
コロナ禍以来の物価上昇が続く中、10月に発表された基準地価は上昇幅を拡大し、建築費の上昇も顕著だった2024年下半期。不動産の市況はどのように動いたのでしょうか。今回も前回に引き続き、首都圏の成約数、価格、在庫などの最新データから大きな市況の流れを探ってみましょう。
目次
1. なぜ不動産市況を把握する必要があるのか
そもそも不動産の価格はどうやって決まるのでしょう?企業が売主となって販売する場合、土地や建物の仕入価格に、その土地の造成費、建築・リノベーション等の工事費、広告宣伝や販売促進の費用などを勘案して算出しますが、それ以外に非常に重要な要素となるのが「市況」です。 では、市況とはいったい何なのか?どのようにして決まっているのか?について解説します。
1-1. そもそも不動産市況とは?
前提として、不動産価格は「定価」というものがなく、その時々の需要と供給のバランスで価格が決まります。また不動産は1つとして同じものがないので、比較がしにくくいわゆる「相場」がつかみにくい商品です。 そうした価格の動きや相場をつかむためには、市場に流通している物件数(供給)や、実際に成約に至った物件数(需要)や価格等を数値的に把握していくことが重要です。こうしたデータを総合的に分析したものが不動産市況と言われるものです。
1-2. 不動産価格が変動する背景とマクロ指標
不動産価格は需要と供給のバランスで決まると申し上げましたが、その需要の背景にあるのが国内の経済状況です。簡単に言えば「景気がいい」時期には不動産の需要が高まり価格も上昇しますし、「景気が悪い」時期にはその逆となります。また、不動産の購入には住宅ローンなどの借入をともなうことが多いので、金利の動向は不動産価格に大きな影響を与えます。こうした株価や金利などの経済指標はマクロ指標とも呼ばれ、不動産価格に影響を与える重要なデータとなります。
1-3. 市況がわかると買い時がわかる?
常に変動する不動産市況を把握しておくことは、住宅購入検討者にとって非常に重要です。単に価格が安いか高いかではなく、今後どのように動いていくのか、自分にとって今は買うべきタイミングなのかどうかなどを俯瞰的に検討した上で購入判断できるからです。
本コラムでは、主に業界向けに公開されているデータを元に、一般の方にもできるだけわかりやすく不動産市況を解説していきます。
2. 2024年下半期の首都圏「新築マンション」市況
それではまず、首都圏の新築マンション市況を見てみましょう。

2-1. 首都圏新築マンションの発売戸数は約15%減少。東京・神奈川で大きく減少
首都圏の2024年下半期(7~12月)の新築マンション発売戸数は13,937戸で、前年同期の16,384戸から14.9%減少しました。
エリア別に見ると、東京23区が7,007戸→4,956戸(▲29.3%)、東京都下が1,448戸→1,164戸(▲19.6%)、神奈川県が4,008戸→2,755戸(▲31.3%)、埼玉県が1,735戸→2,422戸(39.6%)、千葉県が2,186戸→2,640戸(20.8%)と、23区と神奈川で約30%減少している一方、埼玉と千葉では大幅に増加しました。都心部の富裕層向け億ションはさらに供給が絞り込まれ、一般的なファミリー物件の需要は郊外に広がっていることがうかがえます。

2-2. 首都圏新築マンションの販売価格は再び上昇
一方、販売価格は、前年同期と比べ、首都圏平均で7,608万円→8,280万円と8.8%上昇しました。2024年上半期は13.5%下落していましたが再び上昇に転じています。
エリア別に見ると、東京23区で1億236万円→1億1,708万円(+14.4%)、東京都下で5,488万円→5,991万円(+9.2%)、神奈川県で6,014万円→6,559万円(+9.1%)、埼玉県で4,727万円→5,587万円(+18.2%)、千葉県で4,814万円→5,470万円(+13.6%)と全域で上昇しており、中でも23区、埼玉、千葉の上昇率が高くなっています。

