建売住宅を買う前に知っておきたいこと① 首都圏で建売住宅の供給数が多いエリア、伸びているエリア

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近年、分譲一戸建、いわゆる建売住宅の供給がじわじわと伸びています。中でも初めて家を買う一次取得者向けの建売住宅は、郊外エリアを中心に購入者が増えています。そこで建売住宅を検討している方向けに、購入前に知っておきたいことを3回に分けてお伝えしていきます。

今回は首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)の建売住宅の供給が多いエリア、伸びているエリアについて解説します。

目次

1)建売住宅の供給数はじわじわと上昇し、すでに注文住宅を上回っている

まず、最近10年間の建売住宅の供給戸数から見ていきましょう。

1-1. 首都圏の一戸建の半数以上が建売住宅に 最近10年間の首都圏における一戸建の着工戸数は以下の通りです。

出典:住宅着工統計

グラフの通り、2013年では注文住宅の戸数が分譲住宅を上回っていましたが、その後少しずつ減少しています。一方、分譲住宅は2016年から戸数を伸ばし、2020年にコロナによる落ち込みは見られるものの、その後2年連続で増加しています。

また、注文住宅の約3割(28.2%)は、建て替えであるため(※)、一次取得者に限れば分譲住宅を選ぶ人の割合はさらに多くなります。

※出典:「2021年度 戸建注文住宅の顧客実態調査」(一般社団法人 住宅生産団体連合会)

また、一戸建の供給に占める分譲住宅の割合は以下の通りです。

出典:住宅着工統計(2022年)

2022年時点で、分譲住宅の割合がもっとも高い神奈川県は57.0%、東京都(54.8%)、埼玉県(53.6%)も50%を超えています。首都圏全体では一戸建の54.2%、全体の半数以上が分譲住宅となっています。

1-2. 建売住宅の供給が増える背景

このように建売住宅の供給が好調なのにはどのような背景があるのでしょうか。

まず大きな要因として、マンション価格の高騰と供給減少により一戸建を選ぶ人が増えている点が挙げられます。

■不動産価格指数の推移

2013年1月2023年1月変動率
住宅総合98.7134.3+36.0%
住宅地95.9109.6+14.3%
戸建住宅98.4118.3+20.3%
マンション102.3189.2+85.0%

上表の通り、2013年に始まった金融緩和以来、都市部のマンション価格は上昇を続け、10年で85%も上昇しています。それに対して、戸建住宅の上昇率は20.3%にとどまっており、相対的に割安感があります。

また、2013年に約5万6,000戸あった首都圏の新築マンションは、2022年には3万戸を下回る水準にまで減少し、供給エリアも都心部やターミナル駅などに絞られる傾向があるため、新築志向の購入者がマンションから一戸建に流れていると推測されます。さらにコロナ禍でテレワークが普及したことにより、ワークスペースを備えた広い一戸建の人気が高まったことも一因と言えます。

では、注文住宅ではなく、建売住宅が好調なのは何故なのでしょうか。

まず建売住宅は、相対的に価格が安いことが挙げられます。国土交通省の「住宅市場動向調査(令和4年)」によれば、注文住宅と建売住宅の平均購入金額と年間のローン返済額は以下の通りです。

■注文住宅と建売住宅の平均購入額とローン返済額

 平均購入額(土地代含む)年間ローン返済額
注文住宅5,436万円174.0 万円
建売住宅4,214万円126.6万円

出典:住宅市場動向調査(令和4年)

初めて住まいを購入する若者世帯は、子育てにお金がかかる時期でもあり、少しでもローン負担を軽くしたいという意向が働きます。また、それまで住んでいた賃貸の家賃と同じくらいのコストで買える家を求めるケースも多く、よりリーズナブルな建売住宅が選ばれる要因となっています。

また、近年建売住宅の品質が向上したことも一因と考えられます。かつては、価格の安い建売住宅は品質が劣るという印象もありましたが、現在では、注文住宅も分譲住宅も基本的な品質に差はなく、長期保証や住宅性能表示なども受けられます。

注文住宅は個人の趣味嗜好に合わせて、間取りやデザインを自由に建てられるというメリットがありますが、最近の「コスパ重視」の風潮や、価格のわかりやすさから、若者世代には建売住宅が支持されていると考えられます。

2)注文住宅と比較した場合の建売住宅のメリット

次に注文住宅と比較した場合のメリットを整理しておきましょう。

2-1. 価格がリーズナブル

前述の通り、注文住宅よりも価格がリーズナブルという大きなメリットがありますが、この価格の安さは品質の差によるものではなく、建売住宅の建て方・売り方にあります。

注文住宅が、土地探しから始まり、お客様と何度も打ち合わせを重ねながら設計を進めていくのに対し、建売住宅は、不動産会社が仕入れた土地に建物を建てて販売しますので、打ち合わせや、設計、見積もり等にかかる人件費が大幅に下がります。

また、建売住宅は、数棟~数十棟まとまって建てることが多いので、土地代はもちろん、建材や設備などの単価も下がり、現場管理や職人の作業効率も上がります。

つまり、建売住宅は、品質を落とすのではなく、仕入れ価格を下げ、現場の効率を上げることによって、リーズナブルな価格を実現しているわけです。

2-2. 価格のわかりやすさ、資金計画の立てやすさ

注文住宅は、土地を購入した後、建物の設計が固まるまで購入総額が確定しないので、資金計画が立てにくく、土地を先行取得する場合には「つなぎ融資」などローンの組み方も複雑になります。

