マイナス金利解除で、住宅ローン金利はどうなる?今後の見通しと購入時のポイント

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低金利は果たしていつまで続くのか?日銀のマイナス金利解除後も、住宅ローン金利(変動)は依然として低水準で推移しています。今回は、今後の住宅ローン金利の見通しと住宅購入時のポイントについて解説します。

目次

1. マイナス金利が解除されても住宅ローン金利は上がっていない

2024年3月、日銀はマイナス金利を解除しました。しかし、住宅ローン金利(変動)は、ほとんどの銀行で据え置かれ、大きな動きは見られません。まずは、マイナス金利解除までの経緯と金利が上がらない理由を振り返っておきましょう。

1-1. 日銀がマイナス金利を導入した経緯

日銀がマイナス金利を導入したのは2016年。その3年前の2013年に始まった「異次元の金融緩和」、いわゆるアベノミクスがその発端となっています。当時の日銀は長引くデフレ脱却を目指し、物価上昇率2%の目標を掲げて大規模な金融緩和(≒利下げ)に踏み切りました。

しかし、デフレ脱却は思うように進まず、目標の2%にははるかに及ばない状況が続いていました。そこで日銀がおこなったのがマイナス金利の導入です。さらなる金融緩和により市中のお金を増やし、それが企業の設備投資などに回るようにするための政策です。これにより、都心部の不動産価格は上昇しましたが、物価や賃金に広く波及することはなく、政策は失敗だという声も多く聞かれました。

1-2. インフレ転換のきっかけはコロナとウクライナ

デフレからインフレへの転換のきっかけとなったのは、コロナとウクライナ戦争です。コロナで落ち込む景気を支えるため、各国の中央銀行が利下げを実施したことや、コロナで主要国の生産・物流がストップしたことにより、世界中で物価が上昇しました。またウクライナ戦争によるエネルギー価格の上昇でさらに物価を押し上げました。

その後、コロナの終息にともない、米国や欧州ではインフレ抑制のため利上げに動きましたが、日本は金融緩和を継続したことにより急激な円安を招きました。結果として、輸入価格が上がり、国内の物価上昇率は2%を超え、2024年の賃金上昇率は5%超という高い水準となりました。こうした流れの中で、2024年3月、日銀は約8年間続いたマイナス金利政策を解除し、政策金利をマイナス0.1%からゼロに戻すことを決定しました。

つまり、マイナス金利の解除は、脱デフレという側面から見れば象徴的な出来事ではありますが、そのきっかけは、感染症や戦争という言わば「外圧」だったわけです。

1-3. 実質賃金マイナスが続き、日銀は追加利上げに慎重な姿勢

こうした背景のもと、住宅ローン金利(変動)は、マイナス金利解除後も0.3~0.5%程度に据え置かれています。その理由のひとつが、日銀の利上げに慎重な姿勢です。

10年以上続いた低金利により国民は「金利のない世界」に慣れきっています。また、賃金が上昇しているとは言え、物価上昇率を差し引いた「実質賃金」は25ヶ月連続でマイナス。つまり、住宅ローンの返済などに回せるお金は減っているわけです。

こうした状況で、さらなる利上げに踏み切れば、ようやく上向いてきた景気に水を差す結果になりかねないため、日銀は利上げに慎重な姿勢を保っているのです。

6月の金融政策決定会合で、追加利上げの憶測も高まっていましたが、結果的に利上げは見送られ、国債買入額の減額方針だけが示されました。これも金融政策の正常化に向けた第一歩ですが、今回は「方針」を発表するだけにとどめ、具体的な減額幅などは市場参加者の意見を聞いた上で、次回の会合で決定するという、過去に例を見ないほどの慎重ぶりです。

一方、銀行側から見ると、政策金利がゼロに戻っても、住宅ローンの収益性に大きな差はないため、金利はマイナス金利解除前の水準を維持しているわけです。

1-4. 住宅ローンの獲得競争の激化

そしてもう一つの理由は、銀行間の住宅ローン獲得競争です。住宅ローンは銀行にとって優良貸出先のひとつであり、獲得に力を入れている分野です。しかし、少子化などによる住宅購入の減少や、金利の低いネット銀行の参入で獲得競争は激しさを増しています。

一方、ローンの借り手から見ると、比較できるものが金利以外にほとんどないため、獲得競争=金利引き下げ競争となり、各銀行とも金利の引き上げには動きにくいという事情もあります。

2. いつ金利は上がるのか?住宅ローン金利の今後の展望

こうした状況の中、住宅ローンの金利はいつ上昇に向かうのでしょうか?

