2023年公示地価は、名古屋・大阪の都心部を中心に2年連続の上昇(東海・関西編)

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3月22日、令和5年(2023年)の公示地価が発表されました。昨年2年ぶりの上昇となった公示地価は、さらに上昇を拡大し、都心から郊外へと広がりを見せています。

前回の関東・東北エリアに続き、今回は東海・関西エリアの地価動向を詳しく見ていきましょう。

目次

1)全国平均(全用途)は住宅地・商業地とも2年連続で上昇が加速

2023年公示地価の変動率は、全国平均(全用途)で前年の0.6%から1.6%へと上昇幅を拡大しました。用途別に見ても、住宅地(0.5% → 1.4%)、商業地(0.4% → 1.8%)とも大きく上昇し、コロナ前への回復が鮮明になっています。

住宅地では低金利の継続、住宅取得支援施策による需要の下支え効果もあり、都市部や生活利便性に優れた郊外エリアの上昇が続いています。また商業地もコロナからの回復にともなう店舗需要、オフィス需要などに加え、観光・インバウンドへの期待感から、都市部を中心に大きく上昇しています。

1-1. そもそも公示地価とは

公示地価とは、地価公示法に基づき、全国2万ヶ所以上の基準値の標準価格を、不動産鑑定士が調査し公表するものです。毎年1月1日時点の価格を3月下旬に発表しています。都道府県地価(基準地価)と同様、適正な地価形成を目的とし、土地取引の指標となる価格として活用されています。

1-2. 三大都市圏、地方四市とも上昇幅を拡大。地方四市では8%超の上昇に

次に圏域別に直近1年間の地価動向を見てみましょう。

2023年公示地価の変動率(前年比%)

※出典:国土交通省

三大都市圏(東京圏・名古屋圏・大阪圏)は、全用途平均で前年の0.7%から2.1%に上昇幅を拡大しています。用途別に見ると、住宅地が0.5% → 1.7%、商業地は0.7% → 2.9%と商業地の回復が鮮明となっています。

また、地方四市(札幌・仙台・広島・福岡)でも、住宅地が5.8% → 8.6%、商業地が5.7% →8.1%と、三大都市圏を上回る上昇となっており、中心部の上昇にともない周辺の市町にも波及しています。

昨年2年ぶりにプラス転換した地価は、コロナの終息とともに回復が続いており、戻りが鈍かった商業地も本格的に回復基調に入ったと言えるでしょう。なお、大阪圏・名古屋圏を圏域別に見ると、いずれも住宅地よりも商業地の上げ幅が大きく、コロナで落ち込んだ商業エリアの地価が急速に戻ってきていることがうかがえます。

圏域別の地価変動率

1-3. 半年ごとの動きでは2022年後半に上昇が加速

また2022年の地価動向を前半・後半に分けて見ると、住宅地・商業地とも、前半よりも後半の上昇率が高く、上昇の勢いが加速していることがわかります。

公示地価の半年ごとの変動率推移 (前年比%)

※出典:国土交通省

前半:2022年1月1日~2022年7月1日の変動率 , 後半:2022年7月1日~2023年1月1日の変動率

また今年の特徴としては、上昇が都市中心部から周辺エリアに拡大していることが挙げられます。圏域ごとの上昇地点トップを見ると、首都圏は木更津市金田東(20.9%)、大阪圏は奈良市西大寺国見町(10.3%)、名古屋圏は名古屋市東区泉(18.2%)と、利便性のよい近郊~郊外が大きく上昇しています。

2)東海圏の公示地価ランキング。上昇率トップ10はすべて愛知県

ここで、住宅購入に最も影響がある「住宅地」の地価について見ていきましょう。

今回は東海圏(静岡・岐阜・愛知)、関西(大阪府)の住宅地について解説します。

2-1. 東海圏の上昇エリアは全体の51%。前年の39%から2年連続の回復

東海圏を市町村(政令指定都市は区)別に見てみると、前年比で上昇・下落しているエリアは次の通りです。

東海圏では上昇エリアが前年6エリアから57エリアに急回復していましたが、今年はさらに73エリア(51%)に続伸しました。下落エリアも昨年の86エリア(60%)から67エリア(46%)へと減少し、上昇と下落がほぼ半数ずつまでに回復しています。

2-2. 上昇率トップは名古屋市中区。上昇エリアが郊外に広がる

それでは、東海圏の上昇エリアと下落エリアのトップ10を見てみましょう。

※公示地価は市区町村ごとの住宅地の公示地価の平均で、㎡あたりの金額(円)です。

※「前年比(%)」は、市区町村ごとの住宅地の平均地価で算出しています。基準地点ごとの前年比を平均したものではありません。

2023年公示地価 上昇率・下落率ランキング(東海圏・住宅地)

上昇率トップは2年連続で名古屋市中区でした。昨年に続く2桁上昇となる11.3%の上昇で2年間の上昇率は20%以上となっています。2位以下も4~8%台の上昇率となっており、昨年よりも上昇幅が拡大しています。

トップの中区は栄駅、久屋大通駅などのある商業・経済の中心エリアで、2位の東区は、都心からやや外れますが、都心近接の良好な住宅地で、住む街として人気の高いエリアです。名古屋市以外の市では3位に東海市、4位に安城市、5位に刈谷市などがランクインしていますが、すべて名古屋市南部に位置するベッドタウンで、名古屋中心部まで10~30分ほどでアクセスできる街です。名古屋市内の大幅な地価上昇により、周辺のベッドタウンに上昇の波が広がっていることがうかがえます。

