省エネ基準の義務化やエネルギー価格の上昇で、注目が高まる住まいの省エネ。その中でも国が強く推し進めているのがZEH住宅の普及です。今回はわかりにくいZEHの種類や違い、補助金などについて徹底解説します。
目次
1、脱炭素で住まいの省エネが加速。2025年から省エネ基準への適合義務化
前回の記事でもご説明した通り、日本の住宅の省エネが大きく変わろうとしています。
まずは、その大きな流れを知っておきましょう。
1-1. ようやく義務化された住まいの省エネ対策
現在の日本の省エネ基準(平成28年基準)における断熱性能は、世界的に見てもレベルが低く、しかも長い間「努力目標」という位置づけだったため、日本では「冬寒く、夏暑い家」が大量に供給されてきました。しかし、菅政権が「2050年カーボンニュートラルの実現」という政策目標を打ち出したことで大きく流れが変わり、2022年6月、ついに省エネ基準への適合義務化が国会で可決されました。
1-2. 日本の省エネ基準はどう変わるのか
この法改正により、2025年以降、現行の省エネ基準(H28年基準)をクリアできない住宅は建築できなくなります。しかし実際には、新築住宅の適合率はすでに7割に達しており、中堅以上の住宅メーカーではさらに高性能な「ZEH基準」の供給が増えています。
■2025年以降の省エネ基準と断熱等級(予定)
こうした現状を踏まえ、「断熱等級」などの見直しは法改正より先行して進められており、2022年4月から「断熱等級5(ZEH水準)」が、10月からはさらに上位の「断熱等級6・7」が追加されることが決まっています。
省エネ住宅のノウハウが乏しい中小工務店等に配慮し、法的な義務化は2025年からとなったものの、実質的にはこうしたルールづくりを通して、半ば義務化されていると言っても過言ではありません。
1-3. 近い将来「ZEH水準」が新築住宅のスタンダードに
上表の通り、2025年以降、断熱等級4(H28年基準)は「最低限必要な基準」となり、それを下回る新築住宅は建てられなくなります。さらに政府は「2030年度以降新築される住宅について、ZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す」という目標を打ち出し、ZEH住宅の普及を強力に推進しています。
近い将来、日本のスタンダードになりそうなZEH住宅。しかし、そもそも「ZEH水準」とは何なのか、またそのメリット・デメリットなどはあまり知られていません。そこで今回はわかりにくい「ZEH」の概念、種類、メリット、補助金などについて解説していきたいと思います。
2、そもそも「ZEH」とは?そのメリット・デメリットを知っておこう
では早速「ZEH」の概要とメリット・デメリットなどについて見ていきましょう。
2-1. ZEHとは
「ZEH(ゼッチ)」とは、実質的なエネルギーコストがゼロになる住宅(Net Zero Energy House)のことを言います。一般住宅でかかるエネルギーとは、電気・ガスなど指し、大きな比率を占めるのが冷暖房と給湯にかかるエネルギーです。ZEHではこれらの消費エネルギーを抑え、太陽光発電等で自らエネルギーを創り出すことで、実質的にエネルギーコストゼロの住宅を実現するものです。
2-2. ZEHの三本柱は「断熱」「省エネ」「創エネ」
エネルギーコストゼロを実現するための三本柱は「断熱」「省エネ」「創エネ」です。
「断熱」とは、室内の暖まった(冷えた)空気を外に逃さないようにすることで、断熱性の高い建物は、冷暖房にかかるエネルギーを低く抑えることができます。
「省エネ」とは、エアコンや給湯器などの設備機器や照明機器などを、いわゆる「省エネ型」の機器にすることで、エネルギーを抑えることを指します。
「創エネ」はその名の通り、太陽光発電や地熱発電などを用いて、自らエネルギーを創り出すことを言います。
■ZEH住宅の三本柱「断熱」「省エネ」「創エネ」
出典:ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に関する情報公開について – 省エネ住宅 | 家庭向け省エネ関連情報 | 省エネポータルサイト
