【2023年】高騰する不動産① ~不動産価格の上昇は止まるのか?~

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今年3月、首都圏の新築マンション平均価格が1億円を超え大きな話題となりましたが、不動産価格の上昇は、中古マンション・一戸建にも広がり、軒並み過去最高を更新しています。不動産がここまで高騰するのはなぜなのか、また値上がりはいつ止まるのか、その背景や今後の見通しについて解説します。

目次

1)不動産価格はバブル超え。ここまで価格が上昇する背景とは

まず、不動産価格を押し上げている市場環境についての動きを確認しておきましょう。

1-1. 不動産価格の推移

まずは不動産価格指数の推移です。不動産価格指数は、2010 年の平均を100とした、中長期的な不動産の値動きを表す指数です。

出典:不動産価格指数(国土交通省)

ご覧の通り、金融緩和が始まった2013年から価格が上昇しはじめ、ほぼ右肩上がりの推移となっています。特にマンションは2010年から約1.9倍に上昇。比較的落ち着いていた土地や戸建住宅も2020年ごろから上昇が加速しています。

数年前「今の価格はバブルだ」「オリンピックがピークだ」など、値下がりを予想する声も多くありましたが、実際にはまったく逆の結果となっています。

1-2. 新築住宅の供給戸数は減少傾向

次に、新築住宅の供給数について見てみましょう。

出典:住宅着工統計より抜粋

全国の住宅着工戸数は、緩やかな減少傾向が続いています。その中でも注文住宅は2014年の消費増税に伴う駆け込み需要を最後に減少が続いています。分譲住宅は概ね横ばいですが、新築マンションの供給が減り、分譲一戸建が増えています。特に首都圏の新築マンションはピークの半分近くまで減少しています。

出典:不動産経済研究所

1-3. 不動産の取引件数は増加。高くても売れる状況に

このように価格の上昇が続き、新築供給が減少する中で、不動産の取引件数は増加しています。

出典:国土交通省 ※事業用不動産等の取引も含みます

一般的に、モノの価格が上昇すると取引が減少し価格は下落するのですが、ここ10年の不動産市場は、「高くても売れる」状況が続いているわけです。

今回は、不動産価格が上昇を続ける背景と、高くても売れる理由、そして今後の価格の見通しなどについて解説したいと思います。

2)なぜ不動産の価格はここまで上昇したのか。不動産価格の変動要因とは?

まず、不動産の価格がここまで上昇した理由は何なのでしょうか?また価格はどのような要因で変動するのか知っておきましょう。

2-1. 不動産の価格は需要と供給で決まる。高騰の背景には供給コントロールも

まず、不動産の価格にはいわゆる「定価」という概念はなく、すべて売主と買主との合意によって決定します。つまり不動産の価格を決める最大の要因は「需要」と「供給」で、シンプルに言えば、買いたい人が多い物件は値上がりし、少ない物件は値下がりします。

これを現在の市場に当てはめて考えると、需要が供給を上回っている状態だと言えます。では少子化が進む日本でなぜ「需要>供給」となるのか?それは、住宅を供給する事業者(住宅販売会社等)が、供給を絞り込んでいることがひとつの理由です。特に新築マンションは、都心部やターミナル駅など利便性の高い人気エリアに集中しており、こうしたエリアはもともと相場が高い上、投資目的の需要も集まりやすく、マンションの平均価格を押し上げる要因となっています。結果として新築マンションは値上がりし、周辺の中古マンション、さらに郊外のマンション、一戸建への上昇が波及しているわけです。

2-2. 不動産価格の上昇を支えているのは「低金利」

また、不動産価格の変動に大きな影響を与えるのが「金利」です。

住宅を購入する方のほとんどは住宅ローンを利用しますが、現在、住宅ローン金利(変動)は0.5%前後とかなり低い水準で推移しており、購入者にとっては「買いやすい」状況が続いています。

例えば月々12万円の返済の場合の借入可能額は以下のようになります。

■月々12万円返済する場合の借入可能額

金利0.5%1.0%2.0%3.0%
借入可能額4,622万円4,251万円3,622万円3,118万円

※元利均等35年返済(ボーナス加算なし)の場合

同じ返済額でも金利が0.5%から3.0%に上がると、購入(借入)できる額が1,500万円も下がってしまうので、金利が低水準で安定していることは、不動産価格が高止まりする要因となるわけです。

また、三井住友トラスト・資産のミライ研究所の調査によれば、住宅ローンを利用した方のうち「頭金ゼロ~1割」の割合は、全体で約48%、30代では約68%に達しています。

かつては「頭金2割」と言われた時代もありましたが、今では自己資金の少ない方でも無理なく購入できる環境が整い、購入者の裾野が広がったことも理由のひとつです。

■住宅ローン 頭金の割合

出典:三井住友トラスト・資産のミライ研究所

2-3. 不動産は「土地と建物」。現在はどちらにも上昇圧力がかかっている

また、不動産の価格は「土地価格+建物価格」ですが、今はこのどちらにも上昇圧力がかかっています。

一般的に地価は景気の影響を受けますが、現在はコロナ終息による景気回復やインバウンド期待などにより全体として上昇傾向にあります。また前述した低金利を背景に都市部の住宅需要も旺盛なため、利便性の高い住宅地などでも値上がりが加速しています。

