を35年間運用することで、1,970万円の運用成果(元本+運用益)を得ることができます(※)。
結果として支出額の合計は、①が4,650万円、②が3,270万円となり、頭金を入れるよりも運用する方が、1,380万円も有利になることがわかります。
※NISAで運用する場合は、つみたて投資枠・成長投資枠合わせて年360万円が上限となります。
2-3. 手元資金がない場合には、頭金を貯めるより全額ローンの方が有利
次に、手元資金がない場合の③と④を比較してみましょう。
頭金を貯めてから買う③では、返済額は④より下がるものの、貯めている間の家賃が720万円(12万円×60ヶ月)もかかってしまいます。
結果として支出額の合計は、③が5,370万円、全額ローンで買った④は4,740万円となり、全額ローンで買った④の方が、630万円も有利になります。しかも③は購入時期が延びる分、住宅ローンの完済年齢が遅れるというデメリットがあります。
さらに、頭金を入れた①と全額ローンの④を比較してみると、支出額の差は35年間で90万円。つまり年2万6,000円程度の差にとどまり、現在のような低金利下が続く状況であれば、支出額にそれほど大きな差が生じないことがわかります。
このように、シミュレーションから見る限り、
●手元に資金がある場合には、頭金を入れるより運用したほうが有利 ●手元に資金がない場合には、頭金を貯めるより全額ローンですぐ買った方が有利 ●頭金を入れてもトータルの支出額にはそれほどの差は出ない |
ということがわかります。

3. 頭金を入れるメリットとデメリット
シミュレーションの結果を踏まえて、改めて頭金のメリット・デメリットを整理しておきましょう。
3-1. 頭金を入れるメリット
頭金を入れるメリットとしては、シミュレーションからもわかる通り、月々の返済額と利息を下げられることです。また、返済額が同じなら返済期間を短くすることができるので、高齢の方が住宅ローンを利用する場合などはメリットがあります。
また、頭金を入れることで借入金額が減るので、ローン審査に通りやすくなるというメリットもあります。
3-2. 頭金を入れるデメリット
一方、頭金を入れる最大のデメリットは、手元のお金が減少してしまうことです。言い換えれば、いつでも自由に使える「現金」が「不動産」に変わることにより、簡単には換金できなくなるということです。これを「資産の流動性が下がる」と言いますが、この状態で急にお金が必要になった場合(例えば教育資金など)には、住宅ローンよりも高い金利で借りなければなりません。こうしたリスクを避ける意味では、投資信託など換金しやすい資産で運用する方が安心と言えるでしょう。
また、頭金を貯めるケースでは、その間の家賃が最大のデメリットとなります。シミュレーションでは5年間で500万円の貯蓄を想定しましたが、家賃を払いながら数百万円を貯蓄するのは非常に難しく、場合によってはさらに長い期間が必要になります。また今後インフレが強まれば、家賃や金利が上昇することもあり得ますので「貯めてから買う」のはあまりよい選択とは言えません。
3-3. それでも頭金を入れた方がいいケースとは?
このように、頭金ゼロでも住宅購入ができる現在では、頭金を入れるメリットは小さくなっています。しかし、それでもあえて頭金を入れた方がよいケースもあります。
①頭金ゼロで住宅ローン審査が通らない場合
住宅ローンは、収入に対する返済額の割合(返済比率)が高すぎると審査が通らないことがあります。このような場合は、頭金を入れることで返済比率を下げるメリットがあります。
②頭金を入れることで金利優遇などがある場合
頭金を入れることで、金利が優遇されるケースがあります。例えばフラット35は融資率(※)が9割超の場合、9割以下の場合と比べて金利が0.11%上がります。(2024年5月現在)
このようなケースでは、融資率を下げるために頭金を入れるメリットがあります。
※融資率:借入額の合計÷住宅の建設費または住宅の購入価額
③運用リスクを一切取りたくない場合
NISAに限らず、資産運用は一定のリスクが伴います。場合によっては資産を減らしてしまう可能性もありますので、こうしたリスクを一切取りたくないという方は、確実に利払いを減らせる頭金として活用するのもひとつの方法です。
④生活資金に余裕があり、不動産の値上がりが見込める場合
頭金を入れてもなお生活資金に余裕がある方や、すでに金融資産をお持ちの方などは、一定額を頭金として入れてもよいでしょう。特に値上がりが見込まれる物件なら、余裕資金の運用として将来の売却益も期待できるでしょう。
3-4. 頭金ではなく繰り上げ返済はどうなのか?
