「新耐震」でも多数倒壊。能登半島地震から考える住まいの耐震性能

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2024年1月1日に発生した能登半島地震。被災された皆様に心よりお見舞い申し上げますとともに、1日も早い復興をお祈りいたします。最大震度7を観測したこの地震では、安全と考えられていた「新耐震」の家屋でも多数の倒壊が見られました。今回は、改めて現行の耐震基準を整理し、住まいの耐震性能について解説します。

目次

1. 能登半島地震では、安全なはずだった「新耐震」の家屋も多数倒壊

今回の地震では、いわゆる「新耐震」の家屋にも多数倒壊が発生し、関係者に衝撃を与えました。なぜ安全とされていた新耐震で倒壊が起きたのか、その要因を探っていきましょう。

1-1. そもそも「新耐震」とは?

そもそも「新耐震」とは、日本の耐震基準が大きく変わった1981(昭和56)年以降の耐震基準を指します。震度7クラスの地震にも倒壊しない基準とされており、建物の損傷はあったとしても、そこで暮らす人の命は守られると想定されていました。今回、想定外の事態を受け、国土交通省は、被害状況や倒壊の原因などを詳細に調査することを目的に「令和6年能登半島地震における建築物構造被害の原因分析を行う委員会」を立ち上げました。国土交通省は、この調査に関して「現行の耐震基準の妥当性について技術的に検証するのが最も重要なポイントになる」としています。

1-2. 能登半島地震で「新耐震」の家屋が倒壊した要因

倒壊が発生した詳細な原因は、有識者の分析を待たねばなりませんが、現時点で予想される原因としては、以下のようなものがあります。

まず、新耐震基準が施行されてからすでに40年近くが経過しており、家屋の劣化が進んでいると考えられること。また、昨年から能登半島エリアで地震が頻発していたことなどが挙げられます。新耐震基準は震度7クラスの地震に「一度だけ」耐えられることを前提としているため、複数回の地震のダメージに耐えられなかった可能性があります。

2. 「旧耐震」「新耐震」ってなに?日本における耐震基準の変遷

地震国とも呼ばれる日本では、これまで大きな地震が発生するたびに、耐震基準の見直しが図られてきました。これまでの耐震基準の変遷を振り返っておきましょう。

2-1. 耐震基準を規定する「建築基準法」。その変遷とは

建築物の耐震基準を規定しているのは「建築基準法」という法律ですが、1950年の施行から、これまで大きな改正が2回おこなわれています。

1回目は1981年で、地震の横揺れに耐えるための「耐力壁」の量が規定されました。

※耐力壁:柱と柱の間に「筋交い」や「構造用面材」を釘留めして、揺れに対して変形しにくくした壁

2回目は2000年で、1995年の阪神淡路大震災で多くの木造家屋が被害を受けたことをきっかけとしたものです。この改正では、耐力壁を配置するバランスや、土台・柱・梁など金物を使って強固に接合することなどが義務づけられました。

2-2. 1981年~2000年は、新耐震基準のグレーゾーン

このような法改正を経て、一般的には1981年以前の建物を「旧耐震」、1981年以降の建物を「新耐震」と呼んでいますが、上図の通り、新耐震の中でも2000年の前と後で耐震性が大きく異なることがわかります。

今回の能登半島地震で倒壊した家屋の中には、現行の耐震基準になる前の「新耐震」、つまり1981年~2000年に建てられた家屋も多く含まれていたと見られています。この年代の家屋は「新耐震のグレーゾーン」とも言われ、築年数なども考慮すると、今後発生する震度7クラスの地震に耐えられるのかどうか不安が残ります。

2-3. 中古一戸建の耐震性は「築年=2000年」が大きなポイント

こうした背景のもと、これから中古住宅(木造一戸建)を購入する方は、築年=2000年をひとつの目安として物件探しを進めましょう。2000年以降に新築された物件であれば、現行の耐震基準はクリアしていると考えられます。それ以前の物件を購入する際には、専門業者による耐震診断などを受けるなど、耐震性のチェックをおすすめします。

3. これから新築住宅を購入する場合の耐震基準の考え方

ここまで、耐震基準の変遷を振り返って来ましたが、これから新築住宅を購入する方向けに、今後の耐震に対する考え方を解説します。

3-1. 建築基準法は、必ず守らなければならない「最低基準」

ここまでご説明してきた建築基準法における耐震基準は、あくまで法律上の義務であり、これをクリアしていれば絶対安全ということではありません。言わば、すべての建築物がクリアすべき「最低基準」という位置づけです。したがって、これから住まいを新築・購入する方は、もう一段上の安全性を目指して、検討を進めていく必要があります。

