不動産価格は本当に二極化しているのか?(関東・東北編)

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不動産価格の上昇が続く昨今ですが、最近「不動産価格の二極化」という言葉がよく聞かれます。しかしそもそも二極化とは何なのか?本当に二極化しているのか?今回のコラムでは、このわかるようでよくわからない「二極化」について考えてみたいと思います。

目次

1)不動産価格の二極化とは

まず、不動産価格の「二極化」とは何なのかについて考えてみましょう。

1-1. 二極化とは「中間」が少なくなること

一般的に「二極化」とは、ある集合(集団)が、両極端な2つのグループに分かれていき、中間が減っていくことを意味します。

例えば、あるクラスのテストの成績が80~100点の上位グループと、0~20点の下位グループに分かれて、40~60点の中間グループが少なくなったり、社会全体が富裕層と貧困層に分かれて、中間層が少なくなったりすることを指します。

1-2. 不動産価格における二極化とは

これを不動産価格に置き換えると、ある地域の価格が、高価格エリアと低価格エリアに分かれ、中間のエリアが減っていくという解釈になります。しかし、実際にはそのようなことは起こっておらず、高価格エリアと低価格エリアの間には「中価格帯」のエリアが存在しています。

では、不動産価格における二極化とは何を意味しているのでしょうか?

明確な定義があるわけではありませんが、不動産価格の「値動き」(=上昇・下落)に関連して使われることが多いようです。つまり、不動産価格の二極化とは、価格が「上昇を続けるエリア」と「下落を続けるエリア」に分かれ、中間(=横ばい)のエリアが減っているという現象を指して使われることが多いのです。

そこで今回は、最近10年間の基準地価の動きから、不動産価格は本当に二極化しているのかどうかを探ってみました。着目したのは地価の「上昇回数」(10年間で上昇した年が何回あったか)です。

※本コラムのデータは、2014~2013年の基準地価(住宅地)を元に作成しています。

※変動率は、前年または10年前と比較可能な基準地ごとの変動率を市区町村で平均したものです。

2)不動産価格は本当に二極化しているのか(首都圏編)

それでは早速、首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)の状況から見ていきましょう。

市区町村ごとの平均地価・平均変動率をもとに検証していきます。

2-1. 10年間の全体の値動き

まず前提となる首都圏全体の値動きです。前年と比べて地価が上昇した市区町村と下落した市区町村の数は以下の通りです。

首都圏では、2014~2019年まで上昇がやや優勢で推移してきましたが、2020~2021年はコロナ禍の影響で一時的に下落数が増え、2022年以降は再び上昇数が増え、価格上昇エリアが郊外まで拡大していることがわかります。

2-2. 市区町村ごとの上昇回数と上昇率

次に、地価の上昇回数と変動率を見てみましょう。変動率は2014~2023年(10年間)での変動率となります。

※横軸は上昇回数。縦軸は市区町村数

グラフの通り、この10年間で10回上昇(=毎年上昇)した街と、0回(=毎年下落または変動なし)の街の数が両極端に多くなっており、前述の学校のテスト成績のグラフと酷似しています。

つまり首都圏の地価は、典型的な「二極化」構造となっており、上がり続ける街と下がり続ける街がはっきり分かれていることがわかります。また当然ながら、10年間の上昇率が高い街ほど上昇回数も多くなっています。

2-3. 地価が上がり続けている街はどこなのか

次に、具体的にどのような街が上昇を続けているのかを見てみましょう。首都圏で上昇回数が10回となった街は以下の通りです。

■首都圏で地価が10年間上昇を続けた市区町村

東京都神奈川県埼玉県千葉県
23区すべて、調布市、武蔵野市、府中市、小金井市、狛江市、稲城市横浜市(鶴見・神奈川・西・中・南・港北・青葉・都筑区)、川崎市(川崎・幸・中原・高津区)、相模原市(南区)、藤沢市、大和市さいたま市(北・大宮・浦和区)、川口市、蕨市、戸田市、和光市千葉市(中央・稲毛区)、松戸市、浦安市、習志野市、鎌ケ谷市、木更津市、君津市、袖ケ浦市

