マイホーム購入の際に、両親や祖父母からの資金援助を受けるケースは多くあります。しかしこの住宅資金贈与、非課税で贈与を受けられる限度額が年々縮小しており、2023年がラストチャンスになるかも知れません。その背景と今後の見通し、利用する際の注意点などを解説します。
目次
1、非課税贈与の限度額が年々縮小。その背景とは?
住宅を購入する際、両親や祖父母から資金を援助してもらう際に、最大1,000万円まで非課税で贈与を受けられる「住宅取得資金贈与の特例」。その期限が2023年末に迫っています。
1-1. そもそも住宅取得資金の非課税贈与とは
住宅取得等資金の贈与とは、住宅を取得(購入・新築・増改築)するための資金を、両親や祖父母などから援助してもらうことを言い、これには税制上の特例が設けられています。通常の贈与では、贈与額が年間110万円を超えると、10%~55%の贈与税が課税されますが、この特例を使うことにより、最大1,000万円まで非課税で贈与できます。シニア層から若年層への資産移転と、若年層の住宅取得を後押しするための政策です。
1-2. 非課税限度額はどのくらい縮小されているのか。これまでの限度額の推移
ところがこの特例は、非課税限度額(非課税で贈与できる上限額)が年々縮小されています。つまり、両親や祖父母からの多額の資金援助が受けにくくなっているということです。これまでの限度額の推移を見てみましょう。
■住宅取得資金贈与の非課税限度額
・2022年改正前(~2021年)
契約の時期 | ①消費税が10%課税される住宅 | ②それ以外の住宅 | ||
省エネ等住宅 | 一般住宅 | 省エネ等住宅 | 一般住宅 | |
2019年4月~2020年3月 | 3,000万円 | 2,500万円 | 1,200万円 | 700万円 |
2020年4月~2021年12月 | 1,500万円 | 1,000万円 | 1,000万円 | 500万円 |
・2022年改正後(2022年~)
贈与の時期 | 省エネ等住宅 | 一般住宅 |
2022年1月~2023年12月 | 1,000万円 | 500万円 |
※2020年8月現在
※省エネ等住宅とは、省エネ等基準、耐震等級、高齢者等配慮対策等級が一定以上の住宅をいいます
このように、2019年には最大3,000万円だった非課税限度額が、2022年以降は1,000万円に、わずか3年間で3分の1に縮小されています。
1-3. 非課税限度額が縮小される背景と今後の見通し
ではなぜ非課税限度額は年々縮小されているでしょうか?その背景と今後の見通しについて解説します。
【背景①】 2019年は消費増税の負担軽減措置があった
2019年10月に消費税が8%から10%に増税されたことにともない、様々な負担軽減措置がとられました。住宅取得資金贈与についても限度額を引き上げ、住宅購入者の負担感を和らげる措置がとられましたが、増税から2年以上が過ぎ、こうした措置も終了し限度額が縮小されています。
【背景②】 2020年は新型コロナ対策による優遇があった
また2020年には、新型コロナによる収入減などに対処するため、当初この年に予定されていた限度額の縮小が見送られ、2021年12月まで据え置きになりました。2022年に入り、新型コロナの影響も徐々に落ち着きつつあることから、1月以降の限度額が縮小されています。
【背景③】 相続税と贈与税の一体化
そして最も大きな要因は「相続税と贈与税の一体化」という考え方です。
親から子へ資産が相続された場合には、一定の金額を超えると相続税が発生します。しかし生前に、贈与税がかからない範囲での贈与を繰り返すことで、親の資産を子に移転し、相続税の節税を図ることができます。特に住宅取得資金や教育資金の贈与は非課税枠が大きく、富裕層の節税対策に用いられてきた側面もあったため、これを廃止すべきという声が根強くあります。
「相続税と贈与税の一体化」とは、親から子への資産移転に関し、相続・贈与など移転のタイミングに関係なく、同じように課税するべきという考え方です。