一方、下落率トップ10に大きな変化はなく、愛知県の知多半島や、岐阜県の山間部、静岡県の沿岸町村などがランキングされています。

2-3. 東海圏は愛知一強で上げ幅を拡大。静岡・岐阜は下落幅が縮小するもマイナス

さらに、都道府県別に上昇率トップ5をピックアップすると以下のようになります。

都道府県ごとに見ると、愛知県は前年のプラス1.0%からプラス2.3%に上げ幅を拡大しています。一方、静岡県と岐阜県は、下落幅は縮小しているものの、依然としてマイナスとなっており、東海圏の地価上昇は愛知県に支えられていると言えそうです。

静岡県トップの静岡市葵区は、静岡市の中心地で、昨年のプラス0.6%からプラス1.1%に上げ幅を拡大。2位の長泉町は三島市の隣に位置する街で、3世代同居の補助金や手厚い子育て支援で知られる、ファミリー世帯に人気の街です。また3位には、東京からのアクセスがよく、観光地としても移住先としても人気の高い熱海市ランクインしています。

また、岐阜県トップの岐南町は名古屋へのアクセスがよく、若いファミリー世帯の流入が増えている街で、昨年の2位からトップに躍り出ました。2位の多治見市と3位の中津川市は、リニア中央新幹線の「岐阜県駅」開業の期待から上昇が続いています。

3)関西(大阪府)では全体の約80%が上昇。前年の60%から続伸

次に関西(大阪府)の住宅地の動向を見てみましょう。

3-1. 大阪府の地価は大阪市を中心に上昇が拡大

関西(大阪府)の上昇・下落の割合は以下の通りです。上昇エリアは前年の43エリアから57エリアに増え、下落エリアは27エリアから15エリアに減少しました。大阪市を中心に上昇エリアが広がっています。

3-2. 関西(大阪府)の上昇率トップ10はすべて大阪市と堺市

次に関西(住宅地)の上昇・下落率トップ10を見てみましょう。

上昇率トップ10のうち9エリアは大阪市となっており、大阪市外では堺市北区が8位にランクインしています。昨年は堺市から東区と堺区がランクインしていましたが、今年は東区が12位、堺区が13位とランク外となりました。また、住宅地として人気の高い北摂エリアは箕面市14位、豊中市15位、吹田市20位となっています。ただし、トップ10からは外れたものの上昇率は昨年より高く、大阪全体の地価が上昇する中で、商業地に近接する住宅地の地価がより大きく上昇していると見られます。

一方、下落率トップ10は前年とあまり変わらず大阪府の南部と奈良県・兵庫県との県境に近い地域が多くランクインしています。

4)2023年、都市部の地価は上昇を加速しつつ郊外へ。地方は二極化が進む

東海・関西エリアの2023年公示地価の動向、いかがでしたでしょうか。

ご覧いただいた通り、コロナの終息とともに都市部の地価は2年連続で力強い上昇が続いています。最後に、これから住宅購入を検討する方が気をつけたいポイントについて解説します。

4-1. 地価の上昇は中心部で加速し、さらに郊外へ波及

今年の東海・関西エリアの公示地価は2つの特徴があります。1つ目は都心部の上昇幅が拡大していることです。コロナ禍の2021年は外出自粛やインバウンドの減少により、商業地を中心とした都心部の地価が大きく下落しました。翌年、コロナの影響が和らいだ2022年には反動の兆しを見せながらも、まだ本格回復には至っていませんでしたが、外出自粛や入国規制の緩和などにより、今年は商業地の回復が顕著となり、周辺の住宅地も含め地価が大きく上昇しています。

2つ目は都心部の急激な地価回復が周辺の近郊~郊外エリアに波及していることです。名古屋圏では、東海市、安城市、刈谷市、大府市、知立市、豊明市の5市がトップ10入りし、上昇率も4~6%と非常に力強いものとなっています。また大阪圏でも堺市北区の上昇率が昨年の2.0%から3.2%に拡大し、大阪市内でも東成区(0.5% → 3.3%)、福島区(1.6% → 3.8%)、淀川区(0.6% → 2.8%)など、周辺部の上昇幅が大きくなっています。

こうした現象は、中心部の価格が高止まりしていることにより、住宅需要が近郊~郊外に向かっていることを示しています。

また、今年地価が上昇した直接的な要因はコロナの終息ですが、その背景には10年近く続く金融緩和(=低金利)があります。昨年12月の政策変更で長期金利は上昇したものの、短期金利に連動する変動金利型の住宅ローンは0.5%前後という低水準を維持しています。そして、4月に就任した日銀新総裁が金融緩和の継続を表明したことにより、地価は再び上昇に向かい、さらに郊外へと波及する可能性が高いと考えられます。

今回上昇率が高かったエリア、またその周辺で物件探しを進める場合には、少し早めに動き出した方がよいかも知れません。

4-2. 都心部と利便性の高いベッドタウン以外は、横ばい~下落傾向が続く

一方、コロナ前~コロナ後を通じて、下落エリアの顔ぶれにはあまり変化がなく、地価はじわじわと下落を続けています。つまり、都心部と利便性の高い近郊~郊外ベッドタウンでは上昇が加速しているものの、それ以外のエリアは、今後も横ばい~下落傾向が続くことが予想されます。

このような地価の「二極化」は、今後も続いていくと思われますので、住宅購入の際のエリア選びには十分注意しましょう。

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