初めての家づくり。間取りやデザインなど気になることがたくさんあると思います。本コラムでは初めて注文住宅を建てる方向けに注文住宅のポイントを3回シリーズでお伝えします。今回は、最近関心が高まっている住まいの「基本性能」です。なぜ住まいの性能が大事なのか。性能とは何なのかを解説します。
目次
1、間取りより重要な住まいの「性能」。関心が高まる理由とは
昨今、住まいの「性能」に関心が高まっています。性能と言ってもなかなかピンと来ませんが、車に例えれば、走る・止まる・曲がるなど、広さやデザインではなく、車に求められる基本的な機能や能力と言えば理解いただけるかと思います。なぜ今、住まいの性能に関心が高まっているのでしょうか。
1-1.コロナでお家時間が伸びたことにより、住まいへの不満が顕在化
これまで家づくりでは、とかく間取りやデザインに目が向きがちでした。もちろんそれも重要な要素ではあるのですが、一方で住まいの性能、つまり「省エネ(断熱)性」や「耐震性」、「耐久性」といった、建物の本来の性能についてはあまり関心がはらわれなかったとも言えます。
今、住まいの基本性能への関心が高まっている理由のひとつはコロナ渦による生活様式の変化です。家で仕事をする機会も増え、在宅時間が伸びたことにより、それまで気づかなかった住まいへの不満が顕在化しています。
例えば、感染のピークとなった第5波(2021年8月)は真夏だったこともあり、エアコンの効きの悪さや光熱費の上昇を感じた方が多かったようです。こうした「暑さ・寒さ」は住み心地に大きく影響しますし、光熱費アップは家計にとっては大きな負担です。さらに昨今では、エネルギー価格の上昇が続いており、電気代やガス代の値上がりも予想される中、住まいの省エネ性能に対する関心はますます高まっています。
1-2.世界的な「脱炭素」で日本でも住宅の省エネが義務化へ
また、住まいの省エネルギーに注目が高まるもうひとつの理由は、世界的な「脱炭素」の流れです。日本でも菅前首相が「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2021年11月にはイギリスで「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)」が開催されました。
こうした世界的な「脱炭素」の流れの中で、日本では2021年4月から住宅建築時の「建築士による省エネ性能の説明」が義務化され、2025年度からすべての新築住宅で省エネ基準への適合が義務化される予定です。さらに国土交通省では2022年度から若者・子育て世帯を対象に、省エネルギー住宅に最大100万円の補助金を支給する新制度を打ち出しました。もともと諸外国と比べて遅れていた「住宅の省エネ対策」が、いよいよ日本でも本格的に動き始めたわけです。
1-3. 多くの住宅メーカーが「住宅性能表示」の認定を取得
こうした動きに合わせて、住宅メーカーでも住宅の性能を高める動きが加速しています。住宅の基本性能は品確法という法律で「省エネ」「耐震性」「耐久性」など10項目が定められています。それらを「等級」で評価した「住宅性能評価書」の交付割合は27.8%(2020年度)と5年連続の増加となっています。
出典:国土交通省の報道資料より作成
また、省エネ性や耐震性などが高い住宅とされる「長期優良住宅」の認定を謳う住宅メーカーも増えています。長期優良住宅は、住宅ローン減税やフラット35Sなど税制・金利面でもメリットがあり、認定件数は年間約10万戸、認定取得率は25.5%と年々増加傾向にあります。
■長期優良住宅の認定実績(新築一戸建住宅)
2020年度 | 2021年度 | |
認定戸数 | 106,603戸 | 100,503戸 |
着工戸数に対する割合 | 24.7% | 25.5% |
出典:国土交通省
2、住宅性能の基本項目「省エネ性」「耐震性」「耐久性」「維持管理性」とは?