2-1. 金利上昇のキーとなるのはなにか?中期的な見通し

今後住宅ローン金利が上がるとすれば、日銀が政策金利を引き上げるタイミングとなります。前述の通り、日銀は追加利上げに慎重な姿勢ですが、利上げがあるとすればどのようなタイミングなのでしょうか?

あくまで可能性の話ではありますが、ひとつ目は円安の進行です。現在の為替レートは1ドル=155~160円前後ですが、4月に160円を超えた際、財務省は二度にわたり為替介入をおこなっています。しかし為替介入は日本政府の独断でたびたびできるものではなく、効果も一時的ですので、もし再び160円、170円と円安が進めば、為替の安定を優先して利上げに踏み切る可能性があります。

ふたつ目は、実質賃金のプラス転換です。日本の賃上げは、多くが4月から実施されるため、来年の春闘で今年と同水準の上昇率となり、かつ物価上昇率が下がってくれば、実質賃金がプラスに転じる可能性があります。その結果、可処分所得が増え、ローンの返済余力が高まれば、利上げに踏み切る可能性はあります。

いずれにしても、ここ1~2年の間に1~2回くらいの利上げは想定しておく必要があると思います。

2-2. 本格的な金利上昇はどのくらい先なのか?

そうなると、金利が本格的に上昇するのはいつ頃なのかが気になるところです。

政策金利の上げ幅は通常0.25%ポイントとなることが多いのですが、日銀が追加利上げに慎重であることから、もう少し小幅になるのではないかと予想されます。

仮に上げ幅が0.1%ポイントなら、1%上昇するのに必要な利上げ回数は10回、上げ幅が0.25%ポイントなら4回となります。つまり、利上げが半年に1度なら、0%から1%になるのに2年~5年を要することになります。

仮定の話が多く恐縮ですが、今後利上げがあったとしてもそのペースは、数年単位のゆっくりとしたものになると予想されます。

2-3. 遅かれ早かれ金利は上がる

しかし、政策金利はいずれ上がります。なぜなら、現在の金利は下がり切っており、もはやこれ以上下げる余地がないからです。そして、日銀は10年以上続いた「行き過ぎた金融緩和」からの転換を目指しています。もちろん、国内の物価や景気を見ながらの慎重な判断にはなりますが、遅かれ早かれ金利は上がる、つまり住宅ローンの金利も上昇するという前提で住まい探しを進めることが重要です。

3. 住宅ローン金利の上昇が住宅購入に与える影響

では、金利の上昇が住宅購入にどのような影響を与えるのか、具体的に数字で見てみましょう。

3-1. 返済額の増加

まず、金利の上昇でもっとも影響を受けるのがローンの返済額です。借入額4,000万円の場合、金利が0.5%、1.0%、1.5%の返済額は以下の通りです。

 0.5%1.0%1.5%
月々返済額10万4,000円11万3,000円12万2,500円
総返済額4,361万円4,742万円5,144万円

※元利均等35年返済(ボーナス返済なし)の場合

このように、金利が0.5%上昇すると月々返済額が約9,000円上がり、総返済額が約400万円増加します。

3-2. 住宅ローンの返済スピード

次にローンの返済スピードです。これはあまり注目されませんが、重要な観点ですのでしっかり理解しておきましょう。

住宅ローンで、ほとんどの方が利用する元利均等方式では、金利が上がると返済額に占める利息の割合が増え、元金の割合が減るので、ローン(元金)の返済スピードが遅くなります。

例として、借入額4,000万円で15年間返済した時点での残債額を見てみましょう。

 0.5%1.0%1.5%
15年返済時の残債額2,371万円2,455万円2,538万円

※元利均等35年返済(ボーナス返済なし)の場合

このように、金利0.5%と1.5%を比較すると、15年目の残債額に約170万円の差があることがわかります。つまり、金利が0.5%の方は、同じ期間で170万円返済が早く進んでいるわけです。金利が低いと、月々の返済額は少ないのにローンの返済は早く進むことがおわかりいただけるでしょうか。

