アフターコロナも子育て世代は郊外へ。2022年の住み替え傾向と人気の理由とは?

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アフターコロナも子育て世代は郊外へ。2022年の住み替え傾向と人気の理由とは?

長引くコロナ禍により、2021年、東京都は統計以来はじめての転出超過となり、都心から郊外への住み替えが増加しました。コロナによる行動制限が緩和しつつある2022年、人口移動や住み替え傾向に変化はあったのでしょうか?今回は、2022年9月までのデータから、主に子育て世代の住み替え傾向について解説します。

目次

1、2022年1~9月の人口移動と年代別傾向

まず、総務省が毎月公表している「住民基本台帳人口移動報告」から、2022年の傾向を見てみましょう。

1-1. コロナ規制の緩和で、東京からの人口流出は落ち着きつつある

2022年1~9月、および前年同期間の首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)の転入超過数(※)は以下の通りです。

※転入超過数とは:転入数から転出数を引いたもの。転入より転出が多い場合にはマイナス(転出超過)となる

■首都圏の転入超過数

2021年2022年前年比
東京都15,72040,28924,569
神奈川県29,09024,629▲4,461
埼玉県23,02921,201▲1,828
千葉県13,1666,909▲6,257

出典:※住民基本台帳人口移動報告(総務省)より各年1~9月を集計

このように、東京都への転入超過数は前年の15,720人から40,289人へと約2.5倍に増加しており、東京に人が戻ってきていることがわかります。逆に他の3県はすべて前年比マイナスとなっており、東京から隣県への流出が減少していることがうかがえます。これは、まん延防止措置等の解除にともない、テレワークから出社に戻す企業が増えていることや、大学などで対面授業が再開したことなどによるものと推測されます。

1-2. 東京都の転入超過は10~20代。30代以降は依然として転出超過の傾向

しかし、このデータを年代別に見てみると、興味深い傾向が見られます。

■ 首都圏の年代別転入超過数

  10歳未満 10代 20代 30代 40代 50代 60代以上
東京 2021年 ▲10,389 13,705 52,781 ▲16,356 ▲7,955 ▲6,042 ▲10,024
2022年 ▲9,065 13,136 66,951 ▲9,787 ▲6,054 ▲5,080 ▲9,812
前年比 1,324 ▲569 14,170 6,569 1,901 962 212
神奈川 2021年 703 5,303 17,694 4,408 1,390 ▲179 ▲229
2022年 131 4,807 17,000 2,803 679 ▲807 16
前年比 ▲572 ▲496 ▲694 ▲1,605 ▲711 ▲628 245
埼玉 2021年 2,271 2,826 7,913 5,615 1,783 930 1,691
2022年 2,823 2,255 7,335 5,562 1,320 504 1,402
前年比 552 ▲571 ▲578 ▲53 ▲463 ▲426 ▲289
千葉 2021年 2,551 1,780 2,391 2,930 1,441 608 1,465
2022年 2,645 1,362 ▲2,965 2,000 1,322 839 1,706
前年比 94 ▲418 ▲5,356 ▲930 ▲119 231 241

出典:※住民基本台帳人口移動報告(総務省)より各年1~9月を集計

前述の通り、東京都は約4万人の転入超過ですが、年代別に見ると転入超過となっているのは10代と20代のみで、それ以外の年代はすべて転出超過となっています。中でも転出超過数が多いのが10歳未満と30代です。逆に他の3県では、ほぼ全年代で転入超過となっており、特に埼玉県では10歳未満の子どもと、20~30代の割合が高くなっています。

つまり東京都への流入は、大学などへの入学を機に上京する10代と、就職や結婚などをきっかけに上京する20代がダントツに多く、それ以外の年代では、アフターコロナでも他県への流出傾向が続いていると推測されます。

1-3. 東京都からの転出先の54%は首都圏内

さらに東京都から他県に転出する人の転出先を見てみましょう。

■東京都からの転出先トップ5

転出先転出者数割合
神奈川県71,83122.5%
埼玉県58,27518.2%
千葉県43,76213.7%
大阪府15,2714.8%
愛知県11,2473.5%

出典:住民基本台帳人口移動報告(総務省)2022年1~9月

東京都からの転出先は、神奈川県、埼玉県、千葉県がトップ3で、この3県で全体の約54%を占めます。つまり東京都から他県に転出する人の多くは、東京圏での就労を前提に転居先を選んでおり、転職をともなう移住は少ないと思われます。

1-4. アフターコロナの人口移動の傾向まとめ

ここまでをまとめると、コロナ規制が緩和されつつある2022年現在の首都圏の住み替え傾向は以下の通りです。

・昨年大きく減少した東京への転入超過は回復傾向である
・年代別に見ると、東京への転入は10代と20代がダントツに多い
・逆に10歳未満の子どもと30代(子育て世帯)では依然として転出傾向が続いている
・東京からの転出先は、首都圏内が半数以上(54%)
・東京圏への通勤を前提にした郊外エリアへの転出が多いと推測される

