
昨年11月に令和5年度補正予算が成立し、翌月12月には令和6年度の税制大綱も発表され、2024年度の住宅税制、住宅取得支援策がほぼ出揃いました。今回は、住宅ローン控除や子育て世帯の住宅取得にかかわる補助金などについて詳しく解説します。
※本記事の内容は「令和6年度税制改正の大綱」をもとに執筆しています。実施は関係法令が国会で成立することが前提となります。
目次
1. 2024年の税制と補助金のポイントは「省エネ」と「子育て&若者夫婦」
まず、2024年度の税制、補助金などに関わる背景について解説します。
1-1. 不動産価格は依然として上昇傾向が続く
まず1つ目のポイントは、不動産価格の上昇です。2013年に始まった金融緩和をきっかけに、都市部の不動産価格は上昇を続け、コロナによる一時的な落ち込みはあったものの、コロナ明けの2022年以降は、円安やインバウンド回復などにより上昇が加速しています。
都心部だけでなく、郊外や地方都市にも上昇が拡大しており、住宅購入者にとっては購入しづらい状況が続いています。しかし、住宅の省エネ性・耐震性などの性能向上を図りたい政府は、新たに住宅の購入やリフォームを行う方に対して、大規模な支援策の追加・継続を行っています。
1-2. 政府は「2050年カーボンニュートラル」に向け、住宅の省エネに本腰
2つ目のポイントは、住宅の省エネ化です。政府は「2050年カーボンニュートラル(脱炭素)」に向け、エネルギー消費の約14%を占める家庭での省エネに本腰を入れており、断熱性の高い住宅や、太陽光発電などの創エネに対する支援を拡大しています。

1-3. 「異次元の少子化対策」で、子育て世帯の支援を強化
岸田内閣の目玉政策でもある「異次元の少子化対策」。2023年4月には、こども家庭庁が発足し、少子化対策や子育て支援に関する積極的な議論が進められています。家計の中で大きな割合を占める「住居費」の面でも、子育て世帯や、若者夫婦世帯を支援する動きが本格化しています。
このような背景のもと、2024年の税制改正、住宅取得支援はどうなるのでしょうか?
今年度の大きなポイントは、「住宅ローン控除」、「非課税贈与」、「子育てエコホーム支援事業」の3つです。具体的に見ていきましょう。

2. 【住宅ローン控除】子育て世帯・若者世帯の控除上限額が引き上げに
2-1. 住宅ローン控除とは?
住宅ローン控除とは、毎年末の住宅ローン残高の0.7%が、最長13年間にわたり、所得税(住民税)から控除される制度です。例えばローン残高が4,000万円であれば、28万円がその年の所得税(住民税)からキャッシュバックされるイメージです。節税効果はトータルで数百万円にも及ぶ「持ち家最大のメリット」と言えるでしょう。
2-2. 住宅ローン残高の上限が縮小されるも子育て世帯は優遇
しかしこの制度は、住宅ローン金利(変動)が0.5%前後と低水準であることから、持ち家を優遇し過ぎだという意見もあり、2024年から上限額が500万円~1,000万円縮小されました。しかし、昨今の価格上昇や子育て支援強化の流れから、子育て世帯・若者夫婦世帯に限って、前年の水準が維持されることになりました。
2-3. 子育て世帯・若者夫婦世帯の上限額はどうなる
2024年の住宅ローン控除の上限額は以下の通りです。省エネ性能の高い「認定住宅」では、最大5,000万円が上限となり、節税効果は13年間で455万円となります。

