近年増加する台風や地震などの自然災害。今後ますますそのリスクが高まると予測されている中、住まい選びに「防災」の視点をもつことが重要になっています。住まいの災害リスクと対応方法を知るためにはどのような点に注意すればよいのでしょうか。
1、毎年どこかで発生する自然災害。都市部でも大きな被害をもたらしている
1-1. 災害は数百年に1度ではない。毎年起こる身近な災害に備えよう
近年の自然災害で最も被害が大きかったのは、言うまでもなく2011年3月に発生した東日本大震災です。地震と津波による死者・行方不明者は1万8,000人を超え、建物の全壊・半壊は合わせて40万戸以上となりました。まさに数百年に1度の大災害だったのです。
しかし、自然災害はこのような大規模なものだけではありません。毎年のように発生する台風・豪雨等による浸水や風災、山間部では土砂災害などでも大きな被害が出ています。これから住宅購入を検討する場合には、数百年に1度と言われる大災害だけでなく、こうした身近な災害に対しても何らかの備えが必要になってきます。
1-2. 台風や豪雨による風水害リスクが高まっている
特にここ数年、大きな被害を出しているのが風水害です。2019年9月に発生した台風15号では、関東地方、特に千葉県南部を中心に家屋の浸水・損壊などで7万戸以上が被災しました。ゴルフ練習場の支柱が倒れ民家を直撃したシーンを記憶している方も多いと思います。また、同年10月の台風19号では観測史上最大の降雨量を記録し、多くの河川で堤防の決壊による家屋の浸水が発生しました。また、比較的災害に強いと思われていたタワーマンションでも、豪雨で地下の電気室が浸水しマンション全体の電気の供給がストップ、エレベーターは動かず、給排水も停止してしまう事態となりました。
1-3. 温暖化にともない、降雨量は今後増加する予測
近年の温暖化にともない、大雨や短時間に降る強い雨の頻度はさらに増加すると予測されています。また、集中豪雨により一時的に都市の排水機能が失われる「内水氾濫(ないすいはんらん)」も多発しており、「高台ならば水害リスクは少ない」という過去の常識も通用しなくなりつつあります。
出典:防災情報のページ(内閣府)
1-4. 不動産会社に災害リスクの説明を義務化
こうした状況を踏まえ、2020年1月、国土交通省は不動産取引の際に水害リスクに関する説明をするよう業者に義務付ける意向を示しました。具体的には自治体が公表しているハザードマップなどを使い、浸水が想定されている地域や想定される被害などを、住宅購入時の「重要事項説明」に盛り込むという内容です。現在、義務化の時期は「未定」とされていますが、近い将来、住宅購入時には災害関連の情報に目を通し、その物件のリスクを確認することが当たり前となっていくでしょう。
2、土地の成り立ちや地形からわかる、住まいの災害リスク
そうした背景のもと、住宅購入者はどのようなことに気をつけて住まい選びを進めればよいのでしょうか?
2-1.その土地の成り立ちを知る「地名」や「古地図」
すべての地域に当てはまるわけではありませんが、その土地の成り立ちを知ることで、ある程度、災害リスクを予測することができます。例えば地名に「池」「川」「河」「江」「沢」「沼」「谷」などが入った地域は、低地で過去に川や池、湿地帯だった可能性があります。また、低地を埋め立てて作られた土地には「埋」「梅」などが使われることがあり、水害や液状化が起こりやすい傾向があります。地域の図書館や資料館などで、地名の由来を調べたり、昔の地図などで元の地形を確認したりするとよいでしょう。
2-2. 土地の高低差や海抜を知る「地理院地図」
それでは、地名に「丘」「山」などが入っている高台の土地ならば安心なのかというと、必ずしもそうではありません。相対的に低地より高台の方が水害リスクは低いと言えますが、高台と呼ばれる中にも、土地の高低差によって水が溜まりやすい場所(いわゆる凹地)があります。
また首都圏には土地の高さが海面と同レベルの「海抜ゼロメートル地域」にも多くの住宅地が存在します。このような地域でひとたび洪水が起これば、数日~数週間水が引かない可能性もあります。土地の高低差や地形は水害リスクを知るための重要なデータです。
こうしたデータは、国土地理院の「地理院地図」から確認することができます。
2-3. 大規模造成地の「盛土」「切土」を知る「大規模盛土造成地マップ」
丘陵地帯や山地を切り開いて開発された住宅地は、傾斜地を階段状の水平な敷地にするために、「盛土」「切土」によって造成されていることが多くあります。もともと丘陵地帯は地盤がよいので、切土によって作られた土地は比較的リスクが小さいのですが、盛土によって作られた土地はその位置などを確認しておきましょう。
「盛土」は宅地造成でごく普通に行われている工事ですので、それ自体が危険なわけではありません。一定規模を超える工事には知事の許可が必要など、法律上の規制もありますので、過度に心配する必要はありませんが、最近の災害調査などによると、盛土と切土の境界にかかる敷地や、5m以上高く盛土されている敷地などは、地震や豪雨などの際に地すべりや液状化などの被害が発生しやすい傾向も見られるようです。
大規模な造成が行われた土地を購入する場合には、まず不動産会社に問い合わせ、しっかり調べてもらいましょう。また自治体のホームページなどで「大規模盛土造成地マップ」が公開されていることがありますのでご自身でも確認してみることをおすすめします。
3、家を買う時には必ず確認したい「ハザードマップ」の見方と使い方
災害リスクを知るためには、上記のような国や自治体の公開情報を見ることが重要ですが、実際にひとつひとつ調べるのはかなり手間がかかります。そこでぜひ活用していただきたいのが「ハザードマップ」です。その入手方法、見方などを知っておきましょう。
3-1. そもそもハザードマップとは?
