50代から考える「終の棲家」① 老後は自宅か?住み替えか?

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シニア世代の「理想の住まい」を考える

平均寿命が男女ともに80歳を超え「人生100年時代」が現実的になってきました。老後の20~30年を過ごす住まいはどうあるべきなのか、これからの「終の棲家」について考えてみました。

目次

1、伸び続ける「平均寿命」。人生100年時代の終の棲家とは

日本人の平均寿命は、男性81.25歳、女性87.32歳。年々伸び続けており、現在は「人生100年時代」と言われるようになっています。

1-1. 「人生100年」で終の棲家も変化する?

厚生労働省が公表している2018年の簡易生命表によると、日本人の平均寿命は、男81.25歳、女87.32歳と男女ともに80歳を超え、年々伸び続けています。今後も医療の進化などによりさらに伸びていくことが予想されており、「人生100年時代」の到来が現実のものとなってきました。

日本人の平均寿命

一方、「終の棲家」とはもともと老後から人生の最期までを過ごす家という意味ですが、「人生100年」の視点に立つと、老後を過ごす時間はどんどん伸びており、また違った意味も出てくるのではないでしょうか。

今回のコラムでは、60代以降、つまり人生の後半を過ごす住まいはどうあるべきか?という視点で考察してみたいと思います。

1-2. 平均寿命と健康寿命には8~12年の差がある

平均寿命とともに、もうひとつの指標「健康寿命」にも着目してみましょう。健康寿命とは「介護を受けたり寝たきりになったりせず、自立して日常生活を送れる期間」とされ、2016年は男性72.14歳、女性74.79歳となっています。平均寿命と健康寿命の差は男性8.84年、女性12.35年となっており、この8~12年が、何らかの介助や介護などを受けながら暮らす期間ということになります。

つまり、人生後半の20~30年は、健康で自立した活動的な時期から、医療や介護を受けながら暮らす時期に移行していく期間と捉えることができます。

1-3. シニア期を3つに分けて考えてみよう

こうしたことから、20~30年にわたるシニア期の住まいを考える上で、次のような3つの段階に分けて考えてみましょう。

アクティブシニア期

①アクティブシニア期

健康で仕事を持ち、継続的な収入がある。子育ても終わり可処分所得(手取り収入額)も比較的高い時期。


ギャップシニア期

②ギャップシニア期(※)

介護の必要はないが、体力や気力の衰えから、「やりたいこと」と「できること」のギャップが大きくなる時期。仕事をリタイヤし年金が主な収入となる。要介護予備軍とも考えられる。

※「ギャップシニア」は2014年に日本総研が命名し、提唱した言葉です。


要介護期

③要介護期

身体的な障害により、日常生活において家族やヘルパー、医療従事者の助けが必要となる時期。

2、シニア期の3段階とそれぞれに求められる住まいとは

上記の3段階においてどのような住まい選びが必要になるのでしょうか。また、次の段階に備えておくべきことは何なのでしょうか。

2-1. アクティブシニア期

アクティブシニア期は、シニアとは言え仕事を持ち継続的な収入がある時期で、身体的にも健康であるため、現在の住まいに大きな問題がなければ、急いで対処することはありません。

しかし、この時期は定年退職や子どもの独立など、人生のターニングポイントと重なり、変化の大きい時期でもあります。また、30~40代で購入した家ならば、それなりに老朽化していると思われますので、家計に余裕があるこの時期に、ちょっと早めの修繕やリフォーム、住み替えなどを検討してもよいと思います。

2-2. ギャップシニア期

ギャップシニア期は、自立して生活しているものの、収入は年金中心となり、体力が低下したり病気にかかったりすることで、あまり活動的ではなくなってくる時期です。階段の上り下りが辛くなってきたり、買い物に行くのが億劫になったりすることも多くなります。

この時期の住まいは、大きな怪我や病気をしないこと、毎日の生活が無理なく送れることに配慮しましょう。例えば、室内の段差解消や手すり設置などの「バリアフリー化」や、室内の寒暖差(ヒートショック)により起こる心筋梗塞や脳卒中を防止するための「断熱化」などが重要になります。また、外出や買い物などに不便を感じている場合には、駅近のマンションなどへの住み替えも検討してよい時期だと思います。

2-3. 要介護期

要介護期となると、日常的に家族やヘルパーなどの手助けが必要になります。介護の度合いにもよりますが、在宅介護であれば、ヘルパーなどが介護しやすい環境を整えることが重要です。例えばトイレや浴室、キッチンなどのリフォームや、介護者が夜間でも入室できるような設備等が必要になります。また、自宅での介護が難しければ、サービス付き高齢者向け住宅や、有料老人ホームなどへの住み替えも視野に入れなければなりません。いずれにしても要介護期の住まいは、自分だけではなく、市区町村の相談窓口やケアマネジャーなどとよく話し合い、家族の了解のもとに決める必要があるでしょう。

3、自宅に住み続けるか住み替えるか、そのメリットとデメリット

シニア期の住まいを考える上で、自宅に住み続けるか、住み替えるかというのは大きな判断の分かれ道となります。それぞれのメリット・デメリットを見ていきましょう。

3-1. 現在の自宅に住み続けるメリット・デメリット

自宅に住み続けるメリットは、やはり住み慣れた愛着のある家で暮らせることです。長年交流してきた地域の友人との付き合いも変わらず続いていきます。また、返済が終わった自宅であれば、住宅コストはかからず、年金だけでも比較的余裕のある暮らしができるでしょう。

