
住宅購入にともなう大きな不安、それは「ローンをきちんと返済できるか」ということではないでしょうか?そんな不安を払拭するためには、家計をしっかり見直し、計画を立てることが重要です。今回は住宅購入時の家計見直しの手順とポイントについて解説します。
目次
1. 住まいの購入は、家計を見直す絶好のタイミング
住まいを購入すると、それまで支払っていた家賃がローンの返済に変わり、それまではかからなかった費用がかかるようになります。支出の内容がガラッと変わるこのタイミングは家計を見直す絶好のタイミングなのです。
1-1. なぜ住まいの購入の際に家計を見直すべきなのか?
住まいを購入するということは、数十年にわたって住宅ローンの返済を続けていくことを意味します。持ち家であれば、賃貸ほど気軽に引っ越しできませんし、もし返済が滞れば、最悪住まいを失うことにもなりかねません。これが漠然とした不安の要因です。
したがって不安を払拭するためには、住宅ローンの返済はもちろん、生活費や教育費なども含めた家計全体を見直しておくことが大切です。「なんとなく返せそう」ではなく、「これならきちんと返済していける!」と自信をもって決断するためにも、この機会にしっかり見直しをしておきましょう。
1-2. 日々の生活費と将来必要な資金を分けて計画しよう
家計の見直しと言っても、具体的に何をすればよいのかよく分からないという方も多いのではないでしょうか?家計管理の基本は、収入と支出を把握してコントロールすることです。また住宅ローンは長期の返済になりますので、後で返済に行き詰らないよう、将来かかるお金についても検討しておく必要があります。日々の生活費と将来かかる子どもの教育費や老後資金などを合わせて、長い目で計画するのがポイントになります。
今回のコラムでは、住まいの購入時にぜひやっておきたい家計の見直しについて、その手順やポイントを解説していきます。

2. 家計の見直しは、まず現在の収入と支出の把握からはじめよう
家計の見直しで最初におこなうのは、収入と支出の現状把握です。
2-1. 世帯の収入と可処分所得を把握しよう
まず、収入の把握からスタートしましょう。
会社員であれば給与や賞与、自営業であれば事業の売上などが「収入」となります。一般的に「年収」と言えば1年間の収入を指します。
しかし、ここから税金(所得税・住民税)や社会保険料(健康保険・年金)などが差し引かれ、実際に使えるお金は収入の7~8割くらいになります。この実際に使えるお金(=可処分所得)を正しく把握しておくことが重要です。具体的には、給与明細や源泉徴収票から、年間の可処分所得を把握することができます。
一例として、源泉徴収票から可処分所得を計算するときには、以下の式に当てはめて計算します。
可処分所得 = [支払金額] - [源泉徴収税額] - [社会保険料等の金額]
共働きであれば、夫婦それぞれの可処分所得を合算して、世帯の可処分所得を算出しておきましょう。
2-2. 支出は項目ごとに把握しよう
次に支出を把握してみましょう。支出はいくつかの項目に分類して把握するのがポイントです。項目を細かくしすぎると手間がかかるのでざっくり分けるとよいでしょう。
■支出の分類項目(例)
住居費 | 家賃やローン返済など |
生活費 | 食費・日用品など |
水道光熱費 | 水道・ガス・電気など |
通信費 | 携帯電話・Wi-Fiなど |
保険料 | 生命保険・損害保険など |
自動車費 | 自動車関連の費用(車両・ガソリン・駐車場・車検・保険など) |
教育費 | 子どもの習いごと・学校・塾など |
娯楽費 | 趣味・旅行・レジャーなど |
医療費 | 病院・医薬品など |
一時的な費用 | 家具・家電・冠婚葬祭など |
毎月の支出をこのような項目ごとに整理してみると、どこにお金がかかっているかが一目瞭然となります。また、可処分所得と比較することによって、現在の家計が健全であるかどうかを判断することができます。
家計簿をつけるのは大変ですが、最近では簡単に支出が記録できる家計簿アプリなどもありますので、活用してみることをおすすめします。
ここまでの把握ができたら、一旦、現在の家計を診断してみましょう。下図に金額を入れて見ると、よりイメージがはっきりすると思います。