最後に、繰り上げ返済についても触れておきましょう。
例えば前述のシミュレーションの④、全額ローンで購入したケースで、10年後に500万円を繰り上げ返済した場合、月々返済額が11.3万円から9.4万円に、総返済額が4,740万円から4,680万円に60万円減少します。
一方、500万円を繰り上げ返済せず、残りの25年間を年4%で運用した場合、運用成果は約1,330万円となり、繰り上げ返済するよりもかなり有利になります。
つまり繰り上げ返済も頭金と同じく、住宅ローン金利(1%)が運用利回り(4%)を上回る状況であれば意味がありますが、そうでなければ運用した方が有利だということになります。しかし前述の通り、運用にはリスクがありますので、リスクを避けたい方は、確実に利払いを減らせる繰り上げ返済もひとつの方法です。

4. 今後の住宅ローンと資産運用の考え方
最後にこれから住宅を購入する方向けに、住宅ローンと資産運用の考え方について解説します。
4-1. 金利タイプは変動金利かつ返済期間は長期で
今後、現在の低金利がしばらく続くとするならば、金利タイプは変動金利が有利と考えられます。また、インフレ傾向が続くならば、返済期間は長期の方が有利です。
金利は今後ゆっくり上昇していくと予想されますが、まだ固定と変動の差が大きいため、当面は変動の方が有利と考えられます。
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また、インフレにより物価が上昇するということは、その分現金の価値が減少することを意味しますので、住宅ローンなどの借入金も年々その価値が目減りしていきます。つまり、今よりも10年後、20年後の方がラクに返済できるようになるわけです。
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4-2. 頭金は必要以上に入れない。貯めてから買うのは効率が悪い
また、今回のシミュレーションでもわかる通り、手元の資金は、頭金として入れるよりもNISAなどで運用した方が有利になります。頭金はローン審査や金利優遇などに必要な分だけを入れ、余裕資金を残して運用するようにしましょう。
もし今後、極端に金利が上昇した場合などは、換金して繰り上げ返済することも検討してよいと思います。いずれにしても資産の流動性を保ちながら、フレキシブルに対応できるようにしておくことが重要です。
また前述の通り「頭金を貯めてから買う」という方法は、低金利かつ価格上昇が続いている今、あまりおすすめできません。一見、堅実に見えますが効率が悪い方法だということを知っておきましょう。
4-3. 運用はリスクが高い商品を避けて長期運用を目指す
最後に運用方法ですが、一般的にリスクが高いと言われるFXや仮想通貨、個別株などはなるべく避けましょう。また、長期で運用することでリスク低減が期待できます。
最終的な判断は、個々のリスク許容度によりますが、インデックス型の投資信託等をNISAで長期運用するのが無難だと思われます。
「頭金」VS「運用」いかがでしたでしょうか?
現在、日本経済はデフレからインフレへと移行する過渡期であり、住宅購入における資金計画も判断が難しい局面にあります。ぜひ不動産会社のスタッフやファイナンシャルプランナーなど専門家のアドバイスを受けながら住宅購入を進めていきましょう。
※本記事は執筆(2024年5月)時点での筆者の予測・見解を含んでおり、将来の結果を保証するものではありません。また、特定の金融商品や住宅ローン等を推奨するものではありませんのでご留意ください。