ハザードマップとは災害マップとも呼ばれ、その地域の成り立ちや地形から、河川の氾濫(洪水)、土砂災害、津波・高潮、地震などの自然災害による被害を想定し、その被害の範囲や程度、さらに避難場所や避難経路などをわかりやすく地図化したものです。
■(例)首都圏の洪水ハザードマップ
出典:国土交通省 ハザードマップポータルサイト
ハザードマップはあくまで予測に基づくものですが、2019年の台風19号で被害を受けた長野市の千曲川などの流域で浸水した地域は、ハザードマップの想定とほぼ一致していました。他にも2018年7月の西日本豪雨で冠水・土砂崩れなどが発生した岡山県真備町や、広島県熊野町でも、被害の範囲がハザードマップとおおむね一致しており、その信頼性は高いと言えるでしょう。
3-2. ハザードマップはどこで入手できるの?
ハザードマップは、自治体の窓口で入手できるほか、自治体のホームページでも見ることができます。また国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」を使うと、全国の自治体のハザードマップを閲覧することができます。
【check!】ハザードマップポータルサイト(国土交通省)
スマートフォンにも対応しており、現在位置からの検索もできますので、物件見学に行った際などにも確認することができます。
3-3. ハザードマップでは何が見られるの?
ハザードマップでは、洪水・土砂災害・津波などの自然災害が発生した際に予測される、被害の大きさや範囲を見ることができます。ハザードマップポータルサイトの「重ねるハザードマップ」を使うと、指定した地域のリスク情報に加え、避難場所、道路防災情報、土地の特徴・成り立ちなど、様々な防災情報を、1つの地図上に重ねて閲覧できるのでとても便利です。
3-4. ハザードマップとともに、自治体の災害対策も確認しておこう
ハザードマップで地域の災害リスクがわかったら、合わせて自治体の災害対策についても確認しておきましょう。自然災害の増加にともない、各自治体では災害対策を強化しており、河川に近い地域では堤防の整備や排水処理能力の向上、山間部では土砂災害を防ぐための砂防工事などが行われています。
リスクだけに目を向けるのではなく、どのような対策がとられているかを知ることで、住まい選びの選択肢が広がり、安心感にもつながります。
4、災害リスクを知ることは、安心・安全な住まい選びにつながる
4-1. 住まい選びに「防災」という新たな観点を加えよう
最近の台風や水害の被害を見ていると、災害リスクのある物件は買わない方がいいと思われる方もいるかも知れませんが、本コラムで申し上げたいのはそういうことではありません。どんな地域にも大なり小なりリスクはありますし、あらゆる災害に対応できる住宅などもありません。「災害リスクゼロ」を前提に希望に合う物件を探そうとすれば、それはプロの不動産業者にとっても無理難題と言えるでしょう。
住まい選びの過程では、地域、間取り、デザイン、価格など様々な観点から多くの物件を比較・検討し、最終的に1つの物件にたどり着きますが、そこにもうひとつ「防災」という観点をプラスして、バランスよく判断することが大切なのです。
前述の通り、地球環境の変化にともない、今後災害リスクが高まっていく可能性は高まっていくでしょう。また、住まいは一生に一度と言われるくらい大きな買い物で、自分や家族が多くの時間を過ごす場所でもあります。購入時にどのような災害リスクがあるのかを知っておくこと、また、どのような対策がとられているかを知り、自分自身でも避難場所や避難経路を確認する等、万一に備えておくことが、よりよい住宅購入につながると思います。
次回以降のコラムでは、災害に強い家とはどんな家なのか、具体的にどのような対策が取れるのか、などについてお伝えできればと思います。