
2025年4月から、すべての新築住宅に対して、省エネ基準への適合が義務化されます。今回義務化される「省エネ基準」とは何なのか。これから住まいを購入する方が知っておきたいポイントなどについてまとめました。
目次
1. 省エネ基準適合義務化とは?
1-1. そもそも省エネ基準とは
省エネ基準とは、建物の省エネ性能を表す基準で、品確法という法律で定められており、過去数回にわたり改正されています。
今回の適合義務化は、建築基準法の改正により、2025年4月以降に新築される建物に対し、一定以上の省エネ性能への適合を義務づけるものです。この改正により、基準を満たさない建物は建築できなくなります。
1-2. 今回義務化される省エネ基準
今回義務化される省エネ基準は、一般的に「平成28(2016)年基準」と言われるものです。比較的新しい基準に見えますが、実態は25年前の平成11(1999)年に定められた「次世代省エネ基準」とほぼ同じで、世界的に見ればかなりレベルの低い水準です。
とは言え、これまで省エネ基準への適合は「努力義務」に過ぎず、10年ほど前まではこのレベルさえクリアできていない住宅が大量に供給されていました。しかし、地球温暖化にともなう環境意識の高まりや、国が住宅の省エネを強力に推進してきたことにより、近年ではほとんどの新築住宅はこのレベルをクリアしており、さらに高性能な建物が普及しつつあります。
1-3. 義務化の背景と今後の見通し
今回省エネ基準への適合が義務化される背景には、政府が掲げる「2050年までのカーボンニュートラル」という目標があります。これを実現するために、国はエネルギー消費の約15%を占める一般住宅の省エネに力を入れています。また日本はエネルギー自給率が低く、大半を海外からの輸入に頼っているため、エネルギーの安定供給と効率的な使用を促すためにも、住宅の省エネや太陽光発電など再生可能エネルギーへのシフトが喫緊の課題となっているのです。
こうした背景のもと、今回の平成28年基準への適合にとどまらず、2030年にはすべての新築建物をZEH水準まで引き上げる方針が打ち出されています。つまり今回の改正はいわば通過点に過ぎず、今後住宅に求められる性能はさらに上がることが予想されます。
■省エネ基準の変遷

2. 省エネ性能が高い住宅を購入するメリット
2-1. 省エネ性能を決める「断熱等級」と「一次エネルギー消費量等級」
省エネ性能のレベルを測る指標としては「断熱等級」と「一次エネルギー消費量等級」があります。それぞれどのようなものなのか理解しておきましょう。
①断熱等級(断熱等性能等級)
断熱等級とは、建物の外皮(壁・屋根・床)からの熱の逃げにくさを表す7段階の指標です。性能の高い断熱材、高断熱の窓・ドアなどを使用し、建物の気密性を高めるなどの方法で等級をあげることができます。
②一次エネルギー消費量等級
一次エネルギー消費量等級とは、住宅内で使用されるエネルギーの総消費量(冷暖房・給湯・換気・照明など)を評価した6段階の指標です。省エネ性能の高いエアコンや給湯器、節水型のシャワーやトイレなどを使うことによって等級を高めることができます。
2025年4月から義務化される省エネ基準は「断熱等級4かつ一次エネルギー消費量等級4」ですが、前述の通り、すでに多くの新築住宅ではこのレベルをクリアしており、ZEH水準「断熱等級5かつ一次エネルギー消費量等級6」がひとつの目安となりつつあります。

2-2. 省エネ性能が高い住宅を購入するメリット
一方、省エネ性能の高い住宅は、購入者にとっても大きなメリットがあります。4つのメリットを見ていきましょう。
①光熱費の削減になる
まず1つ目のメリットとして光熱費の削減が挙げられます。省エネ性能の高い建物は、冷暖房や給湯などにかかる光熱費を大きく削減でき、太陽光パネルや蓄電池などと組み合わせることにより「光熱費実質ゼロ(Net Zero Energy House=ZEH)」住宅を実現することができます。
国土交通省によれば、東京で「省エネ基準(平成28年基準)適合住宅」と「ZEH水準住宅(再生可能エネルギー除く)」を比較した場合、光熱費が年間5万3,000円削減できると試算されています。昨今のエネルギー価格の上昇で、このメリットはさらに大きなものになっています。