この3つの要素を組み合わせて、年間を通じて「消費するエネルギー≦創り出すエネルギー」 を実現したのがZEH住宅ということになります。
さらに最近では、夜間でも再生エネルギーを活用できる「蓄電システム」や、家庭内のエネルギーの使用状況をモニターなどで確認できる「高度エネルギーマネジメントシステム(HEMS)」、電気自動車(EV)への充電設備など、さらにエネルギー効率を高める機器の導入が進んでいます。
■ZEH住宅のイメージ
出典:経済産業省/資源エネルギー庁資料
2-3. ZEH住宅のメリット・デメリットとは
まずは、ZEH住宅の具体的なメリットついて見ていきましょう。
①光熱費の削減
ZEH住宅のもっとも大きなメリットは光熱費の削減です。ZEH住宅は消費する電力を自給するだけでなく、余った電力を売ることもできます。季節や気象条件が影響するため、常に光熱費がゼロになるわけではありませんが、こうした売電を含めて、通常の住宅よりもはるかに安くなるため、エネルギー価格が上昇すればするほどメリットは大きくなります。
②健康面でのメリット
また住まいの断熱性(暖かさ)と健康には大きな関連があることが分かっており、冬寒い家では、室内の温度差による「ヒートショック」が起きやすく、年間約1万7,000人が亡くなっています。また、国土交通省と(一社)日本サステナブル建築協会の長期にわたる追跡調査によれば、断熱性の低い住宅で、結露によるカビ・ダニが原因で起こるアレルギー、血圧の上昇、脳血管疾患などの発生率が高くなることが分かっています。
③災害時の備え
近年、台風や大雨、地震などの自然災害が多発しています。ZEH住宅では、災害による停電時にも蓄えられた電気を使うことができます。またヒートポンプ給湯機(エコキュート)は、貯湯タンクに溜めてあるお湯を生活用水として使用することができます。一時的とはいえ、災害時に電気と水を使えるのは大きな安心につながります。
④補助金
前述の通り、ZEH住宅の普及は国の大きな目標であることから、各種補助金の制度が提供されています。後述するZEHの種類などに応じて数十万円~百万円を超える補助金を受けることができます。
次にZEHのデメリットについても触れておきましょう。
①間取り・デザインなどの制限
ZEH住宅は断熱性を高めるために、「大きな開口部(窓)」や「高い天井」、「大きな吹き抜け」などが作りにくくなる可能性があります。
②建築費用が上がる
またZEH住宅では、高性能なサッシや断熱材、省エネ型の設備機器などを使うため、相対的に建築費が高くなります。しかし建築費の上昇分は補助金である程度吸収できますし、長期的には光熱費の削減分で相殺されます。
3、ZEHの種類は5種類。その要件や仕様を理解しよう
それでは、いよいよ具体的なZEHの種類・仕様についてご説明していきます。
現在、補助金が受けられるZEH住宅(一戸建)には「ZEH」、「Nearly ZEH」、「ZEH Oriented」、「ZEH +」、「Nearly ZEH +」の5つの種類があります。順に見ていきましょう。
3-1. ZEH(ゼッチ)
まず標準的なZEHの基準は以下の通りです。
「断熱」+「省エネ」で、▲20%以上の省エネ 「創エネ」を加えて、▲100%以上の省エネ |
分かりやすく言えば、現行の省エネ基準(H28年基準)よりも、消費エネルギーを20%以上削減した上で、消費される以上のエネルギーを自給できる住宅ということになります。
3-2. Nearly ZEH(ニアリー ゼッチ)
続いて、Nearly ZEHです。“Nearly“は、ZEHではないけれども、“ZEHに近い住宅“という意味で使われています。
「断熱」+「省エネ」で、▲20%以上の省エネ(ZEHと同じ) 「創エネ」を加えて、▲75%以上の省エネ |
Nearly ZEHは、太陽光発電による創エネが難しい「寒冷地」、「低日射地域」、「多雪地域」などで申請が認められる基準で、創エネに関する条件が「▲75%以上」に緩和されます。
主な対象地域は北海道~東北、北陸~日本海側の多雪地域などになります。
