【2022年版】近郊~郊外エリアが上位独占。「子育て世帯に人気の街」ランキング(東海・関西編)

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2022年1月に「「令和3年(2021年)住民基本台帳人口移動報告」が発表されました。2021年はコロナの影響で東京への人口流入が激減し、東京23区で初めての「転出超過」となり話題になりました。今回は、前回の関東・東北エリアに続き、東海・関西エリアにおける子育て世帯の人口移動について見ていきましょう。

目次

1. 2021年の人口移動報告。大阪圏と名古屋圏では逆の傾向が見られる

1-1. そもそも人口移動報告とは?

人口移動報告とは、市区町村が管理する「住民基本台帳」に基づき,国内における人口移動の状況を明らかにしたもので、世代別の転入・転出、転入出前の居住地などが集計され毎月発表されています。

本コラムでは、2022年1月に発表された「住民基本台帳人口移動報告 令和3年(2021年)結果」をもとに、昨年1年間の東海圏(静岡県・岐阜県・愛知県)、関西圏(大阪府・兵庫県)の人口移動ついて考察します。

1-2. 愛知県は名古屋市を中心に流入が回復傾向、大阪府は前年の反動でコロナ前水準に

まず東海圏の全体傾向から見ていきましょう。都道府県別に見ると、静岡・岐阜・愛知すべての県でマイナス(転出超過)となっていますが、前年よりも転出は抑えられており、特に愛知県では、コロナ前の2019年の水準に戻りつつあるように見えます。ちなみに愛知県全体ではマイナス(転出超過)となっていますが、名古屋市だけで見ると約1,300人の転入超過となっています。

一方、静岡県・岐阜県では2年連続で人口流出が抑えられていることがわかります。これはコロナの影響で県外への移動が減ったことが要因と思われます。

■東海圏の転入超過数(人)

※転入超過数:転入者数から転出者数を引いたもの。転入者数より転出者数が多いときは「転出超過」となる。マイナスは転出超過を表す。

続いて関西圏を見てみましょう。大阪府ではコロナ禍の2020年に転入が大きく増え13,356人となりましたが、2021年はその反動もありコロナ前の水準を下回る5,622人まで減少しました。

■関西圏の転入超過数(人)

※転入超過数:転入者数から転出者数を引いたもの。転入者数より転出者数が多いときは「転出超過」となる。マイナスは転出超過を表す。

2020年はコロナの影響もあり、名古屋から大阪に人口の重心が移っていましたが、2021年は、その反動やコロナの落ち着きとともに、東海圏の人口流入が改善し、逆に関西圏では流入が減少するという逆の傾向が見られました。

1-3. 年少者の人口移動から子育て世帯に人気の街を探ってみた

このように、コロナ禍当初の2020年と、ワクチン接種なども始まった2021年で傾向が大きく変わった東海圏と関西圏の人口移動。今回は、その中でも年少者(0~14歳)の人口移動にスポットを当て、子育て世帯が増えている街・減っている街をランキングしてみました。子育て世帯の転入が多い街は、不動産価格、子育て環境、利便性など何らかの魅力がある街だと考えられます。これから住まいを購入する方のエリア選び、物件探しのヒントなれば幸いです。

2. 子育て世帯が増えた街・減った街ランキング(東海圏)

それではさっそく東海圏(静岡・岐阜・愛知)のランキングを見ていきましょう。

2-1. 東海圏トップ10には名古屋市・静岡市近郊のベッドタウンがランクイン

東海圏の市区町村別に、年少者の転入(転出)超過が多い街トップ10をランキングしました。

■東海圏 年少者(0~14歳)の転入超過数                (人)

出典:「住民基本台帳人口移動報告 令和3年結果(総務省)」 より作成

子育て世帯の転入超過トップは、前年の2位から順位を上げた愛知県瀬戸市でした。また2~3位は静岡勢が入り、2位の富士市は前年の7位から、3位の静岡市葵区はランク外からのジャンプアップとなります。トップ10はいずれも都心部ではなく、近郊~郊外のベッドタウンが多くランクインし、利便性の高い、価格もリーズナブルなエリアが子育て世帯の人気を集めていることがわかります。

一方ワースト10を見ると、トップは名古屋市中区、2位は同じく中川区で、名古屋市がトップ10のうち5エリアを占めています。子育て世帯が都心部から郊外に流出する傾向は首都圏でも見られますが、このようなエリアは10代後半~20代の流入が非常に多く、年少者とその親世代である30代以降の流出が多いという特徴があります。推測にはなりますが、大学進学や就職で東京に転居した方が、一旦賃貸に住み、結婚や出産など住宅を購入するタイミングで郊外に転出するケースが多いと考えられます。