2-3. 首都圏新築マンションの㎡単価も全域で上昇
専有面積1㎡あたりの価格を示す「㎡単価」の推移も見てみましょう。㎡単価の首都圏平均は116.3万円→125.2万円(+7.6%)、東京23区が158.4万円→175.9万円(+11.1%)、東京都下が83.1万円→93.0万円(+11.9%)、神奈川県が91.9万円→101.9万円(+10.9%)、埼玉県が73.4万円→86.2万円(+17.4%)、千葉県が71.3万円→78.3万円(+9.7%)と全域で上昇しています。

2024年下半期の首都圏の新築マンション市場は、供給数が約15%減少しつつも全域で値上がりが続いており、ますます購入しづらい環境となっています。地価や建築費の上昇や用地不足により、今後も供給数は減少傾向が続くと見られ、ファミリー向けのマンション購入は、中古が主流となっていくと予想されます。
3. 2024年下半期の首都圏「中古マンション」市況
次に中古マンションの市況について見ていきましょう。2024年下半期(7~12月)の首都圏全体の成約件数は、前年同期比で+0.4%。成約価格は+3.9%、成約㎡単価は+4.4%といずれも上昇し、㎡単価は56ヶ月連続で前年同月を上回りました。
しかし、上昇幅は上半期が+7~11%と非常に高かったのに対し、下半期+1~9%前後に、やや落ち着いてきており、成約価格が前年比マイナスの月も見られるようになってきました。

3-1. 首都圏中古マンションの成約件数は、東京が減少し千葉が大きく伸びる
首都圏の中古マンション成約件数は、17,922件→17,996件(+0.4%)とほぼ横ばいで推移しました。
エリア別に見ると、東京都が9,820件→9,579件(▲2.5%)、神奈川県が4,148件→4,192件(+1.1%)、埼玉県が1,916件→1,990件(+3.9%)、千葉県が2,038件→2,235件(+9.7%)と、上半期は「+9.0%」だった東京都がマイナスに転じ、千葉県が上半期の「+4.9%」から大きく伸びています。
これは都心部の価格上昇により、リーズナブルな郊外エリアに需要が移っていることが要因と考えられます。
※2024年下半期の月ごとの成約価格の平均

3-2. 首都圏中古マンションの成約価格はすべてのエリアで上昇
成約価格(※)も全エリアで前年同期を上回っており、首都圏全体で4,694万円→4,876万円(+3.9%)。
エリア別に見ると、東京都が5,808万円→6,185万円(+6.5%)、神奈川県が3,803万円→3,838万円(+0.9%)、埼玉県が2,918万円→2,977万円(+2.0%)、千葉県が2,804万円→2,899万円(+3.4%)となっています。 総じて言えば、東京23区は価格上昇で一般の人は手が出しにくい状況。都下~神奈川も好立地は高くて買いにくいため、埼玉・千葉はそうした需要の受け皿として価格が上昇している状況だと言えます。
※2024年下半期の月ごとの成約価格の平均

3-3. 首都圏中古マンションの成約㎡単価は全域で上昇。東京都は100万円超えが続く
「成約㎡単価」(※)も同様に上昇が続いています。前年同期と比べ、首都圏全体では73.8万円→77.0万円(+4.4%)、東京都が97.5万円→104.9万円(+7.6%)、神奈川県が57.1万円→57.7万円(+1.1%)、埼玉県が42.6万円→44.0万円(+3.2%)、千葉県が38.8万円→40.3万円(+3.9%)と、こちらも全域で上昇しており、東京都の㎡単価は上半期に続き100万円超えとなりました。
※2024年下半期の月ごとの成約㎡単価の平均
価格、㎡単価ともに上昇が続く首都圏の中古マンションですが、上昇率は上半期の半分程度に下がってきています。しかし、新築マンションの供給が減少傾向にある中で、中古マンション需要は依然として高く、しばらく高止まりの状態が続くと予想されます。また千葉県の成約件数の伸びが大きいことから、需要が郊外に広がっていることがうかがえます。

3-4. 首都圏中古マンションの在庫件数は、東京で減少傾向が続く
首都圏中古マンションの在庫件数(※)は、首都圏全体で前年の46,387件から45,270件へ2.4%の減少となっています。
減少幅がもっとも大きいのは東京で▲10.6%。逆に千葉県は13.7%の増加となっており、都心部で販売物件が減少していることがわかります。これが東京で成約件数が減少しつつも価格が上昇している要因と考えられます。
※2024年下半期の月ごとの在庫件数の平均