①【世帯の可処分所得 > 支出】 の場合
可処分所得が支出より多い場合、家計は健全であると言えます。余剰分を貯蓄(運用)したり、住宅購入時の頭金にしたりすることができます。
②【可処分所得 < 支出】 の場合
一方、可処分所得より支出が多い場合には、貯蓄などを切り崩しながら生活している状態ですので、早急に収入を増やすか、支出を抑える工夫が必要です。住宅を購入する前に現在の家計を改善しましょう。
③【可処分所得 = 支出】 の場合
最後に、可処分所得と支出がほぼイコールの場合です。多くの世帯がこれに近い状態かと思います。現在はかろうじて健全であるものの貯蓄できる余裕がない状態です。
住宅購入によって、ローン返済額を現在の家賃以下に抑えられれば家計が改善する可能性があります。

3. 住まいを購入した後で増える支出、減る支出を知っておこう
現在の家計の状態がわかったら、住宅購入にともない支出がどう変化するかを確認しましょう。ここでは賃貸にお住まいだった方が住宅を購入した場合を想定して解説します。
3-1. 住宅購入にともなって増える支出
まず、住宅購入にともなって増える支出には以下のようなものがあります。
固定資産税・都市計画税 | 土地・家屋の所有にかかる税金 |
管理費・修繕積立金(マンション) | 共用部の管理と、将来の修繕に備えた積立金 |
修繕費(戸建) | 定期的な外壁の塗り替えや設備交換にかかる費用 |
光熱費 | 家が広くなると光熱費は高くなる傾向 |
損害保険料 | 火災保険、地震保険などの保険料 |
3-2. 住宅購入にともなって減る支出
一方、住宅購入にともなって減る支出もあります。
賃貸の更新料 | 更新のたびにかかっていた更新料はゼロに |
駐車場代 | 駐車場つきの物件ならゼロに |
所得税・住民税 | 住宅ローン控除により最長13年間減額に |
光熱費 | 省エネ性能の高い物件なら減額になることも |
この中でも住宅ローン控除による所得税・住民税の減額は、賃貸にはない非常に大きなメリットで、子育て世帯なら最大で年35万円×13年間の減額が受けられます。(2024年現在)
3-3. 購入前と購入後の比較をしてみよう
住宅購入により増える支出、減る支出は、購入する物件やローン借入額、また年収等によって異なりますので、不動産会社などに聞きながら算出してみましょう。

おおよその金額がわかったら、購入前の家計と購入後の家計を比較してみると、家計の変化がより鮮明になります。
この時点で、【可処分所得<支出】になってしまう場合は、物件価格を抑えるか、頭金を入れるなどして返済額を減らすようにしましょう。

4. 将来の支出を見込んだ家計の見直し方法
このように、可処分所得と支出、および住宅購入にともなう支出の増減を把握することで、ローン返済の不安は少し和らいだのではないでしょうか?ここに将来増えるであろう支出を織り込んで計画しておけば、さらに安心です。
4-1. まずは将来の支出を洗い出してみよう
将来の支出を加味した家計の見直しをおこなうためには、「いつ」「いくら」のお金が必要なのかを洗い出しておくことが重要です。そのために作成しておきたいのが「キャッシュフロー表」です。
■キャッシュフロー表(例)

