~2023年下半期の不動産市況まとめ~  価格は高値圏だが上昇率は低下。在庫増加で一部に値下がりの動きも

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コロナからの回復が鮮明となり物価上昇が続く一方で、大規模な金融緩和が継続された2023年下半期。いよいよ金利引き上げも視野に入る中、不動産市況はどのように変化したのでしょうか。今回も前回に引き続き、首都圏の成約数、価格、在庫などの最新データから大きな市況の流れを探ってみましょう。

目次

1. なぜ不動産市況を把握する必要があるのか

そもそも不動産の価格はどうやって決まるのでしょう?企業が売主となって販売する場合、土地や建物の仕入価格に、その土地の造成費、建築・リノベーション等の工事費、広告宣伝や販売促進の費用などを勘案して算出しますが、それ以外に非常に重要な要素となるのが「市況」です。

では、市況とはいったい何なのか?どのようにして決まっているのか?について解説します。

1-1. そもそも不動産市況とは?

前提として、不動産価格は「定価」というものがなく、その時々の需要と供給のバランスで価格が決まる仕組みになっています。また不動産は1つとして同じものがないので、比較がしにくくいわゆる「相場」がつかみにくい商品です。

そうした価格の動きや相場をつかむためには、市場に流通している物件数(供給)や、実際に成約に至った物件数(需要)や価格等を数値的に把握していくことが重要です。こうしたデータを総合的に分析したものが不動産市況と言われるものです。

1-2. 不動産価格が変動する背景とマクロ指標

不動産価格は需要と供給のバランスで決まると申し上げましたが、その需要の背景にあるのが国内の経済状況です。簡単に言えば「景気がいい」時期には不動産の需要が高まり価格も上昇しますし、「景気が悪い」時期にはその逆となります。また、不動産の購入には住宅ローンなどの借入をともなうことが多いので、金利の動向は不動産価格に大きな影響を与えます。こうした株価や金利などの経済指標はマクロ指標とも呼ばれ、不動産価格に影響を与える重要なデータとなります。

1-3. 市況がわかると買い時がわかる?

常に変動する不動産市況を把握しておくことは、住宅購入検討者にとって非常に重要です。単に価格が安いか高いかではなく、今後どのように動いていくのか、自分にとって今は買うべきタイミングなのかどうかなどを俯瞰的に検討した上で購入判断できるからです。

本コラムでは、主に業界向けに公開されているデータを元に、一般の方にもできるだけわかりやすく不動産市況を解説していきます。

2. 2023年下半期の首都圏「新築マンション」市況

それではまず、首都圏の新築マンション市況を見てみましょう。

■首都圏の新築マンション市況(2023年下半期)

※カッコ内は前年同月比 ※▲はマイナス

2-1. 首都圏新築マンションの発売戸数は1992年以来の2万6,000戸台に

首都圏の2023年下半期(7~12月)の新築マンション発売戸数は16,348戸で、前年同期の16,857戸から2.8%減少しました。

エリア別に見ると、東京23区が5,411戸→7,007戸(+29.5%)、東京都下が1,337戸→1,448戸(+8.3%)、神奈川県が4,337戸→4,008戸(▲7.6%)、埼玉県が3,031戸→1,735戸(▲42.8%)、千葉県が2,741戸→2,186戸(▲20.2%)と東京以外の3県でマイナスとなっています。 年間では、9.1%減の2 万 6,886 戸と、1992 年以来の 2 万 6,000 戸台となりました。

2-2. 首都圏新築マンションの販売価格は都心部を中心に上昇が続く

一方、販売価格(月ごとの平均販売価格の6ヶ月平均)は、前年同期と比べ首都圏平均で6,252万円→7,608万円(+21.7%)、東京23区で8,346万円→10,236万円(+22.6%)、東京都下で4,998万円→5,488万円(+9.8%)、神奈川県で5,520万円→6,014万円(+8.9%)、埼玉県で5,018万円→4,727万円(▲5.8%)、千葉県で4,397万円→4,814万円(+9.5%)と、埼玉県以外で大きく上昇しています。

特に23区では平均販売価格が初の1億円超えとなり、新築マンションは供給の減少と高価格化が進んでいます。

2-3. 首都圏新築マンションの㎡単価も都心部で大きく上昇

専有面積1㎡あたりの価格を示す「㎡単価」の推移も見てみましょう。㎡単価(月ごとの平均㎡単価の6ヶ月平均)の首都圏平均は95.0万円→116.3万円(+22.5%)、東京23区が130.5万円→158.4万円(+21.3%)、東京都下が78.2万円→83.1万円(+6.3%)、神奈川県が82.3万円→91.9万円(+11.7%)、埼玉県が74.9万円→73.4万円(▲1.9%)、千葉県が63.4万円→71.3万円(+12.4%)となっています。

