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9月20日、国土交通省は令和4年(2022年)の基準地価を発表しました。今回の基準地価では、コロナ禍の規制が緩和され経済の正常化が進んだことで、住宅地がバブル以来31年ぶりにプラス転換し大きな話題となりました。今回は東海・関西エリアの地価動向を解説します。
※「前年比」の算出について
2章以降の「前年比(%)」は、市区町村ごとの平均地価をベースに算出しています。基準地点ごとの前年比を平均した数値ではありません。国・自治体の算出方法とは異なりますのでご留意ください。
目次
1、全国平均(全用途)は3年ぶりの上昇。住宅地は31年ぶりの上昇
2022年の基準地価は、全国平均(全用途)で0.3%の上昇、住宅地の全国平均は0.1%の上昇で、実に31年ぶりの上昇となりました。約3年間続いたコロナの影響が和らぎ、徐々に経済が正常化していること、都市部や生活利便性に優れた地域の住宅需要が堅調であることが要因とされています。また、テレワークなど生活スタイルの変化により、郊外にも上昇範囲が拡大しているのが今年の特徴です。なお、商業地もコロナの規制緩和やインバウンドの回復期待などにより3年ぶりの上昇となっています。
1-1. そもそも基準地価とは
基準地価とは、都道府県地価調査とも言われ、国土利用計画法に基づき、全国2万ヶ所以上の基準値の標準価格を、不動産鑑定士が調査し公表するものです。毎年7月1日時点の価格を9月下旬に発表しています。公示地価と同様、正常な地価形成を目的とし、土地取引の指標となる価格として活用されています。
1-2. 三大都市圏と地方四市は2年連続の上昇となり、上昇幅は拡大
まず、基準地価の変動率を見てみましょう。(▲はマイナス)
■2022年基準地価の変動率(前年比%)
全用途 | 住宅地 | 商業地 | ||||
2021年 | 2022年 | 2021年 | 2022年 | 2021年 | 2022年 | |
全国 | ▲0.4 | 0.3 | ▲0.5 | 0.1 | ▲0.5 | 0.5 |
三大都市圏 | 0.1 | 1.4 | 0.0 | 1.0 | 0.1 | 1.9 |
地方四市 | 4.4 | 6.7 | 4.2 | 6.6 | 4.6 | 6.9 |
その他地方圏 | ▲0.8 | ▲04 | ▲0.8 | ▲0.5 | ▲1.0 | ▲0.5 |
三大都市圏(東京圏・名古屋圏・大阪圏)は全用途平均で1.4%の上昇となり、前年の0.1%から上げ幅を拡大しました。用途別に見ると住宅地が1.0%(前年0.0%)、商業地では1.9%(前年0.1%)と力強い回復が見られます。なお、三大都市圏では住宅地、商業地ともに名古屋圏の上昇率が最も高く、上昇率も拡大しています。
また、地方四市(札幌・仙台・広島・福岡)では、住宅地が6.6%(前年4.2%)、商業地は6.9%(前年4.6%)と、三大都市圏を超える大幅な上昇となっています。
このように今回の基準地価では、コロナ禍で下落に転じた地価が、都市部を中心に回復していることが鮮明になりました。その他の地方圏でも、全用途平均で下落幅が▲0.8%から▲0.4%に縮小しており、地価全体の底上げが見られます。
1-3. 半年ごとの推移は三大都市圏で回復が顕著
2022年の地価指標としては、1月1日時点の「公示地価」が発表されていますので、上記の結果と合わせて、半年ごとの動きを見てみましょう。
■ 公示地価と基準地価の変動率推移 (前年比 %)
住宅地 | 商業地 | |||||
2021年 基準地価 |
2022年 公示地価 |
2022年 基準地価 |
2021年 基準地価 |
2022年 公示地価 |
2022年 基準地価 |
|
全国 | ▲0.5 | 0.6 | 0.9 | ▲0.5 | 0.5 | 1.1 |