4. 2024年下半期の首都圏「新築一戸建」市況
続いて、新築一戸建の市況を見てみましょう。2024年下半期の首都圏全体の成約件数は、前年同期比で▲10.6%。東京は増加していますが、それ以外の3県はすべて減少となっています。一方、成約価格は+11.5%となっており、マンションと同様に価格の上昇が続いていると見られます。

4-1. 首都圏新築一戸建の成約件数は約10%の減少
首都圏全体の成約件数は、前年同期比で、2,484件→2,220件(▲10.6%)と減少しました。
エリア別に見ると、東京が575件→639件(+11.1%)、神奈川が796件→685件(▲13.9%)、埼玉県が621件→505件(▲18.7%)、千葉県が492件→391件(▲20.5%)と、東京以外のエリアでは10~20%の大きな減少となっています。これは前年の同時期に新築一戸建の供給数が増えたことの反動と考えられます。

4-2. 首都圏新築一戸建の成約価格は全域で上昇
成約価格(※)は首都圏全体で4,067万円→4,537万円(+11.5%)と上昇しました。
エリア別では、東京が5,104万円→5,913万円(+15.8%)、神奈川が4,060万円→4,418万円(+8.8%)、埼玉県が3,539万円→3,572万円(+0.9%)、千葉県が3,555万円→3,821万円(+7.5%)と、全域で上昇しています。
新築一戸建は、2024年前半にやや供給過多となり値下がりするエリアも見られましたが、年の後半には在庫の調整も整い再び上昇に転じています。
※2024年下半期の月ごとの成約価格の平均

4-3. 首都圏新築一戸建の在庫件数は減少傾向が続く
2023年後半から2024年前半にかけて増えていた在庫件数は、2024年2月ごろから減少に転じ、年間を通じて減少傾向が続きました。首都圏全体で前年同期に17,875件だった在庫は16,846件に約6%減少しています。減少幅がもっとも大きいのは東京で▲10.6%、次いで埼玉の▲9.3%となっています。

5. 2024年下半期の首都圏「中古一戸建」市況
最後に首都圏の中古一戸建の市況をみてみましょう。前年同期と比べて、成約件数・価格とも10月を除き上昇しています。

5-1. 首都圏中古一戸建の成約件数は増加傾向。特に東京は約16%の高い伸び
下半期の首都圏全体の成約件数は、前年同期比で6,362件→7,083件(+11.3%)でした。
エリア別に見ると、東京が2,030件→2,350件(+15.8%)、神奈川が1,628件→1,741件(+6.9%)、埼玉県が1,342件→1,471件(+9.6%)、千葉県が1,362件→1,521件(+11.7%)と、すべての都県で増加しており、中でも東京都は15.8%という高い伸びとなっています。
特に東京と千葉の伸び率が高く、新築一戸建の在庫の減少と価格上昇にともない、中古戸建に対するニーズが高まっていると推測されます。

5-2. 首都圏中古一戸建の成約価格は埼玉以外で上昇
成約価格(※)も10月を除くすべての月で前年比プラスとなっています。上半期の平均では、首都圏全体で3,864万円→3,919万円(+1.4%)、エリア別に見ると、東京都が5,379万円→5,523万円(+2.7%)、神奈川県が4,083万円→4,111万円(+0.7%)、埼玉県が2,604万円→2,491万円(▲4.3%)、千葉県が2,607万円→2,622万円(+0.6%)と、埼玉以外の都県で上昇しました。
※2024年下半期の月ごとの成約価格の平均

5-3. 首都圏中古一戸建の在庫件数は増加傾向が続く
中古一戸建の在庫件数は増加傾向が続いており、首都圏全体の12月の在庫数は、前年同月の20,012件から22,937件に14.6%増加しています。エリア別にみると、東京が+4.6%であるのに対し、他の3県は+15~20%の大きな伸びとなっています。東京では中古マンションの価格上昇により、広い範囲で戸建ニーズが高まっている一方で、郊外エリアでは立地がよく利便性の高い物件にニーズが集中する傾向があり、売れる物件と売れない物件の「二極化」が進んでいるためと推察されます。

