
2026年8月13日に千葉県を襲った「令和8年8月千葉豪雨」では、各地で家屋の浸水や道路の冠水、車の水没など、大きな被害が発生しました。亡くなられた方々に謹んでお悔やみを申し上げますとともに、被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。また、一日も早い生活の再建をお祈り申し上げます。 今回の災害で改めて注目されたのが「内水氾濫」です。水害というと、河川近くでの洪水などがイメージされますが、内水氾濫は河川から離れた市街地でも起こる可能性があります。これから家を買う人、建てる人に向けて、水害にどう備えればよいのかを解説します。
目次
1. 千葉豪雨で改めて注目された「内水氾濫」とは
まず、今回の千葉豪雨でどのような被害が発生したのかを振り返りながら、被害を拡大させた「内水氾濫」の仕組みと特徴について見ていきましょう。
1-1. 千葉県で相次いだ浸水被害
8月13日、千葉県では各地で浸水や冠水が相次ぎました。住宅への浸水だけでなく、道路が冠水し、車の水没や交通機関への影響など、さまざまな被害をもたらしました。水害は建物だけでなく、日常生活そのものを一変させる災害だということを改めて認識させる豪雨となりました。
1-2. 大きな被害をもたらした要因は「内水氾濫」
今回の豪雨では河川の氾濫による被害も発生していますが、被害を大きく広げた要因のひとつが「内水氾濫」です。
内水氾濫とは、短時間に大量の雨が降ることで、下水道や排水路などの処理能力を超え、行き場を失った雨水が道路や住宅地などにあふれる現象です。
千葉市では、雨水対策の整備重点地区における整備水準を1時間あたりピーク雨量65.1mmとしていますが、今回の豪雨では、千葉市中央区で1時間に115mmという想定を大きく超える雨量が観測されました。このように、短時間に大量の雨が降ると、排水能力が追いつかず内水氾濫に至ることがあります。
河川の水が堤防を越えるなどして市街地にあふれる「外水氾濫」は、主に河川周辺に被害が広がるのに対して、内水氾濫は、近くに河川がない住宅地でも被害が発生する可能性があります。特に、低地や窪地、アンダーパスなどには、周囲から大量の雨水が流れ込むため、被害が大きくなることがあります。

出典:内閣府防災情報
1-3. 河川の近くでなくても住まいの水害対策は必要
このように、内水氾濫は、河川周辺に限らず、市街地のさまざまな場所で起こり得る「都市型災害」なのです。温暖化が進み、毎年各地で豪雨が発生する今、「海や川の近くじゃないから大丈夫」は、もはや通用しないと考えておきましょう。 ここからは、水害に強い住まい選び・家づくりのポイントを具体的に見ていきましょう。
2. 水害に強い家づくりは「土地選び」から
水害への備えは、住まいの立地を選ぶ段階から始まります。注文住宅の土地選びはもちろん、建売住宅を購入する場合にも、ハザードマップや現地の状況などから、その場所にどの程度の水害リスクがあるのかを確認しておくことが大切です。
2-1. ハザードマップで水害リスクを確認する
住まいを購入するときは、まず自治体が公開しているハザードマップを確認しましょう。
ハザードマップは、自治体の窓口やホームページで公開されており、洪水や高潮、土砂災害などのリスクや、災害時の避難場所などを確認することができます。また、自治体によっては、内水氾濫のリスクを示した「内水ハザードマップ」や「内水浸水想定区域図」などを公開している場合もあります。
また、国土交通省が提供する「不動産情報ライブラリ」でも、浸水想定区域や土砂災害警戒区域などを地図上で確認することができます。

出典:不動産情報ライブラリ(国土交通省)
2-2. 「浸水するか」ではなく「どのくらい浸水するか」を見る
ハザードマップを見るときは、その土地が浸水想定区域に入っているかどうかだけでなく、「どのくらいの深さまで浸水する可能性があるか」にも注目しましょう。
例えば、想定浸水深が50cm程度であれば、住宅の床の高さによっては床下浸水にとどまる可能性があります。一方、1mを超えるような浸水が想定される場合には、床上まで水が入り、被害が拡大する可能性も高くなります。想定浸水深は、敷地の高さや基礎、1階の床の高さを検討する際の目安になります。なお、想定浸水深は実際の浸水の上限を示すものではありません。雨の降り方や現地の状況によっては、想定を超える浸水が生じる可能性も考慮しておきましょう。
2-3. ハザードマップだけでなく、現地での高低差もチェック