やはりここでも23区の上昇率が高く、都心部の値上がりが続いていることがわかります。また、近郊エリアでは比較的価格の安い千葉県の上昇率が高くなっており、購入者のニーズが郊外に広がっていることがうかがえます。

出典:首都圏 新築分譲マンション市場動向(株式会社不動産経済研究所)より抜粋・作成

2023年の新築マンション市場は、2年連続の3万戸割れとなり、より立地のよい都心部への供給と高価格化が進んでいます。2024年は3万戸台を回復する見込みではあるものの、価格は高止まりとなる可能性が高く、一般的なマンションニーズは新築から中古へと移りつつあります。

3. 2023年下半期の首都圏「中古マンション」市況

次に中古マンションの市況について見ていきましょう。2023年下半期(7~12月)の首都圏全体の成約件数は前年同期比で+4.5%と再び増加。成約価格は+7.4%、成約㎡単価は+7.0%と上昇し、価格は43ヶ月連続、㎡単価は44ヶ月連続で前年同月を上回りました。

昨年より上昇率は下がったものの、中古マンションは、依然として高値圏で推移しています。

■首都圏中古マンション市況(2023年下半期)

※カッコ内は前年同月比 ※▲はマイナス

3-1. 首都圏中古マンションの成約件数は東京、神奈川で伸長

首都圏の中古マンション成約件数は前年同期比で増加しました。下半期の合計件数は、首都圏全体で17,144件→17,922件(+4.5%)。エリア別に見ると、東京都が9,211件→9,820件(+6.6%)、神奈川県が3,964件→4,148件(+4.6%)、埼玉県が1,912件→1,916件(+0.2%)、千葉県が2,057件→2,038件(▲0.9%)と、千葉県以外で増加しており、埼玉はほぼ横ばい、東京、神奈川が伸びています。

3-2. 首都圏中古マンションの成約価格、上昇率は低下するも上昇は継続

成約価格も全エリアで前年同期を上回っており、首都圏全体で4,372万円→4,694万円(+7.4%)。エリア別に見ると、東京都が5,449万円→5,808万円(+6.6%)、神奈川県が3,526万円→3,803万円(+7.8%)、埼玉県が2,792万円→2,918万円(+4.5%)、千葉県が2,663万円→2,804万円(+5.3%)となっており、前年よりも上昇率は下がったものの、依然として上昇が続いていることがわかります。(※)

※2023年下半期の各月の成約価格の平均

3-3. 首都圏中古マンションの成約㎡単価は約70万円から約74万円へ

「成約㎡単価」も同様に上昇が続いています。首都圏全体では69.0万円→73.8万円(+7.0%)、東京都が92.5万円→97.5万円(+5.4%)、神奈川県が53.2万円→57.1万円(+7.3%)、埼玉県が41.0万円→42.6万円(+4.1%)、千葉県が36.4万円→38.8万円(+6.5%)と、全域で上昇しており、東京、神奈川の上昇率が高くなっています。(※)

※2023年下半期の月ごとの成約㎡単価の平均

価格、㎡単価ともに、前年(2022年)はほとんどの月で10%を超えていた上昇率が、2023年には一桁台に下がり、上昇ペースは緩やかになってきたと言えますが、新築マンションの供給が限られる中で、中古マンション需要は根強く、しばらく高値圏で推移するものと考えられます。

3-4. 首都圏中古マンションの在庫件数は、首都圏全体で増加したが東京は減少に転じる

中古マンション市況で気になるのが「在庫数」です。首都圏全体では、2022年2月から23ヶ月連続で前年同月を上回り、2023年12月は46,528件(前年比+11.7%)となりました。しかし東京都では2023年5月をピークに減少に転じています。これは都内の中古マンションが再び品薄になっていることを示しており価格の上昇要因となります。また都内の品薄状態が続けば、近郊エリアに波及していく可能性もありますので注意が必要です。

出典:レインズデータライブラリー(東日本不動産流通機構)より抜粋・作成

4. 2023年下半期の「新築一戸建」市況

続いて、新築一戸建の市況を見てみましょう。2023年下半期の首都圏全体の成約件数は、前年同期比で+15.8%。首都圏すべての都道府県で増加しています。その中でも千葉件は+46.4%と大幅な増加となり、需要が都心から郊外に広がっていることがわかります。

■首都圏新築一戸建市況(2023年下半期)

※カッコ内は前年同月比 ※▲はマイナス

4-1. 首都圏新築一戸建の成約件数は埼玉・千葉で大幅増

7~12月の成約件数は、首都圏全体で2,146件→2,484件(+15.8%)と増加、東京都が539件→575件(+6.7%)、神奈川県が764件→796件(+4.2%)、埼玉県が507件→621件(+22.5%)、千葉県が336件→492件(+46.4%)と、東京と神奈川が微増となる一方で、埼玉と千葉で大幅増となり、特に千葉は4割を超える増加となっています。

