
2025年4月、総務省は令和6年(2024年)の市区町村別人口移動データを公表しました。今回はこのデータから、子育て世帯に人気の街と街選びの変化について読み解いていきます。
目次
1. 子育て世帯に見られる街選びの変化
2025年、子育て世帯の街選びに微妙な変化が見られます。これまでの「都心から郊外へ」といった大きな流れから、さらなる郊外化と都心回帰といった2つの変化が生まれているようです。
1-1. 子育て世帯は、従来から「都心から郊外へ」という傾向が強い
子育て世帯の転居傾向として「都心から郊外へ」が挙げられます。進学や就職で都心部に住む人が、結婚や出産を機に、生活コストが安く子育て環境のよい郊外エリアに住宅を購入するケースが多く見られます。
1-2. 2023年は「郊外から郊外へ」という動きも見られた
近年はこの動きに加えて、「郊外(近郊)から郊外へ」という動きも見られます。この背景には不動産価格の上昇があります。都心部の不動産価格が上昇し、それが近郊のターミナル駅や郊外へと広がる中で、さらにリーズナブルな都心40~50キロ圏の郊外へ転居する人も増えていました。
1-3. 2024年は、一部に都心回帰の動きも見られる結果に
2024年はこうした郊外への転居に加えて、都心回帰の動きも一部に見られました。これはコロナ禍で広がったテレワークの巻き戻しが背景にあると思われます。コロナ終息後に、多くの企業でテレワークの廃止・縮小が進み、通勤に便利な都心部の需要が高まってきていると考えられます。
今回は、最新の人口データから、こうした子育て世帯の街選びの変化を探っていきます。
※本コラムのデータは「総務省 住民基本台帳人口移動報告(平成6年結果)」の年少者(0~14歳)転入超過数をもとに集計しています。
※転入超過数とは他の市区町村からの「転入数」が「転出数」を上回った数です。
2. 首都圏で子育て世帯の人口が増えた街ランキング
それでは早速、首都圏で子育て世帯の増えた街・減った街を見てみましょう。
2-1. 首都圏 年少者の転入超過数数トップ20
首都圏で2024年に子育て世帯が増えた街トップ20は以下の通りです。

2024年の転入超過数トップは東京都中央区でした。例年、東京23区がこのランキングの上位に入ることはほとんどありませんが、東京オリンピックの選手村跡地で分譲された大型マンションが要因とみられます。このマンションの抽選倍率は最高600倍以上と、改めて都心ニーズの高さを認識させる結果となりました。
また、3位の千葉市美浜区も、幕張ベイパークなど大規模マンションの入居が相次いだことから、前年の39位から3位へと大きく順位を上げています。
一方、町田市(2位)、柏市(4位)、八王子市(5位)のほか、茅ヶ崎市、鎌倉市、平塚市といった湘南エリアや、印西市、海老名市、久喜市などの都心40~50キロ圏は、子育て世帯に人気の高い街として毎年上位にランクインしています。
ちなみに、2023~2024年の2年連続でトップ10入りした街は以下の通りです。

2-2. 首都圏 年少者の転入超過数数ワースト20
次に、子育て世帯の転入超過数が減少した街を見てみましょう。(▲マイナス)

子育て世帯が減少した街は主に都心部とその近郊であり、トップ20のうち14エリアが東京23区です。また数年前まで人気の高かった川崎市や市川市、川口市といった東京に近接するエリアも転出超過となっており、価格上昇による需要の低下がうかがえます。
2-3. 年少者の転入超過数数 都道府県別ランキング
さらに、都道府県別にトップ10とワースト10を比較してみるとこの傾向が鮮明になります。
①東京都
東京都のトップ10は、特殊要因があった中央区を除けば、ほぼ多摩エリアです。町田や八王子といったビッグターミナルだけでなく、国分寺市や西東京市、日野市など周辺の街にも子育て世帯の流入が広がっていることがわかります。一方、ワースト10はすべて23区で、価格上昇の大きい都心エリアから子育て世帯が流出していることがわかります。

②神奈川県
神奈川県トップ10は、湘南エリアと県央エリアが中心で、一部横浜市の郊外部がランクインしています。海老名市や小田原市などやや通勤に時間のかかるエリアがトップ10となる一方、ワースト10は、ほぼ川崎市と横浜市が占めており、神奈川県でも「近郊から郊外へ」という流れが加速していることがうかがえます。