雨水は高い場所から低い場所へ流れ込みます。そのため土地を見るときには、周囲との高低差に注意しましょう。例えば、敷地が道路や周辺の土地より低い場所、窪地、谷状の地形では、豪雨の際に水が集まりやすくなります。浸水想定区域外でも、こうした地形には注意が必要です。 今回の豪雨では、ハザードマップの浸水想定区域外での浸水被害も発生しています。ある調査では、被害報告の55.7%が浸水想定区域や低位地帯の外から寄せられたという結果も出ています(※)。区域外だから安全と過信せず、実際に現地を歩き、道路や隣地との高低差、周囲から雨水が流れ込むような傾斜がないかを確認しておくとよいでしょう。
出典:ウェザーニューズ社 調査
2-4. 過去の浸水履歴も確認しておきたい
自治体によっては、過去に浸水被害が発生した場所を公開している場合があります。こうした情報も、土地選びの参考になります。また、不動産会社などに過去の浸水被害について確認してみるのもひとつの方法です。
もちろん、過去に浸水していないから今後も安全とは限りません。ハザードマップや過去の被害、現地の地形などを総合的に見て判断することが大切です。
2-5. 敷地内の駐車場所にも注意する
今回の豪雨では、車の水没被害も多数発生しました。住まいを選ぶ際は、建物だけでなく、敷地内の駐車スペースの高さも確認しましょう。特に地下・半地下の駐車場や、道路より低い位置にある駐車スペースは、周囲から雨水が流れ込み、短時間で浸水するおそれがあります。出入口の勾配、排水設備や止水対策の有無などを確認し、家づくりの段階から配置や高さを検討することが大切です。
3. 水害リスクがある土地では「建物」の設計で被害を抑える
一定の水害リスクがある土地を選ぶ場合でも、建物の設計を工夫することで被害を抑えられる可能性があります。ここでは、家づくりの段階で検討したい具体的な水害対策を見ていきましょう。
3-1. 敷地をかさ上げする
浸水被害のリスクを抑えるために、まず考えられるのが、盛土などによって敷地そのものを高くする方法です。敷地をかさ上げして道路面との高低差を確保することで、道路が冠水した場合でも、建物内に水が入りにくくなります。ただし、敷地を高くすると道路から玄関までの段差が大きくなったり、駐車場に勾配が必要になったりすることがあります。周囲の土地や道路との高さも見ながら、全体の計画を考える必要があります。なお、盛土は自治体の規制や隣地への影響を確認したうえで進める必要があるため、事前に住宅会社に相談しましょう。
3-2. 基礎や1階の床を高くする
敷地全体を大きくかさ上げできない場合には、基礎や1階の床を高くする方法もあります。
水害では、わずかな高さの違いで床下浸水にとどまるか、床上まで水が入るかが変わることがあります。また、床下の高さがあると、配管のメンテナンスや点検がしやすくなるというメリットもあります。 ハザードマップの想定浸水深に加え、周囲の地形や過去の浸水履歴も踏まえ、どの程度の高さを確保できるか、住宅メーカーなどに相談してみるとよいでしょう。
3-3. 玄関や窓から水が入りにくくする
水は、玄関や掃き出し窓などの開口部から室内に入り込みます。 玄関や窓を道路より高くする、開口部の位置を工夫するなど、できるだけ水が入りにくい設計を検討しましょう。また、必要に応じて、玄関や掃き出し窓などに止水板を取り付けられるよう、あらかじめ専用の金具やレールを設置しておく方法もあります。
■住まいの浸水対策の例

出典:国土交通省資料
3-4. 給湯器や室外機などの設備も高い位置に
このような対策で、建物への浸水を防げても、住宅設備が水につかれば生活に大きな影響が出る可能性があります。給湯器やエアコンの室外機、分電盤などは、できるだけ浸水しにくい高さに設置することも検討しましょう。太陽光発電のパワーコンディショナーや蓄電池などを設置する場合にも、同様に浸水リスクを考慮して設置場所を決めることが大切です。
3-5. 特に意識したいのは「床上浸水を防ぐ」こと
水害対策の中でも、特に意識したいのが「床上浸水を防ぐ」ことです。
床下までの浸水であれば、排水や泥出し、乾燥、消毒などの処置で復旧できる場合もあります。一方、床上まで浸水すると、床や壁、断熱材などの撤去・交換、さらに家具や家電などにも被害が広がり、生活への影響が一気に大きくなります。 浸水そのものを完全に防ぐことが難しくても、「床上まで水を入れない」ための工夫には大きな意味があります。
4. 在宅避難に備える間取りと設備
災害に強い家を考えるときには、「建物を守る」だけでなく、災害時や災害後の生活まで考えた設計が大切です。これは水害だけでなく、地震や台風など、さまざまな災害への備えにもつながります。
4-1. 2階へ避難できる間取りを考える