4-2. 首都圏新築一戸建の成約価格はわずかに下落。割安感のある千葉で約2%上昇

7~12月の成約価格は、首都圏全体で4,170万円→4,067万円(▲2.5%)とわずかに下落。エリア別では、東京都が5,191万円→5,104万円(▲1.7%)、神奈川県が4,178万円→4,060万円(▲2.8%)、埼玉県が3,521万円→3,539万円(+0.5%)、千葉県が3,490万円→3,555万円(+1.9%)と、ここでも千葉県の伸びが目立ち、上昇の波が東京・神奈川から埼玉・千葉エリアに移ってきていることがうかがえます。

上表の通り、首都圏全体で見ると6ヶ月のうち3ヶ月は横ばい、3ヶ月は下落しており、一戸建の需要が郊外に広がったことより、平均価格を押し下げていると考えられます。(※)

※2023年下半期の月ごとの成約価格の平均

4-3. 首都圏新築一戸建の在庫件数は回復が続く

中古マンションと同様、新築一戸建も在庫の回復が続いています。7~12月の平均在庫数(※)は、首都圏全体で前年同期と比べ、13,076件→17,875件(+36.7%)と大幅増。エリア別に見ても、東京都で3,428件→4,913件(+43.3%)、神奈川県で3,660件→5,053件(+38.1%)、埼玉県で3,733件→5,080件(+36.1%)、千葉県で2,255件→2,830件(+25.5%)と全エリアで増加し、コロナ前の水準を回復しています。

※2023年下半期の月ごとの在庫数の平均

出典:レインズデータライブラリー(東日本不動産流通機構)より抜粋・作成

5. 2023年下半期の「中古一戸建」市況

最後に首都圏の中古一戸建の市況をみてみましょう。成約件数は9月まで21ヶ月連続で前年割れが続いていましたが、10月に上昇に転じ、11月の減少を挟んで、12月には再び4.4%の増加。成約価格も9月から4ヶ月連続の上昇となりました。

■首都圏 中古一戸建市況(2023年下半期)

※カッコ内は前年同月比 ※▲はマイナス

5-1. 首都圏中古一戸建の成約件数は減少幅が縮小しやや上向きに

7~12月の成約件数(前年比)は、前年同期比で6,454件→6,362件(▲1.4%)、エリア別に見ると、東京都が2,016件→2,030件(+0.7%)、神奈川県が1,656件→1,628件(▲1.7%)、埼玉県が1,372件→1,342件(▲2.2%)、千葉県が1,410件→1,362件(▲3.4%)となっています。

首都圏全体では、上半期の▲6.9%からやや上向きになっています。また、新築の成約数が減少している東京都で中古の成約が増えていることから、マンションと同様に、価格の高いエリアでは一戸建ニーズが新築から中古に移りつつあるのかもしれません。

5-2. 首都圏中古一戸建の成約価格はわずかに上昇するも、東京都はマイナスに

成約件数がやや上向きとなる中で、成約価格も小幅ながら4ヶ月連続の上昇となっています。下半期の平均では、首都圏全体で3,804万円→3,864万円(+1.6%)、エリア別に見ると、東京都が5,446万円→5,379万円(▲1.2%)、神奈川県が3,935万円→4,083万円(+3.7%)、埼玉県2,584万円→2,604万円(+0.8%)、千葉県が2,481万円→2,607万円(+5.1%)と、東京都を除いて上昇しています。

一戸建は、新築・中古とも千葉県の上昇率が高く、東京ではこれまでの上昇がピークアウトし、落ち着きを取り戻しています。(※)

※2023年下半期の月ごとの成約価格の平均

5-3. 首都圏中古一戸建の在庫件数は回復が続く

中古一戸建の在庫件数は、年間を通して回復が続き、平均在庫数(※)は、首都圏全体で前年同期と比べ、13,955件→19,102件(+36.9%)、エリア別では東京都が4,343件→5,591件(+28.7%)、神奈川県が3,429件→4,723件(+37.8%)、埼玉県が3,177件→4,640件(+46.0%)、千葉県が3,006件→4,149件(+38.0%)と全エリアで3割~4割の増加となっています。

このように、一戸建は新築・中古とも在庫が積み上がってきており、一部では値下げの動きも出てきています。コロナ禍では供給が急減した一戸建ですが、じっくり物件が探せる環境がようやく整ってきたと言えるでしょう。

