住まいの設計を進める上で、最近注目されているのが「家事ラク」という考え方です。自由にプランをつくれる注文住宅だからこそ、毎日の家事をラクにする間取りや設備を取り入れたいもの。今回はそんな「家事ラク」な住まいをつくる3つのポイントをお伝えします。
目次
1. なぜ今「家事ラク」な住まいが求められるのか?
まず、なぜ今「家事ラク」が求められるのでしょうか?背景には、時代の変化があると考えられます。
1-1. 共働き夫婦の増加
近年、住宅購入層である若者世帯では、共働きが当たり前になっています。内閣府の「男女共同参画白書 令和4年版」によれば、働く夫と専業主婦の世帯は減少し続け、共働き世帯が夫婦世帯の約7割に達しています。共働きしながら家事や育児を夫婦共同でおこなうスタイルが定着し、毎日の家事負担をいかに減らすかは、住まいづくりでも重要な視点となっています。
1-2. 「タイパ」「時短」重視のライフスタイル
最近よく聞かれる「タイパ」という概念。タイムパフォーマンスの略で、時間に対するパフォーマンスの高さを表した新語で、例としては、動画を倍速視聴したり、家事などとの同時並行で映画をみたりする「ながら視聴」などが例として挙げられます。特に若者世代で重視される傾向があり、家事もいかに効率よく「時短」できるかがキーワードになっています。
1-3. ロボット家電やIoTなど住宅設備の進化
こうした価値観の変化に合わせて、住宅設備も進化しています。例えば外出している間に掃除をしてくれるロボット掃除機、外出先からお風呂が沸かせる給湯器、不在時も宅配便を受け取れる宅配ボックスなど、設備機器やIoT技術が急速に進化しており、住まいもそれに対応した間取りや仕様が求められる時代になっています。
※IoT:Internet of Things(モノのインターネット)。家電や携帯端末など、あらゆるモノがインターネットにつながり遠隔からセンサー監視や機器の操作などが可能になることで生活の利便性・質が高まること。
2. 家事ラク間取りのポイント1『動線設計』
こうした時代の変化や設備機器の進化に対応した「家事ラク」間取りをつくるポイントのひとつ目は「動線」の設計です。
2-1. 動線設計とは?
動線とは、毎日の生活での人やモノの動き方を想定した経路のことをいいます。動線設計では、人やモノができるだけスムーズに行き来でき、無駄な動きが発生しないように、居室や水回りの配置を決めていくことが重要です。また、動線には主に「生活動線」と「家事動線」があり、例えば生活動線では、朝起きてから仕事に出かけるまでの一連の動きを想定した配置が求められますし、家事動線では、洗濯物を洗う~干す~取り込む~畳む~収納するといった流れがより効率的におこなえる設計が望まれます。
2-2. 家事ラク住まいの動線設計のポイントは「回遊動線」
効率のよい動線を実現する間取りのポイントが「回遊動線」と呼ばれる考え方です。回遊動線とは、家の中に「行き止まり」を作らず、ぐるりと回って移動できるように動線です。行き止まりがないことで、同じ場所を行ったり来たりすることなく、無駄のない移動が可能になります。
2-3. 回遊動線を取り入れた間取りの例
回遊動線の一例として、キッチン・脱衣所・洗濯スペースを回遊できるようにすれば、料理をしながら洗濯しやすくなります。また、脱衣室の隣にランドリースペースを、さらにその隣にクローゼットを配置すると、「洗う」→「乾かす」→「しまう」という一連の家事が、効率よく進められます。
■玄関~リビング~キッチン~洗面室と回遊できる間取り
玄関~パントリー~キッチンを回遊できるようにすれば、買った食材や日用品をパントリーに収納し、生鮮品は冷蔵庫に入れるといった動作をスムーズにおこなうことができます。重いペットボトルをもって行ったり来たりするのは大きなストレスになりますので、最短距離で回遊できるよう配置を検討したいところです。
2-4. 子育て動線や介護動線などにも注意
小さなお子様やお年寄りがいるご家庭では、「子育て動線」や「介護動線」などにも気を配ってみましょう。
■キッチンとダイニングテーブルをつなげて配膳・片付けをしやすく
お子様がいる場合には、家事をしながらも子どもに目が行き届く配置、例えば対面キッチンやリビング階段などを。お年寄りがいる場合には、段差のないフラットな動線や、部屋の近くにトイレを配置するなど、子育てや介護がしやすい間取りを検討してみるとよいと思います。
3. 家事ラク間取りのポイント2 『収納スペースの適材適所』
家事ラク間取りの2つ目のポイントは、「収納スペース」の考え方です。収納は多ければ多いほどよいと思われがちですが、実は配置する場所と、用途に合わせた形状をしっかり検討することが大事です。
3-1. 収納スペースを配置する場所
収納スペースを設計する際に大事なのは「あるべきところにある」ということ、生活動線を考慮した配置になっているかどうかが重要です。
