子育て世帯は「郊外から郊外へ」? 人口データから見る変化の兆し(東海・関西編)

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子育て世帯の住まい探しに新たな変化の兆しが見えてきました。これまでの「都心から郊外へ」という動きに加え、「郊外から郊外へ」という動きが生まれつつあります。前回の首都圏編に引き続き、東海・関西エリアの人口データからこの新たな動きを探ってみました。

目次

1. 子育て世帯の郊外志向に見られる変化の兆し

まず、子育て世帯のこれまでの傾向を振り返っておきましょう。

1-1. 子育て世帯が郊外に移住する傾向はすでに定着。

本サイトのコラムでもたびたびお伝えしている通り、子育て世帯は都心部から郊外に転出する傾向があります。この傾向はかなり前から見られるもので、近年の不動産価格の上昇や、コロナをきっかけとしたものではありません。

しかし、この「都心から郊外へ」というトレンドの中にも変化の兆しが見られます。

1-2. 価格上昇にともない郊外エリアそのものが拡がっている

これまで、「都心から郊外へ」と言った場合、首都圏なら東京23区から隣接する市区町村へ、名古屋圏なら中区や中村区といった中心部から周辺の区や北名古屋市、春日井市などへの近隣市へ、また大阪圏なら大阪市中央区、北区などの中心部から、周辺区や吹田市、豊中市、堺市北区などの「都市近郊エリア」への転出が主流でした。

しかし近年では、こうした都市近郊エリアにも価格上昇が拡がったことにより、都心部と同じような価格帯で販売されることも多くなり、初めて家を買う子育て世帯にとって価格的なメリットは小さくなっています。また、交通機関の発展やテレワークなど働き方の変化により、いわゆる通勤圏が拡大したことで、郊外エリアそのものが広がる傾向にあります。

そうした変化から、近年では子育て世帯が価格の高い「都市近郊エリア」から、もう少し外側の「郊外エリア」に住まいを求めるケースが増えてきています。これまでの「都心から郊外へ」に加え「近郊から郊外へ」という動きに変わりつつあると言ってもよいのかも知れません。

1-3. 年少者の転入・転出データから、今注目の郊外を探ってみる

そこで今回は、総務省の人口データから、今注目の郊外エリアを探ってみました。着目したのは、年少者(0~14歳)の「人口」と「転入超過数」から算出した「増加率」です。

転入超過数とは、「転入-転出」で算出され、ある期間の人口の増加数を表します。今回は、東海・関西圏の人口5万人以上の市区町村を対象に、2023年1月現在の「年少者人口」に対する、2023年(1年間)の「年少者の転入超過数」をもとに「増加率」を算出しランキングしてみました。単純に「転入超過数」だけで比較すると、規模の大きな市区町村が有利になるため「増加率」でのランキングとしています。

2. 東海圏で年少者の転入率が高いエリア、低いエリアはどこ?

では早速、東海圏(静岡・愛知)の年少者(0~14歳)の転入超過の増加率ランキングを見てみましょう。

2-1. 東海圏 年少者の転入率トップ20

東海圏の年少者(0~14歳)の転入超過の増加率ランキング、トップ20は以下の通りです。

出典:2023年 住民基本台帳年齢階級別人口および住民基本台帳人口移動報告より作成

1位の尾張旭市は愛知県の北西部、名古屋市守山区の外側に位置する街で、名古屋から電車で約40分の距離にあるベッドタウンです。隣接する瀬戸市も4位にランクインしています。

2位の愛西市、5位の津島市、11位のあま市は、ともに名古屋市の西側に位置する郊外エリアで、やはり都心部まで30~40分ほどの距離にあります。

3位の東浦町、19位の知多市は名古屋市の南側に、6位の江南市と10位の一宮市は名古屋市の北側に位置するベッドタウンで、やはり都心部まで30~40分くらいの街です。 また、静岡県トップは8位の三島市でした。首都圏に一番近い新幹線駅で、子育て世代の移住先としても注目されている街です。それ以外では、掛川市、静岡市葵区、富士市などがランクインしています。

2-2. 東海圏 年少者の転入率ワースト20

続いて、東海圏の年少者(0~14歳)の転入超過の増加率ランキング、ワースト20を見てみましょう。(▲は転出超過)

出典:2023年 住民基本台帳年齢階級別人口および住民基本台帳人口移動報告より作成

ワースト20のうち、約半分の9エリアが名古屋市となっており、やはり都心部からの流出が目立ちます。しかし、ここで注目したいのは、6位の清須市、14位の北名古屋市、20位の春日井市など名古屋市に隣接する近郊エリアです。これまでこうした近郊エリアは、交通アクセスの良さなどから子育て世代の人気が高かったのですが、年少者人口は「転出超過」となっています。

マップで見るとよりわかりやすいのですが、ワースト20の街(青)が、名古屋中心部から10~15km圏内に多いのに対して、トップ20の街(オレンジ)は、その外周部に位置しており、子育て世代の移住傾向が、これまで人気の高かった都心~近郊エリアから、郊外エリアに移ってきていることがうかがえます。

