子育て世帯は「郊外から郊外へ」? 人口データから見る変化の兆し(首都圏編)

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子育て世帯の住まい探しに新たな変化の兆しが見えてきました。これまでの「都心から郊外へ」という動きに加え、「郊外から郊外へ」という動きが生まれつつあります。今回は2023年の年少者の人口データからこの新たな動きを探ってみました。

目次

1. 子育て世帯の郊外志向に見られる変化の兆し

まず、子育て世帯のこれまでの傾向を振り返っておきましょう。

1-1. 子育て世帯が郊外に移住する傾向はすでに定着

本サイトのコラムでもたびたびお伝えしている通り、子育て世帯は都心部から郊外に転出する傾向があります。この傾向はかなり前から見られるもので、近年の不動産価格の上昇や、コロナをきっかけとしたものではありません。

しかし、この「都心から郊外へ」というトレンドの中にも変化の兆しが見られます。

1-2. 価格上昇にともない郊外エリアそのものが拡がっている

これまで、首都圏で「都心から郊外へ」と言った場合、東京23区から周辺の市区町村、例えば、神奈川県なら川崎市や横浜市、埼玉県なら川口市やさいたま市浦和区、千葉県なら浦安市や市川市など、都心から20~30キロ前後の「都市近郊エリア」への転出が主流でした。

しかし近年では、こうした近郊エリアにも価格上昇が拡がったことにより、都心部と同じような価格帯で販売されることも多くなり、初めて家を買う子育て世帯にとって価格的なメリットは小さくなっています。また、郊外の鉄道路線の都心乗り入れが進み、通勤時間が短くなったことや、テレワークなど働き方の変化により、郊外に住むデメリットも小さくなっています。

そうした変化から、近年では子育て世帯が20~30キロ圏の都市近郊エリアから、40~50キロ圏内の郊外エリアに移住するケースが増えてきています。これまでの「都心から郊外へ」に加え「近郊から郊外へ」という動きに変わりつつあると言ってもよいのかも知れません。

■首都圏の都心~郊外エリアのイメージ

都心~郊外エリアのイメージ図

1-3. 年少者の転入・転出データから、今注目の郊外を探ってみる

そこで今回は、総務省の人口データから、今注目の郊外エリアを探ってみました。着目したのは、年少者(0~14歳)の「人口」と「転入超過数」から算出した「増加率」です。

転入超過数とは、「転入-転出」で算出され、ある期間の人口の増加数を表します。今回は、首都圏の人口5万人以上の市区町村を対象に、2023年1月現在の「年少者人口」に対する、2023年(1年間)の「年少者の転入超過数」をもとに「増加率」を算出しランキングしてみました。単純に「転入超過数」だけで比較すると、規模の大きな市区町村が有利になるため「増加率」でのランキングとしています。

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2. 首都圏で年少者の転入率が高いエリア、低いエリアはどこ?

では早速、首都圏の年少者(0~14歳)の転入超過の増加率ランキングを見てみましょう。

2-1. 首都圏 年少者の転入率トップ20

首都圏の年少者(0~14歳)の転入超過の増加率ランキング、トップ20は以下の通りです

市区町村年少者人口(人)年少者の転入超過数(人)増加率
埼玉県 飯能市8,1822112.58%
神奈川県 茅ヶ崎市30,8996682.16%
千葉県 印西市18,3483672.00%
さいたま市岩槻区12,5362341.87%
埼玉県 久喜市16,2082991.84%
千葉県 野田市16,8003041.81%
さいたま市緑区20,0363541.77%
東京都 町田市50,3768561.70%
千葉県 八街市5,909951.61%
東京都 東大和市10,3051491.45%
東京都 国分寺市16,0312301.43%
横浜市栄区13,2961811.36%
埼玉県 加須市12,1521651.36%
東京都 清瀬市86391131.31%
神奈川県 平塚市28,4013681.30%
神奈川県 鎌倉市19,3422501.29%
埼玉県 羽生市5,610721.28%
埼玉県 新座市20,4862551.24%
東京都 東久留米市13,8711701.23%
埼玉県 桶川市8,2821011.22%