東京都は23区のすべてが10年連続で上昇しており都心部の強さがうかがえます。また市部では、調布市、武蔵野市、府中市など、利便性が高く住環境のよいエリアの上昇が目立ちます。

神奈川県では、横浜市、川崎市の多くの区、リニア駅の開業が予定される相模原市南区、湘南の人気エリア藤沢市、相鉄線の都心乗り入れで人気上昇の大和市などがランキングされました。

埼玉県は、さいたま市の都心部と東京に隣接する川口市、戸田市など、また千葉県は千葉市中心部と東葛エリア、アクアライン経済圏と呼ばれる木更津市、君津市などがランキングされています。

その他、上昇率の高い街としては、さいたま市南区(+20.2%・上昇回数9回)、埼玉県ふじみ野市(+13.3%・9 回)、千葉県市川市(+24.7%・9 回)、千葉県船橋市(+14.7%・9 回)、千葉県流山市(+10.1%・9 回)などのベッドタウンのほか、東京オリンピックのサーフィン会場となった千葉県一宮町(+21.8%・7 回)などが挙げられます。

なお上昇回数0回の街には、神奈川県西部、埼玉県北部、千葉県東部~南部の都心から離れた沿岸部や山間部などが多くランキングされています。

3)不動産価格は本当に二極化しているのか(北関東編)

続いて、北関東(茨城・栃木・群馬)の状況を見ていきましょう。

3-1. 10年間の全体値動き

北関東エリアの全体の10年間の値動きは以下の通りです。

首都圏とはかなり様相が異なり、10年間を通して上昇エリアはごくわずか、大部分の街が下落しています。コロナ禍明けの2022年以降、若干の回復は見られるものの北関東全体として価格が低調であることがわかります。

3-2. 市区町村ごとの上昇回数と上昇率

次に上昇回数と変動率を見てみましょう。

こちらも首都圏とは大きく異なり、0回の(一度も上昇していない)街が大部分を占めています。上昇回数は最高で7回、つまり10年のうちで8回以上上昇した街はないという結果になりました。

したがって、北関東エリアは地価の二極化というよりも「”一”極化」に近い状態で、下がり続ける街がほとんどだということになります。

3-3. 上昇回数の多い街はどこなのか

このようにほとんどのエリアで下落が続く中、上昇している街はどこなのでしょうか。

上昇回数7回の街は、栃木県宇都宮市・下野市・小山市の3市のみ。6回は茨城県守谷市、5回は群馬県太田市となっています。

また、10年間の上昇率上位は以下の通りで、つくばエクスプレス沿線と東北・上越新幹線の沿線が多くなっています。

■北関東で10年上昇率の高い市区町村

茨城県栃木県群馬県
守谷市(+7.5%)
つくばみらい市(+2.9%)
鹿嶋市(1.0%)
宇都宮市(+2.0%)
下野市(+1.8%)
小山市(+1.7%)
太田市(+0.6%)

3-4. 北関東は「一極化」でも、関東全域で見ると「二極化」の様相がうかがえる

このように、北関東エリア単体では、価格の二極化は起こっていませんが、首都圏と北関東を合わせた関東全域で見ると、以下のような二極化カーブが見られます。

つまり、関東全体を一つのエリアとして捉え、北関東を首都圏の”超”郊外と仮定すれば、やはり二極化は起こっており、アクセスの良いつくばエクスプレスと新幹線の沿線が上昇、その他多くのエリアが下落、そしてごく一部の県庁所在地などが、中間層としてなんとか横ばいをキープしていると理解できます。 下のマップは、10年間の上昇回数をプロットしたもので、色が濃いほど回数が多いことを示しています。関東全体として見ると濃淡がはっきり分かれており、中間的なエリアが少ないことがわかります。

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4)不動産価格は本当に二極化しているのか(東北編)

