コロナ禍の影響もあり近年人気が高まっている新築一戸建。今回は首都圏で新築一戸建の供給が多いエリアはどこなのか。またエリアによって広さや価格がどう変わるのかを調査してみました。
目次
1. アフターコロナで新築一戸建の人気が高まっている
新型コロナ以降、新築一戸建の人気が高まっています。東京カンテイの調査によると、首都圏の新築一戸建価格は、2020年6月の3,786万円から2022年6月に4,212万円に約11%も上昇しています。その背景には何があるのでしょうか。
1-1. テレワークの定着による郊外人気
新築一戸建が人気となる背景として、まず挙げられるのがテレワークの定着です。多くの企業でテレワークが導入され、勤務地から近い都心に住む意味が薄れてきたことや、自宅で仕事をするためのスペースが必要になったことなどが挙げられます。そこで注目されたのが、自然が豊かで価格もリーズナブルな郊外の一戸建で、都心からの移住も増えています。
1-2. マンションの値上がりによる割安感
またもう一つの理由は、都心の不動産価格の上昇です。特に新築マンションは値上がりが続いており、2021年の首都圏平均価格は6,260万円と、バブル期の最高値6,123万円を上回り過去最高額となりました(不動産経済研究所調査)。これにともない中古マンションの相場も上昇を続けており、一戸建の割安感が出てきたことも要因のひとつです。
1-3. 新築一戸建の供給数は購入ニーズの高さを反映している
このように新築一戸建の人気が高まる中で、物件の供給が多い街はそれだけ買いたい人が多い街とも言えます。そこで今回のコラムでは、2021年の建築着工統計をもとに、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)の新築一戸建の供給が多いエリアはどこなのか、エリアによって広さや価格はどう変わるのかなどを解説してみたいと思います。これから新築一戸建の購入を検討する方の参考になれば幸いです。
2. 首都圏の新築一戸建の供給数が多い街ランキング。
それでは早速ランキングを見ていきましょう。
2-1.新築一戸建供給数の多いエリアランキング。首都圏トップは埼玉県川口市
2021年、新築一戸建供給数の多かったエリアトップ20は以下の通りです。
■新築一戸建供給数の多いエリアトップ20
1位 | 川口市 | 1,434戸 | 11位 | 柏市 | 910戸 |
2位 | 船橋市 | 1,329戸 | 12位 | 葛飾区 | 872戸 |
3位 | 足立区 | 1,159戸 | 13位 | 江戸川区 | 850戸 |
4位 | 練馬区 | 1,078戸 | 14位 | 大田区 | 744戸 |
5位 | 市川市 | 1,017戸 | 15位 | 杉並区 | 683戸 |
6位 | 松戸市 | 977戸 | 16位 | 川越市 | 642戸 |
7位 | 藤沢市 | 925戸 | 17位 | 八千代市 | 622戸 |
8位 | 世田谷区 | 923戸 | 18位 | 流山市 | 621戸 |
9位 | 町田市 | 920戸 | 19位 | 茅ヶ崎市 | 618戸 |
10位 | 八王子市 | 916戸 | 20位 | 越谷市 | 607戸 |
出典:2021年建築着工統計より作成
※分譲住宅の一戸建・専用住宅を市区町村別(政令指定都市は区別)に集計
1位は埼玉県川口市、2位は千葉県船橋市、3~4位は東京都足立区・練馬区、5位は千葉県市川市となっています。年間1,000戸以上供給されているのはこの5エリアで、いずれも都心から10~20キロ前後の近郊エリアとなっています。
上のマップではトップ30位までをランキング順にプロットしていますが、都心部(山手線内)でランクインしているエリアはなく、人気が高いのは都心から放射状に伸びる鉄道路線の主要駅や始発駅のある街であることがわかります。
例えば6位以下には都心から30~50キロ圏の藤沢市(7位)、八王子市(10位)、川越市(16位)、流山市(18位)などもランクインしており、単純な距離よりも街の規模や雰囲気、交通便などが重視されているようです。
2-2. 都心に近いほど狭くなる?エリアと広さ(建物面積)の関係とは
次にエリアによる広さの違いについて見ていきましょう。トップ20エリアで供給されている新築一戸建の建物面積は以下の通りです。
■新築一戸建供給数の多いエリアトップ20の建物面積
出典:2021年 建築着工統計より作成
