
前回の記事ではシニア世代が都心から郊外に住み替えるメリットについて解説しました。今回は、2024年の人口移動データをもとに、シニア世代がどの街を選んでいるのか、またその理由を探ります。
目次
1. セカンドライフを充実させるシニア世代の住み替え
前回の記事で詳しく解説したシニア世代の住み替えについて簡単に振り返っておきましょう。
1-1. 50代後半からの暮らしの変化に対応する住み替え
定年退職が視野に入る50代後半から60代は、働き方や家族構成の変化が大きい時期です。夫婦二人暮らしとなり、広すぎる家や老朽化した住まいの維持が負担になることも。このタイミングで新しい住まいを検討する方が増えています。
1-2. シニア世代の住み替えメリット
シニア世代の住み替えは、こうした暮らしに合わなくなった住まいを刷新するとともに、収入が減少する老後を見据え、老後資金の確保や生活コストの見直しを図る時期でもあります。近年の不動産価格の上昇により、都市部の持ち家には多額の含み益が出ている可能性があります。売却により利益を得られれば、新居の購入と合わせて老後資金を確保しながら、住まいと住む場所を同時に一新できることも可能です。これがシニア世代の住み替えのもっとも大きなメリットと言えます。
1-3. シニアの住替えでもっとも難しいのは街選び
ただし、シニア世代の住み替えは一度きりのケースが多いため、慎重さが求められます。特に重要なのが「どの街で過ごすか」という選択です。アクティブに外出を楽しめる50~60代、支援や介護が必要になるかもしれない70~80代、それぞれに適した環境が異なります。
そこで今回は、2024年の人口移動データから、首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)で、シニア世代の転入が多かった街、転出が多かった街をランキングしてみました。シニアに選ばれる街と街選びの基準などについても解説します。
2. 首都圏でシニア世代が選んだ街トップ20
まずは、55~64歳の世代が選んだ街トップ20を見てみましょう。
2-1. 55~64歳の転入・転出ランキングトップ20
55~64歳の転入・転出ランキングは以下の通りです。

転入のトップは東京都中央区でした。2位は同数で小田原市と八王子市、4位は千葉市美浜区となっています。東京23区でランクインしているのはトップの中央区だけで、2位以下はすべて東京市部と近県の郊外エリアが中心となっています。
中央区は例年転出が多い街ですが、2024年は晴海フラッグの大型マンション入居が影響し、例外的にトップとなりました。上位の街をみると、小田原、八王子、町田、横須賀、所沢、川越など、比較的人口の多い「郊外の中心都市」が選ばれており、アクティブシニアの活動的な一面がうかがえます。
一方、転出の多かった街をみると、10位まではすべて東京23区となっており、11位以下も23区と市川市、川崎市、横浜市といった隣接エリアが占めています。
55~64歳の住み替え傾向としては、都心部から郊外へという傾向が顕著となっています。
2-2. 65~74歳のシニアが選んだ街トップ20
次に65~74歳のシニアが選んだ街トップ20をみてみましょう。

1~4位までの顔ぶれは55~64歳のランキングと変わらず、八王子市、小田原市が中央区を凌ぐ人気となっています。また5位以下をみると、都心からやや離れた深谷市、青梅市、館山市などの順位が上がっています。転出傾向は大きく変わらず、東京23区と隣接する近郊エリアからの転出が上位となっています。
2-3. 前年との比較からみる転入・転出傾向の変化
さらに、2023年と2024年の変化をみてみましょう。前年と比較して転入傾向が強まった街、転出傾向が強まった街は以下の通りです。

また杉並区や品川区は転出上位の街ですが、前年よりも転出超過数が減っており、転出に歯止めがかかっている可能性があります。
次に転出傾向が強まった街は以下の通りです。

東京近郊の川崎市、戸田市、浦安市などで転出傾向が強まっています。また茅ヶ崎市、平塚市などは転入上位の街ですが、転入超過数は前年よりも減少しています。人気エリアの価格上昇により、よりリーズナブルな郊外への転出が増えているのかもしれません。
3. シニアに人気の街の不動産価格相場
シニア世代の転入・転出傾向がわかったところで、ランキング上位の街の価格相場をみてみましょう。
3-1. シニア世代の転入・転出が多かった街の価格相場
55~64歳の転入が多かった街の中古マンション・戸建相場は以下の通りです。

