人生100年時代と言われる今、定年退職後の住まいと老後資金の確保は大きなテーマとなりつつあります。今回は、シニア世代の住み替えと、近年利用者が拡大しているリバースモーゲージ型住宅ローン「リ・バース60」について解説します。
目次
1、シニア世代が住み替えを考えるきっかけ
厚生労働省の発表によれば、日本人の平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳。世界でも有数の長寿命国です。また60歳時点での平均余命は男性24.02年、女性29.28年と、仕事をリタイアした後の人生は20~30年に延びています。この時期に起こり得る変化と住み替えのタイミングについて考えてみましょう。
1-1. 子どもの独立にともない、広すぎて維持費がかさむ家に
定年を迎える前後の50代~60代は、子どもが独立する時期とも重なり、それまで4人家族で暮らしていた家も、夫婦2人となれば使わない空間を持て余すことになります。広い家は光熱費がかかる上に、老朽化にともなう修繕費用もかさみます。都市部にお住まいなら固定資産税や都市計画税などの税金も馬鹿になりません。子どもの独立はシニアの住み替えの大きなきっかけのひとつです。
1-2. 仕事や生活の変化と老後資金
定年後は仕事の内容も変化し、毎日の通勤がなくなったり、勤務時間も短くなったりしますので、時間に余裕ができるようになります。現役時代は通勤時間を最優先に、都心に近い立地が好まれる傾向がありますが、定年後は都心に住むメリットが低くなりますので、自然が豊かで物価も安い郊外に住み替える方が多くおられます。また収入も減っていきますので、老後資金の観点からも、資産価値の高い都心の家を手放して、リーズナブルな郊外エリアに住み替えるよいタイミングとなります。
1-3. 病気や体力の衰え
年齢とともに体力が衰えたり病気をしたりすると、日々の階段の上り下りや、車・バスなどでの外出がだんだん億劫になってきます。例えば、いわゆるニュータウンなど、駅から離れた一戸建にお住まいだった方が、駅近のマンションなどに住み替えると、コンパクトでワンフロアのとても暮らしやすい家になります。またスーパーや病院が近くにあれば、車を使わず徒歩だけでの暮らしも実現できます。
1-4. 相続した実家が子どもの重荷になることも
そして、近年問題になっているのが「実家の空き家問題」です。子どもが独立した後に両親が亡くなると、それまで暮らしていた実家が空き家になり、相続した子どもがその管理の負担を背負うことになります。すんなり売却できればよいのですが、築数十年を経て老朽化した空き家は思うような価格では売れないことも多いですし、思い出の詰まった実家の売却は兄弟間の調整なども必要になるでしょう。
子ども世代に負担をかけないという意味でも、売却しやすく賃貸も可能な立地のよいマンションなどへの住み替えニーズは高まっています。
1-5. 住み替えのネックになるのは資金と住宅ローン
このように、定年前後の50~60代は生活環境の変化が大きく、それまでの家が住みにくく感じてくる時期です。しかし、ここでネックになるのは資金です。収入が減少するシニア期には住宅ローンの借入がしにくく返済期間も短くなります。またまだローンが残っているという方も少なくありません。
シニア期の住み替えでもっとも難しい資金計画。これを解決するひとつの方法が、住宅金融支援機構が提供する「リ・バース60」という新しい住宅ローン商品です。
2、住み替えの資金計画とシニア向け住宅ローン「リ・バース60」
「リ・バース60」とは、シニア世代の住み替えに特化した住宅ローンで、フラット35を運営する住宅金融支援機構と民間金融機関の提携により提供されています。その特徴やメリットなどを見ていきましょう。
2-1. 「リ・バース60」利用数が大幅増加
近年、このリ・バース60の利用が急拡大しています。住宅金融支援機構の発表によれば、2021年度の申請戸数は1,630戸で、前年度の1,162戸から約40%も伸びています。また2022年4~6月の申請戸数は428件で、前年同期比20%増と年々利用者数が増えています。
■リ・バース60の付保申請戸数等の推移(2022 年6月末現在)
出典:【リ・バース60】の利用実績等について(2022 年4月~6月分)|住宅金融支援機構
また、リ・バース60の申込者の平均年齢は70歳・平均年収は369 万円で、年金受給者が57%を占めています。資金の使途は以下の通り、注文住宅と新築マンションで約半数、2割が借り換えに利用しています。
出典:【リ・バース60】の利用実績等について(2022 年4月~6月分)|住宅金融支援機構
このように、シニア世代の住み替えで脚光を浴びる「リ・バース60」。通常の住宅ローンとは何が違うのか、またどんなメリットがあるのか詳しく見ていきましょう。
2-2. リ・バース60の特徴とは
① 月々の返済が利息のみ
リ・バース60のもっとも大きな特徴は、月々の返済が利息のみという点です。一般の住宅ローンは、借入の元金と利息を合わせて返済しますが、リ・バース60は利息のみの返済なので、毎月の支出が大幅に安くなります。
