不動産価格の上昇がいよいよ賃貸にも波及し、賃貸マンションの家賃が急上昇しています。今回は、家賃が上がる背景と今後の見通し、またそうした状況のもと、「借りる」か「買う」か、改めて考えるヒントを解説します。
目次
1)賃貸マンションの家賃が過去最高水準に
まず、アットホーム社が発表した2023年2月の「賃貸マンション・アパート募集家賃動向」からカップル・ファミリー向きの賃貸マンション家賃について見ていきましょう。
1-1. 首都圏では50㎡以上の家賃が大きく上昇
首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)では、下表の通りすべての面積帯で、前年比+4~+11%と大きく上昇していることがわかります。
■賃貸マンションの平均募集家賃(首都圏)
出典:アットホーム調べ
※下段は前年同月比。赤字は調査開始(2015/1)以降の最高値であることを示す
また、東京23区と埼玉県では、すべての面積帯で過去最高値を更新し、特に50~70㎡のファミリー向きと70㎡超の大型ファミリー向きでは、上昇率が10%を超えるエリアも見られます。
1-2. 首都圏以外でもカップル・ファミリー向きの家賃が上昇
次に首都圏以外の主要都市を見てみましょう。
■賃貸マンションの平均募集家賃(主要都市)
出典:アットホーム調べ
※下段は前年同月比。赤字は調査開始(2015/1)以降の最高値であることを示す
主要都市でもカップル向き、ファミリー向きを中心に過去最高値を更新し、大阪市の大型ファミリー向きは、前年比+9.5%と大きく上昇しています。
1-3. 家賃が上昇している要因とは
このように都市圏で家賃が上昇している要因は、何と言ってもこのインフレ(物価上昇)です。
2021年から上がり始めた物価は、現在も3~4%の高い上昇率を維持しています。
出典:消費者物価指数(総務省)
今回は、こうしたインフレを背景に大きく上昇している家賃は今後どうなるのか、また住まいを「借りる」か「買う」かの選択にどんな影響があるのか解説します。
2)ファミリー向き賃貸の家賃は今後も上昇が続く可能性が高い
こうした家賃の上昇は今後どうなるのでしょうか?インフレと住宅市場の動向から予測してみましょう。
2-1. 企業から消費者への価格転嫁で、インフレはしばらく続く見込み
先にも書きましたが、家賃が上昇する最大の要因はインフレです。新型コロナをきっかけとした世界的な金融緩和やロックダウン、そしてウクライナ侵攻を発端としたエネルギー価格の上昇などが世界的なインフレを引き起こしています。
しかし、日本は欧米諸国に比べると消費者物価の上昇率が低く、企業から消費者への価格転嫁が十分に進んでいないと言われています。企業間の取引価格である企業物価指数は前年比8~9%上昇しているのに対し、消費者物価指数は3~4%の上昇にとどまっており、このギャップを埋める形で、今後もじわじわと物価上昇が続くと予想されます。
2-2. 住宅価格の上昇にともなう賃貸需要の高まり
こうしたインフレにともない、新築物件の価格が大きく上昇したことで、住宅購入の中心層である子育て世帯が購入を見送り、賃貸に住み続けるケースが増えています。その結果、ファミリー向け賃貸の需要が高まり、特に人気のエリアでは品薄状態が続いています。
2-3. 家賃は「上がりにくく、下がりにくい」
賃貸住宅の家賃は、入居者の入れ替わりや契約更新のタイミングで改定されるため、食料品や日用品などよりも遅れて上昇します。また、一度上がった家賃は次の更新まで維持されるので、物価の上昇が落ち着いても下がりにくい傾向があります。
前章でご紹介した家賃は、あくまで募集中の部屋の家賃ですので、居住中の部屋に波及するには、最長2年程度のタイムラグが生じると予想されます。
こうしたことから、家賃の上昇傾向はまだしばらく続くと予想されます。今賃貸にお住まいの方は、今後家賃が上がることを前提に、賃貸に住み続けるのか購入するのかを、今一度検討している必要がありそうです。次章では、より具体的に賃貸と購入を比較してみましょう。
3)まずは今の支払いで買える物件の目安を調べてみよう
まず今の家賃でどのくらいの物件が買えるのかをシミュレーションしてみましょう。
3-1. 今の家賃と同額の支払いで買える物件の目安とは?
現在の家賃支出をそのまま住宅ローンの返済に充てた場合、どのくらいの借入が可能なのかを算出してみましょう。以下の公式を使うと、月々の返済額から逆算した借入可能額の目安を求めることができます。
借入可能額 = 返済額(月)÷ 住宅ローン係数 |
■住宅ローン係数
※元利均等払いの場合
例えば、現在の家賃が月12万円、金利0.5%、35年返済の場合の借入可能額は、
12万円 ÷ 0.002595 = 約4,624万円 になります。もし、家賃が13万円に上がったとすると、
13万円 ÷ 0.002595 = 約5,009万円 となり、借入可能額が385万円増えることがわかります。
住宅ローンには審査がありますので、必ずこの額を借りられるとは限りませんが、現在12万円の家賃を支払っている人は、今後の値上がりを踏まえると、4,000~5,000万円が購入予算の目安になります。
銀行や不動産情報サイトの「住宅ローンシミュレーター」を使って計算することも可能ですので、現在の家賃からどのくらいの物件が検討できるのか調べてみましょう。
3-2. 家賃と同額の支払いで買えるエリアはどこなのか?