※出典:2023年 住民基本台帳年齢階級別人口および住民基本台帳人口移動報告より作成

トップ3は、埼玉県飯能市、神奈川県茅ヶ崎市、千葉県印西市で、増加率が2%を超えているのはこの3市だけです。1位の飯能市は埼玉県の南西部に位置する人口約8万人の市で、市域の約75%を森林が占める街です。2位の茅ヶ崎市は湘南エリアの西側に位置する街で、藤沢市、平塚市とともに東京からの移住者が増えている街です。3位の印西市は千葉県の北部に位置する市で、大規模住宅団地「千葉ニュータウン」のある住宅都市です。いずれも都心からの距離は40~50キロの郊外の街が上位にランクインしました。

その他にも、神奈川県からは平塚市、鎌倉市といった湘南エリア、埼玉県からはさいたま市岩槻区・緑区、久喜市、千葉県からは野田市、八街市といった、いわゆる「住みたい街ランキング」にはあまり馴染みのない街が多くランクインしています。また東京都では、8位の町田市を除き、東大和市、国分寺市、清瀬市といった、どちらかと言えば地味な多摩エリアの街がランクインしています。

2-2. 首都圏 年少者の転入率ワースト20

続いて、首都圏の年少者(0~14歳)の転入超過の増加率ランキング、ワースト20を見てみましょう。(▲は転出超過)

市区町村年少者人口(人)年少者転入超過数(人)増加率
東京都 台東区17,740▲560▲3.16%
東京都 新宿区30,586▲944▲3.09%
川崎市中原区33,477▲995▲2.97%
東京都 中央区23,759▲692▲2.91%
東京都 渋谷区24,020▲624▲2.60%
東京都 墨田区27,694▲680▲2.46%
東京都 豊島区26,319▲550▲2.09%
埼玉県 蕨市7,902▲155▲1.96%
横浜市西区11,341▲208▲1.83%
埼玉県 戸田市19,779▲347▲1.75%
東京都 目黒区30,949▲519▲1.68%
川崎市高津区28,470▲474▲1.66%
東京都 中野区30,125▲498▲1.65%
東京都 品川区47,526▲784▲1.65%
川崎市多摩区23,261▲379▲1.63%
川崎市川崎区24,310▲358▲1.47%
東京都 大田区76,917▲1,121▲1.46%
横浜市港北区43,916▲593▲1.35%
横浜市神奈川区26,995▲351▲1.30%
埼玉県 和光市10,904▲135▲1.24%

※出典:2023年 住民基本台帳年齢階級別人口および住民基本台帳人口移動報告より作成

ワースト20のうち、11エリアが23区がとなっており、やはり都心部からの流出が目立ちます。しかし、ここで注目すべきは、3位の川崎市中原区、8位の埼玉県蕨市、9位の横浜市西区、10位の埼玉県戸田市などの近郊エリアです。これまでこうした近郊エリアは、「東京からの移住先」として人気が高かったのですが、今や年少者人口は「転出超過」となっています。

明確なデータがあるわけではありませんが、トップ20とワースト20を見比べてみると、子育て世帯の住まい探しが、これまで人気の高かった東京に隣接する近郊エリアから、飯能市、茅ヶ崎市、印西市といった50キロ圏の郊外エリアに移って来ていることがうかがえます。

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3. 首都圏の都道府県別ランキング

次に都道府県別のトップ10を見てみましょう。

3-1. 東京都の年少者人口増加率トップ10

東京都の年少者人口増加率トップ10は以下の通りです。

市区町村年少者人口(人)年少者転入超過数(人)増加率
町田市50,3768561.70%
東大和市10,3051491.45%
国分寺市16,0312301.43%
清瀬市8,6391131.31%
東久留米市13,8711701.23%
稲城市13,1171351.03%
東村山市17,6171740.99%
羽村市6,233610.98%
日野市22,7602130.94%
あきる野市9,242820.89%

トップの町田市は、もともとの年少者人口が多い上に増加率も高く、子育て世帯から強く支持されているのがわかります。しかし2位以下は、どちらかと言うと人気の街として取り上げられることの少ない、言わば「穴場の街」が多くランキングされています。

