50代から考える「終の棲家」③ 今の家どうする?賢い自宅とのつきあい方・手放し方

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50代から考える「終の棲家」③  今の家どうする?賢い自宅とのつきあい方・手放し方

50代から考える「終の棲家」。3回目の今回は老後の「自宅とのつきあい方・手放し方」について考えます。単に「売却する」ということではなく、今の自宅を最終的に誰に引き継ぐのか?老後をどう暮らしたいのか?という視点で、売却・賃貸・贈与・相続まで含めて考えてみたいと思います。

目次

1、自宅とのつきあい方が、今後ますます重要になる背景

前々回のコラムでもお伝えした通り、老後も今の自宅に住み続けるかどうか、早い時期に住み替えるかはシニア世代にとって重要なテーマです。その背景をおさらいしておきましょう。

1-1. 年々伸びる平均寿命。老後はどんどん長くなっている

2020年現在の日本人の平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳で、前年に比べそれぞれ0.16歳、0.13歳延びました。今後も伸び続けると予想されており、「人生100年時代」と言われる通り、老後を過ごす時間はどんどん伸びていきます。仕事をリタイヤし、子どもが巣立ってから20~30年、いつどうやって自宅を手放すのか、あるいは最期まで住み続ける方がいいのか、正解がないだけに漠然と悩んでいてもなかなか答えは見つかりません。

1-2. かつてのニュータウンは高齢化し、建物の老朽化は年々進む

そうして迷っているうちに、子どもが独立した夫婦には広すぎる家となり、建物は老朽化しあちこちに傷みが出はじめます。かつてのニュータウンも高齢化が進み、駅から遠い不便な住宅街になっているかも知れません。そうした不自由な環境で長い老後を過ごすのは辛いですし、健康にも影響します。

1-3. 50代から考える「今後の自宅とのつきあい方」

こうしたことから、長い老後の暮らしを充実したものにするためには、漠然と悩むのではなく、具体的な選択肢や、それぞれのメリット・デメリットなどを比較・検討していくことが大切です。リタイヤを控えた50代から、今後のライフプランや家族の要望なども考慮しつつ、検討を始めるべきでしょう。

2、最終的にどう自宅を手放すのか?その選択肢とは

では、老後の自宅とのつきあい方を考える上で、具体的な選択肢とは何なのでしょうか。

最終的にどう自宅を手放すのか?その選択肢とは

2-1. 住み替えを前提とした選択肢

まず、住み替えを前提とした選択肢にはどのようなものがあるか見ていきましょう。

①売却

まず一番スタンダードな選択肢としては、住み替えを前提に今の自宅を売却するというものです。住み替え先は「持ち家」「賃貸」という2つの選択があります。住み替えの一番のメリットは、古くなった自宅と、暮らしにくくなった立地の問題を一挙に解決できることです。例えば、郊外の一戸建を売却して、駅近のマンションに住み替えるなどが好例ですが、ワンフロアのコンパクトな間取りで暮らしやすく、買い物やお出かけにも便利な住まいが実現します。また、ローンを完済した自宅を売却して住み替えれば、売却益を老後資金に充てられる可能性もあります。デメリットとしては、新たな住まいに対する購入資金や家賃がかかること、物件探しなどに手間がかかることが挙げられます。

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②生前贈与

「贈与」とは自分が生きているうちに財産を他人に譲ることを言い、一般的に自宅の贈与は配偶者か子どもに対して行われます。例えば、広い自宅を子ども世帯に譲り、親世帯はマンションなどに住み替えるケースが考えられます。生前贈与のメリットは、自分が生きているうちに贈与する相手を決められることです。例えば、長男には自宅、長女には現金というように自分の意思で「誰に何を譲るか」を決め、実行することができます。一方、デメリットとしては贈与税がかかることです。贈与税は相続税よりも税率が高いため、高額の不動産を生前贈与する人は多くありません。しかし、婚姻期間20年以上の場合に適用される「配偶者控除」(最大2,000万円)や、一定金額まで贈与税が非課税となる「相続時精算課税制度」を使うことができますので、多額の相続税が見込まれる場合や、確実に特定の人に引き継ぎたいという場合には選択肢となります。

