アベノミクスから10年。この10年の値動きから考える街選び

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2013年にはじまった金融緩和、いわゆるアベノミクスから10年。かつてないほどの低金利に支えられ、地価はいまだ上昇を続けています。今回は10年間という少し長い期間での推移をもとに、首都圏の地価上昇の傾向とエリア選びについて解説します。

目次

1. 直近10年間の地価推移

まずは全国の住宅地の地価推移を見てみましょう。

1-1. 地価は都市圏を中心に上昇傾向が続いている

下表のように、金融緩和が始まった翌年から三大都市圏(東京・名古屋・大阪)と、地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)で、地価は上昇に転じました。しかし、全国平均とその他の地方圏では下落が続き、全国平均は5年後の2018年に、地方圏では実に10年後の2023年にようやくプラス転換を果たしました。

■住宅地の地価変動率の推移(%)

出典:公示地価(国土交通省)

このようにエリアによる差はあるものの、この10年間、地価は上昇傾向を維持しています。そしてグラフからもわかる通り、2023年の上昇率はコロナ前の水準を上回り、特に地方4市では8%を超える高い上昇率となっています。

1-2. 地価の二極化と住まい購入におけるエリアの見極め

このように都市圏の地価が上昇する一方で、地方圏では横ばい~下落傾向が続いている地域も多くあります。そもそも日本の地価は、人口減少や高齢化などにより全体として下落圧力がかかっており、この10年の地価上昇は一部の上昇エリアが多くの下落エリアを牽引しながら平均水準を押し上げてきたと捉えられます。また同じ圏域、例えば首都圏の中でも、地価が上がるエリアと下がるエリアにはっきりと分かれてきており、その傾向は今後も変わらないと考えられます。

このような「地価の二極化」が進む中で、これから住まいを購入する方は、地価(=資産価値)が下がりにくいエリアの見極めがとても重要になります。

今回は、アベノミクスの10年間という少し長いレンジで、地価が上がった街と下がった街、またその要因などについて見ていきたいと思います。

2. 首都圏で地価が上がった街・下がった街

それでは早速、首都圏の直近10年間(2013~2023年)の住宅地の公示地価(市区町村別)のランキングを見てみましょう。

※変動率は市区町村ごとの平均地価の変動率です。また平均には新設の地点も含んでいます。

2-1. 10年で地価が上がった街と上昇率

まずは、この10年間で地価が上昇した市区町村トップ20です。

出典:公示地価(国土交通省)から筆者作成(島しょ部を除く)

上表の通り、この10年で首都圏の地価上昇を牽引してきたのは、主に東京23区、中でも港区、千代田区、中央区、品川区など都心部であることがわかります。東京以外では、さいたま市大宮区(2位)、浦和区(8位)など、埼玉中心部の強さも目立ちます。神奈川県からは、横浜の中心地である西区とインバウンド人気が高い箱根町、千葉県からはアクアライン経済圏の君津市、木更津市がランクインしており、いずれも10年で30~60%という大きな上昇となっています。

2-2. 10年で地価が下がった街と下落率

一方、同じ期間で下落率の高かったエリアを見てみましょう。

■首都圏の地価下落率トップ20(2013~2023年)

出典:公示地価(国土交通省)から筆者作成(島しょ部を除く)

下落エリアの多くは神奈川県西部と埼玉県北部の山間部が占めています。都心から50キロ以上離れたエリアがほとんどで、通勤圏というよりは観光地のイメージが強い街になります。

2-3. 直近5年間の上昇率は都心部よりも郊外の方が高い

このように、この10年間の首都圏の地価上昇は主に都心部が牽引してきたわけですが、直近5年間(2018~2023年)の値動きと重ねてみると、少し様相が変わってきます。

下表は、直近10年間と直近5年間の上昇率(年平均)を比較して、上昇幅が大きかった街のランキングです。

■直近5年間の上昇幅が大きい街トップ20

出典:公示地価(国土交通省)から筆者作成

※10年間で上昇率がマイナスのエリア及び島しょ部を除く

このように、ランキングから都心エリアは姿を消し、都心まで30分~60分ほどの近郊~郊外の街が多くランクインしました。なお、同じ基準で都心3区の上昇率を見てみると、中央区は4.7% → 3.1%、千代田区は4.9% → 1.1%、港区は6.6% → 4.5%、と、いずれも上げ幅が縮小しています。

つまりアベノミクスの前半と後半で、首都圏の地価上昇の牽引役が都心部から郊外へと移ってきたことがわかります。

2-4. 地価上昇は郊外へと広がりを見せている

ここまでご覧いただいたデータをマッピングしたのが下の画像です。

赤が直近10年間の地価上昇率トップ20。オレンジが直近5年間の上昇幅が大きい街トップ20。そして青が10年間で5%超の下落があった街を表しています。

Googleマップで見る

ご覧いただけるように、この10年間で地価が上がったのは都心部と横浜市、千葉県のアクアライン周辺ですが、直近5年間の上昇幅を見ると、埼玉と千葉の郊外エリアに範囲が広がっています。また下落しているエリアのほとんどは、都心への通勤圏の外側に位置しており、このオレンジと青の間は、大きな上昇も下落もしていない中間的なエリアと捉えることができます。

一般的に、地価の上昇局面では、まず都心部が上がり、「の」の字を描くように神奈川、埼玉、千葉と上昇していくと言われています。現在は、都心部の値上がりが落ち着き、上昇の波が千葉県の船橋市や八千代市まで波及していることから、上昇局面はおおむね終盤に差し掛かっていると推測されます。