一方、建売住宅は、土地+建物で「◯◯万円」という形で販売されるので価格がわかりやすく、つなぎ融資などの必要もありません。こうした価格のシンプルさとローンの組みやすさも分譲住宅のメリットと言えるでしょう。

2-3. 統一された街並み、整備されたインフラ

総戸数が数十棟を超える大型分譲地では、一棟一棟の建物のみならず、その地域全体の街づくりという観点で開発がおこなわれます。

街全体を俯瞰した区画や道路、景観のデザインが施され、統一感のある街並みが形成されます。またこうした分譲地では、上下水道や電気、ガスといったインフラもしっかり整備されるので、初めての方でも安心して購入することができます。

また、同時期に販売された区画では、住人の年齢層や家族構成も近く、家族ぐるみで交流しやすいのも利点のひとつだと言えるでしょう。

3)首都圏で建売住宅ランキング

それではいよいよ建売住宅の供給の多いエリアのランキングを見ていきましょう。2022年の住宅着工戸数をもとに、市区町村別にランキングしてみました。

3-1. 供給戸数が多い街ランキング

まず、首都圏で建売住宅の供給戸数が多いエリアです。

■建売住宅の供給戸数が多いエリアトップ10

市区町村戸数
埼玉県川口市1,512戸
千葉県船橋市1,213戸
東京都足立区1,190戸
東京都練馬区1,092戸
千葉県柏市1,042戸
千葉県松戸市1,024戸
東京都世田谷区973戸
東京都葛飾区877戸
東京都八王子市867戸
埼玉県川越市861戸

出典:住宅着工統計(2022年)

1位は東京都に隣接する近郊ベッドタウン、埼玉県川口市で1,512戸でした。戸数が1,000戸を超えるのは、東京都では足立区、練馬区、葛飾区。千葉県では船橋市、柏市、松戸市でいずれも都心から10~20キロ圏の利便性の高い近郊エリアがランクインしています。

次に、着工数の伸び率を見てみましょう。2017~2019年の平均着工数と2020~2022年の平均着工数の伸び率でランキングしてみました。(着工戸数が100戸以上の市区町村のみ)

■建売住宅の供給戸数 伸び率トップ10

出典:住宅着工統計

伸び率上位には、アクアラインの玄関口である木更津市、東海道新幹線停車駅のある小田原市、千葉の県庁所在地である千葉市中央区、上越新幹線停車駅のある本庄市などがランキングされました。こちらは、都心から30~50キロ圏の郊外エリアが多く含まれていますが、新幹線や特急、高速バスなど交通便のよいエリアが上位となっており、テレワークの普及とともに、一戸建ニーズが郊外エリアに広がっていることがうかがえます。

3-2. 都道府県別ランキング

上記2つのランキングを都道府県別に見てみると以下のようになります。

・東京都

・神奈川県

・埼玉県

・千葉県

3-3. 建売住宅が多い街、伸びている街の価格相場

最後に、建売住宅の供給数・伸び率トップ10エリアの相場を見てみましょう。販売中の物件の最低価格と最高価格をグラフ化しています。

出典:「LIFULL HOME‘S 価格相場」より作成

供給数上位のエリアでは、東京都世田谷区だけが極端に相場が高く、1億円超の物件があるのは練馬区と八王子市。その他のエリアは概ね2,000万円台後半~8,000万円台と、比較的幅広く物件が供給されています。

出典:「LIFULL HOME‘S 価格相場」より作成

一方、伸び率上位のエリアでは、豊島区だけが1億円を超えるものの、ほとんどのエリアで2,000万円台前半~6,000万円台に収まっており、供給数上位エリアと比較して、相場は1,000~2,000万円ほど安いのではないかと推測されます。

また、都心から郊外に向かうほど地価は下がり、土地・建物ともに広くなる傾向があります。ので、実際に物件を探す際には、価格だけでなく、広さや環境面も考慮しながら検討を進めましょう。

4)建売住宅の最新市況。在庫は持ち直すも価格は高止まり

最後に、これから住まいの購入を検討する方に向け、建売住宅の市況についても触れておきましょう。

4-1. 一部エリアで下落の動きがあるも、全体としてはしばらく高止まり

建売住宅はコロナ禍にあった2020年、急激に供給が減少し価格が上昇しました。コロナの終息とともに在庫は持ち直し、今年に入って一部で下落の動きも見られたものの、足元では再び上昇に転じており、全体としてはまだ高止まりが続いています。

これは、昨年末からくすぶっていた金利上昇懸念が、日銀の「金融緩和継続」の発表により解消しつつあること、またインバウンドの回復などで地価が上昇傾向にあることなどが要因と考えられます。

したがって、価格はしばらく高い水準で推移すると思われますが、多くの在庫を抱えた不動産会社では一部に値下げの動きも見られますので、タイミングを逃さないよう、希望エリアの販売物件や相場の動きなど、こまめに情報収集に動いていきましょう。

次回は、建売住宅の物件選びのポイントなどについてお伝えする予定です。