2022年下半期の不動産市況まとめ 成約件数は減少↓ 在庫は↑。都心部の価格にピークアウトの兆し?

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エネルギー価格の高騰や一時1ドル150円台まで進んだ円安により、インフレが加速した2022年下半期、不動産市況はどのように変化したのでしょうか。今回も前回に引き続き、首都圏の成約数、価格、在庫などの最新データから大きな市況の流れを探ってみましょう。

目次

1、なぜ不動産市況を把握する必要があるのか

そもそも不動産の価格はどうやって決まるのでしょう?企業が売主となって販売する場合、土地や建物の仕入価格に、その土地の造成費、建築・リノベーション等の工事費、広告宣伝や販売促進の費用などを勘案して算出しますが、それ以外に非常に重要な要素となるのが「市況」です。

では、市況とはいったい何なのか?どのようにして決まっているのか?について解説します。

1-1. そもそも不動産市況とは?

前提として、不動産価格は「定価」というものがなく、その時々の需要と供給のバランスで価格が決まる仕組みになっています。また不動産は1つとして同じものがないので、比較がしにくくいわゆる「相場」がつかみにくい商品です。

そうした価格の動きや相場をつかむためには、市場に流通している物件数(供給)や、実際に成約に至った物件数(需要)や価格等を数値的に把握していくことが重要です。こうしたデータを総合的に分析したものが不動産市況と言われるものです。

1-2. 不動産価格が変動する背景とマクロ指標

不動産価格は需要と供給のバランスで決まると申し上げましたが、その需要の背景にあるのが国内の経済状況です。簡単に言えば「景気がいい」時期には不動産の需要が高まり価格も上昇しますし、「景気が悪い」時期にはその逆となります。また、不動産の購入には住宅ローンなどの借入をともなうことが多いので、金利の動向は不動産価格に大きな影響を与えます。こうした株価や金利などの経済指標はマクロ指標とも呼ばれ、不動産価格に影響を与える重要なデータとなります。

1-3. 市況がわかると買い時がわかる?

常に変動する不動産市況を把握しておくことは、住宅購入検討者にとって非常に重要です。単に価格が安いか高いかではなく、今後どのように動いていくのか、自分にとって今は買うべきタイミングなのかどうかなどを俯瞰的に検討した上で購入判断できるからです。

本コラムでは、主に業界向けに公開されているデータを元に、一般の方にもできるだけわかりやすく不動産市況を解説していきます。

2、2022年下半期の首都圏「新築マンション」市況

それではまず、首都圏の新築マンション市況を見てみましょう。

■首都圏の新築マンション市況(2022年下半期)

※カッコ内は前年同月比 ※▲はマイナス

2-1. 首都圏新築マンションの発売戸数は2年ぶりの減少

首都圏の2022年下半期(7~12月)の新築マンション発売戸数は16,857戸で、前年同期間の20,359戸から17.2%減少となりました。

エリア別に見ると、東京都区部が7,474戸→5,411戸(▲27.6%)、東京都下が1,958戸→1,337戸(▲31.7%)、神奈川県が5,043戸→4,337戸(▲14.0%)、埼玉県が3,148戸→3,031戸(▲3.7%)、千葉県が2,736戸→2,741戸(+0.2%)となっており、千葉県を除く全エリア、中でも東京都は3割近い減少となっています。これは建築資材の調達などに関する不透明感から供給が抑制されたことが要因とされています。

2-2. 首都圏新築マンションの販売価格は依然として高値圏で推移

2022年下半期の販売価格は、前年同期間の平均と比べ、首都圏平均で6,465万円→6,252万円(▲3.3%)、東京都区部で8,695万円→8,346万円(▲4.0%)、東京都下で5,130万円→4,998万円(▲2.6%)、神奈川県で5,102万円→5,520万円(+8.2%)、埼玉県で4,797万円→5,018万円(+4.6%)、千葉県で4,241万円→4,397万円(+3.7%)と、東京都を除き上昇しています。市場では資材価格の高騰による価格上昇圧力が高く、東京都で若干マイナスとなっているものの依然として高値圏で推移しています。