それでは具体的に住宅の基本性能とは何なのか見ていきましょう。住宅性能表示の必須4項目である「省エネ性」「耐震性」「耐久性」「維持管理」について解説します。
2-1.省エネルギー性
住宅の基本性能の中で、もっとも重要で関心が高いのが「省エネ性能」です。4月から建築士による説明が義務化され、2025年には全ての新築住宅で省エネ基準への適合が義務化される予定です。
住宅の省エネルギー性を高めるには、建物の断熱性が重要になります。断熱性は、室内の熱がどのくらい外に逃げにくいかを表す「熱損失係数(Q値)」や「外皮平均熱還流率(Ua値)」という数値で表されますが、この数値が小さいほど断熱性の高い(熱が逃げにくい)建物と言えます。細かい算出方法は少し分かりにくいので、興味のある方は建築士などの専門家に確認してみるとよいでしょう。
住宅性能表示の断熱性能等級は、以下のような基準になっています。現行の省エネ基準である等級「4」以上を目指しましょう。
■住宅性能表示の断熱性能等級
等級 | 要求値 |
等級4 | Ua値 0.87 以下(省エネ基準) |
等級3 | Ua値 1.54 以下 |
等級2 | Ua値 1.67 以下 |
等級1 | - |
※主に関東~九州地域の場合
2-2. 耐震性
東日本大震災以降、住宅の耐震性についても関心が高まりました。それまでの耐震に対する考え方は「震度6~7程度の地震に対して倒壊しないこと」というものでしたが、震災から10年が経過し、現在では「複数回の大地震にも耐えられること」、「大地震でも重大な損傷を受けず住み続けられること」という考え方が主流になりつつあります。
住宅性能表示の耐震等級は以下の通りです。いつ来るかわからない大地震に備えて、等級「3」レベルの性能を目指したいところです。
■住宅性能表示の耐震等級
2-3.耐久性・維持管理(メンテナンス)性
省エネ性や耐震性と比べるとやや優先度は下がりますが、家づくりでぜひ考慮しておきたいのが耐久性と維持管理性です。建物は年数の経過により劣化していくので、定期的なメンテナナスが必須となります。
住宅性能における耐久性とは「劣化をできるだけ抑えること」。維持管理性とは「できるだけメンテナンスしやすい構造にしておくこと」と考えれば分かりやすいかと思います。
住宅性能表示の等級は以下の通りです。耐久性を高める方法としては、柱や土台・外壁などの防腐・防蟻措置や、基礎の高さの確保、床下の防湿・換気などが挙げられます。またメンテナンス性においては、点検・補修のための点検口等が設けられていることなどが重要になります。
■住宅性能表示の劣化対策等級(耐久性)
■住宅性能表示の維持管理対策等級
※躯体(くたい):基礎、柱、外壁、屋根などの主要構造部分
3、基本性能の高い住まいを建てるメリット
ここまで見てきたように、住宅の基本性能は、間取りやデザインとは異なり、目に見えにくく地味なものです。また、基本性能を上げるための追加コストがかかることもあります。しかしそれを上回るメリットがあります。
3-1. 快適で健康な暮らし
言うまでもなく、室内の温度や換気などは日々の暮らしの「快適性」に大きく関わります。暑い・寒いだけでなく、断熱性の低い建物は結露によるカビやアレルギーの原因になることが分かっています。また室内の温度差による「ヒートショック」で亡くなる方は年間1万7,000人にものぼり、心筋梗塞や脳梗塞の原因になるというデータもあります。断熱性の高い家は快適な暮らしのみならず、健康にもよい家なのです。
3-2. 光熱費の削減
省エネルギー性の高い住宅では、冷暖房にかかる光熱費が安くなります。四季のある日本では、エアコンなしで快適に生活できるのは1年のうち4~5ヶ月程度。月々の光熱費は家計の大きな負担になります。省エネ性の高い住宅では、光熱費が年間数万円ほど安くなるという試算もあり、太陽光発電等と組み合わせれば、実質光熱費ゼロを実現することも可能です。光熱費の削減は、長い目で見れば大きなメリットとなります。
3-3. 住宅ローン減税や金利などの優遇
長期優良住宅や低炭素住宅など性能の高い住宅は、税制優遇やローン金利の優遇が受けられます。住宅ローン減税では、控除上限が年40万円から50万円に引き上げられ、フラット35Sでは当初5~10年間の金利が0.25%引き下げられます。(※2021年11月現在)
3-4. 地震保険料の割引
耐震性能の高い住宅では、地震保険料の割引が受けられます。耐震等級「3」の住宅は、保険料が半額に割引されるので、非常に大きなメリットとなります。
■ 耐震等級による地震保険料の割引
耐震等級3 | 50%割引 |
耐震等級2 | 30%割引 |
耐震等級1 | 10%割引 |