一方デメリットとしては、家の広さや立地などが暮らしに合わなくなってくることです。例えば郊外の一戸建で家族4人で暮らしていた方が、子どもの独立とともに夫婦2人になると、使っていない部屋の掃除や庭の手入れなど、維持管理が大変になりますし、若いころは気にならなかった毎日の買い物も不便に感じることが増えてくるでしょう。

また、建物の老朽化が進めば修繕費もかさみますし、古さや汚れも気になってきます。

3-2. 快適に自宅に住み続ける方法

こうしたメリット・デメリットをわかった上で、快適に自宅に住み続けるためにはどうしたらよいでしょうか。その方法を大きく分ければ「リフォーム」と「建て替え」が挙げられます。リフォームする場合には、夫婦2人の生活に合う間取りへの変更、バリアフリー化、バス、トイレなど水廻りの一新、断熱性の向上などが考えられます。将来、介護が必要になった時のことも考慮してプランニングを進めるとよいでしょう。

リフォームでは改善できない問題がある場合や、リフォームに多額の費用がかかる場合は、建て替えという選択肢もあります。建て替える場合には、将来にわたって夫婦2人で住み続けるのか、子ども夫婦と同居する可能性があるのかなどをよく検討し、場合によっては2世帯住宅という選択肢もあり得ます。

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また、最近では自宅を売却した後に、家賃を払いながら同じ家に住み続けられる「リースバック」というサービスも出てきていますので、将来的には住み替えたいが、もうしばらく今の自宅に住み続けたい等の希望をお持ちの場合には検討してみるとよいと思います。

3-3. 住み替えるメリット・デメリット

今の自宅から住み替える場合のメリット・デメリットを見てみましょう。住み替えの一番のメリットは、家(建物)と立地の問題を一挙に解決できることです。前の例で言えば、郊外の一戸建から駅近のマンションに住み替えることにより、コンパクトなワンフロアの暮らしやすい家になり、買い物や外出の利便性も大きく向上します。子ども夫婦の近くに住む「近居」も選択肢のひとつとなるでしょう。

また、シニア向けマンションやサービス付き高齢者向け住宅(賃貸)などに住み替えれば、元気なうちは自立した生活を送りながら、いざという時には訪問介護など外部の介護サービスを受けることもできます。

一方デメリットとしては、自宅の売却や新たな物件探しに時間・手間がかかること、新たな住まいの購入費用がかかること、マンションであれば、管理費や修繕積立金などのランニングコストがかかることなどが挙げられます。

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3-4. 自宅を住み替える方法

シニア世代の住み替えには大きく2つの方法あります。ひとつは現在の自宅を売却して、新たに購入する方法。2つ目は現在の自宅を売却して賃貸に住む方法です。自宅を賃貸で貸すという方法もありますが、安定して家賃収入を得るには、その地域に賃貸ニーズがあることが前提となりますし、リフォームなどのコストもかかります。空室になるリスクも認識した上で、事前にしっかりシミュレーションしておくことが重要です。

物件探しでは、まずどこに住むかを慎重に検討しましょう。まだまだ元気と思っていても、高齢になってからの2度目の住み替えは難しいものです。毎日の買い物が近くで済ませられるか、行きつけの病院に無理なく通えるか、子どもの住まいには近いかなどをチェックしておきましょう。坂の多い場所や車がないと生活しにくい場所などは避けた方が無難です。また建物については、一戸建よりもマンションの方が、耐震性、断熱性、バリアフリー、セキュリティ面などから高齢者にとっては安心かも知れません。

住み替え先を購入するか賃貸にするかは、現在の自宅を売却して充分な資金が得られるかどうかで検討してみるとよいでしょう。売却してもローン返済などで手元にお金が残らない場合には、賃貸の方がリスクは低くなります。仮に充分な資金が得られる場合でも、できるだけローンを使わずに購入することをおすすめします。

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4、老後の住まいの見直しは50代からはじめよう

自分が歳を重ねていく姿はあまり想像したくないものですが、老後の住まいについては、50代から検討をスタートすることをおすすめします。

4-1. ベースになるのは自分自身のライフプラン

老後の住まいを考える上で、ベースとなるのはご自身や家族のライフプランです。まずは以下のような項目を整理していくことから始めてみてはいかがでしょうか。

①何歳まで働きたいか

②現在の健康状態

③リタイヤ後にやりたいことや、それに必要な資金

④家族の意向(子どもの独立や同居)

⑤貯蓄状況と今後の収入見込み

⑥自宅の資産価値とローンの残債

⑦今の住まいで解決したいこと

こうした項目をひとつひとつ整理していくと、住まいに対する優先順位や選択肢がわかってくるので、不動産会社やリフォーム会社に、より具体的な相談ができるようになります。特に住み替えの場合には、早めに相談した方が、物件をじっくり探すことができ、売り時の判断もしやすくなります。また住宅ローンの審査や賃貸の契約は、年齢によって条件が厳しくなる場合もありますので、継続的な収入がある若いうちに検討をスタートすることをおすすめします。

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4-2. シニアの住み替えは専門家に相談しながら進めよう

ここまで申し上げてきた通り、平均寿命が伸び、老後の20~30年を過ごす住まいは重要なテーマとなってきました。しかし、シニア世代の住まい選びは、働き盛りの30代~40代とは異なり、考えなければいけないポイントが多くあります。例えば、売却や購入に関する税金、配偶者や子どもへの相続や贈与、将来の介護に関することなど、不動産会社だけでなく、税理士やケアマネジャーなどの専門家を交えて検討した方がよいこともあるでしょう。

理想的な「終の棲家」を見つけられるよう、ぜひ元気なうちにご相談してみることをおすすめします。

次回は、高齢者が住みやすい街とはどんな街かについてお伝えしたいと思います。