②元金の返済は亡くなった後に物件を売却して返済
それでは元金はどのように返済するのでしょうか。元金は、融資を受けた債務者が亡くなった後、相続人(主に子ども)が返済します。相続人は手持ちの資金で返済するか、物件を売却して返済しますが、売却金額が返済に対して不足する場合でも残った債務を返済しなくてよい(=子どもに負担をかけない)方法が用意されています。(詳細は後述)
つまり、リ・バース60は子どもに自宅を残す意向がない方が、月々の返済を最小限に抑えながら、自宅の建て替えやリフォーム、住み替えを実現したい場合に利用できる住宅ローンと言えます。また妻が連帯保証人となることで、夫婦ともに一生涯住み続けることができ、亡くなった後は子どもに負担をかけることなく借入を完済できる、新しいタイプの住宅ローンなのです。
2.3. リ・バース60の利用条件
次にリ・バース60の利用条件について詳しく見ていきましょう。
下表の通り、借入金額の上限は担保となる不動産の50~60%となりますので、買い替えの場合には購入する物件価格の半分程度の自己資金を用意する必要があります。また建て替えやリフォームの場合は、現在の自宅の担保評価により借りられる額が変わってきます。
年齢 | 60歳以上(金融機関により50歳以上60歳未満でも利用可) |
返済比率(※) | 年収400万円未満:30%以下 年収400万円以上:35%以下 |
資金の使いみち | 住宅の建築・購入資金(土地の取得費を含む) 住宅のリフォーム資金 住宅ローンの借換え資金 等 |
融資額の上限 | 60歳以上:物件の担保評価額の50%または60% (長期優良住宅の場合は55%または65%) 50~60歳:物件の担保評価額の30% |
金利 | 変動金利(金融機関によって異なるが概ね2.5~3%前後) |
借入期間 | 契約者および配偶者(連帯保証人)が亡くなるまでの期間 |
団体信用生命保険 | 加入できない |
※返済比率とは:年収に占めるすべての借入れに関する年間返済額の割合
※年齢、資金の使いみち、融資の限度額その他の商品内容は、金融機関ごとに異なる
このように細かい条件はあるものの、実際に利用している方の平均年齢が70歳、年金受給者が57%を占めていることを考えると、仕事をリタイアし高齢になってからの住み替えやリフォームに活用されるケースが多いと推測されます。
2-4. リ・バース60のメリットとデメリット
それではリ・バース60の具体的なメリット・デメリットについて見ていきましょう。
リ・バース60の最大のメリットは月々の支払いが利息のみで済むことです。元金の返済がない分、老後の生活にゆとりが生まれ、一生涯ご自宅に住み続けることができます。
また、返済方法には「リコース型」と「ノンリコース型」の2種類があり、「ノンリコース型」を選べば、残された子どもに負担をかけずにローンを完済することができます。
■リ・バース60の返済方法
担保物件(住宅および土地)の売却代金で返済した後に債務が残った場合、相続人(主に子ども)の返済義務の有無により2つの方法があります。
リコース型 | 相続人は残った債務を返済する必要がある |
ノンリコース型 | 相続人は残った債務を返済する必要がない |
「ノンリコース型」は、「リコース型」に比べて金利が高くなる場合がありますが、申込者の99%が「ノンリコース型」を選択しています。(2021年度申込み実績)
さらに物件の担保評価は、原則として申込時の1回だけなので、もし借入後に不動産価格が下がっても、追加担保や返済を求められることはありません。つまり相場が高い今は、リ・バース60利用にはよい時期かも知れません。
一方デメリットとしては、金利変動のリスクがあることです。リ・バース60は変動金利のため、市場金利が上がると返済額が増えます。また、どれだけ利息を支払っても元金は減りませんので、繰り上げ返済しない限り、利息額は変わらず、長生きするほど総支払額が増えるというデメリットがあります。
3、リ・バース60を使った建て替え・住み替えシミュレーション
こうしたメリット・デメリットを理解した上で、リ・バース60の利用を検討する際は、しっかりとシミュレーションをすることが重要です。
ここではローン完済済みの自宅(一戸建)を建て替えた場合と、売却してマンションに住み替えた場合を想定してシミュレーションしてみましょう。
(年齢は60歳。諸経費・税金等は考慮しないものとします。)
3-1. 現在の自宅を注文住宅で建て替えた場合
まず、自宅を注文住宅で建て替えた場合のシミュレーションです。
一例として、現在の自宅と建替え後の担保評価を以下のように仮定します。(建物の建築費と担保評価は同額とします)
■不動産評価額 比較
現在の住居 | 建て替え後の住居 | |
土地 | 3,000万円 | 3,000万円 |
建物 | – | 2,000万円 |
合計 | 3,000万円 | 5,000万円 |
