郊外で拡大するベッドタウン。人口データから見る穴場の街(関西・東海編)

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大都市エリアの不動産価格の上昇とテレワークの普及などにより、いわゆる「郊外ベッドタウン」の不動産売買も広がりを見せてきています。これまであまり注目されなかった、人口4~5万人の小さな街にも子育てファミリーの流入が増えつつあります。前回の関東・東北編に続き、今回は最新の人口データから、関西・東海エリアの「ちょっと穴場」の郊外の街を探ってみたいと思います。

目次

1. 住まい探し、街選びの重要な指標「人口動態」

住まいを購入する上で重要なのが「街選び」。そして街を選ぶ際に注目したいのが「人口」の動きです。住宅購入のタイミングの多くは、子供の成長やご家族の事情により、既存の住まいからの「住み替え」や「買い替え」が中心となります。そのため都市間の人口移動を見ていくと、今までとは違った観点から人気のある街が見えてきます。

1-1. 街選びにおいて、なぜ「人口」が大事なのか

ご存知の通り、日本は少子高齢化の真っ只中にあり、多くの街で人口が減少し、住民の平均年齢は上昇しています。働く人が減り、税収が減ればその街が衰退していくのは明らかで、多くの自治体がこうした課題に直面しています。

しかし一方で、着実に人口を増やしている自治体もあります。中でも若い世代の人口が増えている街は、住宅や商業施設が増え、教育施設や医療施設も整備され、子育て支援なども手厚くなります。今後、多くの街が高齢化により衰退していく中で、将来性のある街を見つけ出すひとつの指標が「人口」の動きなのです。

1-2. 都心部の価格上昇やテレワークで、郊外の「ベッドタウン」が広がっている

そして最近の動きとして注目したいのが、郊外ベッドタウンの拡大です。ファミリー世帯に人気のエリアは、東海圏では浜松市や名古屋市、岐阜市などの近郊エリア、大阪府であれば吹田市や豊中市などの北摂エリアでしたが、近年この郊外ベッドタウンが広がりを見せています。

その要因のひとつが、都心部の価格上昇です。2023年以降、金融緩和やインバウンドなどにより地価は上昇傾向が続いていました。コロナによる一時的な落ち込みはあったものの、コロナがほぼ終息した2022年以降は再び上昇に向い、コロナ前の水準を超える勢いとなっています。

また、もうひとつの要因がテレワークをはじめとする働き方の変化です。コロナをきっかけにテレワークが普及し、出社の自由度が高まったことにより、価格が安く環境の良い郊外に住む方が増えているのです。

1-3. 人口の「社会増減率」と「年少者の転入率」に注目

こうした、近年の環境変化によって人気が高まっている街はどこなのでしょうか。今回着目したのは、人口の「社会増減率」と「年少者(0-14歳)の転入率」です。

人口の増減は「自然増減(出生数-死亡数)」と「社会増減(転入数-転出数)」に分けられますが、街の人気度を測る上では、他エリアからの転入、つまり社会増減が重要になります。しかし、単純な「転入数」は自治体の規模(もともとの人口)が大きいほど有利になるため、今回は「年間の社会増減÷年初の人口」で、社会増減”率”を用いてランキングしてみました。

また、子育て世代の人気度は「年少者(0-14歳)の転入数÷全体の転入数」で、年少者転入割合でランキングしました。この2つのランキングから、規模は小さくてもキラリと光る郊外の街を探ってみたいと思います。

今回は、東海圏(静岡・岐阜・愛知)、関西(大阪)の2つのエリアについて見ていきましょう。

本コラムのデータは、下記をもとに筆者が作成したものです。
住民基本台帳人口移動報告(令和4年結果)および、住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(令和5年)
※日本人と外国人を合わせた総数※ランキングは市町村単位(政令指定都市は区単位)
※2023年1月1日現在の人口が3万人以下の自治体は除外しています。

2. 人口の社会増減率が高い街(東海圏)

それでは早速、東海圏からみていきましょう。

2-1. 社会増減率が高い街トップ10(東海圏)

東海圏で社会増減率の高い自治体トップ10は以下の通りです。

東海圏トップはダントツで名古屋市中区。名古屋駅に近く栄や久屋大通などがある商業・経済の中心地です。2~4位も中区に隣接する中村区、東区、昭和区となり、トップ10のうち6つが名古屋市となりました。名古屋市以外では、岐阜市の西側に位置し、名古屋市や岐阜市のベッドタウンとして人口が増加している瑞穂市が5位にランクイン。静岡からは、子育て支援が手厚く、若者ファミリー世代が多く移住する袋井市が7位にランクインしました。東海圏のランキングは、名古屋中心部の街が上位にくるものの、ベッドタウンと呼ばれる周辺の郊外エリアもランクインしており、都心部と近郊エリアが混在した結果となりました。