6. 今後の不動産価格を占うマクロ指標
不動産価格と相関性が高いと言われている2つの指標と建築費について見ていきましょう。
6-1. 日経平均株価は38,000~40,000円で足踏み
1つ目は日経平均株価です。株価は不動産価格と相関関係にあると言われていますが、日々の株価の動きと同じように不動産価格が変動するわけではなく、株価の動きから半年くらい遅れて不動産価格に影響を与えると言われています。
2024年下半期の日経平均株価は38,000~40,000円のボックス圏で推移しており、半年間の上昇率はわずか1%と、ほぼ横ばいの状況が続きました。今後は日銀の金融政策や米国の経済状況しだいですが、足元では4万円を大きく超える材料は見つからず、しばらくはこの水準が続くと予想されます。

6-2. 住宅ローン金利は固定金利が1.9%前後で横ばい。変動金利は上昇の見込み
そして、もう一つの指標が住宅ローン金利です。ここでは全期間固定金利の「フラット35」(※)の金利推移をみてみましょう。2024年下半期は、長期金利が約14年ぶりに1.2%を超えるなど上昇傾向が続きましたが、フラット35の金利は1.8%台にとどまり大きな変動はみられませんでした。
一方、注目されるのは変動金利です。日銀は1月24日の金融政策決定会合で、政策金利をこれまでの0.25%から0.50%に引き上げました。これにともない大手5行は3月から変動金利のベースとなる短期プライムレートを引き上げるとしており、4月以降、変動型の住宅ローン金利も上昇に向かうと思われます。
※フラット35とは:住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して融資をおこなう、全期間固定金利の住宅ローン。

6-3. 建築工事費は2024年に入ってからさらに上昇
次に建築費を見てみましょう。コロナ以降、エネルギー価格や資材価格の値上がりにより、建築費は上昇を続けていましたが、2024年4月から建築業界の労働規制が始まったことにより、もう一段の上昇となりました。
今後も業界の高齢化や人手不足は改善する見込みが低く、建築費はじわじわと上昇を続けると予想されます。新築物件はもちろん、リフォーム工事やマンションの修繕積立金などにも影響しますので、相場の動きに注意しておきましょう。

7. 2025年も不動産価格は高止まりが続く見込み。建築費と金利の動向に注意
2024年下半期の不動産市況、いかがでしたでしょうか?
住宅購入を検討する方にとって重要なのは、価格が高いか安いかではなく「これからどう動くのか」「自分にとって今は買い時なのか」ということです。未来を正確に予測するのは難しいことですが、このようなデータや指標を継続的に見ていくことによって、ある程度の予測は立てることができます。
2024年下半期の市況で注目したいのは、マンションと一戸建の価格上昇率の変化です。 下のグラフの通り、マンションは2024年上半期に9.7%上昇していましたが、下半期には3.9%に下がっています。一方、新築一戸建は在庫がややダブついていた2023年下半期を底に、2期連続で上昇しており、ある程度在庫が整理された2024年下半期には11.5%という高い上昇率となっています。推測にはなりますが、中古マンションの価格が高騰していることで、比較的リーズナブルで広い郊外の新築一戸建の需要が高まっているのかも知れません。

そしてもうひとつ注目されるのが日銀の金融政策です。
日銀は、2025年1月に政策金利を0.25%から0.50%に引き上げました。これにより変動型の住宅ローン金利も上昇すると思われます。また市場では2025年にあと1~2回の利上げが予想されています。
価格と金利の上昇で、マイホームの購入に二の足を踏んでしまう気持ちもわかりますが、一方で賃貸住宅の家賃も上昇が続いていますので、「いずれはマイホームを」とお考えであれば、早めに検討を進めた方がよいでしょう。 金利や価格の動きをしっかりチェックするとともに、不動産会社などからこまめに情報収集するよう心がけましょう。
価格相場や金利の最新データ、今後の見通しなどはお近くの住宅情報館までお気軽にご相談ください。 次回の市況データは2025年7月ごろ公開の予定です