※2023年下半期の月ごとの在庫数の平均

出典:レインズデータライブラリー(東日本不動産流通機構)より抜粋・作成

6. 今後の不動産価格を占うマクロ指標

不動産価格と相関性が高いと言われている2つの指標と建築費について見ていきましょう。

6-1. 日経平均株価は、年明けに34年ぶりの36,000円台を回復

1つ目は日経平均株価です。株価は不動産価格と相関関係にあると言われていますが、日々の株価の動きと同じように不動産価格が変動するわけではなく、株価の動きから半年くらい遅れて不動産価格に影響を与えると言われています。

2023年下半期の日経平均株価は、6月末の33,189円から10月まで下落が続きましたが、年末にかけて上昇し12月末は33,464円とほぼ横ばいでした。しかし、2024年の年明けから再び大きく上昇しており、1月22日には36,000円の大台を突破し、バブル後最高値を更新しました。

※各月の終値

6-2. 住宅ローン金利は固定金利が一時2%近くまで上昇。変動型は低水準を維持

そして、もう一つの指標が住宅ローン金利です。ここでは全期間固定金利の「フラット35」(※)の金利推移をみてみましょう。2023年は日銀の金融政策の変更が要因となり固定金利が上昇。11月に1.96%まで上昇しました。しかし変動金利は、依然として0.5%前後の低水準で推移しています。

※フラット35とは:住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して融資をおこなう、全期間固定金利の住宅ローン。

※融資率9割以下・借入期間21年以上・機構団信保険料を含む最多金利

6-3. 建築工事費は引き続き高値圏で推移

次に建築費を見てみましょう。エネルギー価格や資材価格の上昇、円安などにより、大きく上昇した建築費は、2023年下半期においても高値圏で推移しています。2024年からは、インフレ(賃上げ)や建設業の残業規制などの影響で人件費が上昇する可能性が高いことから、引き続き建築費は高値が続くと予想されます。新築物件の購入を検討している方は建築費の動きにも注意しましょう。

※1995年度の価格=100とした指標

出典:国土交通省

7. 今後の焦点はマイナス金利の解除だが、解除後もしばらくは低金利が続く見込み

2023年下半期の不動産市況、いかがでしたでしょうか?

住宅購入を検討する方にとって重要なのは、価格が高いか安いかではなく「これからどう動くのか」「自分にとって今は買い時なのか」ということです。未来を正確に予測するのは難しいことですが、このようなデータや指標を継続的に見ていくことによって、ある程度の予測は立てることができます。

2023年下半期の市況としては、マンションは新築・中古とも値上がりが続いていますが、価格上昇率は鈍化し、一部のエリアでは値下がりが見られることが確認できました。また、在庫も順調に積み上がっていることから、今後価格は落ち着きを取り戻すのではないかと予想されます。

こうした中で、2024年に注目されるのが日銀の金融政策です。

2023年4月に就任した日銀の植田総裁は、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)を維持しつつも、長期金利については1.0%までの上昇を許容する方針を発表し、意図的な金利操作を撤廃する方向に舵を切りました。その結果、長期金利は上昇し固定型の住宅ローン金利を押上げましたが、2024年に注目されるのはマイナス金利の解除と変動金利の上昇です。

市場では、早ければ今年の春~夏くらいにも解除されるのではないかとの憶測があり、もし解除されれば、変動型の住宅ローン金利が上昇に向かうので、住宅購入には大きな影響があります。しかしながら、日銀の植田総裁は1月の記者会見で「マイナス金利を解除するということになったとしても、きわめて緩和的な金融環境が当面続く」と述べており、急激な金利変動を避けたい意向がうかがえます。

つまり、マイナス金利が解除されても、当面はマイナスがゼロに戻る程度と推測され、購入環境としては引き続き良好と言えるでしょう。むしろ、これまでの低金利に支えられた価格上昇が落ち着くきっかけになるかもしれません。

またもう一つのポイントは「建築費」です。コロナや円安を要因とする建築費の上昇が続く中で、今年は「建設業の2024年問題」によりもう一段価格が上昇する可能性があります。これは、建設業に従事する人の残業規制が4月から強化されるためで、職人不足や人件費の上昇が建築費を押し上げる懸念があります。もしそうなれば新築の価格はさらに上昇することになり、中古価格にも波及していく可能性があります。

こうした流れの中で、日本もいよいよデフレからインフレの時代へと移行していくとすれば、住まいを購入する際の物件選び、ローン選びなどにより慎重な検討が必要になります。これから住まいの購入を検討される方は、金利や価格の動きをしっかりチェックするとともに、不動産会社などからこまめに情報収集するよう心がけましょう。

価格相場や金利の最新データ、今後の見通しなどはお近くの住宅情報館までお気軽にご相談ください。

次回の市況データは2024年7月ごろ公開の予定です。