住宅ローンは今後どうなる? 2回目の今回は「変動金利vs固定金利」の解説です。
前回の記事では、住宅ローンを取り巻く環境や今後の見通しなどについてお伝えしましたが、今回は具体的な返済額のシミュレーションをもとに、どちらを選ぶべきか解説します。
目次
1)変動金利vs固定金利、基本的な考え方を知っておこう
まずは住宅ローンの基本、変動金利と固定金利の基本的な違いや選び方を解説します。
1-1. 変動金利と固定金利のメリット・デメリット
変動金利と固定金利の一般的なメリット・デメリットは以下の通りです。変動金利は金利が低く月々の返済が安く抑えられる反面、金利上昇のリスクがあり、固定金利は金利が高い代わりにずっと返済額が変わらない安心感があります。
1-2. 金利タイプの選び方の基本
変動金利と固定金利のどちらを選ぶかは、この「金利上昇リスク」を自分で取るか取らないかの選択でもあります。変動金利は、金利上昇リスクが借り手側にあり、固定金利は、金融機関にあります。したがって、近い将来に金利が上がると思っている方は固定金利、金利は当面上がらないと思っている方は変動金利というのが基本的な考え方です。
なお、日本では長く低金利が続いている影響で、住宅ローン利用者の7割以上が変動金利を選択しており、将来の金利上昇に対してかなり楽観的であることがうかがえます。
1-3. 現在の低金利がずっと続くとは考えにくいが・・・
しかし、前回の記事でもお伝えした通り、先進国で低金利政策を続けているのはもはや日本だけで、国内外の金利差は開くばかりです。日銀は、今のところ「当面の間、低金利政策を継続する」と明言しているものの、今後30~35年この低金利が続くとは考えにくいでしょう。 低金利が20年以上も続いている今、「金利が上がる」と言っても実感が湧かないと思いますが、今から30年ほど前(1990年代)は、金利5%~8%の時代でした。
出典:フラット35 公式サイト
30年というと長く感じられますが、今住宅を購入した場合、まだ返済が続いている期間です。つまり住宅ローンを返済する期間はそれだけ長く、再び金利5%の時代が来ても不思議ではないということなのです。
では金利はいつ、どのくらい上がるのか?それを正確に予測することはできませんが、あらかじめ金利上昇を想定しておくことで、住宅購入、ローン選びに安心感・納得感が生まれると思います。
そこで今回は、変動金利が上昇する3通りのパターンと固定金利、それぞれの返済額などを徹底シミュレーションしてみました。
2)変動金利vs固定金利、金利上昇を見込んだ返済シミュレーション
それでは早速、具体的なシミュレーションを進めてきましょう。
2-1. 金利タイプ別のシミュレーション条件
まず、今回のシミュレーション条件は以下のように設定しました。
借入金額は4,000万円・返済期間は35年です。11年目と21年目に金利が上がると仮定し、上げ幅の異なる変動金利A~Cの3パターンと全期間固定金利とします。
シミュレーション条件
※返済方法:元利均等35年返済(ボーナス併用なし)
変動金利は、Aが10年ごとに0.5%、Bは1.0%、Cは1.5%上昇するとしました。つまりAが最も楽観的なシナリオ、Cが最も悲観的なシナリオ、Bがその中間です。固定金利は、2023年6月のフラット35の最多金利です。
2-2. 金利による月々返済額の違い
それでは各パターンの月々返済額からみていきましょう。
金利による月々返済額の違い
※千円未満四捨五入
※変動金利の5年ごと見直しおよび125%ルールは考慮しておりません
1~10年目までは、変動金利A、B、Cともに金利0.5%なので、月々返済額はすべて10万4,000円。固定金利は、全期間12万8,000円となります。変動金利が上昇する11年目から、Aは11万円に、Bは11万7,000円に、Cは12万4,000円に上がりますが、固定金利の12万8,000円よりは安く、まだ変動の方が有利であることがわかります。
そして21年目以降、金利がA 1.5%、B 2.5%、C 3.5%に上昇すると、返済額はAが11万4,000円、Bが12万6,000円、Cが13万8,000円となり、Cだけが固定金利を上回ります。
2-3. 金利による総返済額と支払利息の違い
次に、金利による総返済額と支払利息の違いを見てみましょう。
金利による総返済額と支払利息の違い
※万円未満四捨五入。
上表の通り、借入4,000万円に対する総返済額は、Aが4,630万円、Bが4,915万円、Cが5,216万円、固定が5,361万円となります。つまり、変動金利で11年目と21年目に1.5%ずつ金利上昇すると仮定した、悲観シナリオのCでさえ、総返済額は固定より少ないことがわかります。
支払利息でみるとより鮮明になりますが、固定金利では1,361万円の利息を負担するのに対し、楽観シナリオAでは半分以下の630万円、悲観シナリオCでも145万円安い1,216万円と、ここでも変動金利が有利になっています。
2-4. ローンの返済スピードの違い
さらに、金利の違いによる返済スピードの違いを見てみましょう。
住宅ローンでほとんどの方が選択する「元利均等払い」では、月々の返済額は一定で、返済額に占める「元金」と「利息」の割合が変動します。
下のグラフは各パターンの返済期間中の元金返済額と利息の割合を表したもので、青の部分が元金返済額、オレンジの部分が利息を表しています。