三大都市圏 | 0.0 | 0.6 | 1.0 | 0.1 | 0.7 | 1.5 |
地方四市 | 4.2 | 2.8 | 2.9 | 4.6 | 3.6 | 3.3 |
その他地方圏 | ▲0.8 | 0.5 | 0.7 | ▲1.0 | 0.0 | 0.3 |
※公示地価は1月1日時点、基準地価は7月1日時点

上表の通り、三大都市圏では半年ごとに上げ幅が拡大し、急速に地価が回復していることが分かります。一方、地方四市は、上昇率は高いものの上げ幅は縮小しており、上昇にややブレーキがかかっている傾向が見られます。

2、東海圏の上昇率トップ10はすべて愛知県が占める
ここで、住宅購入に最も影響がある「住宅地」の地価について見ていきましょう。
今回は東海圏(静岡・岐阜・愛知)と関西圏(大阪)の住宅地について解説します。
2-1. 東海圏の上昇エリアは全体の42%。前年の23%から大きく増加
東海圏を市町村(政令指定都市は区)別に見てみると、前年比で上昇・下落しているエリアは次の通りです。
上昇 | 64エリア(36) |
下落 | 87エリア(112) |
変化なし | 3エリア(6) |
※カッコ内は前年

東海圏では、上昇エリアが前年の36エリア(23%)から64エリア(42%)へと大きく増加し、下落エリアが前年の112エリア(73%)から87エリア(56%)へと縮小しました。下落から上昇に転じたエリアの多くは愛知県で、名古屋市天白区・昭和区、三河地域の工業都市として知られる碧南市などが入っています。静岡では浜松市浜北区・東区、岐阜では多治見市などが下落から上昇に転じています。
2-2. 上昇率上位は愛知県が独占。静岡、岐阜は30位台
それでは、東海圏の上昇エリアと下落エリアのトップ10を見てみましょう。
※基準地価は市区町村ごとの住宅地の基準地価の平均で、㎡あたりの金額(円)です。(以下同様)
■2022年基準地価 上昇率・下落率ランキング(東海圏)
上昇率トップ10 | 下落率トップ10 | ||||
市区町村 | 基準地価 | 変動率 | 市区町村 | 基準地価 | 変動率 |
名古屋市中区 | 830,000 | 11.5% | 愛知県南知多町 | 14,767 | ▲5.0% |
愛知県東海市 | 89,810 | 5.7% | 静岡県松崎町 | 20,100 | ▲4.3% |
名古屋市中村区 | 246,571 | 5.3% | 静岡県西伊豆町 | 23,400 | ▲3.7% |
愛知県刈谷市 | 157,038 | 5.2% | 岐阜県白川町 | 10,575 | ▲3.3% |
名古屋市熱田区 | 206,333 | 5.1% | 愛知県美浜町 | 22,500 | ▲3.2% |
名古屋市千種区 | 289,300 | 4.9% | 静岡県伊兄市 | 30,957 | ▲3.2% |
愛知県安城市 | 137,320 | 4.8% | 岐阜県下呂市 | 11,578 | ▲3.0% |
名古屋市東区 | 356,000 | 4.7% | 岐阜県飛騨市 | 18,600 | ▲2.8% |
名古屋市南区 | 158,333 | 4.4% | 岐阜県養老町 | 24,500 | ▲2.8% |
名古屋市緑区 | 151,000 | 3.8% | 静岡県川根本町 | 9,875 | ▲2.7% |
東海圏の上昇エリアトップは、名古屋市中区でした。名古屋最大のビジネス街、繁華街である栄エリアを有する区で上昇率は11.5%。前年に続き2年連続のトップとなっています。2位以下も愛知県の市区町村が続きますが、昨年はトップ5がすべて名古屋市だったのに対し、今年は2位に東海市、4位に刈谷市がランクインし、地価上昇が郊外に広がっていることがうかがえます。