3-2. 耐震性に対する考え方は変わりつつある

阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震などの大災害を経て、日本の耐震に対する意識は大きく変わりつつあります。以前は、震度7クラスの地震に対して「倒壊しない」こと、つまり建物が損傷しても人命が守られればよいという考え方でした。しかし近年では、余震を含む「複数回の地震に耐えられる」こと、地震後も自宅にとどまる「自宅避難が可能である」こと、そして複数回の地震を経ても「軽い補修をすれば住み続けられること」等が基準となっています。

3-3. 耐震性は「建築基準法」から「耐震等級」へ

こうした流れを受けて、耐震性の評価も建築基準法上の基準から「耐震等級」へと変わっています。耐震等級とは、2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」による耐震基準で、下表の通り「1」~「3」の等級があります。

■品確法の耐震等級

  等級1  建築基準法と同等の耐震性能震度6強~7の地震でも、即倒壊はしない。
ただし、大規模修繕や建て替えとなる可能性がある。
  等級2  建築基準法の1.25倍の耐震性能震度6強~7の地震でも、一定の補修で住み続けられる。
学校や避難所といった公共建築物レベル
  等級3  建築基準法の1.5倍の耐震性能震度6強~7の地震でも、軽い補修で住み続けられる。
消防署や警察署といった災害復興の拠点となる防災施設レベル

端的に言えば、等級1は「即倒壊しない」レベル、等級3は「複数回の揺れに耐えて、住み続けられる」レベルです。ちなみに2016年の熊本地震では、震度7の揺れが続けて2回発生しましたが、耐震等級3の建物の倒壊はゼロと報告されています。

現在、多くの住宅メーカーはこの耐震等級をベースに設計・建築をおこなっており、最高等級である等級「3」を標準仕様としている会社も少なくありません。

これから住まいを新築・購入する方は、できるだけ耐震等級「3」、最低でも「2」を目安として検討を進めましょう。

3-4. 能登半島地震の調査により耐震基準が見直される可能性も

前述の通り、今回の能登半島地震では「新耐震」の家屋でも多くの倒壊が見られたことから、今後おこなわれる調査の結果によっては、2000年以来の法改正がおこなわれる可能性があります。また、「旧耐震」「新耐震」という一般的な分類も見直されるかもしれません。

もし見直しがおこなわれれば、性能の高い住宅に適用される税制優遇(住宅ローン控除等)や、住宅ローンの金利優遇などにも影響を及ぼす可能性があります。

4. 万一の地震に備える、地震保険のメリット・デメリット

最後に、地震のリスクに備える保険、「地震保険」について解説します。地震保険の加入率は2022年の全国平均で約35%ですが、能登半島地震で被害の大きかった石川県では約30%、富山県では約27%と全国平均よりも低かったようです。改めてそのメリット・デメリットを知っておきましょう。

4-1. 地震保険の概要

地震保険は、地震による家屋の倒壊・損傷、地震にともなう火災、津波など、地震による被害を補償する保険です。こうした地震を原因とする損害は、通常の火災保険ではカバーされません。また、地震保険は単独で加入することができず、必ず火災保険とセットで加入します。補償額は、原則として火災保険の30~50%の範囲内(建物は5,000万円、家財は1,000万円が限度)となります。

※保険会社によっては特約により100%補償される保険商品もあります。

4-2. 地震保険に加入するメリット・デメリット

地震保険に加入するメリットは、言うまでもなく地震による損害の補償です。建物・家財ともに加入できますので、家屋の損傷、液状化や地盤沈下による建物の傾き等だけでなく、家具・家電など家財の損害も補償対象となります。また、地震保険料は保険料控除により、所得税で最大5万円、住民税で2.5万円所得控除することができます。

一方、デメリットは保険料が比較的高いことと、補償額が火災保険の半額にとどまることです。したがって、地震保険に入っていれば保険で住まいを建て直せるというものではなく、あくまでも生活再建のための資金を迅速に得るための保険という位置づけになります。

4-3. 耐震等級の高い建物は保険料が半額になる

耐震性が高く壊れにくい建物は地震による被害がより抑えられることから、耐震等級の高い建物は、保険料の大幅な割引が受けられます。耐震等級「3」の建物なら保険料は半額に、「2」でも30%の割引となります。

■ 耐震等級による地震保険料の割引

耐震等級3または免震建築物50%割引
耐震等級230%割引
耐震等級110%割引

5. 震度7クラスの地震はいつ来ても不思議ではない。耐震性に配慮した家づくりを

冒頭に申し上げた通り、今回の能登半島地震では、比較的安全だと言われていた「新耐震」の建物も倒壊するなど、想定外の被害が多く発生しました。これまでも大地震が発生するたびに耐震基準が強化されてきましたが、それでもまだ充分とは言えないのかもしれません。

住まいの安全・安心に加えて、保険料の割引なども考慮すれば、耐震性能を高めることは決して無駄な投資ではありません。これから住まいを建てる方は、家族の安全・安心のためにも耐震性に配慮した家づくりを目指しましょう。

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