いずれにしても、生前贈与には慎重な検討が必要ですので、税理士やファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

③賃貸

3つ目は自宅を「貸す」という選択肢です。賃貸物件として貸し出せば、安定した家賃収入を得ることができますが、リスクも認識しておきましょう。賃貸するためにはまずリフォーム等で貸せる状態にする必要がありますし、入居者が見つからず空室が続いてしまうリスクもあります。賃貸を検討する場合には、地域に詳しい不動産会社に相談し、リフォームにどのくらいの費用がかかるのか、賃貸ニーズのある地域なのか、家賃相場はいくらなのか等をしっかり検討するようにしましょう。

2-2. 住み続けることを前提とした選択肢

次に、自宅に住み続けることを前提とした選択肢はどんなものがあるでしょうか。

①リフォーム・建て替え

老後も自宅に住み続ける場合の一般的な選択肢は、リフォームと建て替えです。リフォームする場合には、屋根や外壁などの外装、キッチンやお風呂などの水回り、間取り変更や内装の刷新などが中心となりますが、耐震性や断熱性を高める「性能向上リフォーム」を行う方も増えています。また、リフォームに多額の費用がかかる場合には建て替えも視野に入ります。夫婦2人には広すぎる自宅をコンパクトに建て直し、耐震性、断熱性、住宅設備も最新グレードに一新できるのは大きなメリットです。子ども世帯と同居の可能性があるなら二世帯住宅への建て替えも検討できるでしょう。

②リースバック

しばらく自宅に住み続けたいけど、いずれは施設などへの入居も考えているという方は「リースバック」という方法も検討できます。リースバックとはここ数年で利用者が増えているサービスで、自宅をリースバック事業者に売却した後、家賃を払いながら住み続けることができるというものです。メリットとしては、売却によってまとまった現金を手にできることと、住み慣れた自宅に住み続けられることです。デメリットとしては、毎月の家賃がかかること、住み続けられる期間がある程度限られていることなどが挙げられます。

※リースバック条件等は事業者により異なります。

③リバースモーゲージ

「リバースモーゲージ」とは逆住宅ローンとも呼ばれ、自宅を担保に融資を受けられるサービスです。最大の特徴は、利息だけを支払いながら自宅に住み続けることができ、元金は自分が亡くなった後に自宅を売却して返済されることです。メリットとしては、まとまった老後資金やリフォーム資金を手にできること、存命中は元金を返済する必要がないことが挙げられます。一方デメリットとしては、契約時に推定相続人(主に配偶者・子ども)の同意が必要になること、不動産価格の下落により自宅の担保評価が下がると、元金の一部を返済しなければならないこと等が挙げられます。

※担保評価や返済方法等は金融機関により異なります。

④相続

「相続」は死亡により財産を他人に譲ることを言い、不動産を所有していれば、いずれ相続のタイミングが訪れます。相続人(相続を受ける人)は、主に配偶者と子どもですが、遺言を作成することにより他人に相続(遺贈という)することもできます。

相続におけるポイントは大きく2つあります。1つは「相続税」です。例えば相続人が配偶者と子ども2人の場合には、自宅を含む総資産が4,800万円を超えると相続税申告の対象となります。都心の一戸建を所有していれば、それだけで超えてしまう可能性がありますので、何らかの対策を検討するべきです。

2つ目のポイントは遺産の分割、つまり「誰に何を引き継ぐか」という点です。例えば自宅は配偶者に、その他の資産は子ども達にという意向があれば、生前に家族と話し合っておくべきでしょう。最悪の場合、相続人が遺産の分割をめぐって争う「争続」になってしまうケースもあります。

3、何を選択すればいいのか迷ったら。方向性を決めるためのヒント

ここまで、老後の自宅について様々な選択肢を見てきましたが、方向性を決める上でいくつかのヒントを挙げておきます。

3-1. 売却して住み替えるなら資産価値が高いうちに

自宅を売却して住み替えを検討するならば、できるだけ早めに進めた方がよいでしょう。市場の変動はあるものの、建物は築年数が経過するほどその価値が下がっていきます。特に築15年くらいまでは下落率が高いと言われており、木造家屋で築25年を超えると建物の評価がゼロになってしまうことも少なくありません。できるだけ早めに検討をスタートし、資産価値の高いうちに売却されることをおすすめします。

