
2024年8月、国の来年度予算を決めるたたき台「概算要求」が各省庁から提出されました。この概算要求には、来年度の住宅取得支援策や補助金などについても概要が示されており、おおよその方向性を知ることができます。
目次
1. 2025年度予算の概算要求が出揃う。住宅取得支援策はどう変わる?
まず、概算要求とは何なのか、住宅政策を決める省庁などについて知っておきましょう。
1-1. 政府の来年度予算のたたき台「概算要求」とは?
住宅購入支援などをはじめとした国の政策は、すべて年度ごとの予算に盛り込まれています。予算の概算要求とは、来年度の予算作成に向けて各省庁が重点政策をリストアップし、それぞれの政策についてどのくらいの予算が必要なのかという見積もりを財務省に提出するものです。例年8月末までに提出され、これをベースに来年度の予算が作成されることになります。
つまり、この概算要求を見れば、各省庁がどのような政策に重点を置いているかがわかります。また予算の大小はその事業の規模を表しますので、今年よりも予算が増えていれば、重要性が増している、減っていれば重要性が低くなっているということがわかります。
1-2. 住宅政策を決めるのはおもに国土交通省、環境省、経済産業省
一般の方が住まいを購入する際の支援や補助金など、住宅政策をつかさどるのは主に国土交通省です。しかし近年では住宅をはじめとする建築物の省エネ(=脱炭素)が国の重要政策となっているため、省エネに関連する予算は環境省や経済産業省でも計上されています。
今年度実施されている「子育てエコホーム支援事業」や「先進的窓リノベ事業」などは、この3省の合同事業となっています。
今回は、8月に提出された概算要求から、2025年度の住宅支援策を占ってみたいと思います。
2. 国土交通省、環境省、経済産業省。主要3省の重点政策とは?
それではまず、この3省の政策の柱を見ていきましょう。住宅購入に関連する項目からピックアップしてご紹介します。
2-1. 国土交通省の主要政策は「耐震化」と「脱炭素」。「子育て」はややトーンダウン
国土交通省(住宅局)の概算要求では、重点施策として以下の5点が挙げられています。

出典:国土交通省住宅局 令和7年度予算概算要求概要
2024年元旦に発生した能登半島地震では、高齢化率・旧耐震率が高い地域で、多数の住宅が倒壊するなど大きな被害が出たことから、住宅の耐震化を中心とした住まい・くらしの安全確保がトップに掲げられています。
また、3番目には「脱炭素」が挙げられ、今年度に引き続き、住宅の省エネ性能の向上に取り組む姿勢がうかがえます。この点については「2050年カーボンニュートラルの実現」という国の大目標に向け、以下のような中長期の目標も明示されています。
<省エネ化の予定・目標> 2025年 :省エネ基準適合の義務づけ 2030年 :ZEH・ZEB水準の省エネ性能適合を義務づけ 2050年 :ストック平均でZEH・ZEB水準の省エネ性能を目指す |
一方、前年の概算要求ではトップに掲げられていた「誰もが安心して暮らせる多様な住まいの確保」は4番目となり、「フラット35の金利引下げ等を通じた、子育て世帯等に対する住宅取得支援の強化」という施策は今年の施策から消えています。
総じて申し上げると、能登半島地震の発生により、大地震に対する対策の重要性が上がり、脱炭素は前年同様に継続、子育て世帯への支援はややトーンダウンしている印象を受けます。
2-2. 環境省の政策は「脱炭素」 続いて、環境省の概算要求を見てみましょう。