東海圏の上昇率上位は、ほぼ愛知県が独占しており、静岡県トップ3は38位の静岡市葵区、43位の浜松市浜北区、47位の浜松市中区となっています。また岐阜県トップ3は、46位の岐南町、50位の多治見市、57位の瑞穂市で、東海圏は愛知一強と言えるでしょう。
一方、下落エリア上位の顔ぶれは例年とあまり変わらず、愛知県の知多半島、静岡県の伊豆半島、岐阜県の山間部などがランキングされています。
2-3. 東海圏の都道府県別 上昇率トップ5
さらに、都道府県別に上昇率トップ5をピックアップすると以下のようになります。
都道府県 | 全体の変動率 (カッコは前年) |
上昇率上位の市区町村 | 基準地価 | 変動率 |
静岡県 | ▲0.9 (▲1.2%) |
静岡市葵区 | 147,035 | 1.2% |
浜松市浜北区 | 60,767 | 0.8% | ||
浜松市中区 | 94,565 | 0.5% | ||
静岡市駿河区 | 113,994 | 0.4% | ||
浜松市東区 | 71,022 | 0.4% | ||
愛知県 | 1.5% (0.2%) |
名古屋市中区 | 830,000 | 11.5% |
愛知県東海市 | 89,810 | 5.7% | ||
名古屋市中村区 | 246,571 | 5.3% | ||
愛知県刈谷市 | 157,038 | 5.2% | ||
名古屋市熱田区 | 206,333 | 5.1% | ||
岐阜県 | ▲1.2% (▲1.6%) |
岐南町 | 54,850 | 0.5% |
多治見市 | 35,285 | 0.5% | ||
瑞穂市 | 51,400 | 0.4% | ||
岐阜市 | 63,200 | 0.1% | ||
白川村 | 5,670 | 0.0% |
このように、東海圏は愛知で地価が大きく回復している一方で、静岡、岐阜では下げ幅は縮小したものの、依然としてマイナスが続いており、上位のエリアでも上昇率は0~1%前後と、回復のペースはかなり鈍いと言わざるを得ません。

3、関西(大阪府)は、大阪市と堺市が地価の回復をリード
次に関西エリア(大阪府)の住宅地の動向を見てみましょう。
3-1. 関西エリアでは上昇エリアが前年の2倍に増加
関西エリアの上昇・下落の割合は以下の通りです。
上昇 | 52エリア(26) |
下落 | 19エリア(34) |
変化なし | 1エリア(12) |
※カッコ内は前年

上昇エリアは前年の26エリア(36%)から52エリア(72%)に倍増しています。下落エリアも前年の34エリア(47%)から19エリア(27%)に縮小し、回復傾向が鮮明になりました。
3-2. 大阪の上昇エリアトップ10は大阪市と堺市がほぼ独占。北摂エリアはランク外に
次に関西エリア(住宅地)の上昇・下落率トップ10を見てみましょう。
■2022年基準地価 上昇率・下落率ランキング(大阪)
上昇率トップ10 | 下落率トップ10 | ||||
市区町村 | 基準地価 | 変動率 | 市区町村 | 基準地価 | 変動率 |
大阪市都島区 | 283,500 | 2.7% | 大阪府岬町 | 25475 | ▲5.2% |
大阪市福島区 | 360,667 | 2.5% | 大阪府能勢町 | 19,250 | ▲2.5% |
堺市東区 | 131,571 | 2.4% | 大阪府千早赤阪村 | 23,300 | ▲2.1% |
大阪市天王寺区 | 556,667 | 2.4% | 大阪府豊能町 | 34,367 | ▲1.7% |
堺市北区 | 187,778 | 2.2% | 大阪府泉南市 | 41,513 | ▲1.7% |
大阪市城東区 | 252,800 | 2.1% | 大阪府熊取町 | 61080 | ▲1.1% |
大阪市中央区 | 472,500 | 1.9% | 大阪府河南町 | 31,700 | ▲1.1% |
大阪市港区 | 247,000 | 1.9% | 大阪府阪南市 | 41463 | ▲0.9% |