全体で見ると、都心に近いエリアほど狭い物件の割合が高くなっています。80㎡以下の割合が高いのは杉並区(26.8%)、大田区(20.8%)、練馬区(14.2%)と23区内が上位となっており、逆に流山市、柏市、八千代市、八王子市、茅ヶ崎市などでは80㎡以下の割合は1%台で、80~120㎡台が大部分を占めています。これは都心部に近いほど地価が高いので「土地+建物」で販売される一戸建の場合、土地を小さくして価格を抑える傾向があるからです。
また特徴的な傾向が見られるのは世田谷区、江戸川区、大田区で、80㎡以下の物件が多い一方、120㎡を超える物件も供給されています。これはいわゆる高級住宅地と言われる一部のエリアに広い高額物件が供給されるケースがあるためと思われます。
また、鉄道路線の開通などにより近年開発が進んだ八千代市や流山市などでは区画整理などにより、敷地に一定の広さが確保されていることも多く、100㎡を超える広めの一戸建の割合が高くなっています。
このようにエリアごとの地価水準や宅地の開発状況などによって、建物の広さや形状が変わってきます。
2-3. トップ20エリアの価格相場は概ね3,000~5,000万円台か
続いて、トップ20エリアの価格水準を見てみましょう。LIFULL HOME‘Sが提供している「LIFULL HOME’S 価格相場」のデータをもとに、最低価格と最高価格をグラフにしてみました。
■新築一戸建供給数の多いエリアトップ20の価格レンジ(万円)
出典:LIFULL HOME’S 価格相場より作成
価格水準が高いのは世田谷区の6,480万円~1億8,600万円、杉並区の6,280万円~1億3,980万円で、トップ20エリアの中ではずば抜けています。次いで練馬区、足立区、大田区が高く4,000万円~1億円くらいですが、この5区以外では3,000万円台前後から供給されており、平均的には3,000~5,000万円台くらいが相場だと思われます。
先ほどの建物面積を合わせて考えると、一部の高級物件を除き、やはり23区内は価格水準の割に建物が小さく、子育てファミリーがテレワークを前提に購入するのであれば、郊外エリアの広さと価格が魅力的に映ります。
3. エリアごとの特徴がより鮮明に。都道府県別トップ10
それでは次に都道府県別トップ10エリアを確認してみましょう。
3-1. 東京都で新築一戸建供給が多いエリアランキング
東京都で新築一戸建の供給の多いエリアは以下の通りです。
順位 | エリア | 供給数 |
1位 | 足立区 | 1,159戸 |
2位 | 練馬区 | 1,078戸 |
3位 | 世田谷区 | 923戸 |
4位 | 町田市 | 920戸 |
5位 | 八王子市 | 916戸 |
6位 | 葛飾区 | 872戸 |
7位 | 江戸川区 | 850戸 |
8位 | 大田区 | 744戸 |
9位 | 杉並区 | 683戸 |
10位 | 府中市 | 574戸 |
出典:2021年 建築着工統計より作成
ご覧のように東京都では80㎡以下の割合が高くなっています。地価の安い府中市でも80~100㎡の割合が高く、広い一戸建を求めるなら八王子市、町田市などが候補に上がりそうです。
3-2. 神奈川県で新築一戸建供給が多いエリアランキング
続いて神奈川県のランキングです。
順位 | エリア | 供給数 |
1位 | 藤沢市 | 925戸 |
2位 | 茅ヶ崎市 | 618戸 |
3位 | 相模原市中央区 | 581戸 |
4位 | 横浜市旭区 | 575戸 |
5位 | 横浜市戸塚区 | 556戸 |
6位 | 横須賀市 | 529戸 |
7位 | 横浜市鶴見区 | 503戸 |
8位 | 横浜市青葉区 | 498戸 |
9位 | 横浜市港北区 | 486戸 |
10位 | 大和市 | 482戸 |
出典:2021年 建築着工統計より作成
神奈川県では川崎市や横浜市の中心部よりも、湘南エリアや横浜市の郊外での供給数が多くなっています。特に藤沢市は2021年に23区から移住した人口が神奈川県4位で、若いファミリー世帯が流入していることがうかがえます。
東京都に比べると面積は広めで、80~120㎡の割合が高くなっており、青葉区、港北区、横須賀市の一部では120㎡を超える物件も供給されているようです。
3-3. 埼玉県で新築一戸建供給が多いエリアランキング
続いて埼玉県のランキングを見てみましょう。
順位 | エリア | 総数 |
1位 | 川口市 | 1,434戸 |
2位 | 川越市 | 642戸 |
3位 | 越谷市 | 607戸 |
4位 | 所沢市 | 566戸 |
5位 | さいたま市南区 | 510戸 |
6位 | 上尾市 | 495戸 |
7位 | 草加市 | 487戸 |
8位 | 春日部市 | 471戸 |