※新築住宅または中古再販住宅の場合 ※控除額の1万円以下四捨五入 ※認定住宅とは:長期優良住宅または低炭素住宅の認定を受けた住宅
なお、住宅ローン控除における、子育て世帯・若者夫婦とは、以下の通りです。
①子育て世帯:19歳未満の子どものいる世帯
②若者夫婦世帯:夫婦いずれかが40歳未満の世帯
※年齢の判定は居住開始年の12月31日時点となる見込み
2-4. 子育て世帯の優遇は1年限りの可能性も。住宅ローン控除の注意点
このように、子育て世帯・若者夫婦世帯には、非常に手厚い措置となった今年の住宅ローン控除ですが、2025年以降の継続についてはまだ決まっていません。つまり、今年がラストチャンスになる可能性もあるので、住宅ローン控除を最大限に利用したいという方は2024年末までの入居を目指しましょう。
また、2024年以降に建築確認を受ける建物で、省エネ基準に適合しない住宅は、住宅ローン控除の対象外となりましたので注意が必要です。
-1024x602.jpg)
3. 【非課税贈与】両親などからの非課税贈与特例が3年間延長
税制改正の2つ目の大きなポイントは、両親や祖父母からの資金援助(贈与)が非課税になる「住宅取得資金贈与の特例」の延長です。
3-1. 住宅取得資金贈与の特例とは?
住宅取得資金贈与の特例とは、親や祖父母(直系尊属)から、住宅購入資金の贈与を受けた場合に、一定額まで贈与税が非課税となる特例です。通常、親などから贈与を受けると、基礎控除(年110万円)を超える部分について贈与税が課税されます。
例えば、成人の子どもが親から年1,000万円の贈与を受けた場合の贈与税は177万円と、贈与額の2割近くに及びます。しかし、この特例を使うことにより贈与税がゼロとなる、購入者にとって非常にメリットの大きな制度です。
3-2. 非課税限度額は最大1,000万円。ただし省エネ基準は「ZEH以上」に この特例により非課税で贈与できる限度額と条件は以下の通りです。
住宅性能等(いずれかに該当) | 非課税限度額 | |
質の高い住宅 | ①省エネ性能がZEH水準(※)以上 ②耐震等級2以上又は免震建築物 ③高齢者等配慮対策等級3以上 | 1,000万円 |
一般住宅 | 上記①~③に該当しないもの | 500万円 |
※ZEH水準:断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6
上記の通り、質の高い住宅については1,000万円(基礎控除と合わせて1,110万円)までの資金援助が非課税となります。ただし今回の改正で、新築の省エネ基準が従来から1段階厳しくなり「ZEH水準以上」となりました。
なお、中古の場合は従来と同じ省エネ基準(断熱等性能等級4又は一次エネルギー消費量等級4)以上でこの特例を受けることができます。
3-3. 住宅取得資金贈与の特例を使うときの注意点
住宅取得資金贈与の特例は、購入者に大きなメリットがある反面、下記のような細かい条件が定められています。
①直系尊属から贈与を受けること(叔父・叔母、配偶者の親などは対象外)
②贈与を受ける人の所得が年2,000万円以下であること
③居住開始前までに贈与を受けること
④贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住開始すること
⑤贈与を受けた年の翌年3月15日までに申告書等を提出すること
⑥取得する住宅の床面積が50㎡以上(所得1,000万円以下の場合は40㎡以上)
これ以外にも様々な要件がありますので、両親などからの資金援助を検討されている方は、必ず不動産会社のスタッフや税理士など、専門家に相談しながら慎重に進めるようにしましょう。

4. 【子育てエコホーム支援事業】省エネ住宅に最大100万円の補助金
ここまで税制面での改正を見てきましたが、2024年の住宅購入支援(補助金)の目玉は、最大100万円の補助金が受けられる「子育てエコホーム支援事業」です。
4-1. 「子育てエコホーム支援事業」とは?
子育てエコホーム支援事業は、その名の通り、子育て世帯・若者夫婦世帯の省エネ住宅の購入を後押しする制度です。新築住宅で対象となるのは注文住宅と分譲(建売)住宅で、補助金額は最大100万円/戸です。
昨年の「こどもエコ住まい支援事業」が、年度途中で予算に達し、申請が打ち切られてしまったことを受けて、今回の予算は、昨年の約1,700億円から2,100億円へと大きく上積みされています。
4-2. 「子育てエコホーム支援事業」の対象となる世帯と補助金額は?
この事業の対象となる「子育て世帯」、「若者夫婦世帯」は以下の通りです。住宅ローン控除とは年齢判定が異なりますので注意しましょう。
子育て世帯 | 申請時点において、子を有する世帯。 子とは令和5(2023)年4月1日時点で 18 歳未満(すなわち、平成17(2005)年4月2日以降出生)とする。ただし、令和6(2024)年3月末までに工事着手する場合においては、令和4(2022)年4月1 日時点で 18 歳未満(すなわち、平成16(2004)年4月2日以降出生)の子とする。 |
若者夫婦世帯 | 申請時点において夫婦であり、令和5(2023)年4月1日時点でいずれかが39歳 以下(すなわち、昭和58(1983)年4月2日以降出生)である世帯。 ただし、令和6(2024)年3月末までに工事着手する場合においては、令和4(2022)年4月1日時点でいずれかが39歳以下(すなわち、昭和57(1982)年4月2日以降出生)の世帯とする。 |
出典:子育てエコホーム支援事業 公式サイト
また、補助金額は以下の通りで、非常に手厚い支援内容となっています。
長期優良住宅 | 100万円/戸 |
ZEH住宅 | 80万円/戸 |
※市街化調整区域、土砂災害警戒区域又は浸水想定区域については、それぞれ50万円・40万円
長期優良住宅は、省エネ性、耐震性、劣化対策などに優れた住宅で、新築される一戸建のおよそ4戸に1戸(年間10万戸程度)が認定を取得しています。また、ZEH住宅は省エネ性に優れた住宅で、太陽光発電などの創エネ設備と組み合わせることで、光熱費実質ゼロを実現できるレベルの住宅です。
こうした住宅は、補助金だけでなく、税金やローン金利の優遇、地震保険料の割引といった様々なメリットがありますので、積極的に検討してみるとよいと思います。
4-3. リフォームの補助金は最大60万円。「中古購入+リフォーム」でも利用可
子育てエコホーム支援事業は、住宅購入だけでなくリフォームも対象としています。居住中の住まいはもちろん、中古物件を購入してリフォームする場合にも適用されます。
対象となるリフォームは、下記①~③のいずれかが必須となり、④~⑧については、①~③のいずれかと同時に行う場合のみ補助の対象となります。
①開口部の断熱改修 | 窓ガラス交換、内窓や断熱性の高いドアの設置 |
②外壁、屋根・天井又は床の断熱改修 | 省エネ基準レベル、ZEHレベルの断熱改修 |
③エコ住宅設備の設置 | 高効率給湯器、高断熱浴槽、節水型トイレ等の設置 |
④子育て対応改修 | ビルトイン食器洗機、浴室乾燥機、宅配ボックス等の設置 |
⑤防災性向上改修 | 安全性の高い窓ガラスへの交換 |
⑥バリアフリー改修 | 手すりの設置、段差の解消等 |
⑦空気清浄機能・換気機能付き エアコンの設置 | 空気清浄機能・換気機能付きエアコンの設置 |
⑧リフォーム瑕疵保険等への加入 | リフォーム瑕疵保険への加入 |
なお、補助金額は以下の通りです。リフォームの場合、世帯要件がなくなりますが、子育て世帯・若者夫婦世帯の補助金額は一般世帯よりも引き上げられています。