こうした背景を踏まえると、①②はすでにその役割を終えており、③について国は、「格差の固定化防止等の観点から、年110万円の基礎控除を含めて見直しをおこなっていく必要がある」と表明していますので、今後も縮小・廃止の方向で議論が進むと思われます。
■「令和4(2022)年度 税制改正大綱」より一部抜粋(下線は筆者)
今後、諸外国の制度も参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化防止等の観点も踏まえながら、資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。 あわせて、経済対策として現在講じられている贈与税の非課税措置は、限度額の範囲内では、家族内における資産の移転に対して何らの税負担も求めない制度となっていることから、そのあり方について、格差の固定化防止等の観点を踏まえ、不断の見直しを行っていく必要がある。 |
このように、住宅購入にともなう両親や祖父母からの資金援助は、税制面で大きく見直される可能性が高く、現行制度の期限である2023年末が最後のチャンスになることも十分に考えられる訳です。
2、住宅取得資金贈与の非課税特例を受けるための要件
それでは今年~来年、この特例を使ってマイホームを購入する方はどのようなことに気をつけたらよいのでしょうか。非課税特例を受けるための主な要件を知っておきましょう。
2-1. 贈与する人、贈与を受ける人の要件。
特例を受けるためには、贈与する人、受ける人それぞれに要件が決められています。
【贈与する人】 ・贈与を受ける人(=購入者)の直系尊属(両親・祖父母・曽祖父母など) ※義父母、叔父・叔母などは対象外 |
【贈与を受ける人】 ・贈与を受ける年の1月1日時点で18歳以上 ・贈与を受ける年の合計所得が2,000万円以下。ただし、床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は、1,000万円以下 ・配偶者や親族など特別の関係がある人から取得した家屋でないこと ・贈与を受ける時点で日本国内に住所があること |
2-2. 新築・購入する物件に関する要件。また、贈与を受けて新築・購入する物件についても細かな要件があります。
・日本国内にある住宅用の家屋であること(敷地である土地を含む) ・登記簿上の床面積(マンションは専有面積)が40㎡以上240㎡以下、かつ1/2以上が自己居住用であること ・次の①~③いずれかに該当すること ①新築住宅 ②昭和57(1982)年1月1日以後に建築された中古住宅 ③それ以前に建築された中古住宅は一定の耐震性が証明できるもの |
2-3. 贈与の時期や申告に関する要件。
最後に贈与のタイミングや申告についての要件です。ここが一番重要な部分なので、しっかり理解しておきましょう。
・贈与を受けた日が居住開始前であること ・贈与を受けた日の翌年3月15日までに本人が居住を開始すること ※「入居の見込み」があれば、最大で翌年12月31日まで居住開始を遅らせることができる ・贈与を受けた日の翌年3月15日までに贈与税の申告をすること(税額がゼロでも) |
このように、住宅取得資金の特例を受けるためには、「贈与」「入居」「申告」の3つの時期をしっかり押さえておくことが重要となります。詳しくは次章で解説します。
※住宅取得資金贈与の特例の詳細については国税庁のホームページ等をご参照ください。
3、住宅資金贈与の特例を使う時の注意点と失敗事例
特例を受けるための基本的な要件がわかったところで、実際に住宅を購入する場合の注意点とミスが起こりやすい事例を見ていきましょう。
3-1. 贈与を受けるタイミングは遅くても早くてもだめ
贈与のタイミングは、新居に居住を開始する前でなくてはいけません。例えば、住宅ローンで住宅を購入し、居住を開始した後に贈与を受けてローンの返済に充てた場合などは特例の対象にはなりません。
また、贈与が早すぎても対象外になってしまうケースがあります。例えば注文住宅で、先行して土地を買うタイミングで贈与を受けた場合、建物が完成するまでに、入居期限である翌年3月15日を過ぎてしまうケースがあります。この場合も特例の対象にはなりません。