2-2. 子育て世帯の転居タイミングは「4歳まで」が約7割

さらに、東海圏トップ10エリアの転入超過数を年齢別に見てみると、全体(0~14歳)の72%が0~4歳に、19%が5~9歳に集中していることがわかります。

■東海圏トップ10エリアの年齢割合(合計)

つまり、約7割の家庭で子どもが小学校に上がる前、全体の9割以上が小学校低学年までに転居していると考えられます。これは子どもが成長してからの転園・転校を避けたいという親の意向の現れで、一般的な住宅購入の時期とも重なります。これも推測にはなりますが、子どもの誕生によって部屋が手狭となり、住宅購入を検討する中で、価格が手頃で子育て環境もよい郊外の街を選ぶケースが多いのではないかと思われます。

2-3. 低年齢の転入割合が高いのは一宮市と瀬戸市

さらに、市区町村別に年齢の割合を見てみましょう。各エリアとも0~4歳の割合が最も高くなっていますが、その中でも特に多いのが愛知県一宮市と瀬戸市です。一方、5~9歳の割合が多いのは静岡県富士市、10~14歳の割合が多いのは静岡市葵区と愛知県西尾市となっています。

■東海圏トップ10エリアの年齢割合と転入超過数(市区町村別)

2-4. 東海圏の転入超過数トップ10エリアの不動産価格

最後に東海圏トップ10エリアの不動産価格について見てみましょう。

■東海圏トップ10エリアの公示地価

※公示地価は2022年の平均公示地価(1㎡あたり)

トップ10エリアでは静岡市葵区を除き、㎡あたり10万円台以内となっています。この価格帯のエリアであればマンション、一戸建とも相場は2,000~3,0000万円台が中心となりますので、仮に3,000万円を固定金利1.48 %(※)、35年ローンで返済したとすると、月々の返済額は約9万2,000円です。※フラット35(2022年4月)の最低金利

月10万円以下で、しかも固定金利で住まいを購入できると考えれば、都心部の賃貸に住み続けるよりも郊外の広い住まいに転居したくなるのもうなずけます。子どもが生まれ、今までの家が手狭になる一方、今後の教育費などを考えると住宅の負担はなるべく軽くしておきたいものです。そうした子育て世帯のニーズにマッチするのが、利便性と価格のバランスがよく、自然豊かで子育て環境のよい郊外エリアなのでしょう。

3. 子育て世帯が増えた街・減った街ランキング(関西圏)

続いて関西圏(大阪・兵庫)のランキングを見ていきましょう。

3-1. 関西圏は北摂と阪神間の郊外エリアが上位。ワースト10はほぼ大阪市

関西圏の市区町村別に、年少者の転入(転出)が多い街トップ10をランキングしました。

■関西 年少者(0~14歳)の転入超過数                (人)

出典:「住民基本台帳人口移動報告 令和3年結果(総務省)」 より作成

関西圏トップ10は大阪の北摂エリアが1位(箕面市)、2位(吹田市)、4位(枚方市)に、また阪神間の北側に位置する川西市、宝塚市などもランクインしており、総じてJR東海道線、阪急線、京阪線の沿線の街が上位となっています。南部エリアからは和泉市だけが8位に入っています。

一方ワースト10は、トップの尼崎市、4位の堺市北区、7位の神戸市中央区を除き、すべて大阪市となっていますが、東海圏と同様、都心部は10代後半から20代の流入が圧倒的に多く、総数では転入超過となっている街がほとんどです。おそらく進学や就職を機に都心部の賃貸に住み、結婚や出産のタイミングで郊外に転出するというパターンが多いと推測されます。

なおワーストトップの尼崎市は、大阪市に隣接する好立地でありながら、工業地帯のイメージが強くあまり人気がありませんでしたが、近年では工場跡地に大型のファミリー向けマンションなどが供給されるなど、「交通や生活に便利だが価格が割安な穴場の街」というイメージが定着しつつあり、少しずつ人気が高まっています。

3-2. 関西トップ10エリアでも9割超が小学校低学年以下で転居

関西エリアも東海圏と同じく、年少者の転入時期は0~4歳がもっとも多く70%。5~9歳が23%となっており、小学校低学年までの転入が全体の9割超を占めています。

■関西圏トップ10エリアの年齢割合(合計)