②補助金・税制優遇
2つ目のメリットは、補助金と税制優遇です。2025年度に実施される「子育てグリーン住宅支援事業」では、省エネ性能の高い「GX志向型住宅」に160万円、「長期優良住宅」に80万円、「ZEH水準住宅」に40万円の補助金が交付されます。
また、住宅ローン控除においては、控除額の基準となる借入限度額が、「省エネ基準適合住宅」よりも「ZEH水準住宅」が500万円多くなっています。つまり、ZEH住宅の方が、年最大3万5,000円(500万円×0.7%)多く控除できるため、13年間の合計では最大45万円控除額が大きくなります。
(関連記事)【2025年度 最新版】住宅購入の補助金・税制優遇はどうなる?
③快適性が高く健康的
省エネ性能の高い住宅は冷暖房がよく効き、室内の温度差も少ないので、1年を通して快適に過ごすことができます。また断熱性能の高い住まいは、高血圧や心疾患、アレルギーによる皮膚疾患や喘息、室内の温度差によるヒートショックなどの予防・改善に効果があることも分かっています(※)。
※出典:「家選びの基準が変わります」(国土交通省)
④災害に対する備え
地震や豪雨など災害の多い日本では、万一の場合、停電や断水の中での自宅避難を強いられる可能性があります。そうしたケースでは、電気を作り出せる太陽光発電システムや、水を貯めておけるエコキュート(給湯システム)などは大きな安心につながります。こうした省エネ設備は、日々の省エネに加えて、災害時のバックアップにもなるのです。
3. 住まいの省エネ性能は、将来的な「資産価値」にも影響を与える
こうした直接的なメリットのほかに、省エネ性能は将来の住まいの資産価値にも影響する可能性があります。
3-1. 2030年にはZEH水準が義務化される可能性が高い
前述の通り、政府は「2050年カーボンニュートラルの実現」という目標に向かって、5年後の2030年にはすべての新築住宅にZEH水準を義務づける方針です。(2021年10月22日閣議決定「エネルギー基本計画」)つまり、今回の省エネ基準は「通過点」であり、5年後には「ひとつ前の基準」となってしまう可能性が高いのです。

こうした法改正が資産価値に影響を及ぼした例としては、昭和56(1981)年におこなわれた耐震基準の改正が挙げられます。この年を境に、それ以前に建てられた建物は「旧耐震」、以降に建てられた建物は「新耐震」と区別され、旧耐震の物件が市場から敬遠された結果、価格が下がり、融資も受けにくくなったという経緯があります。
もし今回の改正で、「旧省エネ」「新省エネ」といった区別が生じれば、資産価値に大きく影響する可能性があります。
3-2. 省エネ性能の「見える化」により性能の差が明確に
さらに、2024年4月から「省エネラベルの表示」義務づけが始まっています。省エネラベルとは、住まいの省エネ性能をラベルによってわかりやすく「見える化」したもので、新築物件への表示が義務づけられています(現在は努力義務)。
■省エネ性能ラベルのサンプル

出典:国土交通省資料
今後、こうした省エネ性能(光熱費)の見える化が進めば、家電や車と同じように「多少高くても省エネ性の高い家を買う」といったように消費行動が変わり、光熱費が高い家は敬遠される(=価格が下がる)かもしれません。
3-3. 省エネ性能の低い中古住宅の価格は低下する
こうした変化は、新築住宅のみならず、中古住宅の価格にも影響を与えます。中古を購入してリフォーム・リノベーションを行う場合、省エネ性能の低い中古住宅では、買い手が断熱工事などに多額のコストを負担することになるため、取引価格が下がる可能性があります。
4. 住まいを購入するときに気をつけたいポイント
最後に、省エネ基準適合義務化に伴い、今後住まいを購入する方が気をつけておきたいポイントについて解説します。
4-1. 目指すべき省エネレベルは「ZEH水準」以上
こうした省エネ性能の急速な向上と、将来的な資産価値を考慮すると、これから住まいを購入する場合には「ZEH水準」以上を目指すことをおすすめします。建てた後に断熱性能を向上させるには、かなり大規模な改修を必要とするため、設計段階で十分な検討が必要です。建築士などプロのアドバイスを受けながらしっかり検討しましょう。
4-2. 建築コストと省エネ性能のバランス
前述の通り、省エネ性能を高めることは居住性を高め、経済的なメリットにつながりますが、同時に建築費が上がるというデメリットもあります。長期的には光熱費の削減により元が取れる可能性は高いものの、初期費用を抑えるためには性能とコストのバランスをしっかり検討することが重要です。
4-3. 補助金や優遇制度は年々厳しく
子育てグリーン住宅支援事業や住宅ローン控除などの優遇制度は、頻繁に制度の見直しが行われます。ここ数年は見直しが入るたびに省エネに関する要件が厳しくなっており、今回義務化される「省エネ基準」は、すでに補助対象ではなくなっています。
したがって、2030年にZEH水準適合が義務づけられれば、ZEHですら補助対象ではなくなってしまうでしょう。そうした意味では「補助金を受けられるうちに購入する」のもひとつの考え方かと思います。
4-4. 省エネ住宅のノウハウ・実績のある会社選び
そして省エネ住宅を購入・建築する上で気をつけたいのが会社選びです。省エネ住宅には、断熱性、気密性といった建物の基本性能を上げるための設計、施工が不可欠ですので、その分野のノウハウと実績のある会社を選びましょう。また、補助金の申請業務は国に認められた「登録事業者」しかできませんので、補助金を利用したい方は注意が必要です。
省エネ住宅の設計・施工、補助金の活用、土地探しや資金計画まで含めたトータルサポートが受けられる会社を選ぶのが大きなポイントとなります。
省エネ基準への適合義務化と購入時のポイント、ご理解いただけましたでしょうか?
政府の強力な後押しもあり、住宅の省エネ性能はここ数年で飛躍的に向上しています。しかし、2050年カーボンニュートラルの実現に向けてはまだまだ通過点です。さらなる性能向上が求められていくでしょう。
東京都で2025年4月から太陽光パネルの設置義務化もスタートするなど、自治体ごとの取り組みも活発化しています。これから住まいを購入する方は、ぜひ専門家のアドバイスを受けながら検討を進めることをおすすめします。