3-3. ZEH Oriented(ゼッチ オリエンテッド)
続いてZEH Oriented の基準を見ていきましょう。
「断熱」と「省エネ」で▲20%以上の省エネ(ZEHと同じ) 「創エネ」設備は導入しなくてもよい |
ZEH Orientedは、都市部の狭小住宅など、そもそも太陽光発電が難しい場合の基準で、創エネ設備の導入が不要になります。主に低層住宅向けの地域で、敷地面積が85㎡未満の場合等に認められます。
3-4. ZEH +(ゼッチ プラス) 続いてZEH+の基準です。
「断熱」+「省エネ」で、▲25%以上の省エネ 「創エネ」を加えて、100%以上の省エネ さらに以下の3つから2つ以上を導入 ①外皮性能※のさらなる強化 ②HEMS(高度エネルギーマネジメントシステム)の導入 ③電気自動車(EV)への充電設備 |
ZEH+は、標準的なZEHよりもさらに高性能な住宅で、省エネ率が25%に引き上げられています。ZEHよりも建築費が上がりますが、その分補助金の額も大きくなります。
3-5. Nearly ZEH+(ニアリー ゼッチ プラス)
最後にNearly ZEH+ です。
「断熱」+「省エネ」で、▲25%以上の省エネ 「創エネ」を加えて、75%以上の省エネ さらに以下の3つから2つ以上を導入 ①外皮性能のさらなる強化 ②HEMS(高度エネルギーマネジメントシステム)の導入 ③電気自動車(EV)への充電設備 |
Nearly ZEH+は、Nearly ZEHと同様に、創エネが難しい「寒冷地」「低日射地域」「多雪地域」を対象とした基準で、創エネの要件が「▲75%以上」に緩和されています。
3-6. 結局どれを選べばいいの?ZEHの種類まとめと検討手順
ここまでご説明したZEHの種類をまとめると以下のようになります。
上図のように、ZEHの種類は大きく「ZEH」と「ZEH+」の2つ。創エネが難しい場合の特例として、「Nearly ~」と「~ Oriented」が用意されていると考えれば分かりやすいと思います。
したがって検討の際には、まず「ZEH」と「ZEH+」のどちらを選ぶかを検討しましょう。より高い省エネ性能を求めるならZEH+ですが、その分費用もかかりますので、補助金額や将来の光熱費などをシミュレーションしながら検討するとよいでしょう。
その上で、敷地の条件次第で、「Nearly ~」と「~ Oriented」を検討するとよいと思います。
4、ZEHに使える補助金と優遇制度
ZEHの仕様がわかったところで、それぞれの補助金について見ていきましょう。2022年は、環境省、経済産業省、国土交通省が補助事業をおこなっています。
また金利や税制の優遇についても改定がありますのでしっかり理解しておきましょう。
4-1. 戸建住宅ZEH支援事業(環境省)
戸建住宅ZEH支援事業は環境省が主管となっており、ZEHの種類により以下の通り補助金が支給されます。
これ以外に「蓄電システム」「燃料電池(エネファーム等)」「地中熱ヒートポンプ」などの省エネ設備を設置した場合には、20~90万円程度の追加補助金が支給されます。
4-2. 次世代ZEH+ 実証事業(経済産業省)
「次世代ZEH+ 実証事業」は経済産業省が主管で、「ZEH+」よりもさらに高性能な「次世代ZEH+」の普及促進を目的としています。この事業の補助金を受けるには、「ZEH+」「Nearly ZEH+」に、以下の①~④の1つ以上を導入する必要があります。
①V2H設備(電気自動車に充電した電気を住宅で利用できるようにするための充電設備) ②蓄電システム ③燃料電池 ④太陽熱利用温水システム(10kw以上) |
「次世代ZEH+ 実証事業」で受けられる補助金は以下の通りです。
次世代ZEH+(次世代Nearly ZEH+) | |
補助額 | 定額100万円 |
定額部分はZEH+と同額の100万円ですが、追加導入するV2H充電設備、太陽熱利用温水システムなどに対し、20~75万円の追加補助金が支給されますので、こうした設備を導入したい方は検討してみるとよいと思います。