大阪市東成区 | 225,500 | 1.8% | 大阪府羽曳野市 | 92,211 | ▲0.6% |
大阪府松原市 | 119,283 | 1.8% | 大阪府門真市 | 129,000 | ▲0.4% |
上昇率トップ10のうち9位までが大阪市と堺市で占められています。なお10位の松原市も大阪市と堺市の間に位置する市ですので、大阪の地価上昇はこの2つの政令指定都市が牽引しているとみて間違いないでしょう。一方、前年6位だった箕面市は23位(1.1%→0.3%)に、9位だった池田市は26位(0.9%→0.3%)にそれぞれランクダウンし、北摂エリアはトップ10圏外となりました。
逆に圏外からランクインしたのが、堺市東区(0.4%→2.4%)、大阪市城東区(0.6%→2.1%)、大阪市港区(0.5%→1.9%)、大阪市東成区(0.0%→1.9%)など、やや中心部から離れたエリアで、上昇率も2%前後と大きなものになっています。
一方、下落率トップ10は、1~4位までが前年と同順位。5位以下の顔ぶれも例年とあまり変わらず、南部の市町村と、京都に近い山間部が多くランクインしています。

4、コロナ規制の緩和で地価は回復に向かう。今後重要なのは金利の動向
東海・関西エリアの2022年基準地価の動向、いかがでしたでしょうか。
このように、今年の基準地価では、住宅地・商業地ともに地価の回復が鮮明になりましたが、今後住宅購入を検討する方はどのようなことに気をつけたらよいでしょうか。
4-1. 地価の二極化は今後も進む。上がるエリアの特徴を知っておこう
今回のランキングでも分かる通り、地価の回復が早いのは、都市部とその近郊エリアです。毎年順位は変わるものの上位に入る街の顔ぶれはそれほど変わりません。下落エリアも同様に顔ぶれはあまり変わらず、毎年じりじりと下がり続けています。つまり、上がるエリアと下がるエリアはある程度決まっており、あまり変化しません。これを「地価の二極化」と言い、今後もこの傾向は続くと予想されます。
これから物件探しを進める方は、将来の資産価値の観点からも、地価が上がるエリアを選びましょう。上がるエリアの特徴は、大きく「利便性」と「新しさ」です。例えば、都心に隣接する近郊エリア、郊外なら複数路線が乗り入れるターミナル駅、ショッピングモールなど商業施設が充実した街など、通勤や買い物の利便性が高い街が挙げられます。
また鉄道の新線(新駅)の開業や、再開発などで一気に利便性が高まり人気になる街もあります。大阪市では、2019年に開業したJRおおさか東線、2023年・北大阪急行の伸延、2029年・大阪モノレールの伸延など多くの新線・新駅の計画があり、沿線の街に注目が集まっています。こうした情報にも注目しておくとよいと思います。街の特徴や将来性を踏まえて物件探しを進めましょう。
4-2. 今後重要なのは金利の動き。低金利が続けば地価は堅調に推移する
一方、マクロ的な視点で見ると、2013年に始まった大規模な金融緩和(いわゆるアベノミクス)以降、不動産価格は上昇傾向が続いています。この上昇を支えるもっとも大きな要因は低金利です。したがって、今後の不動産価格を予測するには、金利の動きがとても重要になります。
日銀の黒田総裁は、9月22日の会見で「当面(2~3年)金利は上げない」と明言しました。もしこれが本当なら地価の上昇はしばらく続くことになるでしょう。しかし、世界各国で金利が引き上げられている今、低金利政策を続けているのは、もはや日本だけです。黒田総裁の任期も来年の4月に迫っています。2023年以降、新総裁のもとで金融政策の転換はあるのか?それが今後の不動産価格を占う鍵となります。日頃から金融情勢や金利の動向に注目しておきましょう。
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