出典:令和7年度(2025年度)エネルギー対策特別会計概算要求 全体概要(環境省)
上記の通り、環境省の政策はすべて「脱炭素」と「2050年カーボンニュートラルの実現」という大目標を達成するための施策となっています。
建築・住宅関連の施策は「第一の柱-脱炭素でレジリエントかつ快適な地域・くらしの創造」に含まれており、予算総額は717億円から2,797億円へと大きく増加しています。
2-3. 経済産業省の重点政策も「脱炭素」
最後に経済産業省を見てみましょう。経済産業省は産業競争⼒の強化・経済成⻑等を使命としているため、住宅の省エネだけを目指しているわけではありませんが、他の2省と同様に「脱炭素」を重点政策のひとつに掲げています。
大きく7つの重点政策のうち、トップに挙げられる「国内投資拡⼤の継続・対⽇投資の拡⼤」という項目の中で「省エネルギー設備への更新を促進するための補助⾦」、「⾼効率給湯器導⼊促進による家庭部⾨の省エネルギー推進事業費補助⾦」など住宅に関連する予算が計上されており、具体的な事業としてエネルギー⾃給率の向上につながる先進技術の開発支援や、省エネ型住宅設備の普及に関する補助金などが挙げられています。
この3省の概算要求から、住宅政策の柱としては、やはり「脱炭素」(=省エネ)が今年度に引き続きその中心に位置づけられ、また年初に発生した能登半島地震を踏まえ、耐震をはじめとした「災害対策」の重要性が増していると読み取ることができます。
一方、子育て支援に関する項目は、前年と比べてトーンダウンしていますが、少子化が想定を超えるスピードで進んでいることは明らかなため、子育て世帯への支援や税制優遇はある程度継続されるものと考えられます。
3. 2025年度予算から来年度の住宅取得支援策(補助金)を大予測
各省庁の大方針がわかったところで、具体的な支援策や補助金などを予想してみましょう。
3-1. 新築住宅のZEH化支援は、省エネレベルを上げて継続見込み
国が進める重要政策である「脱炭素」は来年度も住宅政策の柱となりそうです。具体的には、新築住宅のZEH化支援と既存住宅のZEHリフォームの支援です。
環境省の概算要求には、「戸建住宅ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化等支援事業」として前年と同額の75.5億円が計上されています。(国土交通省・経済産業省との連携事業)

出典:戸建住宅ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化等支援事業
このことから、今年度と同様にZEH住宅に対する支援は継続とみられますが、2025年度から新築住宅の省エネ基準適合が義務づけられるなど、求められる省エネ性能のレベルが上がることから、補助金の対象となるレベルも一段引き上げられており、ZEHレベルでは55万円/戸、ZEH以上の性能をもつZEH+(断熱等級6)で90万円/戸となっています。
(1)戸建住宅のZEH、ZEH+化、高断熱化による省エネ・省CO2化を支援するため、以下の補助を行う。 ①戸建住宅(注文・建売)において、ZEHの交付要件を満たす住宅を新築する者に対する定額補助:55万円/戸 ②ZEH以上の更なる省エネと断熱等級性能6以上の外皮性能を満たした上で、省エネ機器の制御や設備の効率的運用等により再エネの自家消費率拡大を目指した戸建住宅(ZEH+)に対する定額補助:90万円/戸 ③上記①、②の戸建住宅のZEH、ZEH+化に加え、蓄電システムを導入、低炭素化に資する素材(CLT(直交集成 板))を一定量以上使用、又は先進的再エネ熱利用技術を活用する場合に別途補助:蓄電システム2万円/kWh (上限額20万円/台)等 ④上記②の戸建住宅のZEH+化については、高度エネマネ、おひさまエコキュート、 EV充電設備を導入する場合 も別途補助:高度エネマネ定額2万円/戸等 |
出典:令和7年度 概算要求 戸建住宅ZEH化等支援事業(環境省)
3-2.「先進的窓リノベ」「省エネリフォーム支援」は継続見込み
新築住宅だけでなく、既存住宅の省エネリフォーム(改修)に対する支援も継続される見込みです。
中でも住宅の省エネ効果の高い開口部(窓・ドア)の改修については、現在実施されている「先進的窓リノベ事業」とほぼ同額の1,300億円が計上されています。補助額は、工事金額の1/2相当額とされており、一定の性能以上のサッシやドアなどのリフォームは引き続き手厚い補助が受けられそうです。
また国土交通省では、外壁や屋根などを含めた省エネリフォームについて補助金が受けられる「住宅・建築物省エネ改修推進事業」も概算要求に計上されています。継続されれば、省エネ基準適合レベルで30万円/戸、ZEHレベルで70万円/戸程度の補助金が受けられることになります。