最後に東北エリア(宮城・福島)の状況を見てみましょう。

4-1. 10年間の全体値動き

10年間の値動きは以下の通りです。

上昇・下落の割合は、首都圏と北関東の中間くらいですが、特徴としては2015~2016年にかけての上昇が多いことが挙げられます。2013年の金融緩和直後から、仙台、福岡などの地方都市では多くの投資資金が流入し地価を押し上げました。また震災からの復興で沿岸部の地価が回復してきたことも影響しています。コロナ後に上昇が加速した首都圏とは対照的に、コロナ後は落ち着きを取り戻しています。

4-2. 市区町村ごとの上昇回数と上昇率 次に上昇回数と上昇率です。

こちらも首都圏ほどきれいな二極化ではありませんが、両端(10回と0回)の割合が高くなっています。全体として二極化の傾向はあるものの、上昇エリアより下落エリアの方がはるかに多く、ごく一部の上昇エリアでは20%超という高い上昇率になっているのが特徴です。

4-3. 上昇回数の多い街

東北エリアで上昇回数10回となった街は以下の通りです。

■東北エリアで地価が10年間上昇を続けた市区町村

宮城県福島県
仙台市(すべての区)・名取市
多賀城市・岩沼市・富谷市・利府町
福島市・会津若松市・郡山市

東北の中心都市である仙台市はすべての区で、また仙台のベッドタウンである名取市や富谷市なども10年連続の上昇となっています。福島県では県庁所在地である福島市、東京から新幹線で約80分の郡山市、会津地方の中心都市である会津若松市が10年連続の上昇となりました。

しかし、仙台市周辺では10年上昇率が50~70%にも達するのに対し、福島県ではもっとも高い郡山市でも約24%にとどまっています。

その他、注目される街としては、上昇回数は7回なのに約38%上昇した宮城県大和町。仙台市内の地価上昇が郊外部し2019年ごろから上昇が始まり、2022年以降は年9%近い上昇率となっています。

また、郡山と福島の中間に位置する、福島県大玉村(+19.7%・9 回)は、両市へのアクセスのよいベッドタウンとして、高い上昇率となっています。

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5)不動産価格の二極化が続く中でのエリア選びのポイントとは?

5-1. 不動産価格の二極化は今後ますます拡大する可能性が高い

2013年に始まった金融緩和以降、不動産価格は上昇傾向が続いています。しかし平均地価が上昇する中でも、上昇エリアよりも下落エリアの方がはるかに多く、上がるエリアと下がるエリアがはっきり分かれてきており、最近よく耳にする「二極化」は確実に進んでいると言えます。

これは、人口減少や高齢化で街づくりが都心部に集約されつつある(コンパクトシティ化)ことや、共働きの増加や子育てのしやすさなどから、利便性の高い都市部に若い世代の人口が集中することなどが要因と見られ、二極化は今後ますます拡大していく可能性が高いと考えられます。

5-2. 二極化のもとでのエリア選びのポイント

今後も不動産価格の二極化が続くことを前提に、これから住まいを購入する方はどのようなことに気をつけたらよいのでしょうか。

1つ目は、当然ながら、継続して上昇が見込めるエリアを選ぶということです。具体的には都心部へのアクセスがよく、商業施設や医療施設などの充実したエリア、再開発などで新たに街が開発されたエリアなどが候補となります。逆に利便性が低く人口が減少しているエリアや、若年層が少なく高齢化が進んでいるエリアなどはできるだけ避けたほうが無難でしょう。

2つ目は、二極化の範囲を見極めるということです。データでは、東京を中心とする関東エリアと、仙台を中心とする東北エリアという範囲で二極化が見られましたが、もっと狭い範囲、例えば同じ市内でも沿線や駅によって価格が極端に変わることもあります。

これから住まいを購入する方は、現在の価格だけでなく、将来の価格も意識しながら物件を探すことが重要です。地域に詳しい不動産会社などと相談しながら、慎重にエリア選びを進めていきましょう。