2-3. 首都圏新築マンションの㎡単価は郊外エリアで上昇傾向

専有面積1㎡あたりの価格を示す「㎡単価」の推移も見てみましょう。首都圏全体では98.1万円→95.0万円(▲3.2%)、東京都区部で134.7万円→130.5万円(▲3.1%)、東京都下で77.0万円→78.2万円(+1.6%)、神奈川県で77.5万円→82.3万円(+6.2%)、埼玉県で69.7万円→74.9万円(+7.5%)、千葉県で60.7万円→63.4万円(+4.5%)となっています。 ここでも東京都区部でマイナスとなっているのに対し、都下と他県では上昇しており、価格上昇の波が郊外に広がっていると見られます。

※出典:首都圏新築マンション市場動向(株式会社不動産経済研究所)より抜粋・作成

3、2022年下半期の首都圏「中古マンション」市況

次に中古マンションの市況について見ていきます。2022年下半期(7~12月)の首都圏全体の成約件数は8月以降5ヶ月連続で前年割れ、成約価格と㎡単価は上昇となりました。成約価格は31ヶ月連続、㎡単価は32ヶ月連続で前年同月を上回っています。7月~11月まで成約価格、㎡単価ともに二桁上昇となりましたが、12月はやや上昇率が下がっています。新築マンションの値上がりで、特に築浅の中古マンションが人気となり価格上昇が続いています。

■首都圏中古マンション市況(2022年下半期)

※カッコ内は前年同月比 ※▲はマイナス

3-1. 首都圏中古マンションの成約件数は首都圏全域で減少

首都圏の中古マンション成約件数は7月を除き前年を下回りました。下半期の合計件数では、首都圏全体で18,530件→17,144件(▲7.5%)。エリア別に見ると、東京都で9,508件→9,211件(▲3.1%)、神奈川県で4,491件→3,964件(▲11.7%)、埼玉県で2,219件→1,912件(▲13.8%)、千葉県で2,312件→2,057件(▲11.0%)と、東京都以外のエリアで減少幅が大きくなっています。

3-2. 首都圏中古マンションの成約価格は全域で上昇。上昇率は10%を超える

一方、成約価格は全エリアで前年を上回っており、首都圏全体で3,928万円→4,372万円(+11.3%)と二桁上昇。エリア別に見ると、東京都で4,929万円→5,449万円(+10.5%)、神奈川県で3,288万円→3,526万円(+7.3%)、埼玉県で2,507万円→2,792万円(+11.4%)、千葉県で2,430万円→2,663万円(+9.6%)と、東京都と埼玉県で大きな伸びとなっています。(※)

※2022年下半期の各月の成約価格の平均

3-3. 首都圏中古マンションの成約㎡単価は?

「成約㎡単価」も同様に上昇が続いています。首都圏全体では61.3万円→69.0万円(+12.6%)、東京都で82.4万円→92.5万円(+12.2%)、神奈川県で49.0万円→53.2万円(+8.6%)、埼玉県で37.0万円→41.0万円(+10.6%)、千葉県で33.5万円→36.4万円(+8.6%)と東京都と埼玉県で二桁上昇、その他の地域でも8%を超える大きな上昇となっています。

なお、首都圏の成約㎡単価を月別で見ると、2022年はほぼすべての月で前年比10%を超える上昇となっていましたが、12月は+9.0%とやや上昇率が下がっています。

これが一時的なものなのか、ピークアウトの兆候かはまだわかりませんが、住宅ローン金利がじわじわと上がる中で、少しずつ様子見ムードが出てきているのかも知れません。

(※) ※2022年下半期の各月の成約㎡単価の平均

3-4. 首都圏中古マンションの在庫件数は回復が進む

最後に、中古マンションの在庫件数を見てみましょう。グラフの通り、2021年後半から在庫数は回復傾向にありコロナ前の水準に戻りつつあります。

7~12月の平均在庫数は、首都圏全体で前年比+13.8%、エリア別に見ると東京都で+13.5%、神奈川県で+13.8%、埼玉県で+16.3%、千葉県で+13.3%と全域で回復しています。

成約件数が減少しながら在庫数が回復していることから、売主が希望する価格で売れにくくなってきているとも考えられます。

※出典:レインズデータライブラリー(東日本不動産流通機構)より抜粋・作成

4. 2022年下半期の「新築一戸建」市況

続いて、新築一戸建の市況を見てみましょう。2022年下半期の首都圏全体の成約件数は、東京で減少し郊外エリアで増加。成約価格は上昇しつつ在庫数が急回復しています。

■首都圏新築一戸建市況(2022年下半期)