■2023年公示地価の変動率(前年比%)

出典:2023年公示地価(国土交通省)

一方、建物については、こうした景気の影響を受けつつも、コスト(原価)による変動が大きくなります。木材やコンクリートなどの建材や設備機器、人件費といったコストの上昇が建築費の上昇に大きく影響します。現在、建築費は世界的なインフレや円安による資材高、職人不足による人件費の増加などにより上昇しており、不動産価格を押し上げる要因となっています。

出典:国土交通省

2-4. 不動産価格の上昇には、複数の要因が絡み合っている

ここまでの話をまとめると、現在の不動産価格の上昇は以下のような複合要因によるものと言えます。

・新築物件(特にマンション)の供給絞り込み
・長期化する低金利と、「頭金ゼロ」など利用しやすい住宅ローンの普及
・コロナ禍やウクライナ侵攻を原因とする世界的なインフレ
・円安による建築資材や設備機器の値上がり
・コロナ終息による景気回復とインバウンド期待などによる地価上昇
・建築業界の人手不足による人件費の増加

それでは次に、この上昇はまだ続くのか、下がり始めるとすればいつなのかを検証してみましょう。

3)今後、不動産価格が下がる兆候はあるのか?

ここからは今後の不動産価格の見通しについて見ていきます。

価格上昇は複数の要因が組み合わさったものだと申し上げましたが、もし今後価格が下がるとすれば、そうした要因に何らかの変化が起こるタイミングです。果たしてそうした兆候はあるのでしょうか。

3-1. 金融政策(金利と為替)の動向

まずもっとも影響が大きいと思われる金融政策です。

まず金利については、日銀が「低金利政策を継続する」と明言していることから、しばらく大きな変化はないと考えられます。中でも変動金利型住宅ローンのベースとなる短期金利は、マイナス金利が維持される見通しです。一方、固定金利型のベースとなる長期金利は、「国債市場の歪みを修正する」という大義名分のもと、若干の見直しが入る可能性があります。

また為替については、低金利が維持される限り、欧米諸国との金利差が解消しないことから、おおむね円安傾向が続くと考えられます。

3-2. 建築費の動向

建築費は大きく材料費と人件費に分けられますが、材料費は円安による資材価格の上昇や、ウクライナ侵攻による資源高などの影響により、しばらく高止まりが続くと予想されます。また人件費についても、建築業界の慢性的な人手不足が解消する見込みは薄く、今後さらに上昇する可能性もあります。

3-3. 新築住宅の供給

新築住宅の供給数は、人口減などにより長期的に減少することはほぼ確実です。したがって、今後はますます供給エリアの絞り込みが進み、購入ニーズが高い都市部や利便性の高い郊外エリアなどに集中するでしょう。それ以外のエリアではじわじわと減少していくと予想されます。

3-4. 地価の動向

地価は現在の低金利が続く限り、全体として高止まりと予想されます。上昇の波はすでに都心部からドーナツ状に郊外に広がりつつあり、中でも利便性の高いターミナル駅周辺や、新駅の開業、再開発などあるエリアは上昇率が高くなっています。

3-5. 日経平均株価 日経平均株価は不動産価格の先行指標としてよく知られています。

株価の変動から半年~1年ほど遅れて不動産が動くと言われますが、ここ5年間の日経平均株価の推移は下の通りで、2023年に入ってから30%近くも上昇し、32,000円~33,000円近辺の高値圏で推移しています。今年前半の上昇幅が大きかっただけに、今後若干の調整はあるかも知れませんが、本格的な下落トレンドに転換するのはまだ先だと思われます。

ここまで見てきた不動産価格の今後の見通しをまとめると、以下の通りです。

・金利は日銀が低金利政策の維持を明言(長期金利は見直しの可能性あり)
・為替は、低金利が続く限り円安傾向
・建築費は円安、資材高、人手不足により高止まり
・新築の供給は、都市部と利便性の高いエリアに集中
・先行指標と言われる株価は年初から約30%上昇し高値圏で推移

このように、現在の経済環境や不動産・建築を取り巻く状況から推測すると、今後1~2年で不動産価格が大きく下がる兆候は見当たらず、相場全体が下がり始めるとすれば数年先になるものと予想されます。

4)これから家を買う方は、今の価格を基準に検討を進めよう

ここまで見てきたように、不動産価格の上昇はしばらく続く可能性が高いと思われます。

したがって、今住まいの購入を検討されている方は「下がるのを待つ」のではなく、今の価格を基準に検討を進めることが重要です。

価格は上昇していても、住宅ローン金利は0.5%前後で安定していますし、住宅ローン控除や子育て世帯向けの補助金など、持家ならではの優遇制度も年々手厚くなっています。

単純に「高いから買えない・・・」と諦めるのではなく、現在の低金利や優遇制度などを活かしながら、「どうしたら買えるか」を考えていきましょう。高止まりとは言っても、エリアや物件によっては手頃な価格で購入できるものもありますし、中古やリフォームなど住まいの選択肢は思ったより多いものです。

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※本記事には執筆時点での筆者の見解、予測を含んでいます。将来の値動き等について保証するものではございませんのでご留意ください。