③埼玉県
埼玉県も神奈川県と同様に、トップ10にはさいたま市の郊外エリアと都心30~50キロ圏のエリアがランクインし、ワースト10には東京近接の川口市、戸田市、蕨市などが並びます。

④千葉県
千葉県も同様に、トップ10は特殊要因のあった美浜区を除けば、印西市や野田市、木更津市などの郊外エリアがランクインしており、市川市、船橋市といった人気の高かったエリアがワースト10上位となっています。

こうしたランキングからわかるのは、都心部だけでなく、都心10~20キロの近郊エリアにも価格上昇が広がったことにより、一般的な子育て世帯にはやや買いにくい状況になっていることです。不動産価格の上昇により、子育て世帯の住まい選びは「都心から郊外へ」さらに「郊外から郊外へ」という流れが続いています。
3. 前年から大きな変動があった街
こうした「子育て世帯の郊外化」という大きな流れの中で、2024年は一部に都心回帰の動きも見られました。前年との比較から検証してみましょう。
3-1.転入超過数が増加・改善した街
まず、前年と比較して、転入超過数が大きく増加した、またはマイナスが大きく改善した街をランキングしました。
大型マンションの供給があった東京都中央区だけでなく、大田区、杉並区、足立区、目黒区などの23区や横浜市などは、転入超過数のマイナスが縮小しています。「郊外化」という大きな流れが続く中で、23区や近郊エリアに回帰している兆候が感じられます。

3-2. 転入超過数が大きく減少した街
一方で、転入超過数が前年と比較して大きく減少した街は次の通りです。
2位の茅ヶ崎市や6位の流山市は、子育て世帯に人気が高い街として知られた街でしたが、前年と比較すると転入が減少しています。また、4位の川口市は前年からの転出傾向がさらに強まっており、5位のさいたま市浦和区は前年の転入超過から転出超過に転じています。
子育て世帯の流入が増加すると、不動産価格が上昇するだけでなく、保育園や学校などの需要が急激に高まりサービスが低下するケースも見られます。こうしたエリアの人気にも少しずつ陰りが見えているのかもしれません。

4. 子育て世帯の住まい探しを占う「郊外化の拡大」と「都心回帰」の2つのトレンド
2024年の子育て世帯の転居傾向いかがでしたでしょうか。最新の人口データから「子育て世帯の郊外化」という大きな流れと、一部に「都心回帰」の兆候が見られた結果となりました。今後住まい選びはどのように変わっていくのでしょうか。
4-1. 不動産価格の上昇が続けば、郊外化の流れが加速する可能性も
まず大きな流れである「郊外化」、その主な要因は不動産価格の上昇です。23区のマンション平均価格はすでに1億円超え、近郊ターミナル駅などの価格も大きく上昇しています。平均的な会社員にはやや購入しにくい水準となったことで、リーズナブルな都心40~50キロ圏や、各停駅などに需要が広がっています。東京に近接する川崎市、川口市、市川市などが軒並み順位を下げているのはその象徴と言えるでしょう。
現在も地価や建築費の上昇傾向は続いており、価格が下がる兆候はまだ見られません。もしこのまま高止まりが続けば、郊外化はさらに加速し、子育て世帯の住まい探しは40~50キロ圏がメインとなっていく可能性があります。
4-2. 都心回帰の要因は通勤環境の変化と資産効果
一方、一部に見られた都心回帰の要因は、通勤環境の変化と資産効果と言えるでしょう。
コロナ終息後、テレワークを廃止・縮小する企業が増え、通勤に便利な都心部に住みたいというニーズが高まっています。また比較的所得の高い共働き世帯は、通勤の利便性を重視する傾向が強く予算にも余裕があることから、湾岸エリアや都心部マンションをペアローンや長期ローンを使って購入する傾向が見られます。こうした都心部の物件は値下がりしにくいので、資産として保有しつつ今後の値上がりを狙いたいといった心理も都心回帰の要因のひとつと思われます。
4-3. 住まい選びはますます難しく。価格動向や金利に注意しながら進めよう
このように、価格上昇による郊外化と都心回帰という2つのトレンドが見られる2025年の住まい探し。人気の街も目まぐるしく入れ替わり、エリア選びがますます難しくなりそうです。
また、いわゆるトランプ関税や世界各地の紛争などにより、景気動向や金融情勢も不安定な状況が続いています。これから住まいを購入される方は、価格相場や金利の動きに注意しながら街選び、物件選びを進めていきましょう。
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