2027年からZEH基準が引き上げに!?住宅の省エネがさらに強化へ

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住まいの省エネ政策が急速に進展しています。経済産業省は、2025年2月に閣議決定された「第7次エネルギー計画」および「GX2040ビジョン」を受け、今後の具体的なエネルギー政策・施策に関する資料を公表しました。今回は住宅分野の目玉である「ZEH基準の引き上げ」について詳しく解説します。

目次

1. そもそもZEHとは?

最初に、そもそもZEHとは何なのか、住宅の省エネ基準とともに確認しておきましょう。

1-1. ZEHの定義と普及が推進される背景

ZEHとは「net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略で、実質的なエネルギー消費量ゼロの住宅をいいます。ZEHを構成する要素としては次の3つが挙げられます。

①断熱性

住まいの外壁や屋根、サッシや窓ガラス等の断熱性を向上しエネルギー消費を抑える。

②省エネ設備

エネルギー消費量の少ない給湯器やエアコンなど省エネ効果の高い設備の導入。

③再エネ(創エネ)

太陽光発電など、自らエネルギーを創り利用できる設備の設置。

国がこうした省エネ性能の高い住宅を推進する背景には、「2050年カーボンニュートラル(脱炭素)の実現」という大きな目標があります。この目標を達成するため、国内のCO2排出量の約15%を占める家庭部門の省エネは、住宅政策の中核とされているのです。

1-2. 現在の省エネ基準、ZEH基準は?

ZEH住宅の断熱性能を示す指標として「断熱等性能等級」と「一次エネルギー消費量等級(削減率)」があります。 2025年4月から「省エネ基準」の適合義務化により、断熱等性能等級「4」または一次エネルギー消費量等級「4」未満の建物は建築ができなくなりましたが、ZEH基準はこれを上回る断熱等性能等級「5」かつ一次エネルギー消費量等級「6(削減率20%)」以上と定められています。

■現行の省エネ基準とZEH基準

1-3. なぜ今回ZEH基準が引き上げられるのか?

政府は、上記の「現行のZEH基準」を2030年以降に新築されるすべての住宅で義務化することを目指しています。また2050年までに国内すべてのストック(新築+既存住宅)平均で、ZEH水準を達成するという目標を掲げています。

もしこれらが実現すれば、数年後には現行のZEHは「建築できる最低基準」となり、さらにストック全体の平均を引き上げるため、新築住宅には現行ZEHを超える高い省エネ性が求められることになります。

今回の提言はこれらを実現するための施策案ですが、すでに今年度実施されている「子育てグリーン住宅支援事業」では、現行ZEHを大きく上回る「GX志向型住宅」という基準が設けられ、過去最大の補助金(160万円/戸)が交付されています。

省エネ基準の義務化からZEH義務化、さらにZEH基準の引き上げへと、国が住宅の省エネ化に対する本気度がうかがえます。

2. 現行ZEHと新ZEHの違いとは?引き上げの内容とスケジュール

ZEH基準引き上げの背景がわかったところで、具体的に何が変わるのかを見ていきましょう。

2-1. 見直し後に想定される主な変更点

今回の提言では、住宅分野の省エネ政策について様々な提言がされていますが、ZEH基準に関わる変更は以下の3点です。

①断熱性能のさらなる強化

断熱性能については、現行の断熱等級「5」を「6」に、一次エネルギー消費量削減率を「20%」から「35%」にそれぞれ引き上げます。現行ZEHでは、建物そのものの断熱性能をそれほど上げなくても、太陽光発電の容量や省エネ設備の導入で基準をクリアできてしまう点が一部で問題視されていたこともあり、新ZEHでは本来的な建物の断熱性能がより厳格化されます。これにより、高性能断熱材・三層ガラス・高断熱サッシなどの採用が不可欠となりそうです。

②蓄電池の設置

2つ目は蓄電池の設置です。現行ZEHでは、太陽光パネルで発電した電力の多くをリアルタイムに消費するしかなく、自家消費の手段は限られていました。蓄電池の導入が進んでいなかったため、余剰電力は売電に回され、その収入で電力を補うという運用が一般的でしたが、現在では売電価格の低下により、自家消費した方がトクという状態になっています。 今回の提言では「自家消費率の高さ」、つまり発電した電力を蓄電し、自分の家で使い切ることが重視されています。今後はリアルタイムでの消費に加え、蓄電池や電気自動車(EV)などと連携しながら自家消費率を高め、エネルギーの自立性を重視する施策に転換していくことになります。

③高度エネルギーマネジメントシステム(HEMS)の設置

エネルギーの自立性を重視する背景には、「ディマンドレスポンス(DR)」という考え方があります。DRとは、電力需要のピーク時には蓄電池に貯めた電力を使用(放電)し、需要の少ない深夜などに蓄電を行うことで、電力の需要と供給のバランスを調整し、安定したエネルギー供給を図る仕組みです。 このような高度な電力管理をおこなうために導入されるのが「HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)」です。HEMSは家庭内のエネルギー使用状況を可視化し、発電や蓄電・放電を最適にコントロールすることで、家庭内の省エネを実現するとともに、電力会社と連携してDRへの対応を可能にします。

このように、現行ZEHの「断熱+省エネ+再エネ」という考え方から、新ZEHの「高断熱+エネルギーの自立化+スマート制御」へと進化しつつあります。

出典:「更なる省エネ・非化石転換・DRの促進に向けた政策について」(経済産業省)

2-2. 基準見直しのスケジュール

今回の提言によれば、新ZEH基準は、2027年度から認証開始される予定ですので、わずか2年後には、ZEH基準が大きく引き上げられることになりそうです。

出典:「更なる省エネ・非化石転換・DRの促進に向けた政策について」(経済産業省)

省エネ基準について

3. 住宅購入者はZEH基準の引き上げにどう備えればよいのか?