また、転出が多かった街の価格相場は以下の通りです。

この2つの表からわかるように、転入の多い街と転出の多い街には、大きな価格差があります。転入の多い郊外部では、マンション、戸建ともに概ね2,000~3,000万円台。転出の多い都心部では、概ね6,000~8,000万円台で、1億円を超えるエリアも多くあります。この価格差が、シニア世代が都心から郊外に転出する大きな動機になっていると推測できます。
3-2. 都心部の戸建から郊外のマンションに住み替えた場合
例えば、世田谷区の一戸建を売却して、八王子市の中古マンションに住み替えた場合、売却収入は1億円強、購入費用は2,600万円ほどですから、ローンを完済していれば、7,000万円前後の現金を手にすることができます。もちろん立地や築年数による差はありますが、夫婦二人暮らしには広すぎる都心の戸建から、自然豊かな郊外のコンパクトなマンションへ住み替えることで、数千万円の老後資金を確保できる可能性もあります。
4. ライフスタイルに合わせた街選びの5つのパターン
シニア世代の街選びはこうした経済的な側面に加え、リタイヤ後の20~30年をどんな環境でどう過ごすかというライフスタイルの側面も重要です。それぞれの街の特徴から5つのパターンに分類してみました。
4-1. 都市の利便性重視型
東京都中央区や千葉市美浜区などは、都市機能の発達したエリアで、利便性を重視した住み替えパターンを言えるでしょう。物件はマンションがメインで、公共交通はもちろん、徒歩圏内にスーパーやコンビニ、病院などもあり、車を使わなくても十分生活できるエリアです。八王子や町田などターミナル駅の周辺も同様に利便性の高いエリアと言えます。
4-2. 都市利便性と自然環境のバランス型
都市の利便性と自然環境のバランスを重視した街選びとしては、小田原市、青梅市、川越市、所沢市などが挙げられるでしょう。都心からはやや離れますが、海や山といった自然が豊かで物価も安く暮らしやすい街となります。買い物や医療施設など日常生活に必要なものは揃っていますが、立地によっては車があったほうが暮らしやすいエリアもあります。
4-3. 余暇・趣味充実型
郊外の自然環境に加え、余暇や趣味をより重視した街選びも考えられます。マリンスポーツが趣味の方は茅ヶ崎市、平塚市、鎌倉市といった湘南エリアや、館山市や木更津市などの房総エリア。山登りやハイキングが趣味の方は秦野市や青梅市などが魅力的ではないでしょうか。都心に出るよりは地元の海や山を満喫しながらリゾート的に暮らしたいという方におすすめです。
4-4. 生活コスト重視型
定年退職後は老後資金を守りながらあまりコストをかけずに暮らしたいという方は、深谷市、坂戸市、狭山市、東松山市など都心から離れた郊外エリアがおすすめです。利便性はやや落ちますが日々の生活に必要なものは揃っており、コスパよく暮らすことができます。
4-5. 子ども世帯との同居・近居
最後は子ども世帯との同居・近居です。八王子市、町田市、柏市などは、子育て世帯にも人気が高く、高齢者も暮らしやすい街です。元気なうちは子育ての手伝いもできますし、高齢になれば、いざというときに子どもを頼ることもできます。また二世帯住宅を購入すれば生活費の節約や相続対策といったメリットもあります。
2回シリーズでお届けした、シニア世代の住み替えと街選び、いかがでしたでしょうか。
「人生100年時代」とも言われるように平均寿命は年々伸びており、60歳時点での平均余命(あと何年生きられるか)は男性が約24年、女性が約29年です。仕事をリタイヤした後にも、実に20~30年もの時間があるわけです。生活環境の変化やご自身のライフスタイルに合わせて、新しい住まいの検討を始めてみませんか?
住まいの売却・購入、街選びなどのご相談は、お近くの住宅情報館までお気軽にお問合せください。