3-2. 自宅に住み続けるなら新しい金融商品・サービスの検討も

一方、自宅に住み続けたい意向がある場合には、「リースバック」や「リバースモーゲージ」などの新しいサービスも検討してみましょう。どちらも以前はあまり普及していなかったサービスですが、近年の高齢化にともない、取扱い事業者も増えています。特に子どもに自宅を譲る予定がない方や、大規模なリフォームを考えている方は、老後資金・リフォーム資金の調達にもよいと思います。

3-3. 賃貸での運用は慎重に

繰り返しになりますが、自宅を賃貸物件として運用する場合には、より慎重な検討を心がけましょう。特にローンが残っている場合には、余裕をもって返済していけるだけの入居が見込めるのかどうか、修繕費や管理費、税金なども考慮した上で判断してください。また、持ち家を賃貸に転用するとローン条件が変更されることもありますので、金融機関に確認が必要です。

3-4. 贈与・相続を考えるなら家族の同意と税金対策をしっかりと

最後に贈与・相続については、自宅を含めた総資産の把握と、自身の老後のライフプラン、そして、最終的な遺産分割について検討しておく必要があるでしょう。子どもが家族を持っている場合には、子どもの配偶者などを含め、できるだけ早い時期から話し合いの機会をもっておくことが大事です。

贈与・相続を考えるなら家族の同意と税金対策をしっかりと

4、老後のプランニングは正しい現状把握からスタートしよう

このように、今の自宅とどうつきあい、どう手放すかは老後のライフプランと深く関係しており、いずれおとずれる相続も見据えて検討しなければなりません。そのためにまず必要なのが現状把握です。現在の資産状況や家族の意向などを整理してみるところからスタートしましょう。

4-1. 現状把握のためのチェックリスト

現状把握にあたっては以下のようなチェックリストを使ってみてはいかがでしょうか。

カテゴリ

確認・検討すべきこと

専門家への相談

自分

□ 何歳まで働き、いつリタイヤするか□ リタイヤ後のライフプラン

□ 今後の収入見込み

□ リタイヤ後に必要な費用(生活費・趣味など)

□ 自分や配偶者の健康状態

資産

□ 自宅の評価と売却した場合の手取額□ 自宅以外の資産(主に預貯金や株式)

□ 生命保険の受取人と受取額

□ 現在の総資産と相続税の有無

□ 住宅ローンの残債と今後の返済予定

不動産会社

税理士・FP

相続

贈与

□ 最終的な遺産分割の意向□ 遺言書作成の必要性

□ 生前贈与するべきか

弁護士

税理士

住まい

□ 現在の自宅に対する不満点、改善したい点□ 今の自宅に住み続けたい理由、住み替えたい理由

□ リフォームした場合の費用

不動産会社

リフォーム会社

家族

□ 今後の家族構成や子ども家族との同居の可能性□ 自分や配偶者の老後の生活に対する家族の意向

□ 遺産分割に対する家族の意向

4-2. 現状把握を進めながら、専門家に相談してみよう

こうした現状把握を進めていくと、漠然と悩んでいたことが、かなり具体的になってくると思います。また、専門家に相談したい点もはっきりしてくるのではないでしょうか。

最初から弁護士や税理士に相談に行くのは敷居が高い、知人に専門家がいない、という方は、まず不動産会社に自宅の評価額やリフォームのことから相談をスタートしてみるのもひとつの方法です。不動産会社はこのような相談にはだいたい無料で応じてくれますし、仕事柄、不動産分野に強い弁護士や税理士と取引があるものです。不動産会社を通じて、信頼できる専門家を紹介してもらうのもひとつの方法と思います。

いずれにしても、現状把握や家族の意見調整には長い時間がかかります。まだまだ元気な50代から少しずつ進めていくことをおすすめします。

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