※カッコ内は前年同月比 ※▲はマイナス

4-1. 首都圏新築一戸建の成約件数は東京都で二桁減、埼玉県は増加

7~12月の成約件数は、首都圏全体で2,205件→2,146件(▲2.7%)、東京都で626件→539件(▲13.9%)、神奈川県で773件→764件(▲1.2%)、埼玉県471件→507件(+7.6%)、千葉県335件→336件(+0.3%)と、東京都が大きく減少したのに対し、埼玉県は増加し、神奈川県・千葉県はほぼ横ばいとなっています。

4-2. 首都圏新築一戸建の成約価格は上昇が続く。価格の安い郊外エリアで高い上昇率

成約件数が減少する一方で、成約価格は上昇を続けています。7~12月の成約価格は、首都圏全体で4,009万円→4,170万円(+4.0%)、東京都で4,945万円→5,191万円(+5.0%)、神奈川県で3,981万円→4,178万円(+4.9%)、埼玉県で3,347万円→3,521万円(+5.2%)、千葉県3,229万円→3,490万円(+8.1%)と、全エリアで上昇していますが、上昇率は上半期よりも縮小しています。

また、東京都の上昇率が+5.0%であるのに対し、埼玉県は+5.2%、千葉県は+8.1%と価格の安いエリアほど上昇率が高く、購入者の需要が都心から郊外に広がっていることがうかがえます。

※2022年下半期各月の成約価格平均

4-3. 首都圏新築一戸建の在庫件数はコロナ前の8割近くまで回復

新型コロナによる供給減で、2021年前半まで減少が続いていた新築一戸建ですが、その後増加し2022年下半期にはコロナ前の8割近くまで回復しています。7~12月の平均在庫数は、首都圏全体で+58.5%、東京都で+59.2%、神奈川県で+58.4%、埼玉県で+59.8%、千葉県で+41.4%と、全エリアで急速に回復しています。

※出典:レインズデータライブラリー(東日本不動産流通機構)より抜粋・作成

5、2022年下半期の「中古一戸建」市況

最後に首都圏の中古一戸建の市況をみてみましょう。成約件数は6ヶ月連続の減少となっていますが、成約価格は2020年11 月から26ヶ月連続で前年同月を上回り、新築一戸建よりも高い上昇率となっています。

■首都圏 中古一戸建市況(2022年下半期)

※カッコ内は前年同月比 ※▲はマイナス

5-1. 首都圏中古一戸建の成約件数は全エリアで減少

7~12月の成約件数は、首都圏全体で7,143件→6,454件(▲9.6%)、エリア別に見ると、東京都で2,281件→2,016件(▲11.6%)、神奈川県で1,956件→1,656件(▲15.3%)、埼玉県で1,490件→1,372件(▲7.9%)、千葉県で1,416件→1,410件(▲0.4%)と全エリアで減少しています。中でも東京都と神奈川県の減少が大きく、千葉県はほぼ横ばいとなっています。

5-2. 首都圏中古一戸建の成約価格は首都圏全域で上昇

成約件数が減少する一方、価格は上昇傾向を維持しており、7~12月の成約価格は、首都圏全体で3,520万円→3,804万円(+8.1%)、エリア別に見ると、東京都で4,920万円→5,446万円(+10.7%)、神奈川県で3,637万円→3,935万円(+8.2%)、埼玉県で2,415万円→2,584万円(+7.0%)、千葉県で2,269万円→2,481万円(+9.3%)と7~10%の上昇となっています。

※2022年下半期の各月の成約価格の平均

5-3. 首都圏中古一戸建の在庫件数は2022年後半から回復に転じる

中古一戸建の在庫件数は減少傾向が続いていましたが、下半期から回復に転じました。7~12月の平均在庫数は、首都圏全体で前年比+3.8%、エリア別では東京都が+4.7%、神奈川県が+0.3%、埼玉県が+8.3%、千葉県が+2.3%と全域でプラス転換しています。中古マンションと同様に、そろそろ売り時と見た売主が増えていること、希望価格での売却に時間を要していることなどが考えられます。