このように、首都圏では東京都の人口流出に歯止めがかかっているものの、流入の中心は10~20代の若い層で、30代以降の子育て世代では、依然として郊外エリアへの流出が継続しているという傾向が見て取れます。

次章以降では、子育て世代がなぜ郊外エリアへ流出するのか、その理由を考えてみましょう。

2、郊外への移住で大きく変わるのは生活にかかる「お金」

都内から郊外へ移住する動機としてもっとも大きいのが「お金」、つまり経済的な理由です。

実際に都内と郊外でどのくらいの差があるのか見てみましょう。

2-1. 首都圏の生活コストを比較。東京は住居費が飛び抜けて高い

まず総務省の物価統計調査のデータを見てみましょう。下表は首都圏の生活コスト(物価)を比較したものです。

■首都圏の物価比較(全国平均=100)

地域総合住居食料教育
東京都105.2134.5103.4110.2
神奈川県103.2116.5101.6110.2
埼玉県100.6105.099.696.5
千葉県101.0111.4100.995.7

※2021年 小売物価統計調査(総務省)より抜粋

東京都は総合的な物価指数が全国平均より約5ポイント高く、中でも住居にかかるコストが34ポイントも高くなっています。人生の三大支出(※)とも言われる「住宅支出」にこれほど差があると、子どもの誕生をきっかけに郊外への住み替えを考える大きな動機となり得ます。

※一般的に「住宅支出」「教育支出」「老後支出」が三大支出と呼ばれます。

2-2. 不動産価格の相場は都内と郊外で2倍の差になることも

次に住居費について、もう少し具体的な例を見ていきましょう。ここでは東京都中野区、神奈川県藤沢市、埼玉県川越市、千葉県流山市の家賃水準と新築一戸建の価格を比較してみます。

①賃貸住宅の家賃水準は都内と郊外で約2倍の開き

まず賃貸住宅の家賃から見てみましょう。各エリアの3LDKのマンションの家賃相場は以下の通りです。

東京都中野区神奈川県藤沢市埼玉県川越市千葉県流山市
18.5万円10.5万円9.2万円9.9万円

出典:SUUMO家賃相場

このように、都内と郊外では家賃水準に約2倍の開きがあります。都内から郊外に住み替えることにより、月9万円(年108万円)もの住居コストが削減できるのは大きなメリットと言えるでしょう。

②新築一戸建でも約2倍の開き

次に新築一戸建の相場を見てみましょう。

東京都中野区神奈川県藤沢市埼玉県川越市千葉県流山市
6,280~12,980万円2,880~9,850万円2,380~6,480万円3,780~8,490万円

出典:LIFULL HOME’S新築一戸建て価格相場情報

これは、実際に販売されている物件の価格帯を示したデータです。やはり都内では安い物件でも6,000万円台であるのに対し、郊外では3,000万円前後から販売されており、ここでも約2倍の差がついています。

仮に6,000万円と3,000万円の物件を住宅ローンで購入したとすると、それぞれの返済額は以下のようになります。(諸費用等は含みません)

住宅ローン借入金月々の返済額年間の返済額
3,000万円約9万2,000円約110万円
6,000万円約18万4,000円約220万円

※ 元利均等35年返済・金利1.5%(固定)・ボーナス払いなしの場合

このように、借入額の差(3,000万円)をローンの返済額に換算すると、月々約9万円(年間110万円)に相当し、10年間では実に1,000万円を超える大きな差となります。

つまり、都内に住むか郊外に住むかの違いだけで、住居費を半分近くまで抑えることができ、また家賃とさほど変わらない支出で、新築一戸建を購入できることがわかります。

子どもが生まれ、夫婦どちらかが時短勤務になったり、これから子育てにお金がかかったりすることを考えると、住居費の安い郊外に移住する子育てファミリーが多いのも当然のことかも知れません。

3、都内から郊外への移住で生活環境はどう変わるか

では実際に郊外に住み替えた場合、暮らしはどう変わるのでしょうか。

3-1. 通勤時間はおおむね20~30分ほど伸びる

都内から郊外への移住でもっとも変化が大きいのが通勤時間です。先ほど例に挙げたエリアから都心部への通勤イメージを見てみましょう。

発駅到着駅・所要時間経由
中野駅新宿駅5分・東京駅20分JR中央線
藤沢駅品川駅40分・東京駅45分JR東海道線
川越駅池袋駅30分・東京駅50分東武東上線・東京メトロ
流山おおたかの森駅秋葉原駅30分・東京駅40分つくばエクスプレス・JR

※所要時間は概算で時間帯等により異なります

このように都内から郊外に移住すると、通勤時間がおおむね20~30分長くなります。しかし、都心ほど混雑が激しくないことや、駅によっては座って通勤できることを考えると、それほど苦痛とも言えないのではないでしょうか。郊外の主要駅からは朝夕の通勤時間帯に座席指定特急なども運行されているので、車内でゆっくり食事や読書をするなど別の楽しみ方もあるようです。

