相続登記の義務化まで1年! 実家の相続に備えて、今準備しておくこととは?

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2024年4月から相続登記が義務化されます。背景には大量の所有者不明土地や空き家の問題があります。今回はいずれ訪れる実家の相続について、今から準備しておくべきことを解説します。

目次

1)相続登記が2024年から義務化される

不動産の相続登記が2024年4月から義務化されます。まず相続登記とはどんな手続なのか、義務化されると何が変わるのかを見ていきましょう。

1-1. そもそも相続登記とは

相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった場合におこなわれる手続きで、簡単に言えば、亡くなった方(被相続人)の不動産の「所有権」を、相続人(主に配偶者と子ども)に書き換える手続きです。

不動産は、原則として所在地や所有者、権利の有無などが法務局に登記されており、誰でも閲覧することができます。不動産が売買された場合には、ほとんどの場合「所有権移転登記」により所有者が書き換えられますが、相続の場合にはこの手続きがなされず放置されることも少なくありませんでした。

1-2. 相続登記が放置される理由と義務化される背景

意外に思われるかもしれませんが、不動産に関する所有権の登記は法的な義務がなく、所有者の意思に任されてきました。その結果、使い道のない土地や空き家となった実家は登記されないまま放置されることも多く、所有者不明の土地や空き家が大量に発生してしまったのです。所有者不明土地の面積は、九州より広い国土の22%にのぼるとも言われており、防災対策や開発の妨げになったり、地域の治安の悪化をまねいたりします。これが今回、相続登記が義務化されることになった大きな背景です。

1-3. 相続登記が義務化されるとどうなるのか

相続登記が義務化されると、相続が発生し自分が相続人であることを知った時点から「3年以内」に相続登記をしなければならなくなります。これに違反すると最大10万円の過料(罰金のようなもの)が課されることもあります。

つまり親が亡くなった場合には、自分が使用する意思のない実家などでも相続登記を申請する義務が生じるわけです。なお、義務化がスタートすると、それ以前に発生した相続についても同様に申請義務が生じます。

1-4. 義務化の一方で不動産を国に返すことができるようになる

この相続登記の義務化とともに始まるのが、2023年4月から施行される「相続土地国庫帰属制度」です。この制度が始まると、相続したものの使い道のない土地、不要な土地などを手放して、国に引き取ってもらえるようになります。

ただし引き取ってもらうには、建物などを解体し更地にした上で、法務局による審査・許可を受け、10年分の土地管理費に相当する負担金を納める必要があります。

このように、義務化が約1年後に迫り、新たな制度もスタートする中、実家の相続については、早めにその方針を決めておく必要があります。いざ相続が発生した時にあわてないよう、今から準備しておくべきことを知っておきましょう。

2)いずれ訪れる実家の相続。具体的な準備のステップとは

それでは具体的に何を準備しておくべきか見てきましょう。

2-1. まずは登記情報を確認する

相続の方針を決めるにあたり、最初におこなうのは最新の登記情報の確認です。実家の土地・建物、それ以外の不動産があればすべての登記情報を確認しておきましょう。不動産の所在地を管轄する法務局で「登記事項証明書」などを取得するか、インターネットでも閲覧することができます。なお利用には登録費用と取得する情報に応じた利用料金がかかります。

(参考)登記情報提供サービス

所有権の確認とともに、それ以外の権利(抵当権など)が登記されていないかどうかも確認しておきましょう。すでに住宅ローンを完済している場合には、抵当権の抹消登記をしておくとその後の売却などがスムースに進みます。

抵当権の抹消登記は、法務局に申請しておこないます。ローンを完済している場合には、申請書を自分で作成して手続きすることもできますが、売却と同時に完済する場合などは司法書士に依頼します。なお登記には登録免許税、司法書士報酬などの費用がかかります。

2-2. 相続財産を把握し遺産分割の方針を決めておく

不動産の登記情報が確認できたら、おおよその相続財産を把握します。相続税の計算では、土地の評価は「路線価」、建物の評価は「固定資産税評価額」が用いられます。

路線価はインターネットで、固定資産税評価額は固定資産税の納税通知書から確認することができます。

(参考)全国地価マップ

また、不動産以外の預貯金、有価証券、生命保険などの額も把握しておきましょう。

おおよその資産が把握できたら、相続が発生した場合の遺産分割の方針を検討します。一般的に、相続人となるのは配偶者と子ども(法定相続人という)ですので、配偶者が引き続き実家に住む場合には、配偶者が土地・建物を相続し、子どもが預金などの金融資産を相続するなど、家族の意向を確認しながら決めていきます。

2-3. 相続税のシミュレーションと納税対策

相続財産から借入金や葬儀費用などを差し引いた額が、一定額(基礎控除額)を超えると相続税がかかる可能性があります。基礎控除額は、3,000万円+(600万円×法定相続人の数)で計算できます。例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の場合は、3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円となります。相続財産がこれを超える場合には、念のため税理士などの専門家に相談しながら、相続税シミュレーションをおこない、どのように納税するかを検討しておきましょう。