3. 都心と郊外で異なる地価上昇のパターンと買い時

ここまで見てきたように、地価の上昇は都心部で始まり郊外に広がっていきますが、エリアによって若干パターンが異なります。「都心」、「近郊」、「郊外」と大きく3つのエリアに分けて解説します。

3-1. 都心~23区はもっとも早く上昇し高止まりする

東京都心部、特に都心3区(中央・千代田・港)や、5区(3区+渋谷・新宿)は、アベノミクスの前半に大きな上昇が見られたように、上昇フェーズの初期に上昇します。このエリアは鉄道路線が張り巡らされているため、エリア全体が値上がりします。通勤、通学、買い物などの利便性が高い一方で地価も高いため、ファミリー世帯の住宅購入としてはやや検討しにくいエリアです。

そして都心部の上昇が続くと、周辺区(江東、台東、文京、目黒、品川、中野など)へ、そして都県境に近いエリア(大田、足立、江戸川など)へと波及していきます。これらのエリアは10年で大きく上昇し、現在も高止まりが続いていますが上昇率は徐々に落ち着いてきています。利便性を最優先したい方、比較的予算に余裕のある方はじっくり探してみるのもよいかも知れません。

3-2. 都心から30分前後の近郊エリアは上昇率が高く範囲も拡大

次に近郊エリア、マップで言えば東京に近いオレンジのエリアです。都心部の上昇が続くと、東京都下の武蔵野市や町田市、神奈川県の川崎市、埼玉県の川口市、千葉県の浦安市や市川市など近郊エリアに波及していきます。

このエリアは都心までおおむね30分くらい、利便性は都内とさほど変わらず、価格は一段下がるので、上昇初期にはコストパフォーマンスのよいエリアですが、上昇が続くと都内との差が縮まってくるので早めに検討したいエリアです。

現在は、このエリアの上昇率が都心部をしのぐほどになっており、今が旬のエリアと言えます。上昇範囲も少しずつ外側に広がっていますので、このエリアを狙っている方は急いだ方がよいかも知れません。

3-3. 都心から60分前後の郊外エリアは利便性による価格差に注意

最後に郊外エリアです。マップで言えば、オレンジと青の中間に位置するエリアです。このエリアは上昇局面にあっても全体的に上がるわけではなく、特急停車駅やターミナル駅の周辺エリア、イオンやららぽーとなど大型ショッピングモールの近くなど、利便性の高いエリアを中心に上昇する傾向があります。

自然が豊かで価格もさらにリーズナブルになりますので、子育てファミリーに人気がありますが、沿線や駅によって雰囲気が大きく変わり、同じ市内でも地価が1.5~2倍くらい変わることがあります。まだ都心や近郊に比べれば上昇ペースは緩やかですので、後述する比較ポイントなどを参考にしながらしっかり情報収集しましょう。

4. これから住まいを購入する方向け、エリア選びのポイント

最後にこれから住まいを購入する方向けに、エリア選びのポイントを解説します。

4-1. 都心に近いほど資産価値は維持しやすい

まずここまでご覧いただいたように、上昇局面では都心部から郊外へと波及していきますが、値下がり局面では逆に都心から遠いエリアから下がり始めますので、都市圏では都心部に近いほど資産価値を維持しやすいと言えます。

4-2. 都心部ではある程度の予算と妥協が必要になる

しかし、都心部は地価そのものが高いため、限られた予算で物件を探す場合には、築年数や広さなどにある程度の妥協が必要になります。また前述の通り、地価上昇はすでに10年続いており、すでに郊外エリアへと波及しつつあります。現在の金融緩和(低金利)が続く限り、都心~近郊エリアの地価は高止まりとなる可能性が高く、ある程度の予算がないと物件の選択肢は限られることになるでしょう。

4-3.郊外エリアでも資産価値を維持しやすいエリアの特徴

そうなると、必然的に価格がリーズナブルで子育て環境もよい郊外エリアが狙い目ということになりますが、このエリアは将来発展していく街をしっかり見極めることが重要です。また郊外は、将来の人口減少に備え、住まい・交通・公共サービス・商業施設などを中心市街地に集中させる、いわゆる「コンパクトシティ」化を推進している自治体も多いので、都市計画なども参考に慎重にエリア選びを進めましょう。

物件探しの際には以下のような項目が目安になります。自治体のホームページや地域に詳しい不動産会社などで調べてみるとよいと思います。

人口が大きく減少しておらず、若年層の流入が多い
都内主要駅に直接乗り入れる鉄道路線がある(相互乗り入れ含む)
ターミナル駅、特急停車駅などが利用できる
自治体独自の子育て支援制度が充実している
若者の移住支援・定住支援などに力を入れている
再開発などで生まれた新しい商業施設や住宅地がある(予定含む)
鉄道の伸延や新駅の開業予定がある
自治体の財政状態がよく行政サービスが充実している

4-4. 直近10年で値下がりしたエリアは、今後も下がる可能性が高い

そして、この10年で地価が下がっている地域、つまりマップの青エリアは、残念ながら今後も上昇する可能性がかなり低いと言わざるを得ません。したがって、資産価値という面からはあまりおすすめできませんが、価格そのものは安いので、ローンを組まずキャッシュで購入する方やセカンドハウス、シニアの田舎暮らし、完全テレワークでの移住など、ライフスタイルや目的によっては、十分検討できるエリアでもあります。

アベノミクスから10年が経過し、不動産価格はいまだ上昇を続けていますが、一部で過熱感が出てきているのも事実です。これから住まいを購入される方は、いずれ訪れる値下がり局面も睨みつつ資産価値を維持しやすい将来性のある街を選びましょう。

各エリアの特徴や相場については、お近くの住宅情報館までお気軽にお問合せください。

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