3-2. 年末近くに贈与を受ける時は要注意
マンションや分譲一戸建でも同様に、入居開始まで数ヶ月かかるケースがありますので注意しましょう。例えば11月に贈与を受けて購入した物件の完成が遅れ、入居が4月になってしまった場合、この特例の対象にはなりません。したがって贈与はできるだけ年の年末を避け、入居に近いタイミングでおこなうようにしましょう。
3-3. 必要書類取得による申告遅れ
この特例を受けるためには、戸籍謄本、源泉徴収票、売買契約書の写し、登記事項証明書など、多くの書類を揃えて、翌年3月15日までに申告しなければなりません。こうした書類を集めるだけでも手間と時間がかかりますので注意しましょう。万一書類が揃わない等の理由で、申告が1日でも遅れると、特例は適用されません。
3-4. その他の注意点
その他にもちょっとしたミスや勘違いで特例を受けられないケースがあります。いくつかの事例を見ておきましょう。
①贈与を受けて土地だけを購入した場合は対象外
例えば、妻が親から贈与を受けて土地を購入し、夫が住宅ローンで建物を新築したケースでは、特例は適用されません。対象となるのは、贈与を受けた人が所有する家屋とその敷地なので、土地のみでは対象外となります。
②贈与者が複数の場合には、贈与を受ける人ごとに合算される
例えば、父から1,000万円、祖父から1,000万円、計2,000万円の贈与を受けた場合、それぞれ1,000万円ずつ非課税になるのではなく、2人分を合算した2,000万円のうち最大1,000万円までが非課税になります。贈与者が増えても非課税限度額は変わりませんので注意しましょう。
なお、夫と妻がそれぞれの親から贈与を受け、住まいを共有で購入する場合には、それぞれ最大1,000万円、計2,000万円まで非課税となります。
③諸費用、家具・家電、引越し費用などは対象外
住宅を購入する際の諸費用(登記費用・手数料等)や、家具・家電、引越し費用などは特例の対象外です。こうした費用を含めて贈与を受けた場合、基礎控除の110万円を超える部分には課税されますので注意しましょう。
④贈与を受ける際には贈与契約書を作成しておこう
ここまでご説明してきた通り、この特例を受けるためには贈与の日、贈与を受ける金額などが重要なポイントとなります。したがって、それらを第三者にも証明できるよう「贈与契約書」の形で残しておくことをおすすめします。また実際に贈与をおこなう際は、現金ではなく銀行振込などを用い、受け渡しの記録を残しておきましょう。
4、資金援助を受ける方は2023年末を目標に。専門家と相談しながら早急に検討を進めよう
住宅取得資金贈与の特例、ご理解いただけましたでしょうか?
冒頭に申し上げた通り、この特例は年々限度額が縮小されており、2024年以降は、制度が継続されるかどうかも決まっていません。こうしたことを踏まえて、両親などからの資金援助を考えている方は早急に検討を進める必要があります。
4-1. 今年末の贈与はリスクが大きい。チャンスは来年前半
贈与と入居のタイミングを考えると、今年2022年後半~年末にかけての贈与は、来年3月15日までに入居できなくなるリスクがあり、あまりおすすめできません。そうなると、2023年前半には贈与を受け、年内~年明け早々の入居が現実的なスケジュールとなるでしょう。
また、ひとくちに贈与と言っても、実際には両親や兄弟との調整、子どもの転園・転校など、思ったより多くの時間がかかります。入居のタイミングから逆算したスケジュールを立て、不動産会社などとも相談しながら計画的に進めていくことが大切です。
4-2. 住宅取得資金の贈与は必ず専門家に相談を
最後に、この住宅取得資金贈与の特例を利用する際には必ず専門家に相談しながら進めるようにしましょう。適用の要件が細かい上に、税務署への申告義務もあります。
万一、対象外となってしまうと多額の贈与税を負担することになりますので、税理士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。