9位 | さいたま市見沼区 | 440戸 |
10位 | さいたま市緑区 | 439戸 |
出典:2021年 建築着工統計より作成
こちらも浦和区や大宮区といった中心部ではなく、郊外エリアが多くランクインしています。供給数では東京に隣接する川口市がダントツですが、2~4位の川越、越谷、所沢も東武線・西武線のターミナル駅がある街で、通勤、買い物などの利便性が高い街です。
また上位4市は80㎡以下の物件が多いのに対し、5位以下はほぼ80~120㎡の物件で占められています。
3-4. 千葉県で新築一戸建供給が多いエリアランキング
最後に千葉県のランキングです。
順位 | エリア | 供給数 |
1位 | 船橋市 | 1,329戸 |
2位 | 市川市 | 1,017戸 |
3位 | 松戸市 | 977戸 |
4位 | 柏市 | 910戸 |
5位 | 八千代市 | 622戸 |
6位 | 流山市 | 621戸 |
7位 | 野田市 | 431戸 |
8位 | 千葉市花見川区 | 354戸 |
9位 | 千葉市中央区 | 338戸 |
10位 | 木更津市 | 327戸 |
出典:2021年建築着工統計より作成
千葉県では県庁所在地である千葉市よりも東京に近い船橋市、市川市、松戸市、柏市などのいわゆる東葛エリアが上位を占めています。古くから市街地が形成されてきた総武線・常磐線の沿線と、近年急速に宅地開発が進んだ東葉高速鉄道やつくばエクスプレスの沿線で供給数が多く、10位には東京湾アクアラインで通勤できる木更津市もランクインしています。
総じて東京に近いほど面積は狭めで、比較的地価の安い野田市、千葉市中央区、木更津市などでは100㎡を超える物件の割合が多くなっています。
4. 供給の多いエリアの特徴と新築一戸建の探し方のコツ
新築一戸建の供給数ランキングいかがでしたでしょうか。これから新築一戸建を購入する方向けに、供給の多い街の特徴と物件探しのコツを解説します。
4-1. 新築一戸建が多く供給されるエリアの特徴
今回のランキングでわかるように、都心部での新築一戸建の供給はそれほど多くなく、都内であれば市部や県境に近いエリア、都外であれば主要路線のターミナル駅などが中心になります。これは都心の地価が一戸建を分譲するには高すぎることが要因で、もし供給されたとしても1億近い価格となり需要が限られるためです。
下の地図は、先ほどの「LIFULL HOME‘S価格相場」データの“最低価格”の分布を表したもので、紫は5,000万円超、赤は4,000~5,000万円、オレンジは3,000~4,000万円、青は3,000万円以下を示しています。
出典:LIFULL HOME’S 価格相場より作成
これを見ると、都下~神奈川方面で概ね4,000万円~5,000万円、埼玉・千葉方面では3,000~4,000万円が最低価格となっています。距離が近くても鉄道路線がないエリアでは価格が安く、多少距離があっても主要路線の特急停車駅などは価格が高めで、幅広い需要があると言えるでしょう。
4-2. 「近さ」と「広さ」はトレードオフ。通勤時間と広さ・価格のバランスで探してみよう
これから新築一戸建の購入を検討する方は、まずご自身の勤務地から30分圏内、60分圏内に分けて相場を調べてみるとよいと思います。現在、不動産価格上昇が徐々に郊外に波及しており、30分圏では土地・建物ともちょっと狭めで価格も高めの物件が多くなります。しかし60分圏まで範囲を広げると、ゆったり広めの一戸建が都心の半額近くで販売されていることも少なくありません。
「近さ」と「広さ」はトレードオフ(相反する)の関係にありますので、「近さ」「広さ」「価格」の3要素から優先順位を決めながらエリアを絞り込んでいくとよいと思います。
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4-3. 新築分譲の少ないエリアなら注文住宅も選択肢に
それでもなかなか希望の物件にたどり着けない場合には、土地を買って注文住宅を建てることも検討してみましょう。土地は一戸建よりも流通量が多いので、物件の少ないエリアでも検討することができますし、間取りやデザインの自由度が高いのも大きな魅力です。
注文住宅というと高いというイメージを持たれる方が多いのですが、最近では価格を抑えた「規格型注文住宅」なども増えており、分譲とさほど変わらない価格で購入することも可能です。ぜひ選択肢のひとつに加えてみることをおすすめします。
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