まず、変動金利と固定金利の大きな違いは、返済額に占める元金の割合です。固定金利は金利が高いため、元金が多く残っている返済初期の利息負担が大きく、元金返済が少ないことがわかります。一方、変動金利は利息負担が小さく、返済当初から元金返済が多いですが、金利上昇のタイミングで利息が増え、金利上昇幅が大きいほど、元金返済が後ろにずれていくことがわかります。
この結果、20年経過時点での返済総額と現金返済額は以下のようになります。 固定金利は20年間で3,063万円返済しているにも関わらず、元金の返済は1,982万円にとどまっています。一方、変動Aは2,570万円の返済総額に対して、元金の返済が2,156万円まで進んでおり、返済総額は少なくても、返済スピードが早いことがわかります。
2-5. 金利差の拡大で変動金利の優位性が高まっている
ここまでのシミュレーション結果をまとめると以下のようになります。
①月々返済額で、変動が固定を上回るのは悲観シナリオCの21年目以降のみ ②総返済額では、変動A~Cすべてで固定より有利 ・ローンの返済スピードでも、A~Cすべてで変動が固定より有利 |
つまり、金銭的な比較だけで言えば、固定金利よりも変動金利の優位性が高いと言えるでしょう。その大きな理由は、長短金利差です。政府は変動金利のベースとなる短期金利をマイナスに抑える一方で、固定金利のベースとなる長期金利の上限を少しずつ引き上げてきました。その結果、変動金利と固定金利の金利差が広がり、変動金利の優位性が高まっているわけです。
もちろん、将来の金利がシミュレーション通りに動くわけではありませんが、変動金利のデメリットである「金利上昇」を見込んだ上でも、変動金利の優位性が感じられる結果となりました。
3)変動金利の住宅ローンを選ぶ際のポイント
このように、長短金利差の拡大で優位性が高まっている変動金利。変動金利を選ぶ際にはどんなことに注意したらよいのでしょうか。
3-1. 変動金利の金利見直しルール(5年ルール・125%ルール)
まず、変動金利の住宅ローンには、急激な返済額の上昇を避けるために「5年ルール」「125%ルール」という2つのルールがあることを知っておきましょう(※)。
① 「5年ルール」とは
変動金利の適用金利は半年ごと(主に4月と10月)に見直されます。ただし、金利が上がっても5年間は月々の返済額は変わらず、返済額に占める元金と利息の割合が変わります。5年後にその時点のローン残高に対して再計算され、向こう5年間の返済額が決定されます。
②「125%ルール」とは
金利が上昇し、月々の返済額が増える場合でも、その上昇幅が前回の返済額の125%(1.25倍)を超えないようにするルールです。「5年ルール」と同様、返済額は125%以内に抑えられますが、返済額に占める元金と利息の割合が変わります。
この2つのルールにより、返済額そのものが大きく増えることは避けられますが、金利が上昇すると利息の支払いが増え、元金返済が進みにくくなることも覚えておきましょう。
※5年ルール・125%を適用していない住宅ローンもあります
3-2. 優遇幅の大きい時期は借入のチャンス
前回のコラムでもお伝えした通り、住宅ローンの適用金利は、基準(店頭)金利から優遇幅をマイナスして決められます。
この優遇幅は、基準金利が上がっても借入時のものが継続されます(※)ので、現在のような優遇幅が大きい時期はチャンスと言えます。ただし、ホームページ等に記載されている優遇幅は、すべての人に適用されるわけではなく、審査によって変わることもあるので注意しましょう。
※返済期間中に優遇幅が変わる住宅ローンもあります。
3-3. 融資手数料、保証料などの諸費用や条件にも注意
変動金利に限りませんが、住宅ローンには、融資手数料やローン保証料などの諸費用がかかります。借入先の金融機関を選ぶ際には、こうした諸費用にも注意しましょう。一般的に金利の低いネット銀行などは諸費用が高い傾向があります。「総返済額+諸費用」の合計で比較してみるとよいでしょう。
また、金利の引き下げ条件として、給与振込み口座や公共料金の引き落とし口座にすることが求められることもあります。
3-4. がん、病気による入院など団信の補償範囲も比較しよう
住宅ローンの獲得競争が激しくなる中で、商品の差別化として打ち出しているのが団体信用生命保険(団信)です。団信はもともと借り手が死亡した際にローンの残債を保険で完済できる仕組みですが、最近では死亡だけでなく、「がん」、「3大疾病」、「8大疾病」など、幅広く保障される団信が出てきています。保障範囲や金利の上乗せなども様々ですので、ローン選びの際は比較検討してみるとよいでしょう。
4)金利の先行きが不透明な今こそ、しっかりシミュレーションを
「変動金利vs固定金利」徹底シミュレーション、いかがでしたでしょうか。
将来の金利を正確に予測することは難しく、変動・固定どちらが正解という答えはありませんが、このように具体的にシミュレーションしてみることで、より納得感の高い住宅ローン選びができると思います。
金利の先高観がくすぶる中、これから住まいを購入される方は、ぜひ不動産会社のスタッフなど専門家のアドバイスを受けながら、しっかりシミュレーションしていただくことをおすすめします。 ※本記事中の金利・返済額等はあくまで仮定に基づくシミュレーションであり、将来の結果を保証するものではありません。また特定の住宅ローン商品、金利タイプ、金融機関等を推奨するものではありませんのでご留意ください。