例えば、タオルや下着などの収納スペースは、お風呂に近い脱衣所などにあると使いやすく、食材などをストックするパントリーは、キッチンの近くに配置すると家事動線がコンパクトになります。つまり、モノを「使う場所」に近い位置に収納できるように配置するのが大きなポイントとなります。
3-2. 用途に応じた収納設計
さらに、収納するモノや使い方に合わせたスペースの設計も重要です。
例えば衣類の収納スペースにハンガーパイプを多めに設置しておくと、乾いた洗濯物をハンガーのまま吊るして収納できるので、いちいち畳む必要がなくなります。最近では、家族みんなの衣類などをまとめて収納できる大きなファミリークロークを設けるプランも増えています。
3-3. 玄関近くのシューズインクロークは定番となりつつある
最近では、玄関から直接入れるシューズインクロークが定番になりつつあります。
靴を収納する棚や、コートやカバンを掛けられるハンガーパイプなどを合わせて設置すると、汚れたものを室内に持ち込むことがなくなります。また、床を土間にすれば、ベビーカーや自転車、子どもの遊び道具、アウトドア用品などもまとめて収納することができます。
さらに、土間スペースを脱衣洗面所とつなげれば、汚れた衣服をそのまま脱いで洗濯できたり、部屋に入る前に手洗いうがいができたりと、衛生面でもメリットがあります。
このように収納スペースは、動線を考慮しながら、どこにどのような形状でつくるかが、家事ラク住まいをつくる上での大きなポイントとなります。
4. 家事ラク間取りのポイント3 『掃除がラクな内装』
最後に、家事ラク間取り3つ目のポイント「内装」について解説します。
4-1. 内装を工夫すると掃除がラクになる
壁や床などをどのような形状・素材にするかは、掃除のしやすさに大きく影響します。
まず、洗面所やトイレなど水回りの床は、拭き掃除がしやすいタイルやクッションフロアなどの素材をおすすめします。フローリングだと汚れが落ちにくかったり、染みになったりすることがあります。また水回りは湿気が多くカビが発生しやすいので、防カビタイプや抗菌性のクロスなどを用いるとよいでしょう。
油汚れなどが付きやすいキッチンのコンロまわりも、拭き掃除のしやすいタイルやステンレスなどがおすすめです。また加熱機器をIHヒーターやガラストップのガスコンロなど掃除がしやすいものにしたり、レンジフード(換気扇)を「自動洗浄」機能のあるものにしたりすると、面倒なキッチンまわりの掃除が格段にラクになります。
4-2. ロボット掃除機をフル活用するための内装
掃除の中でも特に面倒に感じるのが掃除機かけですが、ルンバに代表されるロボット掃除機を使えば、外出中でも毎日掃除機をかけられるので負担が大幅に軽減されます。
ロボット掃除機を使う場合は、家全体の床をフラットにしておくこと、床にモノを置かない前提で設計することが大事です。また、毛足の長いカーペットや柔らかい床材などは避けたほうが無難です。ロボット掃除機本体もスペースを取りますので、邪魔にならない場所に充電スペースを設置しましょう。
4-3. 家具はできるだけ作り付けにしよう
食器棚やタンスなどの家具は、作り付けにすると掃除がラクになります。既製品の家具を置くと、隙間や上部など掃除しにくい場所にホコリが溜まります。作り付け家具ならサイズもピッタリですし、デザインも統一できます。地震で倒れる心配もありませんので、安全性の面からも家具はできるだけ作り付けをおすすめします。
5. 家事をラクにするその他の工夫
ここまで紹介してきた3つのポイント以外の工夫も見ていきましょう。
5-1. エクステリア
エクステリアを設計する際は、外部から玄関までの動線をしっかり検討しましょう。例えば道路から玄関までの動線に階段などがあると、ベビーカーなどを入れる際にストレスになります。
また、駐車場から玄関への動線が長いと、買い物から帰った時に、重い荷物を運ぶのが大きなストレスになります。雨に濡れずに短い距離で玄関までアプローチできる動線を工夫しましょう。また、家の周囲は防草シートや土間コンクリートなどで、雑草が生えにくいように。物置や宅配ボックスを置きたい方は、置き場所や固定方法などを事前に検討しておきましょう。
5-2. コンセントの位置や高さ
家を建てた後に後悔することが多いと言われるのがコンセントの位置や数です。設置する位置が悪いと室内を延長コードが這い回ることになり見苦しいですし、掃除の邪魔になります。また、コンセントは一般的に床から25cmくらいの高さに設置されますが、コードタイプの掃除機を使う場合には、少し高い位置(40cmくらい)に設置すると抜き差しがラクになります。
最近ではルーターやスマートスピーカーなどのIT機器も増えています。機器の置き場所やコンセントの配置はしっかり検討しましょう。
家事ラクな住まいをつくるポイント、いかがでしたでしょうか?
ちょっとした工夫で毎日の家事ストレスが軽減され、子育てや生活にゆとりが生まれます。これから家を建てる方は、ぜひ「家事ラク」視点での設計を検討してみましょう。
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