郊外で拡大するベッドタウン。人口データから見る穴場の街(関東・東北編)

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都心部の不動産価格の上昇とテレワークの普及などにより、いわゆる「郊外ベッドタウン」が広がりを見せています。これまであまり注目されなかった、人口4~5万人の小さな街にも子育てファミリーの流入が増えつつあります。今回は最新の人口データから、こうした郊外のちょっと穴場の街を探ってみたいと思います。

目次

1. 住まい探し、街選びの重要な指標「人口動態」

住まいを購入する上で重要なのが「街選び」。そして街を選ぶ際に注目したいのが「人口」の動きです。

1-1. 街選びにおいて、なぜ「人口」が大事なのか

ご存知の通り、日本は少子高齢化の真っ只中にあり、多くの街で人口が減少し、住民の平均年齢は上昇しています。働く人が減り、税収が減ればその街が衰退していくのは明らかで、多くの自治体がこうした課題に直面しています。

しかし一方で、着実に人口を増やしている自治体もあります。中でも若い世代の人口が増えている街は、住宅や商業施設が増え、教育施設や医療施設も整備され、子育て支援なども手厚くなります。今後、多くの街が高齢化により衰退していく中で、将来性のある街を見つけ出すひとつの指標が「人口」の動きなのです。

1-2. 交通機関の発達やテレワークで、郊外の「ベッドタウン」が広がっている

そして最近の動きとして注目したいのが、郊外ベッドタウンの拡大です。かつては、首都圏のベッドタウンといえば、おおむね国道16号線までを指し、都心通勤者の住宅ニーズが16号より外側まで広がることはあまりありませんでした。しかし、近年この郊外ベッドタウンが広がりを見せています。

その要因のひとつが、郊外の鉄道路線の都心への乗り入れです。少し前だとJRの「湘南新宿ライン」や「上野東京ライン」、東急東横線と副都心線、東武東上線と副都心線などが直通運転となり、最近では相鉄線とJR線および東急東横線が直通運転を開始するなど、都心にダイレクトアクセスできる街が、16号線の外側にもどんどん増えています。

また、もうひとつの要因がテレワークをはじめとする働き方の変化です。コロナをきっかけにテレワークが普及し、出社の自由度が高まったことにより、価格が安く環境の良い郊外に住む方が増えているのです。

1-3. 人口の「社会増減率」と「年少者の転入率」に注目

こうした、近年の環境変化によって人気が高まっている街はどこなのでしょうか。今回着目したのは、人口の「社会増減率」と「年少者(0-14歳)の転入率」です。

人口の増減は「自然増減(出生数-死亡数)」と「社会増減(転入数-転出数)」に分けられますが、街の人気度を測る上では、他エリアからの転入、つまり社会増減が重要になります。しかし、単純な「転入数」は自治体の規模(もともとの人口)が大きいほど有利になるため、今回は「年間の社会増減÷年初の人口」で、社会増減”率”を用いてランキングしてみました。

また、子育て世代の人気度は「年少者(0-14歳)の転入数÷全体の転入数」で、年少者転入割合でランキングしました。この2つのランキングから、規模は小さくてもキラリと光る郊外の街を探ってみたいと思います。

首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)、北関東(茨城・栃木・群馬)、東北(宮城・福島)の3エリアについて見ていきましょう。

本コラムのデータは、下記をもとに筆者が作成したものです。
住民基本台帳人口移動報告(令和4年結果)および、住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(令和5年) ※日本人と外国人を合わせた総数 ※ランキングは市町村単位(政令指定都市は区単位) ※2023年1月1日現在の人口が3万人以下の自治体は除外しています。

2. 人口の社会増減率が高い街(首都圏)

それでは早速、首都圏からみていきましょう。

2-1. 社会増減率が高い街トップ10(首都圏)

首都圏で社会増減率の高い自治体トップ10は以下の通りです。

首都圏トップは東京都豊島区。トップ10のうち6つが東京23区からランクインしており、都心部の強さが目立ちます。郊外エリアでは埼玉県の中心都市である大宮区、子育て世代の流入が多い千葉県印西市・流山市、神奈川県からは再開発や相鉄線の都心乗り入れで利便性が高まる海老名市がランクインしています。

こうした社会増加は、就職や進学を機に地方から転入してきた方が、利便性(職住近接)を重視するため、都心部に30分圏内のエリアが上位にランキングされる傾向があります。

2-2. 年少者(0-14歳)の転入割合が高い街トップ10(首都圏)

次に子育て世帯のランキングを見てみましょう。ここでは全転入者に占める年少者(0-14歳)の割合が高い街をランキングしてみました。

年少者割合の高い街トップは、意外にも神奈川県の三浦半島に位置する葉山市。隣接する逗子市も8位にランクインしています。2~3位は千葉県印西市・流山市で、印西市とともに千葉ニュータウンを形成する白井市も6位にランクインしました。埼玉県は、さいたま市緑区が4位、16号線の外側に位置する杉戸町と飯能市が7位、10位に入っています。そして、社会増加率が高かった東京23区はすべてランク外となっています。

これらの街の多くは、都心から40~50キロ圏の郊外エリアで、都心まで1時間くらいかかるものの自然が豊かで、価格も都心部の半分~1/3程度。広めの住まいを購入して、テレワークを活用しながら、のびのびと子育てしたい方には最適な環境と言えます。

2-3. 首都圏エリアの都県別トップ5

この年少者の転入割合が多い街を都県別にランキングすると以下のようになります。

ここでも東京都の上位は23区ではなくすべて多摩エリアの街となりました。転入者の絶対数が少ない街も含まれるので「みんなが住みたい街」とは言いにくいのですが、子育て世代にとっては、キラリと光る魅力的な街なのかも知れません。