新築住宅の価格高騰で、中古住宅の人気が年々高まっています。中古を買ってリフォームを検討されている方はぜひ積極的に検討してみましょう。
5. その他の減税制度と利用する際の注意点
最後にその他の減税制度と、制度を利用する際の注意点を解説します。
5-1. リフォーム減税制度に「子育て対応リフォーム」が追加
今回の改正で、リフォーム減税制度に「子育て対応リフォーム」が追加されることになりました。
リフォーム減税制度とは、リフォーム費用を、ローンを使わず現金で支払った場合に、控除が受けられないのは不公平であることから設けられた特例措置です。
昨年までは、下記の①~⑤に該当するリフォームが対象でしたが、今回の改正で、子育て世帯・若者夫婦世帯がおこなう「子育て対応リフォーム」が追加されることになりました。
対象となるのは、子どもの事故を防止するためのリフォーム、対面式キッチンへの交換、収納設備の増設などで、標準的な工事費の10%が所得税から控除されます。
対象工事 | 対象工事限度額 | 最大控除額 |
①耐震 | 250万円 | 25万円 |
②バリアフリー | 200万円 | 20万円 |
③省エネ | 250万円 ※1 | 25万円 ※2 |
④三世代同居 | 250万円 | 25万円 |
⑤長期優良住宅化(耐震+省エネ+耐久性) (耐震or省エネ+耐久性) | 500万円 ※1 250万円 ※1 | 50万円 ※2 25万円 ※2 |
⑥子育て対応 [今回追加] | 250万円 | 25万円 |
※1 太陽光発電設備を設置する場合はプラス100万円
※2 太陽光発電設備を設置する場合はプラス10万円
5-2. 「先進的窓リノベ」「給湯省エネ」事業は2024年も実施
既存住宅の省エネ化に向けて、昨年も実施された「先進的窓リノベ」、「給湯省エネ」の両事業は、2024年も引き続き実施されます。
「先進的窓リノベ事業」は、ガラスの交換や内窓の設置など窓のリフォームに対して、最大200万円。「給湯省エネ事業」は、エコキュートやエネファームなどの高効率給湯器の設置に対して、10~20万円の補助金が受けられる制度です。
設置する機器によっては、子育てエコホーム支援事業よりも多くの補助金が受けられる場合がありますので、制度に詳しい住宅会社などと相談しながら進めるようにしましょう。
5-3. 自治体独自の補助金
ここまで国が実施している減税や補助金の制度についてご紹介してきましたが、自治体独自の補助金も忘れずにチェックしておきましょう。
例えば東京都がおこなっている「東京ゼロエミ住宅導入促進事業」では、ZEH水準の一戸建の新築に対して最大50万円、太陽光発電設備の設置(3.6kw以下)に対して最大39万円の補助金が受けられます。詳細は、各自治体のホームページなどで確認してみましょう。
5-4. 補助金申請は予算枠に注意!検討は早めに進めよう
最後に補助金制度を利用する際の注意点です。このような制度には、年度ごとに予算が決められており、予算に達すると申請が打ち切られてしまうことがあります。
昨年の「こどもエコ住まい支援事業」でも、3月に始まった申請が7月に予算に達し、追加予算が組まれたものの、それも2ヶ月で消化してしまい9月に申請が打ち切られました。
子育て世帯への支援は年々手厚いものになっていますが、それだけ利用者も多く、早い時期に申込みが殺到する傾向があります。
これから住まいを購入する方は、不動産会社のスタッフなど専門家と相談しながら、できるだけ早い時期に申請できるよう検討を進めていきましょう。