2-2. 年少者(0-14歳)の転入割合が高い街トップ10(東海圏)

次に子育て世帯のランキングを見てみましょう。ここでは全転入者に占める年少者(0-14歳)の割合が高い街をランキングしてみました。

年少者割合の高い街トップは、愛知県の西端、名古屋から電車で30~40分の場所に位置する愛西市。2位には名古屋市の東端に位置する名東区がランクインしました。3位の静岡県長泉町は、三島市と沼津市の間に位置し、東京へのアクセスがよく、近年急速に宅地化が進んでいる街です。7位の岐阜県本巣市は、岐阜市と隣接するベッドタウンとして子育てや移住支援に力をいれており、価格も岐阜市の1/2程度とリーズナブルで若者世代に人気の街です。

このように、年少者割合ランキングでは、名古屋市はランク外となり、都心から30分前後の郊外エリアがランクインという結果になりました。ちなみに社会増加率トップだった、名古屋市中区の年少者割合は、東海エリア最下位の2.5%、中村区も4.1%と下から3番目の低さで、子育て世帯とそれ以外の街選びがまったく対照的であることがわかります。

2-3. 東海圏エリアの県別トップ5

この年少者の転入割合が多い街を県別にランキングすると以下のようになります。

県別に見ても、ほとんどが都市部から少し離れた郊外エリアとなっています。転入者の絶対数が少ない街も含まれるので「みんなが住みたい街」とは言いにくいですが、子育て世代にとっては、キラリと光る魅力的な街なのかも知れません。

3. 人口の社会増減率が高い街(関西)

続いて関西エリア(大阪府)のランキングを見てみましょう。

3-1. 関西(大阪府)で社会増減率が高い街トップ10

関西で社会増減率の高い自治体トップ10は以下の通りです。

トップ10のうち9位までが大阪市、10位に堺市堺区がランクインしました。傾向は東海圏と同じく、大阪中心部に近い区が上位に、少し離れた近郊エリアが下位に入っています。

大阪に限らず、社会増減は進学や就職を機に都市部に移住する若者(単身者)がメインとなるため、職住近接の志向が強く、都市部に近いエリアが好まれる傾向があります。

3-2. 子育て世帯の転入割合が高い街トップ10(関西)

続いて、大阪府で転入者の年少者割合が高い街トップ10は以下の通りです。

トップは大阪と京都の中間地点、高槻市の隣に位置する島本町でした。転入者の数は少ないですが年少者割合は14.5%ととても高くなっています。2位の交野市も、同じく京阪間の枚方市に隣接する市です。また堺市の南区(3位)、美原区(4位)、東区(7位)が、大阪中心部にアクセスのよい北区や堺区よりも上位にランキングされたことや、さらに外側の大阪狭山市、和泉市などがランクインしていることからも、ファミリー向け郊外エリアの広がりがうかがえます。

4. 子育て世代の街選びは、人気エリアの少し外側が狙い目

人口データから見る子育て世代に人気の街、東海・関西編いかがでしたでしょうか?

街選びをする上で、人口の増減はとても重要な要素になりますが、単身者も含めた社会増加率の高い街と、子育て世帯に絞った年少者割合の高い街では、傾向が異なることがお分かりいただけると思います。

社会増加率の高い街は、比較的中心部に近い利便性の高い街。年少者割合の多い街は、もう少し外側の郊外エリア、つまり、そこそこ便利でありながら、自然が豊かなバランスのよい街が選ばれる傾向があります。またこうした街は、自治体独自の支援制度をもっていることが多く、例えば出産時の給付金や子どもの医療費無償化といった子育て支援や、若いファミリー世帯の住宅取得や三世代同居(近居)など、若年ファミリーの移住・定住を積極的に後押ししています。

そして、何よりも都心部の値上がりが続く中で、こうした少し外側の小さな街は、あまりメディアなどにも取り上げられないため、「値上がり前」の水準を維持しているエリアも多くあります。区画整理などで大規模な住宅地も開発されているので、住環境のよい新築住宅を安く購入したい方には狙い目のエリアと言えます。

ご希望の予算でなかなかいい物件が見つからないという方は、ぜひ希望エリアの少し外側にも目を向けてみましょう。思ってもみなかったような穴場の街が見つかるかも知れません。

各エリアの相場情報や物件探しは、お近くの住宅情報館までお気軽にご相談ください。