町田のような華やかさはないけれど、そこそこ便利で価格もリーズナブル。実際の物件選びにおいてはバランスのよい街なのかも知れません。

3-2. 神奈川県の年少者人口増加率トップ10

次に神奈川県の年少者人口増加率トップ10は以下の通りです。

市区町村年少者人口(人)年少者転入超過数(人)増加率
茅ヶ崎市30,8996682.16%
横浜市栄区13,2961811.36%
平塚市28,4013681.30%
鎌倉市19,3422501.29%
秦野市16,9541731.02%
横浜市港南区23,4751780.76%
綾瀬市10,661800.75%
逗子市6,643490.74%
横浜市旭区27,2991830.67%
横浜市保土ケ谷区21,6701350.62%

茅ヶ崎市、平塚市、鎌倉市など人気の高い湘南エリアだけでなく、秦野市、綾瀬市といった県央エリアや、横浜市の内陸部が人気となっています。東京都と同様に住みやすさと価格のバランスの取れたエリアが選ばれているのでしょう。

3-3. 埼玉県の年少者人口増加率トップ10

続いて、埼玉県の年少者人口増加率トップ10は以下の通りです。

市区町村年少者人口(人)年少者転入超過数(人)増加率
飯能市8,1822112.58%
さいたま市岩槻区12,5362341.87%
久喜市16,2082991.84%
さいたま市緑区20,0363541.77%
加須市12,1521651.36%
羽生市5,610721.28%
新座市20,4862551.24%
桶川市8,2821011.22%
東松山市10,4231181.13%
日高市5,759591.02%

埼玉県も、住みたい街ランキング常連の川口市やさいたま市(浦和区・大宮区)などではなく、どちらかと言えば知名度の低い街、ターミナル駅から数駅離れた街が選ばれています。

また全体的に、東京・神奈川よりも増加率が高いことも注目されます。

3-4. 千葉県の年少者人口増加率トップ10

最後に、千葉県の年少者人口増加率トップ10は以下の通りです。

市区町村年少者人口(人)年少者転入超過数(人)増加率
印西市18,3483672.00%
野田市16,8003041.81%
八街市5,909951.61%
袖ケ浦市9,0461081.19%
佐倉市17,9881801.00%
我孫子市13,6481310.96%
四街道市12,8681120.87%
千葉市花見川区18,4161540.84%
木更津市17,1061410.82%
柏市55,0094290.78%

千葉県も同様に、住みたい街として人気の高い浦安市、市川市、船橋市などはランク外となり、50キロ圏の街が多くランクインしています。中でも注目されるのは東京湾アクアラインに近い、袖ケ浦市や木更津市で、交通網の発達により東京のベッドタウンが大きく拡がっていることがわかります。

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4. 子育て世帯の住まい探しは、都市近郊から郊外へ?物件選びのポイントとは

子育て世帯の増加率ランキング、いかがでしたでしょうか?

従来の「都心から郊外へ」という動きに加え「近郊から郊外へ」という兆しも見え始めた今、物件選びはどのような点に気をつけたらよいのでしょうか。

4-1. 今後は「近郊から郊外へ」の動きが増える?

ここまで見てきたデータから、子育て世帯の住まい探しは「都心→郊外」という従来の傾向に加え、「近郊→郊外」という新しい動きが感じられます。

そのもっとも大きな要因は価格上昇です。価格上昇の波が都心から近郊20~30キロ圏まで拡がったことにより、さらにその外側に位置する50キロ圏の郊外の街が、今注目されているわけです。

そして不動産価格の上昇は今も続いており、しばらく高止まりの状態が続くと予想されます。したがって、住みやすさと価格のバランスのよい50キロ圏の街は、引き続き人気が高まっていくと思われます。

4-2. 都心から50キロ圏の街選びと物件選びのポイント

このエリアでの街選び・物件選びのポイントのひとつは交通利便性です。都心へのアクセスがよく、特急・急行などが停車する駅、複数の路線が乗り入れるターミナル駅などを中心に物件探しを進めましょう。

また、子育て世帯にとって自治体の「子育て支援」も重要なポイントです。保育園や学童などの数や入所状況、医療費の無償化、補助金などについては自治体により大きな差があります。

不動産価格の上昇は、都心部から近郊へ、そして比較的リーズナブルだった50キロ圏の郊外エリアにも拡がりを見せています。

マイホーム購入を検討中の方は、できるだけ早めに、街選び、物件選びに動き出すことをおすすめします。

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