※出典:国土交通省住宅局 令和7年度予算概算要求概要
3-3. 既存住宅の耐震化の促進
能登半島地震で大きな被害が出たことにより、国土交通省の概算要求に新設されたのが、「住宅・建築物防災力緊急促進事業」です。この事業の2つの柱は、「既存住宅の耐震化」と「防災拠点の整備」で、300億円の予算が計上されています。
南海トラフ地震や首都直下地震のリスクが高まる中、令和12(2030)年までに耐震化をおおむね完了するという目標を掲げています。具体的には、昭和56年6月以前に建築された、いわゆる「旧耐震」建物の耐震診断や改修に対する補助金が拡充される見込みです。
3-4. エコキュート・エネファームなど省エネ設備の補助も継続見込み
経済産業省の概算要求では、エネルギー価格の上昇やエネルギー⾃給率の向上といった課題に対処するため、新たな脱炭素技術の社会実装・サプライチェーン構築等を推進するという目標を掲げ、以下の予算が計上されています。
省エネルギー設備への更新を促進するための補助⾦(350億円) ⾼効率給湯器導⼊促進による家庭部⾨の省エネルギー推進事業費補助⾦(580 億円) |
このことから、今年度に引き続きヒートポンプ型給湯器(エコキュート)、ハイブリッド給湯器、家庭用燃料電池(エネファーム)など省エネ型設備への補助金が予想されます。
これら3省の概算要求を見る限り、今年度実施されている3省合同の「住宅省エネキャンペーン」は、ほぼ同じ形で継続されると予想されます。
■住宅省エネ2024キャンペーン

公式サイト:https://jutaku-shoene2024.mlit.go.jp/
4. 東京都は太陽光パネル義務化がスタート。住宅ローン控除の継続はどうなる?
最後に「脱炭素」に向けた自治体の政策と、税制優遇についても触れておきましょう。
4-1. 東京都では太陽光パネルの設置が義務化へ
東京都では2025年4月から新築戸建への太陽光パネルの設置義務化がスタートします。当初は「大手住宅メーカー約50社」が対象となりますが、将来的に対象が拡大される可能性もあります。都は義務化にともない太陽光パネルの設置に対して40万円前後の補助金を交付し、また初期費用ゼロで導入できるリースプランなども提供するとしています。
背景には「2030年に新築戸建住宅の6割に太陽光パネルの設置を目指す」という国の目標があり、神奈川県相模原市など東京都以外の自治体でも同様の検討が始まっています。
4-2. 住宅ローン控除の子育て世帯優遇は2025年度も継続と予想
ここまで住宅関連の補助金について見てきましたが、もうひとつ注目されるのが住宅ローン控除です。今年度は子育て支援の一環として、子育て世帯と若者夫婦世帯の控除額が優遇されていますが、来年度は継続されるのでしょうか。
国土交通省が概算要求とともに提出した税制改正要望事項には、「令和7(2025)年度税制改正にて令和6年と同様の方向性で検討」と記載されており、来年度も同じ内容で継続という要望が出されています。
2023年の出生数が72.7万人(前年比▲5.6%)となり、2024年は70万人割れとなる予測もある中で、不動産の業界団体等からも強い要望が出されていることから、住宅ローン控除の優遇も継続される可能性が高いと予想されます。
~ 概算要求から見る来年度の住宅取得支援、いかがでしたでしょうか ~
インフレや円安により、地価・建築費が年々上昇する中で、高性能の住まいをリーズナブルに購入するためには、こうした補助金を上手に活用するのがポイントとなります。
今後、具体的な予算案が作成される中で、具体的な補助金額や条件などが決まっていくと思われますので、これからマイホームを購入される方は、しっかり情報収集しながら計画を進めていきましょう。
ご不明点や詳しくお知りたい事などがあれば、ぜひお近くの住住宅情報館にお問い合わせください。