水害時には、自宅の2階など高い場所へ移動する「垂直避難」が必要になることがあります。ただし、自宅にとどまれるかどうかは、建物の倒壊や土砂災害のおそれ、想定される浸水深などによって異なります。2階建て住宅でも必ず安全とは限らないため、事前に地域の災害リスクを確認しておきましょう。 自宅で安全を確保できる場合には、2階に家族が過ごせるスペースや備蓄品を用意しておくと安心です。自宅にとどまることが危険な場合は、自治体の避難情報などを確認し、早めに安全な場所へ避難しましょう。
4-2. パントリーなどを活用して備蓄する
水や食料、簡易トイレ、衛生用品など、災害時に必要なものを保管するスペースも考えておきましょう。注文住宅であれば、パントリーや玄関収納などを少し広めにつくり、普段使う食品と一緒に非常食や飲料水を保管する方法があります。日常的に消費しながら買い足していく「ローリングストック」を取り入れれば、無理なく備蓄を続けることができます。 水害リスクがある住宅では、備蓄品を床付近だけに置かず、高い棚や2階にも分散しておくと安心です。
4-3. 太陽光発電・蓄電池で停電に備える
災害時には、停電によって電気が使えなくなることもあります。太陽光発電があれば、停電時でも発電した電気を使えることがあり、さらに蓄電池を組み合わせれば、昼間に発電した電気をためて夜間に使うこともできます。冷蔵庫や照明、スマートフォンの充電など、最低限必要な電気を自宅で確保できれば大きな安心につながります。 ※発電量は天候などにより異なることがあり、使える機器や電力量、操作方法などは設備により異なります。
4-4. エコキュートの貯湯水も非常時に活用できる
エコキュートには、大容量の貯湯タンクがあります。断水した場合には、機種によってタンク内の水を非常用取水栓から取り出すことができます。飲料水としては使えませんが、トイレや洗い物などの生活用水として活用できる場合があります。
地震や水害などの災害時には、必ずしもすべての人が避難所を利用できるとは限らないため、自宅の安全が確認できる場合には、在宅避難を選択することもあります。できるだけ普段に近い生活を続けられるよう、間取りや設備を工夫しておくことが大きな支えになります。
5. 水害リスクを知ったうえで、災害に強い住まいを選ぼう
今回の千葉豪雨からもわかるように、水害は河川や海の近くだけで起こるものではありません。これからの住まい選びでは、その土地にどのような災害リスクがあるのかを知り、「土地」「建物」「災害後の暮らし」の3つの視点で備えることが大切です。
5-1. 災害対策は「土地」「建物」「災害後の暮らし」の3つの視点で
災害に備えるために大切なのは、まずその土地がどのような場所かを知ることです。ハザードマップで洪水や内水氾濫などのリスクと想定浸水深を確認するとともに、区域外でも浸水する可能性があることを踏まえ、窪地や谷状の地形、道路や隣地との高低差、敷地内の駐車場所もチェックしましょう。
一定の浸水リスクがある土地を選ぶ場合には、敷地のかさ上げや1階の床の高さ、玄関や窓などの開口部、住宅設備の設置位置など、建物側で被害を抑える方法を検討します。「床上浸水を防ぐ」ことを意識しながら設計を進めましょう。
さらに、災害時には停電や断水などによって、普段どおりの生活ができなくなることもあります。パントリーなどを活用した備蓄や、太陽光発電・蓄電池、エコキュートなど、在宅避難を支える間取りや設備についても家づくりの段階から考えておくと安心です。
5-2. 大切なのは「リスクを知ったうえで選ぶ」こと
実際の住まい選びにおいては、水害リスクがある土地をすべて避けることが現実的とは限りません。利便性や価格、生活環境などを考えれば、一定のリスクがある地域を選ぶこともあるでしょう。
大切なのは、「リスクがあるか、ないか」だけで判断するのではなく、どの程度のリスクがあり、それに対してどこまで備えられるかを考えることです。
これからマイホーム購入を検討する方は、価格や立地、間取り、住宅性能だけでなく、「もし大きな災害が起きたら、この家で家族を守れるか、普段に近い暮らしを続けられるか」という視点をもって、住まい選びを進めていきましょう。
執筆者プロフィール
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住宅・不動産ライター
四宮 雅樹(ビギニング株式会社)
不動産・建築業界で約11年の実務経験を積んだ後、不動産情報メディア運営会社で営業、事業開発、経営企画などに約13年間従事。
業界実務と不動産メディア運営の知見をもとに、住まい・不動産・注文住宅・リフォームなどの専門的なテーマを、読者にわかりやすく伝わるコラムとして執筆している。
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