2-4. 遺言書、生前贈与

相続人の死後、法定相続人以外に遺産を譲ることを遺贈と言い、遺贈をおこなう場合には、その遺志を書面にした「遺言書」が必要です。遺言書には「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」などいくつかの方法がありますが、書き方を間違えると無効になってしまうこともありますので、弁護士などに相談しながら作成することをおすすめします。

なお、法定相続人(配偶者・子ども等)に相続する場合にも、遺言書を作成し、どの遺産を誰に譲るかなどを明確にしておけば、相続人の遺志を反映することができ、トラブルを未然に防ぐことができます。

また贈与税がかからない範囲で毎年生前贈与をおこなうと、相続税の負担を和らげることも可能です。早く始めるほど効果が大きいので、合わせて検討してみるとよいと思います。

相続、遺言、生前贈与などのデリケートな話は、家族間でもなかなかしづらいものですが、親が元気なうちに意向を聞き、しっかり準備することで、失敗やトラブルを避けることができます。

3)実家を相続したらどうする?空き家になった実家の活用法

大まかな資産の把握と、遺産分割の方針が決まったら、相続後の実家の活用法について検討しましょう。活用法は大きく「自分で住む」、「売却する」、「貸す」の3つです。

3-1. 自分で住むのは一番効率のよい活用法

相続した実家に自分で住むのは一番効率がよい活用法と言えます。何より住居費がかかりませんし、建物の傷みも少なくすみます。ただし、親が長く暮らした家に子ども世帯が住むとなると、間取りや設備が生活に合わないことが多いので、リフォームも視野に入れて検討してみるとよいでしょう。

また相続税の観点から見ると、親から家を相続して住み続ける場合には「小規模宅地の特例(※)」という制度を使って、相続財産の評価を大幅に下げられる(=相続税も大幅に下げられる)ことがあります。

※小規模宅地の特例とは

被相続人が居住していた家を、配偶者や子どもが相続し住み続ける場合に、その土地の相続税評価額を、330㎡を限度に80%減額できる制度。ただし一定の適用条件をクリアする必要がある。

(参考)小規模宅地の特例(国税庁)

3-2. 売却するならできるだけ早く着手しよう

相続した実家を売却する場合には、できるだけ早く着手することが重要です。空き家になった建物は劣化が早いので、時間が経つほど売れにくくなります。また、築年数の経過によっても価格が下がりますので、早めに不動産会社に相談し、売却活動をスタートしましょう。

なお共有名義で相続した家を売却するには、所有者全員の同意が必要ですので、事前に相場などを調べ、売却価格についても話し合っておくとよいと思います。

3-3. 貸す場合には慎重に。プロに相談しながらシミュレーションを

最後に実家を賃貸物件として貸す場合には慎重な検討が必要です。その地域に賃貸ニーズがあるのか、また家賃の相場、維持費や修繕費、税金なども細かくシミュレーションしてみる必要があります。また長年住んだ実家をそのまま貸すのは難しいので、初期段階でかなり大規模なリフォームが必要になることも覚悟しておきましょう。いずれにしても、専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることをおすすめします。

3-4. 相続前のリフォームや住み替えもひとつの選択肢

ここまで相続後の活用について解説しましたが、生前にリフォームや住み替えしてしまうのもひとつの選択肢です。特に古い一戸建は耐震性や断熱性能に問題があることが多く、高齢者には危険で暮らしにくい家となっている可能性が高いからです。

耐震補強や断熱改修、バリアフリー工事などには国や自治体からの補助金も利用できますので、親の安全・健康のためにリフォームする。または、元気なうちに売却してマンションなどに住み替えることも合わせて検討してみましょう。

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4)実家の活用や相続対策は必ず専門家に相談を

相続登記の義務化と、実家の相続に対して準備すべきこと、ご理解いただけたでしょうか。

実際に準備を進める際は、専門家のアドバイスを受けながら進めることが大切です。その理由を解説します。

4-1. 当事者同士の話し合いはまとまりにくい

相続や実家の活用は、所有者本人はもちろん、相続人となる配偶者や子どもなど多くの人の意思を調整しなければなりません。またこうした話し合いは、親が元気なうちにはなかなかしにくく、集まる機会も限られるため時間がかかり、一度こじれてしまうと関係が修復できず、検討そのものが立ち消えになってしまうこともあります。

しかし、第三者である専門家に、各当事者の意向の把握や、メリット・デメリットの整理などを任せることによって、感情的にならずスムースに話し合いが進められます。「相続」が「争続」にならないためにも、できるだけ早い段階から専門家を入れて進めていきましょう。

4-2. 民法、不動産、税金、登記など幅広い知識が必要

相続には、民法、不動産、税金、登記など幅広い知識と経験が必要で、一般の方が自分で調べながら進めるのはかなり難しいことです。また、もし何らかのミスがあれば多額の税金を納めることになったり、故人の遺志が叶えられなかったりすることもあり得ます。

こうしたリスクを避ける意味でも、経験豊富な専門家への依頼をおすすめします。

相続登記の義務化まであと1年。ぜひこの機会に、実家の相続や活用などについて検討をスタートしてみてはいかがでしょうか。