4-3. フラット35に「フラット35S(ZEH)」が新設
次に金利や税制優遇について見ていきましょう。
住宅金融支援機構の「フラット35」では、2022年10月より、新たに「フラット35S(ZEH)」という制度をスタートします。これを利用すると、通常のフラット35の借入金利から当初5年間年0.5%、6年目から10年目まで年0.25%の金利引き下げが受けられます。
4-4. 住宅ローン控除のローン残高(限度額)の引上げ
また「住宅ローン控除」でもZEH住宅は有利になります。2022年の改正で、住宅の区分に「ZEH水準省エネ住宅」が加わり、通常の「省エネ基準適合住宅」よりもローン残高の上限額が500万円引き上げられています。
なお、フラット35や住宅ローン控除におけるZEH基準では、創エネ設備の導入は必須となっていないため、Nearly ZEH、ZEH Oriented含め、すべての種類で適用が受けられます。
4-5. こどもみらい住宅支援事業
若者夫婦や子育て世帯の住宅購入を支援する目的で2022年にスタートした「こどもみらい住宅支援事業」。ZEH住宅に対する補助金は100万円で、一般的な省エネ性能の住宅よりも有利になっています(Nearly ZEH、ZEH Orientedでも可)。
■こどもみらい住宅支援事業の補助金
住宅の種類 | 補助額 |
ZEH住宅 | 100万円 |
高い省エネ性能(長期優良住宅・低炭素住宅 等) | 80万円 |
一般的な省エネ性能(H28年基準) | 60万円 |
4-6. ZEH住宅の種類と補助金・優遇制度のまとめ
ここまでご説明した内容をまとめると以下のようになります。補助金のみならず、金利や税制面でも大きく優遇されており、国がいかに力を入れてその普及を推進しているかおわかりいただけると思います。
※こどもみらい住宅支援事業とZEH補助金等との併用はできません
5、ZEH住宅を建てるときの注意点
最後に、ZEH住宅を建てる時の注意点について解説します。
5-1. 補助金の申請は登録された「ZEHビルダー」に限られる
ZEH住宅に関する補助金の支給は、一般社団法人 環境共創イニシアチブに登録された「ZEHビルダー」によって建築・販売される住宅に限られます。
なお、住宅情報館もこの制度がスタートした2016年度から「ZEHビルダー」の登録事業者となっています。
5-2. 申請方法・スケジュールに注意
ZEH住宅に関する補助金は、あらかじめ公募期間が決められているため、建築前にしっかりスケジュールを確認することが重要です。また補助金の種類によって、先着方式、審査採択方式など採択の方法も異なります。申請方法やスケジュールなどについては、依頼する建築会社と十分に打ち合わせをおこない、ミスのないように進めましょう。
5-3. 今後住宅の省エネ性能は飛躍的に上がる。ぜひ積極的な検討を
ZEH住宅の種類と補助金、ご理解いただけましたでしょうか。
ここまでご覧いただいたように、国は「2025年カーボンニュートラルの実現」という目標に向け、住宅の省エネを強力に推進しています。また、2021年10月には、「2030年度以降新築される住宅について、ZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す」方針も閣議決定され、今後ますます取り組みが加速していくでしょう。
こうした背景のもと、2022年以降に新築される住宅の省エネ性能は、飛躍的に高まることが予想されます。冒頭に申し上げた通り、現行の省エネ基準(H28年基準)の義務化は2025年からとなりますが、市場はすでに「ZEH水準」をターゲットに走り出しており、10月にはさらに上位の「断熱等級6~7」が新設されます。
これから住まいの購入・建築を検討される方は、今年の申請に間に合わない可能性もありますが、来年も今年と同等以上の支援策が打ち出されると予想されます。住まいの省エネや創エネをよく理解いただき、補助金を上手に活用しながら、高性能で快適な家づくりを目指していただければと思います。
省エネ住宅や補助金の詳細はぜひお近くの住宅情報館までお気軽にご相談ください。