このように、ZEH基準引き上げが目前に迫る中で、これから住まいを購入しようとする人はどのように備えればよいのでしょうか。

3-1. 新ZEHが住まいづくりにもたらすメリット

今回の提言通り2027年から基準が引き上げられるとどのような影響があるのでしょうか。

新ZEHがもたらすメリットを見てみましょう。

①光熱費の削減

新ZEHの直接的なメリットは光熱費の削減です。現行ZEHでも実質光熱費をゼロにすることは可能ですが、さらに自動車の燃料等まで含めた完全なゼロエネルギーが実現するかもしれません。また停電時にも太陽光発電や蓄電池によって普段と近い生活を送ることができるので、地震や台風などの災害に強いというメリットもあります。

②快適で健康的な住環境

住まいの断熱性が向上することによって空調効率が上がるので、冬は暖かく夏は涼しい快適な住環境が実現します。また室内の温度差が小さくなるため、ヒートショックによる心疾患や、カビなどによるアレルギー疾患の予防にもなり健康的な住まいになります。

③資産価値の維持・向上

今年度の「子育てグリーン住宅支援事業」にも見られるように、GX志向型住宅のような高性能な住宅には手厚い補助金が交付されます。また、住宅ローン控除や住宅資金贈与などの税制優遇についても、性能の高い住宅ほど優遇が大きくなる傾向があります。

④補助金・税制優遇

今年度の「子育てグリーン住宅支援事業」にも見られるように、GX志向型住宅のような高性能な住宅には手厚い補助金が交付されます。また、住宅ローン控除や住宅資金贈与などの税制優遇についても、性能の高い住宅ほど優遇が大きくなる傾向があります。

3-2. 新ZEHが住まいづくりにもたらすデメリット

こうしたメリットがある反面、ZEH基準引き上げには以下のようなデメリットもあります。

建築コスト・維持コストの上昇

高性能な建材や省エネ設備の導入による建築コストの上昇が予想されます。また設備機器は、定期的な点検や修理などが必要ですので、住みはじめてからの維持コストが上昇する可能性もあります。 ただし、こうしたコスト増は光熱費の削減などにより将来的に回収できる可能性が高く、長期的にはメリットが上回ると考えられます。このコスト上昇分と削減分、また補助金や税制優遇などを含めたシミュレーションはとても重要です。プロの助言を受けながらしっかり検討することをおすすめします。

3-3. プランニングを進める上での留意点

これから住まいのプランニングを進める方は以下のような点に留意しておきましょう。

まず今後のZEH基準引き上げについて最新情報をチェックしておくこと。今回の提言はあくまで案であり、正式決定されたものではありませんので、今後の議論によっては内容が変わる可能性があります。

とは言え、今年度のGX志向型住宅にも見られるように、省エネ基準の強化はすでに始まっており、この方向性が根本から見直される可能性は低いと言えます。したがって、GX志向型住宅で打ち出された「断熱性能の強化」と「蓄電池やHEMSを活用した自家消費とDR対応」の流れは踏襲されることを前提に検討を進めていくことをおすすめします。 逆に現行のZEH基準や省エネ基準で建てたいという方は、新基準が施行される前に着手できるよう、検討を急ぐ必要があるでしょう。

3-4. 家づくりのパートナー選びで気をつけたいポイント

最後に住宅メーカーなどのパートナーを選ぶ際のポイントについて解説します。

今や多くの住宅メーカーが省エネや高断熱をうたっていますが、その取り組みは会社によって様々です。ひとつの目安としては、ZEHの普及に向けて積極的に取り組んでいる事業者が登録された「ZEHビルダー/プランナー」という制度がありますので、こうした情報を参考にするのもひとつの方法です。

(参考)ZEHビルダー/プランナー登録制度

またひと口に「ZEH対応」と言っても、会社によって仕様が異なるので、断熱材や窓、省エネ機器などの仕様を確認してみることも必要でしょう。 また補助金に関する知識と経験も重要です。「子育てグリーン住宅支援事業」など、国の補助金は、この制度の登録事業者しか申請できません。また、よりレベルの高いGX志向型住宅の補助金申請は、事業者がGXへの協力表明を行っていることが前提となっています。補助金に対する取り組みを見る上で参考にしてみるとよいと思います。

(参考)GX建築事業者の検索

4.  ZEH基準の引き上げをチャンスととらえて住まいづくりに活かそう

今回公表された提言は、今後の日本の住まいがどこを目指しているのかを示す重要な指針となります。ZEH基準の引き上げを、単なる「規制の強化」ととらえるのではなく、より高性能な住まいを購入するための後押しと考え、住まいづくりに活かしていきましょう。

ZEH住宅は、もはや一部の人が建てる先進的な住まいではなく、日本の標準仕様になりつつあります。これから家を建てる方は、家づくりのスタンダードが大きく変わっていることを念頭におき、プロのアドバイスを受けながらしっかり検討を進めていきましょう。

住宅情報館は、ZEHビルダー登録事業者、および子育てグリーン住宅支援事業の登録事業者です。ZEH住宅や補助金のご相談は、お近くの店舗までお気軽にお問い合わせください。

出典:更なる省エネ・非化石転換・DRの促進に向けた政策について(経済産業省)

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