3-3. 借入可能額

次に、金利による借入可能額の変化を見てみましょう。借入可能額とは、月々の返済額と返済期間から逆算した借入額を指し、物件を探す際に予算の目安となるものです。

月々の返済額を12万5,000円、返済期間を35年とした場合の借入可能額は以下の通りです。

 0.5%1.0%1.5%
借入可能額4,810万円4,420万円4,080万円

※元利均等35年返済(ボーナス返済なし)の場合

このように、金利が1%上がると、借入可能額は700万円以上減少します。つまり、より少ない予算で物件を探すか、減った分を頭金として補填しなければならなくなります。

3-4. 返済期間

最後に、金利によって返済期間がどう変わるのかを見てみましょう。借入額4,000万円、月々返済額を12万5,000円とすると、ローン完済までの期間と総返済額は以下のようになります。

 0.5%1.0%1.5%
完済までの期間28年8ヶ月31年1ヶ月34年1ヶ月
総返済額4,294万円4,654万円5,111万円

※元利均等35年返済(ボーナス返済なし)の場合

このように、同じ返済額なら金利が低い方がより短い期間でローンを完済でき、総返済額も少なくなることがわかります。

4. 金利上昇を前提に住まいを買うときの心構え

ここまで、今後の金利の見通しと住宅購入に与える影響について解説してきました。最後に、これから住まいを購入する方向けに、金利上昇を前提とした購入のポイントをお伝えします。

4-1. 借入額は金利が上がっても返済できる範囲を心がける

まず、購入した後に一番避けなければならないのは、返済ができなくなることです。

ご自身の年収や子どもの教育費などを勘案した上で、無理なく返済できる範囲での借入を心がけましょう。

なお、変動金利の住宅ローンには、いわゆる「5年ルール」と「125%ルール」があり、金利が上昇しても返済額が変わるのは5年ごと、また上昇幅は25%以内となっています。したがって、返済額が25%上昇しても返済が続けられることを目安に、物件探しを進めてみるとよいと思います。

また返済期間については、繰り上げ返済などにより短縮することはできても、延長することはできないので、当初は長めに設定しておいたほうがよいでしょう。

4-2. できるだけ金利の「優遇幅」の大きい時期に購入する

住宅ローンの金利は、銀行が定める「基準金利」と実際に適用される「適用金利」の2つがあります。基準金利は言わば「定価」のようなもので、適用金利は基準金利から一定の優遇を引いた後の、言わば値引きされた金利です。

現在は多くの銀行で基準金利が2.475%、適用金利が0.3~0.5%前後ですから、2%近い優遇がおこなわれていることになります。そして、この優遇幅は原則として返済期間中変わらず、ずっと「基準金利-2%」のディスカウントが受けられます。

もし、今後住宅ローン金利が上がるとすれば、まずこの優遇幅が縮小され、その後に基準金利が上昇することになるでしょう。つまり、適用金利が低い(=優遇幅が大きい)時期に、ローン契約をしたほうが、今後数十年にわたって低金利を維持できる可能性が高まるわけです。

特にローン残高の多く利息の負担が重い、当初10~15年の金利をいかに低く抑えるかが住宅ローンを返済する上で非常に大きなポイントとなります。

4-3. ローンの残債と資産価値のバランスをとる

住まいの購入では、とかく返済額だけがフォーカスされがちですが、もう一つ重要なのは、家計の「資産と借入のバランス」です。先の例では、15年後のローン残債額を比較しましたが、この残債額(借入)が、購入した住まいの資産額を超えないように意識しましょう。言い換えれば、「家を売却してローンを完済できる状態」を保っておくことが大切です。

そのためには、金利の低い時に購入する(=返済を早く進める)ことと、値下がりしにくい立地・物件を選ぶことがポイントになります。

4-4. しっかりシミュレーションをおこなう

最後に、こうした返済額や残債額などのシミュレーションをしっかりおこなうことをおすすめします。「こんなに借入して大丈夫かな・・・」「金利が上がったらどうしよう・・・」など、住まいを購入する際には誰でも不安がつきまといます。しかし、金利が上がった場合の返済額や、今後かかってくる費用などを、きちんと数字でシミュレーションすることで、こうした「漠然とした不安」を解消することができます。

住宅ローンのシミュレーションは、不動産情報サイトや銀行のウェブサイトなどで簡単におこなうことができます。また、自分でやるのが難しい方は、不動産会社のスタッフなどに相談しながら進めてみましょう。

金利の上昇を恐れるのではなく、しっかりコントロールしながら、低金利のメリットを最大限に活かしていきましょう。住宅ローンのご相談や返済シミュレーションは、お近くの住宅情報館までお気軽にご相談ください。