この場合、土地と建て替え後の建物の担保評価が合計5,000万円になりますので、融資率を50%とすると借入上限額は2,500万円になります。このうち2,000万円を建て替え資金として借りた場合をシミュレーションしてみましょう。
借入金額2,000万円、金利2.975%とした場合の返済額は以下のようになります。
月々返済額 | 年間返済額 | 5年後(65歳) | 10年後(70歳) | 15年後(75歳) |
4万9,600円 | 59万円 | 297万円 | 595万円 | 892万円 |
このように月々5万円弱の返済で、手元のお金を減らすことなく、終の棲家を確保することができるわけです。
3-2. 自宅を売却してマンションに住み替えた場合
次に、同様のケースで自宅を売却してマンションに買い替えた場合を考えてみましょう。買い替えるマンションの価格は3,000万円(担保評価も同額)とします。
この場合、現在の自宅を土地評価である3,000万円で売却できたとすると、全額キャッシュで買い替えることも可能ですが、あえてリ・バース60を利用して、担保評価の50%にあたる1,500万円を借入れたとすると、返済シミュレーションは以下のようになります。
月々返済額 | 年間返済額 | 5年後(65歳) | 10年後(70歳) | 15年後(75歳) |
3万7,200円 | 45万円 | 225万円 | 450万円 | 675万円 |
このように、月々4万円弱の返済で、売却代金の半分(1,500万円)をキャッシュとして手元に残すことができます。
4、シニア世代の住み替えと、リ・バース60を利用する際のポイントとは
最後に、シニア世代が住み替えとリ・バース60利用のポイントを見てきましょう。
4-1. シニア世代の住み替えのポイント
①無理のない資金計画
シニア世代の住み替えでもっとも重要なのは資金計画です。仕事をリタイアした後は、収入が減少していきますので、ローンの返済をできるだけ少なくすると同時に、老後資金を手元に残しておくことが大切です。今後のライフプランをしっかり検討し、無理のない資金計画を立てるようにしましょう。
②暮らしやすいコンパクトな間取り
子どもが独立し夫婦2人の暮らしになると、広すぎる家は住みにくくなります。また階段や段差が思わぬ怪我につながったりもしますので、マンションや平屋の一戸建など、できるだけフラットでコンパクトな間取をおすすめします。コンパクトな家は光熱費や修繕費も安くなり、生活コストそのものを抑えることができます。建て替え、住み替えが難しい場合には、リフォームで減築したりバリアフリー化したりすることも可能です。
③エリア・周辺環境
シニア世代の住み替えでは、エリアや周辺環境も重要な要素になります。できるだけ車を使わずに買い物や通院ができる駅近の物件をおすすめします。また毎日の通勤がなくなることや、固定資産税・物価などの生活コストを考えると、都心から郊外への住み替えもおすすめです。都心から1時間前後の郊外エリアは価格も安く生活しやすいので、積極的に検討してみるとよいと思います。
4-2. リ・バース60を利用する際のポイント
①リ・バース60に向いている人とは
ここまで見てきたように、リ・バース60は老後の住宅コストを抑えながら、日々の生活や余暇を楽しむための老後資金を確保できるシニア向けのローン商品です。逆に言えば、自宅の資産価値をお金に換えて、自分の代で使い切るという考え方ですので、子どもに家を残したいと考えている方には不向きな商品です。
また、通常の住宅ローンよりも金利が高く、変動リスクもありますので、こうしたリスクを許容できる方向けのローンです。自宅の担保評価や売却益を活かしながら住み替えを実現するためには有効ですが、虎の子の退職金を頭金にした利用はあまりおすすめできません。したがって、都心部など自宅の評価額が高い方、すでにローンを完済している方に向いていると言えるでしょう。
②金融機関による条件の違いを比較・検討しよう
リ・バース60は都市銀行、地方銀行など全国80あまりの金融機関で取り扱いされていますが、融資条件や金利などが各金融期間によって異なります。事前にしっかり比較・検討しましょう。
(参考)リ・バース60 取り扱い金融機関
5、シニア世代の住み替えは、まず現状把握から始めてみよう
冒頭に申し上げた通り、人生100年時代と言われる今、リタイア後の20~30年間を暮らす住まいと老後資金の確保は重要なテーマです。家族構成やライフスタイルの変化に合わせて、建て替えや住み替えを積極的に検討してみてはいかがでしょうか。
そのためには、まず現状把握から始めてみるとよいでしょう。これからの働き方や収入の見通し、健康状態や余暇の楽しみ方、そして自宅の資産価値や不動産の相場などをしっかり把握することで、今後の住まいの方向性も見えてきます。
不動産会社など専門家のアドバイスを受けながらぜひ検討をスタートしてみてはいかがでしょうか。
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