3-2. 買い物などの利便性

次に買い物などの利便性です。郊外といっても、食料品や日用品など日々の買い物に困ることはほとんどありません。むしろ食料品などは都内よりも安いことが多いようです。

ちょっと大きな買い物や、贈答品などは、ターミナル駅の大型店舗や、ロードサイドのショッピングモールなどを利用することが多くなります。郊外の街ではららぽーとやイオンモールのような大型ショッピングモールも多く、車でまとめて買い物するにはとても便利な環境とも言えます。さらにネットショッピングなどをうまく活用すれば、買い物で不便を感じることはほとんどないでしょう。

3-3. 自然が豊かで観光地に近い

そして郊外への移住で大きく変わるのが余暇の過ごし方ではないでしょうか。首都圏の郊外エリアは、海、山、温泉といった観光地にも近く、手軽に小旅行やキャンプなどを楽しむことができます。サーフィンやアウトドア好きの方にとっては、趣味と仕事を両立できる夢のような生活が実現するかも知れません。

また、子どもと1日中遊べる広大な自然公園やレジャー施設も多く、自然の中でのびのび子育てしたいファミリーにはとてもよい環境だと思います。

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4、人口増加率から首都圏のおすすめ郊外エリアをランキング

ここまで見てきたように、都内から郊外への移住は、経済面でも環境面でも子育て世代にメリットが大きく、アフターコロナの2022年においてもその傾向は続いています。

最後に、首都圏の人口増加率の高い市区町村のランキングを見てみましょう。

4-1. 首都圏の人口増加(社会増減)率トップ10

郊外への移住で重要なのがエリア選び。そこで、市区町村の人口に対する社会増減(※)率の高い街をピックアップしてみました。社会増減は、出生や死亡といった自然増減を除いた、純粋な転入・転出による増減ですので、増加率の高い街には移住先として選ばれ、長く住み続けたいと思う魅力があると考えられます。

■首都圏の社会増減率トップ10(人口5万人以上の市区町村)

都道府県 市区町村  社会増減数 社会増減率
千葉県 流山市 3,836人 1.92%
埼玉県 さいたま市大宮区 2,133人 1.79%
千葉県 千葉市美浜区 2,460人 1.64%
千葉県 印西市 1,712人 1.62%
埼玉県 さいたま市緑区 1,985人 1.53%
神奈川県 藤沢市 4,564人 1.04%
埼玉県 さいたま市西区 922人 0.99%
神奈川県 大和市 2,368人 0.98%
埼玉県 さいたま市見沼区 1,571人 0.96%
千葉県 袖ケ浦市 590人 0.91%

※2021年 住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(総務省)より抜粋

※社会増減率とは:他地域からの転入と他地域への転出によって生じる増減をその地域の人口で割ったもの

首都圏トップは、「母になるなら、流山市。」のキャッチコピーで有名な流山市。つくばエクスプレスの交通便のよさと子育て支援の手厚さで、ファミリー層に人気の街となっており、社会増減率は全国1位となっています。2位は首都圏でも有数のターミナル「大宮駅」を有するさいたま市大宮区。さいたま市からは5位に緑区、7位に西区、9位に見沼区とトップ10に4区がランクインしています。3位には、幕張メッセやZOZOマリンスタジアムで有名な千葉市美浜区、4位には千葉ニュータウンの拠点、印西市がランクインしています。

これら社会増減率が高い街の特徴としては、都内への通勤時間がおおむね1時間以内、買い物などの利便性が高い、子育て支援が充実している等が挙げられますが、特にターミナル駅や再開発エリアの人気は高く、価格も上昇傾向にあります。

5、郊外エリアに価格上昇は広がりつつある。相場情報をしっかりチェックしておこう

ここまで見てきたように、都内から郊外への移住は経済面だけでなく、子育て環境やワークライフバランスといった観点でも多くのメリットがあります。一方で、地方の給与水準や求人倍率などから見て、転職をともなう移住はまだまだハードルが高いため、「都心に勤務可能で、ほどよく便利で自然豊かな郊外の街」の人気はしばらく続くことになるでしょう。

また近年では都心の不動産価格高騰の波が郊外にも広がりつつあります。東京に隣接する川崎市・川口市・浦安市などが、前述の増減率ランキングでは圏外となっており、都心15~20キロ圏内はちょっと検討しづらい水準まで価格が上がっていると考えられます。

都心30~50キロ圏は3,000~4,000万円台と、まだ手頃な価格水準が続いていますが、今後さらに上昇の波が波及していくことも考えられます。 これから住まいの購入を検討される方は、タイミングを逃さないためにも、希望エリアの相場をしっかりチェックしながら物件探しを進めていきましょう。

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