キャッシュフロー表とは、家族の年齢とそれぞれのライフイベント(子どもの進学・車の買い替え等)を書き出し、収入(可処分所得)・支出・貯蓄額がいつどのように変化するかを“見える化”したものです。
キャッシュフロー表を作成すると、何年後にどのくらいのお金が必要になるかが明確になり貯蓄計画が立てやすくなります。
はじめて作成される方は、日本FP協会のサイトからExcelのテンプレートがダウンロードできるので、それを利用してみるのもひとつの方法です。
4-2. 教育資金のプランは早めに立てておこう
将来の支出と貯蓄の計画を立てる上で大きなポイントとなるのが子どもの教育費です。
日本政策金融公庫の試算によれば、幼稚園から大学まですべて公立に通った場合の費用は約823万円。一方、すべて私立に通った場合は2,308万円と大きな差があります。つまり、子どもの教育方針によって、将来必要になるお金が大きく変わってくるわけです。
子どもが小さいうちから教育方針についてよく話し合い、奨学金の利用なども含め、必要な資金をどのように確保するかを検討し、早めに貯蓄をスタートしましょう。
4-3. 住宅購入時に必ず見直したいのが生命保険
貯蓄をするためには、無駄な支出を抑え、貯蓄に回せる原資を作り出すことが必要です。そこで、住宅購入時に必ず見直したいのが生命保険です。なぜなら住宅ローン契約時に「団体信用生命保険(団信)」に加入するからです。団信は生命保険の一種で、ローン返済中に契約者が死亡した場合に、残ったローンを保険金で完済できる仕組みで、一家の大黒柱に万一のことがあっても、残された家族が同じ家に住み続けられることを目的としています。
一般的に、生命保険は一番下の子が社会に出るまでにかかる費用を賄えればよいとされます。仮に、その金額をもとに5,000万円の生命保険に加入していた場合、もし団信で住宅ローン分3,000万円カバーされれば、保障額を5,000万円から2,000万円に下げられる(=保険料が下がる)可能性があります。
また、日本は遺族年金や高額医療費制度など、公的保険の手厚い国ですので、万一の時にそうした公的保障がいくら受けられるかを計算し、足りない分だけを生命保険に加入するようにしましょう。
生命保険には、保険料に貯蓄部分が含まれる「終身保険」と、掛け捨ての「定期保険」があり、保険料は定期保険の方が安くなります。考え方は人それぞれですが、安い定期保険に加入して、浮いた分を貯蓄や運用に回すのもひとつの方法です。
4-4. 貯蓄と運用の考え方
キャッシュフロー表で、将来必要になるお金を把握し、保険の見直しなどで貯蓄の原資を確保できたら、どのようにお金を貯めていくかを考えます。
まず、貯蓄をはじめる上で大切なのは「いつまでに」「いくら」貯めるという目標をもつことです。子どもの進学時期などに合わせて目標を立てましょう。例えば「10年で300万円」を目標とすると、単純計算では年間30万円(月々2.5万円)の貯蓄が必要です。
しかし、これを現金ではなく株式や投資信託などの金融商品で積立運用したとすると、もっと少ない原資で目標を達成できる可能性があります。
下表は「10年で300万円」貯めることを目標としたときに、月々いくら積立てればよいのかを表したものです。リターンが高い金融商品ほど、少ない積立額で目標に到達できるのがお分かりいただけるでしょうか?
■ 10年間で300万円貯めるための積立額
年間リターン | 0% | 2% | 4% | 6% |
月々の積立額 | 25,000円 | 22,625円 | 20,451円 | 18,465円 |
10年間の積立額 | 300万円 | 約272万円 | 約245万円 | 約222万円 |
※手数料、税金等は考慮しておりません
※本表はシミュレーションであり、運用成果を保証するものではありません
このように、年間リターンがゼロの場合と6%の場合では、10年間の積立額に80万円近い差が出ます。現在、国内の預金はほぼリターンがゼロですので、NISAなどを活用した積立運用なども積極的に検討してみるとよいと思います。ただし、株式や投資信託は元本保証ではないので、一定のリスクを許容しながら運用していく必要があります。
4-5. 住宅購入時の家計の見直し手順まとめ
ここまで住宅購入時の家計の見直しについて解説してきました。最後に手順をまとめると以下のようになります。
1. 現在の可処分所得(手取り)と支出を把握する 2. 住宅購入によって増える支出・減る支出を加味する 3. キャッシュフロー表で、将来必要になるお金を把握する 4. 支出を減らせるものがないか検討する(=貯蓄の原資をつくる) 5. 将来必要になるお金の貯蓄・運用を計画する |
ここまでやると、いままでぼんやりしていた家計の中身がかなりはっきりと見えてきます。ローン返済に対する漠然とした不安がある方は、ぜひ一度やってみるとよいでしょう。
とは言え、固定資産税や住宅ローン控除の金額を自分で計算するのは難しいと思いますので、不動産会社のスタッフやファイナンシャルプランナーなど、専門家のアドバイスを受けながら進めることをおすすめします。
家計の中身がわかれば、無理なく購入できる予算もはっきりし、返済に対する不安も和らぎます。これから住まいを購入する方は、ぜひ家計の見直しに取り組んでみましょう。
※本記事は執筆時点(2024年11月)での筆者の見解・予測等を含んでおり、将来の結果を保証するものではありません。また特定の保険商品、金融商品、運用手法等を推奨するものではありません。