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3. 東海圏の都道府県別ランキング

次に東海圏の都道府県別のトップ10を見てみましょう。

3-1. 静岡県の年少者人口増加率トップ10

静岡県の年少者人口増加率トップ10は以下の通りです。

トップは、首都圏にもっとも近い新幹線停車駅のある三島市で、テレワークの増加にともない、首都圏から移住する方も増えています。同じく、掛川市、静岡市葵区、富士市も新幹線駅がある街で、島田市は静岡市と浜松市の間に位置するベッドタウンです。静岡県は東海道新幹線の停車駅と、2つの政令指定都市(静岡・浜松)を中心とした人口流入の傾向が見られます。

3-2. 愛知県の年少者人口増加率トップ10

次に愛知県の年少者人口増加率トップ10を見てみましょう。

愛知県は、前述の通り、名古屋市から30~40分の距離にある郊外の街で子育て世代が増えており、逆に都市近郊エリアでは年少者人口が転出超過となっている街もあります。

東京と比べると都市の規模がコンパクトなので、名古屋を中心とした郊外エリアが40~50kmと拡大していく可能性は低いと思われますが、やはり首都圏と同様に、都心部の価格上昇による「近郊から郊外へ」という動きが見られるようです。

4. 関西(大阪府)で年少者の転入率が高いエリア、低いエリアはどこ?

続いて関西(大阪府)の年少者(0~14歳)の転入超過の増加率ランキングを見てみましょう。

4-1. 関西(大阪府) 年少者の転入率トップ20

関西(大阪府)の年少者(0~14歳)の転入超過の増加率ランキング、トップ20は以下の通りです。

1位の箕面市、2位の交野市は大阪府の北部、いわゆる北摂地域に位置する街で、このエリアからは、枚方市(11位)、池田市(12位)、茨木市(15位)、高槻市(20位)など多くの街がランクインしています。また大阪府の南部エリアからは、堺市東区(3位)、堺市堺区(13位)などの近郊エリア、和泉市(6位)、羽曳野市(8位)、松原市(18位)などの郊外エリアもランクインしています。これまでは、総じて南部エリアよりも北摂エリアの方が子育て世代の人気が高かったのですが、今回のランキングでは南部エリアも上位に入ってきています。

トップ20のうち、大阪市からランクインしているのは、天王寺区、旭区、東住吉区の3区のみで、あとは周辺の市区町村が多数を占めています。

4-2. 関西(大阪府) 年少者の転入率ワースト20

続いて、関西(大阪府)の年少者(0~14歳)の転入超過の増加率ランキング、ワースト20は以下の通りです。

ワースト20のうち、大阪市が16エリア、堺市が1エリアとなっており、やはりここでも都心・近郊から郊外へという動きがうかがえます。中でも、御堂筋線の始発駅(なかもず駅)があり、これまで子育て世代から人気のあった堺市北区がワースト4位に、東区、堺区がそれぞれトップ4位、13位にランクインしていることが「近郊から郊外へ」というトレンドを象徴しているのかも知れません。

マップで見ると、大阪都心部からの流出と、それを受け止める郊外の街がちょうど同心円を描くように並んでおり、子育て世代の人口移動がよりはっきりとわかります。

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5. 子育て世帯の住まい探しは、都市近郊から郊外へ?物件選びのポイントとは

子育て世帯の増加率ランキング、いかがでしたでしょうか?

前回の首都圏編に続き、名古屋圏・大阪圏でも、従来の「都心から郊外へ」という動きに加え「近郊から郊外へ」という兆しが見え始めた今、物件選びはどのような点に気をつけたらよいのでしょうか。

5-1. 今後は「近郊から郊外へ」の動きが増える?

ここまで見てきたデータから、大都市圏の子育て世帯の住まい探しは「都心→郊外」という従来の傾向に加え、「近郊→郊外」という新しい動きが感じられます。

そのもっとも大きな要因は価格の上昇です。都心部の価格上昇が、近郊エリアまで拡がったことにより、価格と利便性のバランスのよい外側の郊外エリアが、今注目されているわけです。

そして不動産価格の上昇は今も続いており、しばらく高止まりの状態が続くと予想されます。したがって、暮らしやすく値ごろ感のある郊外の街は、引き続き人気が高まっていくと思われます。

また静岡県のように、新幹線駅を中心に都市化が進んでいるようなケースでは、それぞれの都市の中心部から、隣接する近郊~郊外エリアに物件探しの重心が移っていくと思われます。

5-2. 郊外エリアでの街選びと物件選びのポイント

郊外エリアでの街選び・物件選びのポイントのひとつは交通利便性です。都心部へのアクセスがよく、特急・急行などが停車する駅、複数の路線が乗り入れるターミナル駅などを中心に物件探しを進めましょう。また、車が中心のエリアでは、幹線道路や高速道路のアクセス、ショッピングモールなど買い物の利便性も重要になります。

また、子育て世帯にとって自治体の「子育て支援」も重要なポイントです。保育園や学童などの数や入所状況、医療費の無償化、補助金などについては自治体により大きな差があります。

不動産価格の上昇は、都心部から近郊へ、そして比較的リーズナブルだった郊外エリアにも拡がりを見せています。マイホーム購入を検討中の方は、できるだけ早めに、街選び、物件選びに動き出すことをおすすめします。

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