※出典:レインズデータライブラリー(東日本不動産流通機構)より抜粋・作成

6、今後の不動産価格を占うマクロ指標

不動産価格と相関性が高いと言われている2つの指標と建築費について見ていきましょう。

6-1. 日経平均株価は下降トレンドが続く

※各月の終値

1つ目は日経平均株価です。株価は不動産価格と相関関係にあると言われていますが、日々の株価の動きと同じように不動産価格が変動するわけではなく、株価の動きから半年くらい遅れて不動産価格に影響を与えると言われています。

2022年下半期の日経平均株価は7月の始値26,460円から12月の終値26,094円まで約1.4%下落しています。年間でも年初の29,098円から10.3%下落しており、1年を通じて下降トレンドが継続しました。

この大きな要因は世界的なインフレに起因する金利の引き上げです。米国では2022年後半から金利上昇ペースが落ち、株価が少しずつ回復してきましたが、2023年は世界的な景気後退が予測されており、先行きは不透明です。こうしたことから、もし株価が回復するとしても2023年後半~2024年にずれ込む可能性が高いと思われます。

6-2. 住宅ローン金利は固定型が上昇。変動型は低水準を維持

※融資率9割以下・借入期間21年以上35年以下・団信
 保険料を含む最多金利

そして、もう一つの指標が住宅ローン金利です。ここでは全期間固定金利の「フラット35」(※)の金利推移をみてみましょう。2022年は固定金利がじわじわと上昇し、1月の1.30%から12月の1.65%まで上昇しました。また12月に日銀が政策変更を発表したことで、翌月は1.68%とさらに上昇しています。

一方、政策(短期)金利と連動性の高い変動型の住宅ローンに上昇は見られず、実質0.5%前後の低水準を維持しています。政策金利をマイナス0.1%に維持する政策が続いているためですが、春に予定されている日銀総裁交代のタイミングで政策が変更される可能性も大いにありますので、これからマイホームを購入する方は少し検討を急いだ方がいいかも知れません。

※フラット35とは:住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して融資をおこなう、全期間固定金利の住宅ローンです。

6-3. 建築工事費は引き続き高値圏で推移

※1995年度の価格=100とした指標

新型コロナやウクライナ情勢にともなうエネルギー価格や資材価格の上昇や円安により、建築費は大幅に上昇しています。一時1ドル150円台まで進んだ円安は、年末時点で130円前後まで落ち着いてきてはいるものの、国内では企業から消費者への価格転嫁が十分に進んでいないため、この先、建築費が下がるかどうかは不透明な状況です。新築物件の購入を検討している方は建築費の動きにも注意しましょう。

※出典:国土交通省

7、今年前半は金利の上昇と在庫の回復に注目。都心部の価格はピークアウトの可能性も

2022年下半期の不動産市況、いかがでしたでしょうか?

住宅購入を検討する方にとって重要なのは、価格が高いか安いかではなく「これからどう動くのか」「自分にとって今は買い時なのか」ということです。未来を正確に予測するのは難しいことですが、このようなデータや指標を継続的に見ていくことによって、ある程度の予測は立てることができます。

2023年前半で、特に注意していただきたいのは金利の動きです。前述の通り、日銀は2022年12月に金融政策を一部変更し、実質的な利上げに踏み切りました。翌1月の会見で、黒田総裁は「金融緩和(低金利)政策に変更はない」と強調し、さらなる利上げは見送られましたが、この春就任する新総裁のもとで利上げに動くのではないかという懸念は市場にくすぶっています。もし政策に大きな変更があれば、固定金利のみならず変動金利も上昇に向かう可能性があります。

また、中古物件の在庫が急回復していることも重要です。在庫の増加は、価格が上昇から下落に転じるタイミングで見られることが多く、同時に都心部よりも郊外の値上がり率が高くなっていることから、都心部の価格はそろそろ天井に近づいている可能性があります。

今年はウクライナ情勢の変化や中国の市場動向、金利や為替の変動や世界的な景気後退など、変動要素が多い1年になりそうです。これから住まいの購入を検討される方は、金利や価格の動きをしっかりチェックするとともに、不動産会社などからこまめに情報収集するよう心がけましょう。

価格相場や金利の最新データ、今後の見通しなどはお近くの住宅情報館までお気軽にご相談ください。

次回の市況データは2023年7月ごろ公開の予定です。