次に、首都圏の主要エリアをピックアップし、賃貸マンションと一戸建(新築・中古)を購入した場合を比較してみましょう。下表は、各エリアの平均家賃と一戸建の販売価格(下段は月々返済額)です。
■賃貸マンションと新築・中古一戸建の相場比較
出典:LIFULL HOME‘S 相場情報より作成
※賃貸マンションは3LDK・4K・4DKの平均家賃、中古一戸建は100㎡換算の価格
※返済額は元利均等35年返済・金利0.5%で算出。税金・諸経費等は含みません
表の通り、同じエリア内の新築物件でも、家賃と同額で購入可能であることがわかります。また中古であれば、すべてのエリアで家賃以下の支払いとなり、賃貸に住み続けるより、購入した方が、住宅コストが下がります。
また、都内から郊外へ転居するケース、例えば中野区の賃貸マンションから藤沢市の中古一戸建に住み替えた場合には、それまで25.8万円かかっていた家賃が、半額以下の10.9万円の返済になり、川越市なら7.5万円、船橋市なら6.1万円とさらに安くなります。
これはあくまで平均値での比較で、実際の支払いは購入する物件によりますが、賃貸から持ち家に住み替えても、さほど支出が増えることはなく、都心から郊外に住み替えれば住宅コストを下げつつ、今よりも広い物件に住むことも十分可能なことが分かります。
4)インフレが続けば、資産という観点からも「購入」が有利に
またインフレが続けば、月々の支出だけでなく、資産形成という観点からも「購入」のメリットは大きくなります。具体的に見ていきましょう。
4-1. インフレによる資産価格の上昇
一般的にインフレ下では、貨幣(現金)の価値が下落し、不動産や株などの現物資産の価格が上昇します。例として、10年前(2013年)に都内にマンションを購入したAさんと、10年間、賃貸マンションに住み続けたBさんのケースを比較してみましょう。
比較条件
10年前にマンションを 購入したAさん | 2013年に都内に4,620万円のマンションを購入 住宅ローン借入額4,620万円・金利0.5%(変動)・35年返済 月々の返済額 約12万円 |
10年間マンションに 住み続けているBさん | 2013年から10年間、家賃12万円の賃貸マンションに居住 |
AさんもBさんも月々の支払いは同額の12万円ですので、10年間の支出は同額(12万円×120ヶ月=1,440万円)とします。
国土交通省の「不動産価格指数」によれば、南関東エリアのマンション価格は2013年~2022年までの10年間で約1.8倍に上昇しています。仮にAさんのマンションが購入時の1.8倍に上昇したとすれば、現在の価格は約8,300万円となります。また10年経過後のローン残高は3,381万円です。
これを前提に、AさんBさんそれぞれの資産状況を表にすると以下のようになります。
■AさんBさんの資産状況(単位:万円)
2013年の時点では、Aさんは資産であるマンション(4,620万円)と、同額の負債(住宅ローン)がありますので、正味の資産(資産-負債)はゼロ。Bさんはそもそも賃貸ですので、資産も負債もゼロとなります。
そして10年後の2022年、Aさんの資産(マンション)は8,300万円、負債(住宅ローン)は3,381万円となり、10年間に支払った現金1,440万円を引いた正味の資産は、3,479万円と大きくプラスになっています。一方、賃貸に住み続けたBさんは、資産・負債ともにゼロで、10年間で支払った家賃を引くと、正味の資産はマイナス1,440万円となります。
やや極端な例ではありますが、不動産価格の上昇局面では、資産形成という観点からも賃貸より購入の方が有利であり、長期で見ると大きな差になることが分かります。
4-2. 資産形成しやすい物件の買い方とは
上の例の通り、Aさんが資産を増やせた要因は、購入したマンションの値上がりです。したがって、購入を検討する際には、できるだけ値上がりしやすい物件、少なくとも大きく値下がりしない物件を選ぶことが重要です。
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ちなみに上の例では、Aさんのマンション価格が10年間で3,381万円(-27%)まで値下がりすると、Bさんと同じマイナス1,440万円になります。つまり、今の金利水準が継続する中で、よほど大きく値下がりする物件を買ってしまわない限り、もしくは、大きく値下がりするような市場変化が起こらない限り、賃貸より購入の方が資産形成に有利だと言えます。
5)家賃が上昇しているのに金利が低い今、 購入を検討するチャンス
最後に購入するタイミングと注意点について解説します。
5-1. いずれは買おうと考えているなら早く買った方がトク
住まいの購入は、仕事や収入、子どもの入園・入学など、様々な要因に左右されますが、総じて早く買った方がメリットは大きいと言えます。その大きな理由は、賃貸に住んでいる間の家賃です。例えば家賃が月10万円なら年120万円、5年で600万円という多額の出費となります。「頭金を貯めてから・・・」という方も多いのですが、家賃を払いながら頭金を貯めるのは容易ではなく、コツコツ貯金している間に物件価格が上がってしまうケースもよくあります。
また現在の住宅ローン(変動)は、0.5%前後の超低金利が続いています。この低金利を活かすという意味でも早めの検討をおすすめします。
5-2. 「借りる」か「買う」か、専門家を交えて具体的な検討を始めよう
ここまで見てきたように、今後、家賃の上昇が見込まれる中で、住まいを「借りる」か「買う」か、今一度考え直す時期に来ています。
多額の借入をともなう住宅購入には漠然とした不安がつきまといますが、本当に家賃並みの支払いで買えるのか、自分の年収だといくらくらいのローンが組めるのか、将来的に値上がりする見込みはあるのかなど、しっかりシミュレーションすることが大切です。これらをひとつひとつ確認することで不安が払拭されますし、納得感のある購入ができると思います。
都市部で賃貸マンション家賃が上昇する一方、コロナ禍から値上がりが続いていた中古マンション・一戸建の価格は一部でピークアウト感も出始めています。ぜひこの機会に不動産会社のスタッフなど専門家のアドバイスを受けながら検討を始めてみてはいかがでしょうか。