3. 人口の社会増減率が高い街(北関東)

続いて北関東エリア(茨城・栃木・群馬)のランキングを見てみましょう。

3-1. 北関東エリアで社会増減率が高い街トップ10

北関東で社会増減率の高い自治体トップ10は以下の通りです。

トップ10のうち9エリアが茨城県、群馬県から唯一大泉町がランクインしました。つくば市は、2022年の人口増加率が全国1位で、つくばエクスプレス(TX)の開業後、人口が増え続けている街でもあります。同じTX沿線からは、5位につくばみらい市、10位に守谷市がランクインしていますが、いずれも都心に通勤する方のベッドタウンとして人気の高い街です。一方、常磐線沿線からは、2位に子育て支援が手厚い街として有名な阿見町、水戸市へのアクセスがよい鉾田市などがランクインしています。

茨城県は、都心部に通勤可能なTX・常磐線沿線と、水戸市や土浦市など県内の主要都市にアクセスしやすい2つのベッドタウンが形成されています。

3-2. 子育て世帯の転入割合が高い街トップ10(北関東)

続いて、転入者の年少者割合が高い街トップ10は以下の通りです。

ここでも9位の下野市以外すべて茨城県となりました。トップの那珂市、4位の東海村、6~7位の常陸太田市と常陸大宮市は、県北部に位置する水戸市のベッドタウン。2~3位のつくばみらい市と守谷市はTX沿線の都心通勤者向けベッドタウンです。なお、社会増減率トップのつくば市は12位で、市内の研究施設や大学などに通う単身者も多く転入するため、相対的に年少者の割合が低くなっていると思われます。

また、栃木県下野市は小山市と宇都宮市の中間に位置する市で、小山駅から新幹線を使えば東京まで1時間ほどの距離にあります。テレワークの普及で、新幹線通勤できる小山市の人気が高まりましたが、さらに外側のエリアにも子育て世代の転入が始まっているようです。

3-3. 北関東エリアの県別トップ5

北関東エリアの年少者の転入割合が多い街、県別トップ5は以下の通りです。

やはりここでも宇都宮市や前橋市といった県庁所在地よりも、中心地から30キロ圏の郊外エリアが上位に入っています。こうしたエリアでは、若いファミリー層の移住・定住に力を入れており、子どもの医療費や若者夫婦の住宅取得などに手厚い補助金を交付している自治体も多くあります。

4. 人口の社会増減率が高い街(東北)

最後に東北エリア(宮城県・福島県)のランキングです。

4-1. 東北エリアで社会増減率が高い街トップ10

東北エリアで社会増減率の高い自治体トップ10は以下の通りです。

社会増加率トップ3は、仙台市の青葉区、太白区、若林区でした。青葉区は仙台の中心エリア、太白区と若林区は青葉区と接する近郊の街です。4位の名取市、5位の亘理町は仙台市から南に10~20キロ前後の近郊ベッドタウン。多賀城市、塩竈市は仙台市の北部に位置するベッドタウンです。ともに仙台中心部まで30分ほどでアクセスできる利便性の高い街です。8位の福島県須賀川市は、郡山市の南側に接する街で、9位の伊達市は福島市の東側に接する、それぞれ中心部まで20~30分ほどの位置にあります。

4-2. 子育て世帯の転入割合が高い街トップ10(東北)

次に、東北エリアの転入者の年少者割合が高い街を見てみましょう。

トップは仙台市の北に位置する富谷市で、年少者の割合は16.9%と非常に高くなっています。富谷市は隣接する2位の利府市とともに、仙台のベッドタウンとして人気が高く、大規模なニュータウン開発などにともない子育て世代の流入が続いている街です。4位の東松島市は、富谷市よりもさらに北側、石巻市に近い街ですが、仙台まで約40分とアクセスがよく、日本三景のひとつ松島にもほど近い風光明媚な街です。

4-3. 東北エリアの県別トップ5

最後に東北エリアの年少者の転入割合が多い街、県別トップ5です。

福島県二本松市は、郡山市と福島市の中間に位置する城下町で、どちらにもアクセス良好なベッドタウンです。福島県は、宮城県に比べてそれほど郊外への広がりは進んでおらず、4~5位に郡山、福島といった中心都市がランクインしています。

5. 子育て世代の街選びは、人気エリアの少し外側が狙い目

人口データから見る子育て世代に人気の街、いかがでしたでしょうか?

街選びをする上で、人口の増減はとても重要な要素になりますが、単身者も含めた社会増加率の高い街と、子育て世帯に絞った年少者割合の高い街では、少し傾向が異なることがお分かりいただけると思います。

社会増加率の高い街は、比較的中心部に近い利便性の高い街。年少者割合の多い街は、もう少し外側の郊外エリア、つまり、そこそこ便利でありながら、自然が豊かなバランスのよい街が選ばれる傾向があります。またこうした街は、自治体独自の支援制度をもっていることが多く、例えば出産時の給付金や子どもの医療費無償化といった子育て支援や、若いファミリー世帯の住宅取得や三世代同居(近居)など、若年ファミリーの移住・定住を積極的に後押ししています。

そして、何よりも近郊のベッドタウンの値上がりが続く中で、こうした少し外側の小さな街は、あまりメディアなどにも取り上げられないため、「値上がり前」の水準を維持しているエリアも多くあります。区画整理など大規模な住宅地も開発されているので、住環境のよい新築住宅を安く購入したい方には狙い目のエリアと言えます。

ご希望の予算でなかなかいい物件が見つからないという方は、ぜひ希望エリアの少し外側にも目を向けてみましょう。思ってもみなかったような穴場の街が見つかるかも知れません。

各エリアの相場情報や物件探しは、お近くの住宅情報館までお気軽にご相談ください。