このように、性能の高い住宅には健康面でもお金の面でも様々なメリットがありますが、性能アップにかかる費用の方が高いと思われる方もいるかも知れません。
しかし現在のような低金利下においては、月々の返済額に与える影響は小さく、一方で、エネルギー価格や保険料は今後上がっていく可能性が高いと思われます。
性能向上にかかる費用は会社によって異なり、一概には言えませんが、長期的な修繕費やメンテナンスなども考慮すれば、基本性能の高い住宅を建てるメリットの方が大きいと考えられます。
4、今後ZEH住宅に最大100万円の補助。フラット35の金利優遇なども新設か
冒頭に申し上げた「脱炭素」の流れにより、国は住宅の省エネルギー性能について、基準の引き上げや義務化を進めています。最後に、住宅性能向上に向けた今後の政策的な動きを知っておきましょう。
4-1. 住宅性能表示における断熱等級の新設
前述した住宅性能表示制度による断熱等級「3」(Ua値1.54以下)は、実は1992年に定められた断熱基準で、現在求められる住宅性能とはかけ離れたものです。また現在の省エネ基準と言われる断熱等級「4」(Ua値0.87以下)も、世界的に見ればかなり低いレベルです。
しかし日本では、2015年と2020年に義務化が見送られ、ようやく2025年から義務化される見通しとなりました。義務化が見送られた理由は、対応できない小規模工務店への配慮だったのですが、その間、中堅以上の住宅メーカーでは、省エネ基準を超える断熱性向上に取り組んでおり、すでに「ZEH水準」と言われる上位の基準が普及段階に入っています。
こうした状況を踏まえて、国も住宅性能表示の断熱等級に上位等級「5」(Ua値0.6以下=ZEH水準)の新設を進めています。また自治体レベルでは、ZEH水準を超える取り組みも進んでおり、近い将来さらに上位の等級が新設される可能性もあります。
「脱炭素」の流れの中、向こう数年で日本の住宅の断熱性は急速にレベルアップしていく見通しとなっています。
■断熱等級の新設
※2021年11月現在、まだ正式決定されたものではありません
4-2. 長期優良住宅の認定基準見直し
断熱等級の見直しにより、長期優良住宅の認定基準も見直される可能性があります。
現行の認定基準では、断熱等級「4」(=省エネ基準)を満たせばよいことになっていますが、新設される等級「5」(=ZEH水準)に引き上げる方向で議論が進められています。
4-3. 住まいの基本性能を上げるメリットと上げないリスク
ここまで見てきたように、日本の住宅の基本性能は今後急速に高まっていく可能性があります。特に省エネルギー性能(断熱性)については、具体的な基準の引き上げや義務化のスケジュールが打ち出されていますので、今後、補助金や金利優遇などの政策的なバックアップがおこなわれることになります。
現在、国では2022年度から、18歳未満の子どもを持つ世帯か、夫婦いずれかが39歳以下の世帯を対象に、新築住宅の省エネ性能に応じて60万円、80万円、100万円の3区分(ZEH水準を満たせば100万円)に分けて補助金を支給する新たな制度を打ち出しています。また、フラット35の融資基準を厳しくし、省エネルギー基準に適合を必須とするほか、ZEH水準を満たす住宅には年0.5%程度の金利引き下げをおこなうことも検討されています。つまり、省エネ性能の高い住宅を建ててくれた人には、より多くの助成をしましょう、という考え方なのです。
一方そうした流れを考慮せず、現行の性能で建てた場合には、数年~数十年後に「時代遅れの家」になってしまうリスクがあります。今後、省エネ基準への適合が必須となり、住宅性能表示や長期優良住宅などの普及が進めば、それらに適合していない住宅の価値は相対的に低く評価される可能性があるわけです。
一例を挙げれば、1981年(昭和56年)に、耐震基準が大きく改正されたことにより、それ以前の建物を「旧耐震」、それ以降の建物を「新耐震」と区別するようになりました。現在では「旧耐震」の建物は買い手がつきづらい、ローンが通りにくいなどの事情から、相場より安く取引されることも少なくありません。
(注:旧耐震の建物でも現行の耐震基準を満たし、通常の相場で取引される物件もあります)
今後、断熱性や耐久性でもこれと同じことが起きる可能性は否定できませんので、より性能の高い住宅を建てることは、住まいの「資産価値」を維持する意味でも重要になってきます。
これから家づくりを検討される皆様は、こうした性能向上の流れをしっかり意識した「一歩先の設計」を心がけ、実績のある会社で、プロのアドバイスを受けながら進めていくことをおすすめします。
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