3-3. 関西圏の転居年齢の違いは、保育環境の差によるものかも知れない

関西トップ10エリアの年齢別・エリア別の転入超過数を見てみましょう。0~4歳の比率がもっとも高いのは兵庫県川西市(86%)、もっとも低いのは兵庫県西宮市(53%)となっています。西宮市は5~9歳の割合がもっとも高く(42%)、小学校低学年での住み替えが多いようです。また、10~14歳の割合が高いのは兵庫県明石市(15%)となっています。

この背景としては西宮市と明石市の待機児童数の多さが挙げられると思います。2021年4月現在、西宮市の待機児童数は182人でなんと全国1位。明石市も149人で兵庫県では西宮市に次ぐ2位となっています。両市とも子育て世代にはとても人気の高い街ですが、増大する保育ニーズに追いついていないのが現状です。ちなみに0~4歳の割合が高い川西市の待機児童数は16人。子育て世帯でも共働きが増える中、保育環境と転居年齢には密接に関連しているのかも知れません。

■関西トップ10エリアの年齢割合と転入超過数(市区町村別)

3-4. 関西の転入超過数トップ10エリアの不動産価格

最後に関西圏の転入超過数トップ10エリアの不動産価格について見てみましょう。

■関西圏トップ10エリアの公示地価

※公示地価は2022年の平均公示地価(1㎡あたり)

トップ10エリアの地価は、㎡あたり5~20万円台と幅広く分布していますが、阪神間、北摂エリアは概ね10~20万円台、南部の和泉市や神戸市北区などでは10万円を切っています。変動率で見ると、10万円を超えるエリアはすべて上昇しており、子育て世帯に人気のエリアは地価も堅調な傾向が見て取れます。

4. 子育て世帯の住み替え傾向とコロナ後の不動産価格

ここまで見てきたデータをもとに、子育て世帯の転出傾向と、郊外に転出する理由を考察しみてみました。

4-1 都心からの転出は都心から30分~1時間圏内の郊外エリアが中心

2021年はコロナ禍でテレワークなどが普及したことにより、都心部からの移住が大幅に増えるのではないかと予想する声も多くありました。しかし蓋を開けてみると、転居先は都心から30分~1時間圏内のエリアがほとんどで、遠方への移住はそれほど増えていません。

コロナが落ち着きを取り戻し、企業が少しずつ出社を再開させている今、やはり職場に近い利便性の高いエリアに住みたいという人は多く、結果として通勤圏の近郊~郊外エリアが選ばれることが多いからでしょう。

4-2.子育て世帯が郊外を選ぶ大きな理由は「環境」と「価格」

また「子育て」という観点で見ると、郊外エリアは自然が豊かで、子どもと一緒に遊べる広い公園やアスレチックなどのレジャー施設なども多くあります。また、大型のショッピングモールなども点在しており、日々の買い物や家族でのお出かけにも便利な環境が整っています。

また、都市部の新築マンション価格が上昇を続ける中、2,000~4,000万円台で広い一戸建が購入できる郊外エリアは、何かとお金のかかる子育て世帯の家計にもやさしい選択と言えます。

このように環境面でも価格面でも子育て世帯のニーズに合っていることが、都心から郊外への転出が増える大きな要因となっています。また前述の通り、保育環境の充実した街、子育て支援に力をいれている自治体は人気が高く、若いファミリー層の流入が増える傾向にあります。

4-3. コロナの落ち着きとともに、人気エリアは値上がりの兆しも

この記事を執筆している2022年5月現在、コロナの新規感染者は1日3,000~4,000人程度とかなり落ち着きを取り戻しつつあります。6月からは海外からの入国も緩和される見込みで、ようやくインバウンド復活の兆しも見えてきました。

そうした動きを先取りするように、3月末に発表された公示地価では、2021年に下落傾向にあった地価は商業地・住宅地ともに2年ぶりの上昇となり、不動産価格は都市部を中心に回復の兆しを見せています。そして都心部の価格が上がれば、近郊から郊外エリアへと上昇の波が広がっていくことも予想され、特に子育て世帯のニーズにマッチした物件が多いターミナル駅や再開発エリアなどは、今後も上昇傾向が続くことが予想されます。

これから住宅購入を検討する方は、子どもの入園・入学のタイミングを睨みながら適切なタイミングで判断できるよう、日頃から希望エリアの値動きや物件情報に注意しておきましょう。

地域に詳しい不動産会社などと相談しながら、早めに動き出すことをおすすめします。